ディズニー映画のピクサーが実践している、創造性を伸ばす8つのクリエイティブな秘訣


クサーは、今の時代に最も創造的な企業の一つだと言う人は少なくありません。エド・キャットムルによって興され、スティーブ・ジョブズによって見いだされ、「トイ・ストーリー」で躍進し、ついにはディズニーの長編映画を担う要となった、サクセスフルな企業です。

前回の記事に書いたように、最近、ピクサーの社長であるエド・キャットムルによる本、ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法を読んでいて、学ぶことがたくさんありました。

前回はピクサーから見たスティーブ・ジョブズについてまとめましたが、今回はピクサーそのものに焦点を当て、ピクサーのエド・キャットムルが、創造性を生み出し、伸ばすために実践してきた8つの秘訣をまとめてみました。

「トイ・ストーリー」「カーズ」「Mr.インクレディブル」「カールじいさんの空飛ぶ家」「インサイド・ヘッド」など、名だたる作品を生み出してきたクリエイティビティの秘訣を探り、役立つ教訓を導き出したいと思います。

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1.痛みを抑えたフィードバック「ブレイントラスト」

わたしたちは皆、より良い作品を作るには、適切なフィードバック、つまりアドバイスが必要です。

しかし、たいていの人は、自分の作品を作ったとき、まわりの人の批評を聞いて、傷つけられた経験を持っています。

こんなに頑張って作ったのに理解されない、欠点ばかり指摘された、すべてを否定された気分になった。そんな経験から、クリエイターとしての道を歩むのをやめてしまう人もしばしばです。

ピクサーでは、そのような「痛み」を伴うフィードバックをできるだけ減らし、クリエイターが傷つかないように守るとともに、役に立つアドバイスはたくさん与えてもらえる、という理想的な仕組みを作ることで、クリエイターの創造性を伸ばしてきました。それは「ブレイントラスト」と呼ばれています。

エド・キャットムルはブレイントラストについてこう述べます。

では、ブレイントラストはほかのフィードバック体制と何が違うのだろうか。

私は、二つの重要な違いがあると考えている。第一にブレイントラストのメンバーは、ストーリーテリングに深い造詣を持つ人ばかりで、たいていそのプロセスを自ら経験している。

…第二の違いとして、ブレイントラストには権限がない。ここは重要だ。監督は提案や助言に従う必要はない。(p134)

ブレイントラストの特徴は、アドバイスを与えてくれるのは外部の人や素人、上司ではなく、同じように作品づくりに励んでいる、仲間の監督やクリエイターたちである、ということです。

エド・キャットムルは、ブレイントラストとは対照的なシステムをとっているハリウッドの例を引き合いに出します。ハリウッドでは、上層部が試作をチェックし、批評を長いメモに書いて監督にわたすといいます。しかし監督はそれを少しもありがたいと思わず、他人の邪魔としか思わないことが多いそうです。(p132)

もちろんハリウッドでも良い作品が作られているのは事実ですが、エドはこのシステムを快く思っていません。彼はこのような信念を持っています。

フィードバック制度は、自分自身も経験しているからその痛みを理解できるという共感、全員の当事者意識のうえに構築すべきだ。(p149)

フィードバックや批評は、同じ立場の人、同じように作品づくりに苦労している仲間から与えられるべきだ、というわけです。外部の専門家、口だけは達者な評論家、経済のことしか知らない上層部ではなく、「当事者」たちによって支え合うシステムであるべきだと。そのうちの一人、リッチ・ムーアはこう言います。

最初に手がけたディズニー長編映画が『シュガー・ラッシュ』だったリッチ・ムーアは、ブレイントラストを「それぞれ自分のパズルに取り組んでいる大勢の人」にたとえる。

…「自分のクロスワードパズルを後回しにして、人のルービックキューブをちょっと手伝ってあげているような感じです」。(p136)

ブレイントラストは、対抗意識や、けなし合いが入り込まないように、注意深く運営されているそうです。エド・キャットムルは、批評する人には二つのタイプがいるといいます。

