もしも歩けるようになったなら
どんなに世界は広いだろう全速力で走っても
足はもつれず転ばない走って走って駆け出して
どこまてだって行けるから砂に刻んだ足あとが
わたしの後ろに続いてるねぇ、昔のあの頃の
二人の約束覚えてる?もしも元気になったなら
駆けっこするって言ったよね位置について よーいどん
そう簡単には負けないよ今までずっとありがとう
後ろで押してきてくれてもうわたしは大丈夫
これから並んで走れるね
もしも歩けるようになったなら…、車いすがいらなくなったなら…、というイラストを描きました。
■車いすがいらなくなったら
今回は、珍しいテーマで描きました。歩けるようになって、車いすが要らなくなり、砂浜で駆け出す女の子の絵です。ちょっと、詩と絵が、登場人物的に合っていないのですが、この絵は複雑な成り行きで完成したもので、ご容赦ください。
かなり前から、この絵を描く予定はあったのですが、何度も構図が定まらず、断念していました。
病気が治ることをテーマにした絵は、いつかきっと治るから以来です。そのときは、いつもとは違うキャラクターをモチーフにして描きました。(一応名前はあって、昔書いていた小説の登場人物なのです)
今回の絵も、最初は、別の登場人物で描くつもりで、詩の内容が「ゆめまな物語」っぽくないのはその名残りです。「ゆめまな物語」の世界観に車いすはそぐわないなーと思っていました。
しかしいつかきっと治るからで、病気の象徴として用いた「ベッド」に比べ、今回の「車いす」は、ちょっと描くだけでも、絵の雰囲気が左右されがちでした。あまり先入観はよくないのですが、車いすを描くと、病気・障害を連想させてしまうところはやはりあると思います。
それでいっそのこと「ゆめまな物語」の世界観で車いすの印象を薄め、楽しい雰囲気の絵にしてしまったほうがいいかなーと思って、今回のイラストになりました。
なぜ車いすの絵を描いたのか…。ということは、今これを読んでくださっている方の多くが不思議に思っていることと思いますが、病気と闘っている女の子がいる家族からのリクエストによるものです。苦しい闘病を乗り越えて、元気になってほしい、という気持ちを込めて描きました。
■構図に悩んだ絵
今回の絵は、登場人物をだれにするか、というのもそうですが、むしろ構図にすごく悩みました。おそらく、今まで描いた数百枚もの絵の中でも、まれに見る悩みようだったのではないかと。
「病気が治る」、というテーマをどう表現すればいいのか、という点において、いつかきっと治るからでは、解説を入れないと分かりませんでした。タイトルが無いと、単に、気持ちいい朝に伸びをしている絵にしか見えません。
それで、今回の絵では、もう一歩進んで、車いすから解放される、という表現で、「病気が治る」様子を描くことにしました。
しかし、車いすが要らなくなる、というのは、たとえば動画で描写したら、簡単でわかりやすいと思いますが、一枚絵だと、なかなか表現しにくいのです。単に車いすから立ち上がって歩いているだけでは、感動も何もありません。
そこで…
■病気が治ったことを満面の笑顔で表現
■車いすから立ち上がるだけでなく、躍動して走っているイラストにすることで、劇的な印象を与える
■背景を砂浜にする(=足あとがつく)ことで、歩けるようになったことを強調
という工夫をしてみました。
さらに、車いすから立ち上がって走っている様子をどのアングルから捉えて絵にするか、という点も悩みました。次のようないくつかの選択肢がありました。
1.後ろから…車いすの後ろから見た構図。女の子が画面手前の車いすから立ち上がり、画面奥の明るい未来へと歩いて行っている感じ。(雪解けの光みたいな構図)
試した結果→手前の車いすが大きく描かれ、奥の女の子が小さくなって、車いすが強調されすぎてしまうし、女の子の背中しか見えず、表情が描けないのでボツ
2.横から…画面右の車いすから立ち上がって、画面左方向へと、みんなで並んで走っている構図。(いつも空が見えるからみたいな構図)
試した結果→みんなで並んで走っているようにすると、登場人物を増やすとごちゃこぢゃしてしまう。どうぶつなどで賑やかにしにくいのでボツ
3.正面から…画面奥の車いすから立ち上がって、手前に向かって走ってくる、左右対称の構図。(ごちそうは山の上でみたいな構図)
試した結果→女の子の足あとを描くスペースがないのでボツ
4.斜め後ろから…1を少し角度を変えた構図。車いすを右端手前に描き、左奥に立っているどうぶつたちのところへ走っていく構図。(輝くお城の王国みたいな構図)
試した結果→スペース的には描きやすかったが、1と同様、車いすが大きくなりすぎて微妙。
5.斜め前から(現在の構図)
試した結果→女の子の表情もわかるし、足あとも描ける
というわけで、いろいろ試行錯誤の末、現在の、斜め前からの構図になりました。しかしさらに工夫を加えて、地面を湾曲させて、左上方向へと走って行くような演出にすることで、躍動感を加えてみました。地面の湾曲は、以前に路地裏の冒険あたりで試してみた表現方法ですね。
またどうぶつたちも、最初は、ぞうのはなちゃんが並んで走っていたり(2の構図)、長い鼻で立ち上がるのを助けていたり(4の構図)したのですが、最終的にどうぶつたちみんなで後ろから見守っているという表現になりました。優しいまなざしに見守られる感じになったので、良かったと思います。
まだまだ構図の作り方とかは苦手ですが、これまで、さんざん色々な構図で描いてきた経験が、今回の絵を描くにあたり、役に立ったかなあ…と思っています。こういうのは積み重ねですね。
いつも自由に絵を描いているだけに、今回のようにテーマを指定されるとなかなか厳しいですが、これからも工夫して描いていきたいです。