アイデア潰し…粗探しをし、なじってつぶしにかかる人たち。本人たちは自覚していないが、自分たちの基準の高さを見せようとしていて、自分を高めるために、人の欠点を指摘する。ネガティブなフィードバックを返すことを楽しんでいる。

アイデアの擁護者…欠点を見つけても、それを理由に排除するのではなく、よりよいものにするためにやんわりと指摘する。まだどうなるかわからないものを推薦し、成長の機会を与えるという勇気を持っている。(p194)

ブレイントラストに参加する人たちは、批評されることによる痛みを知る同じ当事者たち、作品づくりの大変さを今まさに味わっている仲間たちによって構成されているので、みなが「アイデアの擁護者」です。できるだけ作者を傷つけないよう配慮しつつ、どうすればよりよい作品になるかについて議論するので、作者も進んで耳を傾け、ブレイントラストを楽しみにしているそうです。

こうしたブレイントラストによって、「ファインディング・ニモ」や「カールじいさんの空飛ぶ家」などの作品は、より精錬され、より具体的になって、すばらしい作品に生まれ変わりました。

もちろん、ピクサーはブレイントラストを重視するからといって、一般の人たちの意見に耳を傾けないというわけではなく、そうした試みもノーツ・デ―などの機会に行ったそうです。しかしそれはやはり痛みを伴うものであり、ブレイントラストに代わるものではありません。(p362)

■わたしたちが学べること

わたしたちの場合も、フィードバックを得ることは大切ですが、破壊的で、心を痛めつけられるフィードバック環境に身を置いていると、創造性が台無しになります。しばらくは作品づくりができても、いずれ楽しくなくなるでしょう。楽しんで創られていない作品は、見る人を不幸にします。

以前の記事では、そのような辛辣なフィードバックは、「シーシュポス条件」に相当すると言いました。「シーシュポス条件」とは、山の頂上まで岩を転がして登る罰を与えられたシーシュポスについての神話に基づく名称です。彼は、あと少しで頂上に届くというときに、岩が転がり落ち、何度も一からやり直しになって打ちのめされるのです。

それで、クリエイターが落ち込まず、クリエイティブな作品を作り続けるためには、ピクサーのブレイントラストのような「心理的な安全な環境」を用意することが必要なのです。

2.アイデアと人は どちらが大切か

優れたアイデアと優れたスタッフ、どちらが大切なのでしょうか。

多くの人は(経営者)も含めて、この問題について真剣に考えている人は少ないそうです。この質問をすると、人々の反応は半々に分かれるそうで、それは当てずっぽうで判断していることを示しています。

しかしエド・キャットムルははっきりこう言います。

私にしてみれば、答えは歴然としている。アイデアは人が考えるものだ。だからアイデアよりも人のほうが大事だ。(p113)

エド・キャットムルはロサンゼルスのあるゲーム会社を引き合いに出します。その会社は、毎年社員を15%入れ替え、死ぬほど働かせることによって生産性を上げようとしています。エドはそのやり方について、こう言います。

私に言わせれば、それはとんでもない勘違いであるばかりでなく、不道徳だ。ピクサーでは、会社員の仕事と私生活の両立を認識し、支援する柔軟性をつねに持つよう徹底している。(p117)

ピクサーでは、会社が社員の健康を大切にしていることを示すため、率先してスポーツのできる空間を作ったり、産休を気兼ねなく取れるようにしたりしているそうです。結局人間を大事にできない会社は、どこかで立ちゆかなくなってしまうのだといいます。

■わたしたちが学べること

わたしたちは、クリエイティブであろうとする以前に、アイデアを生み出すおおもとである、自分自身をしっかりとケアしているでしょうか。徹夜したり、タバコを吸ったり、アルコールを飲んだりしたほうがアイデアが出る、と言い訳して、不健康な生活を送っていないでしょうか。

確かに過去の有名なクリエイターの中には、不健康な人や、何かの依存症になっていた人が大勢いました。しかし、それらの人の多くは幸せではなく、他の人と協調して創作することも難しかったと言われています。結局、病気になって早死にした人たちもいます。

生涯にわたってクリエイティブでありつづけ、仲間のクリエイターと切磋琢磨したいなら、やはり「アイデアより人が大切」という原則にしたがって、自分や他の人の健康に配慮したり、質の高いインプットに努めたり、よりよい人格特性を磨いたりすることは大切なのではないでしょうか。

結局、アイデアは人間という工場から生み出される製品なのです。自分自身という工場の質を上げ、よい状態に保ち、よく整備しないなら、いずれ錆びついたアイデアしか生産できなくなるでしょう。

3.成功法転覆の法則

世の中には、GoogleやFacebook、Appleなど、有名企業の成功の秘訣を書いた本があふれています。それはいかにも、魅惑的な成功法則を導き出しているようにおもえますが、エド・キャットムルは、それらに縛られてはいけないといいます。

というのは、ほとんどの場合、成功した企業は、運に恵まれた要素が大きいからです。どれだけすばらしい企業でも、少し不運が重なるだけで倒産してしまいます。

エド・キャットムルはこう言います。

「一つの体験からすべての知恵を引き出さないように注意すべきだ」とかつてマーク・トウェインは言った。

「熱いレンジの蓋に座った猫にならないように。その猫は二度と再び熱いレンジの蓋には座らない。それはいい。しかし冷たいレンジの蓋の上にも二度と座らないだろう」。

…人は過去に学ぶべきであって、過去に支配されてはならないのだ。(p237)

サクセス・ストーリーを信奉するのは、過去に縛られることです。むしろ時代はどんどん変化し、個々の置かれた環境も、その時々でまったく違います。あくまで過去から学びつつも、銘々が知恵を絞って創造的な解決策を探しだすことのほうが大切なのです。

エド・キャットムルは、成功法則があてにならないということを

「成功法転覆の法則」(p286)

と呼んでいます。

■わたしたちが学べること

わたしたちは、人はみな一人ひとり異なっていて、置かれた状況も違う、ということを認める必要があります。有名人のサクセス・ストーリーや、成功法則は参考にはなりますが、それをそのまま自分に当てはめればよい、と考えるのは浅はかです。

それはたとえば、有名なファッション・モデルが着ている流行の最先端の服を買って、自分で着てみたら、鏡に映る姿に失望するようなものです。確かにその服は、外国人のファッション・モデルには似合っていました。しかし自分の顔立ちや体型には似合わないのです。

そのファッション・モデルのセンスや組み合わせ方は参考になるかもしれませんが、それをそのまま持ってきても役に立ちません。参考にしつつも、あくまで自分でよく考え、自分の状況に合わせてカスタマイズしなければなりません。

世の中の成功法則も、それをそのまま当てはめても意味がなく、むしろ、それを思考のきっかけ、また手がかりにして、自分ならではの解決策にたどり着くとき、真価を発揮するのです。

4.スーツケースの「取っ手」だけを持ち歩かない

すでに述べたように有名人の名言や、サクセス・ストーリーが好きな人は大勢います。わたしも恥ずかしながら、その一人です。

しかし、エド・キャットムルは、そうした趣向の人たちに、こんな警告を与えています。

取っ手と本体が数本の糸でかろうじてつながっている古くて重いスーツケースがある。

その取っ手は、一見、的を射た奥深い言葉のように思える。「プロセスを信じよ」か「物語が一番偉い」を表し、スーツケースは、このフレーズに飲み込まれてしまったあらゆるもの―経験、深遠なる知恵、努力の末に得られる真実―を表している。

我々は取っ手だけを持って、スーツケースがないことに気づかないまま立ち去ってしまっている。

それだけでなく、置いてきたもののことを考えもしない。要はスーツケースより取っ手のほうが何倍も持ち歩きやすいのだ。(p119)

有名人のサクセス・ストーリーや名言は、スーツケースの「取っ手」のようなものです。大事なのは、取っ手ではなくスーツケースの中味であり、あくまで取っ手は、それを引っ張ってくるきっかけにすぎないのです。

ところが、世の中では、名言や上っ面の教訓だけが一人歩きしています。それらに傾倒する人は、あたかも、取っ手だけを持ち歩いている人のようです。取っ手だけで何の役に立つのでしょうか。そして、取っ手だけを持ち歩いている姿のこっけいなことと言ったら!

別の例に言い換えると、ドアノブにたとえるのもいいかもしれません。名言はドアノブです。ドアを開けて、新しい戸口に入るためのきっかけとして役立てるものです。しかしドアノブだけを外して持ち歩いている人がいたらどうでしょう。何の役にもたちません。ポッケに入れていても邪魔なだけです。

■わたしたちが学べること

上っ面だけが一人歩きしている名言はたくさんあります。ことわざなどもそのたぐいです。例えば「ウサギとカメ」の寓話などはどうでしょうか。これは、コツコツやることの大切さを示す訓話として、よく引き合いに出されます。

しかし、そう思っている人たちは、実は「取っ手」だけ持ち歩いているのではないでしょうか。

世の中には、さまざまなタイプの人がいることを度外視しています。地道にコツコツやるのが得意な「カメ」もいれば、短い期間に集中力を高めて完成させるのが得意な「ウサギ」もいます。

もし「カメ」と「ウサギ」がもっと短いコースで勝負したらどうなっていたでしょう。当然「ウサギ」が勝ったのではありませんか? ということは、ウサギがするべきだったのは、カメを見倣ってコツコツとやることではなく、自分に合ったコース選びをすることだったのではないでしょうか。

すでに述べたように、万人に役立つ成功法則などありません。すべての人が「カメ」のようになれば成功すると考えるのは間違った結論です。そうではなく、一人ひとりが、自分の特性はどんな場合に最もよく発揮されるだろう、とよく考えて、自分に合った職業や環境、目標を見つけることのほうが大切なのです。

名言、箴言、金言、と呼ばれるものや、有名人のアドバイスは、「取っ手」だけを持ち歩くのではなく、必ずその下にあるべきカバンの中身を洞察する必要があるのです。

5.自分より能力の高い人と組む

自分より能力の高いクリエイターに嫉妬する人は大勢います。しかしピクサーの文化はそうではないといいます。

私は複雑な気持ちでアルヴィに会った。正直、私より彼のほうがこの研究所の責任者にふさわしいように思えたからだ。

今でもあのときの落ち着かない気分を覚えている。いつかこの男に仕事を奪われるかもしれないという脅威に、ズキッと痛みが走った。それでも迷わず彼を雇った。(p46)

エド・キャットムルは、こうした態度をとても大切にしているので、次のようにアドバイスしています。

常に自分より優秀な人を採用するよう心がける。それが脅威に感じられる場合でも、つねによりよいほうに賭けること。(p404)

エドにとって、自分より優秀な人と付き合うことによって得た最大の収穫はスティーブ・ジョブズだったのでしょう。ジョブズと出会ったとき、自分より優れた人と付き合うことをモットーにしていたエドでさえ、彼とはうまくやれないかもしれないと思ったそうです。しかし諦めずにコミュニケーションを重ね、ジョブズはピクサーの最大の理解者、そして庇護者になりました。(p68)

■わたしたちが学べること

自分を偉く見せようとして、優越感に浸りたくて、自分より能力の低い人たちを周りにはべらせる人もいます。あるいは、自分と同レベル帯の人たちだけと付き合い、狭い交友で満足してしまう人もいます。

でも、本当に必要なのは、自分には無いものを持っている、一段上の人と友だちになり、多くの教訓を学ぶことなのです。

あなたには、年上の友人がいますか? わたしの一番気の合う友人は、自分より20歳以上も年上の、親のような年齢の人です。わたしが人生の師匠だと仰いでいた人は、二年前に84歳で亡くなりました。

もちろん年上の友人が必ずしもいいとはいえません。自分より優れた年下の人に対しても、能力をねたまず謙虚に接することが大切です。わたしも、まだまだこれから、そうした点で成長していく必要を感じています。

自分に無いものを持っている人を友とするなら、その人はきっと、あなたをまだ見たこともない素晴らしい場所へと連れて行ってくれるでしょう。

6.できるだけ早く失敗する

失敗が好きな人はまずいません。だれでも失敗を避けたがります。失敗を恐れて行動しない人も多くいます。

しかしスティーブ・ジョブズの見方は違っていました。

「本当に不思議だけど、この作品では大きな問題がまだ一つも起こっていないんだ」

そう聞いたら普通の人は喜ぶ。が、スティーブは違った。「気をつけたほうがいい。それが一番危険だ」(p153)

ピクサーの人たちは、自分たちの経験や、スティーブ・ジョブズのこのアドバイスから、失敗することがいかに大切かを身をもって意識しているといいます。

アンドリュー・スタントンは、「まちがえるのは早ければ早いほどいい」「できるだけ早く失敗するように」と言ってはばかりません。(p154)

失敗することを好意的に受け止められるようにするため、エド・キャットムルは、「リーダーが自らの失敗や失敗に果たした役割について話す」よう努力しています。(p157)

創造的な作業では、失敗はむしろ必要なことだといいます。確かに、計画的であることは大切ですが、慎重すぎる人は、何も考えない人より悪い場合があるそうです。

一般的に言って、やり方を考えることにエネルギーを注ぎ、行動に移すのは早すぎると言っている人は、何も考えずにどんどん進める人と同じくらいの頻度で失敗している。

計画が入念すぎる人は、失敗するまでに人より時間がかかる(そしてつまずいたとき、失敗したという感情に押し潰されやすい)。(p162)

■わたしたちが学べること

ここには重要な教訓があります。あなたは、うまくできないからと言い訳して先延ばしにしていることはありませんか? わたしもそうしたことが幾つか思い当たります。しかし迷っているよりは、できるだけ早く挑戦し、できるだけ早く失敗するほうが、自分の創造性にとってプラスになるのです。

うまくできないと思っていることに挑戦したら、本当に失敗するかもしれません。でも、人生の早い段階で失敗すれば、その経験は、いずれ必ず役立ちます。

そういえば、「独創」を社訓にかかげる任天堂は、非常に失敗が多い会社です。ほぼ失敗に終わって終了したサービスや製品は数知れません。少し挙げるだけでも、バーチャルボーイ、サテラビュー、64DD、そして近年ではNitendo TViiや、WiiUもどちらかといえば失敗の部類に入るでしょう。しかし、こうした失敗の多さは、任天堂が創造的企業であることを示す証拠だといえます。

エド・キャットムルはこう述べます。

失敗する可能性のあることに取り組むのが、本当に創造的な企業なのだ。(p166)

安全策を取りに行くのではなく、進んで新しいブルー・オーシャンを開拓しようとしているからこそ、失敗も多くなるのです。そしてそのような失敗は、必ず将来に生きてきます。

7.見た目は大人、頭脳は子供

絵を描くことをはじめ、創作というものには、子どもらしい発想が不可欠です。すなわち、大半の人が、子どもから大人になるにつれて失ってしまう視点を、大人になってもなお持ち続ける必要があるのです。

ブラッド・バードはあるときこう言いました。

ここにいる皆も同じだろうけど、『クリエイティブな才能があっていいね。絵が描けて羨ましい』とよく言われる。

でも誰だって最初は絵が描けた。子どもは本能的にできるのに、それを忘れてしまうんだ。人から下手だとか、意味がないと言われたりして、子どもは大人にならなければならない。

でも、子どものような発想も少しは持ち続けたほうが幸せかもしれないってことをほのめかす方法があるんじゃないのかな(p141)

子どもはみんな芸術的ですし、一流のアーティストです。ところが、大人になると、大半の人は、自分は創造的ではなく、アイデアも欠けているとコンプレックスを持つようになります。

エド・キャットムルも、ひんなエピソードを語っています。

そこで思い出されるのが、何年も前のある晩に、マリンにある娘の小学校の美術発表会を見にいったときのことだ。

…一、二年生の絵のほうが、五年生の絵よりも新鮮で優れていると感じた。五年生の子どもたちは、あるとき自分の絵が現実離れしていることに気づき、人目を気にし、ためらうようになった。

その結果どうなったか。おそらくほかの人にその「欠陥」を気づかれると思ったのだろう。彼らの絵は形式ばり、真面目くさり、独創的ではなくなった。人に判断されることへの不安が創造性を妨げていた。

小学校でさえそうなのだから、大人がその内なる批評家をオフにし、オープンだったころに戻るために、訓練(修行とさえ呼ぶ人もいる)を必要とするのも不思議ではない。(p290)

大人になっても子どもの心を持ち続けるには、内なる批評家をオフにし、人目を気にする不安や恐れを手放す必要があります。そのためには、意識的な努力が必要かもしれませんし、ある種のメンタル・トレーニングが役に立つかもしれません。エドはマインドフルネスと呼ばれる瞑想法が役に立ったと述べています。(p308)

■わたしたちが学べること

名探偵コナンは「見た目は子供頭脳は大人」がキャッチフレーズですが、クリエイターはある程度、「見た目は大人、頭脳は子供」である必要があります。大人になっても子どもらしさを持ち続けるのは、良いクリエイターにとって不可欠です。わたしの好きなピカソの言葉が、まさにそれを示しています。

「子どもはみんなアーティスト。問題は大人になってもアーティストでいられるかどうかなのさ」
“Every child is an artist. The problem is how to remain an artist once he grows up.” 

けれども、言葉で述べるのは簡単ですが、実際にそうするのは非常に難しいことです。子どものような柔軟性、発想力、自由さ、素直さ、純粋さを忘れていることに気づき、ハッとすることがよくあります。

子どもらしさを保つには、バランスが必要です。社会的な場では良識ある大人として振る舞い、創作の場では無邪気な子どものように発想するという切り替えの良さが求められます。

そのためには、マインドフルネスのような訓練の力を借りるのも一つの手でしょう。内なる批評家を黙らせる技術が必要です。

子どもたちとじかに接したり、遊び心を残した大人たちと友だちになったりするのもいいかもしれません。また、子どもの文化、たとえば童話や絵本、子どもが楽しめる映画やゲームに親しむことも役立つでしょう。それらは子ども心を持ったクリエイターの作品だからです。

8.嵐を乗り越えるための「メンタルモデル」

創作というクリエイティブな仕事は、浮き沈みが激しく、特に作り始めや行きづまったときはとても辛いものだといいます。何もないところから、一から作品を作っていく恐怖、出口が見えないときの焦りや苦しみは、クリエイターにとって、大きなストレスです。映画のような、数年がかりのプロジェクトでは特にそうでしょう。

そうした嵐を乗り越える秘訣について、エド・キャットムルはこう言います。

ピクサーとディズニー・アニメーションで映画をつくっている人々によれば、そり決め手になるのは、自分を支えるメンタル・モデルをつくれるかどうかだという。(p294)

たとえば、有名なピクサーのクリエイターたちは、以下のようなメンタルモデルを持っているそうです。

■ジョン・ウォーカー
困難な仕事に立ち向かうとき、自分の手のひらで逆さまの巨大ピラミッドを持ち上げている姿を想像し、平静とパランスを意識する。

■アンドリュー・スタントン
荒れた海を船で航海するメンタルモデルを持っていて、いい日もあれば悪い日もあり、大切なのはそれぞれに対処して、海の向こうを目指すことだと言い聞かせる。

■ピート・ドクター
延々と続く終わりのないトンネルというメンタルモデルを持っている。途中、真っ暗で何も見えないポイントがあるが、歩き続ければ、必ず光が見えてくる様子をイメージする。

■マイケル・アーント
脚本を書くことを山登りにたとえる。まずは山を探すことから始まり、山登りは必ずしも上へ向かうことを意味しない、ということを意識する。登るべきときがあれば、いったん下るべきときもある。

一見すると、こうしたメンタルモデルは気休めに思えます。しかし実際には、これまでの経験から導きだされた明確なイメージなのだといいます。これまでも、紆余曲折がありながらも、確かに目的地にたどりついた、という経験を視覚的なメンタルモデルに変えることで、自分の心がぶれないようにバランスをとっているのです。

■わたしたちが学べること

わたしには、長い間、ずっと支えられているメンタルモデルがあります。不安を感じたり、恐れにとらわれたりしたときに、家族が支えてくれるというメンタルモデルです。わたしはその力を強烈に実感しています。

人によってメンタルモデルはさまざまでしょう。その効果を知らない人は、単なる気休めの空想だと思うかもしれませんが、イメージの力は非常に強力です。特に、本当に厳しい状況では、自分のメンタルモデル以外に頼れるものがない、ということもしばしばだからです。

メンタルモデルは、ある日突然生じるようなものではなく、数年、数十年をかけて熟成されていくものだと思います。できるだけ人生の早い時期に、自分を支えてくれるメンタルモデルと出会い、じっくりとそれを育てていくなら、心の平静を保つのが容易になっていくのではないでしょうか。

ピクサーのように創造性を育てる

ここまで考えた8つの点を簡単にまとめてみましょう。

1.痛みを抑えたフィードバック「ブレイントラスト」
建設的なフィードバックが得られる、心理的に安全な環境を確保する

2.アイデアと人は どちらが大切か
人を大切にし、自分の心身の健康に留意しないなら、良いアイデアは生まれない

3.成功法転覆の法則
成功法則は、そのまま当てはめても役に立たない

4.スーツケースの「取っ手」だけを持ち歩かない
名言やアドバイスは、本質を理解しないと価値がない

5.自分より能力の高い人と組む
より経験ある年上の人、より才能ある年下の人、自分にはない能力を持つ人と友だちになる

6.できるだけ早く失敗する
準備しすぎて機会を逸するのではなく、失敗を恐れず挑戦する

7.見た目は大人、頭脳は子供
子どもらしさを保つために、訓練したり、子どもの文化に接したりする

8.嵐を乗り越えるための「メンタルモデル」
何も頼るものがないときに自分を強めるためのイメージを育てる

じつは、こうした8つの点は、これまでも、多かれ少なかれ、このブログで取り上げてきたことでした。

たとえば、ブレイントラストのような痛みを伴わない批評、心理的に安全な環境の大切さは、こちらで書きました。この記事では、「内なる批評家」を黙らせることについても取り上げています。

絵を描くことが嫌になったら「心理的に安全な環境」を用意しよう
創造性を発揮するためには心理的に安全な環境づくりが大切

また、子どもらしさを保つことについては、大半の子どもが絵を嫌いになってしまう理由を取り上げた、こちらの記事で考察しています。

絵を描くことを楽しみたいなら「上手い」という褒め言葉を捨てよう
絵を「上手い」と褒めると、絵が嫌いになる人が現れるという話

こうした点は、これまでわたし個人の経験と、幾人かのクリエイターたちの本に基づいて書いていました。

しかし、今回、ピクサーという世界最高峰のクリエイティブな企業が、 まさにそうしたアドバイスを理想的な形で実践していることを知って感動しました。これまで考えてきたことは正しかったのだ、と感じるとともに、どうすれば創造性を伸ばせるのか、という理解が深まったように思います。

この記事で取り上げた8つの点は、わたし自身、まだ実践できていない点は多くあります。わたしのような個人で細々と絵を描いている人と、稀代のクリエイター集団であるピクサーとては、実践できる度合いも大きく変わってきます。

それでも、こうしたアドバイスを心に留め、ほんの少しであっても、自分の創作に当てはめていくなら、確実に作品の質を改善できると思っています。このピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法は、創作活動をしているすべてのクリエイターが読む価値のあるクリエイティブな一冊です。

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