前回のメイキング記事から3ヶ月ほど経ちました。ほとんど描き方は変わっていないので、ほぼ手順は同じですが、使っている技法などをもう少しわかりやすく解説したメイキングを作ってみました。
自分の絵に特に自信があるわけではありませんが、わたしは他の人のメイキングを見るのが好きですし、個人的な記録としても、どうやって描いているのかを定期的にまとめておくことには意味があると思っています。
今回扱う絵は、新年早々に完成させた「麗らかな午後」です。
それほど凝った絵ではなく、シンプルな構成なので、メイキングとして説明するにはうってつけだと思いました。
特に、わたしの絵によく登場する虹色のグラデーションの使い方について、わかりやすく説明しています。
今回は、全部で9つのステップに分けて解説していきます。
使う筆について
使用するブラシのカテゴリは、おもに「リアル水彩」です。細かなバリアントの種類は、その都度名称を挙げていきますが、それぞれ使いやすいように少しカスタマイズしています。
具体的なカスタマイズ内容は、過去のメイキングで説明してありますので参照してください。
1.ラフスケッチ
まず最初はラフスケッチで、全体の構図をざっくり決めます。
キャンバスの上にレイヤー1を作って、ティントの「標準丸筆」で大ざっぱに描いていきます。
今回は、赤い矢印で示してあるように、一点透視図法を使って、奥行きのある遠近感のある構図にしてみました。
直線的な透視図法の構図にするわけではなく、曲線的な丸みを持たせることで、自然な奥行きを表現しています。
また前景と遠景にそれぞれ二人ずつ人物を配置することで、一つの絵に多様性を織り込んでみました。
2.線画
次は、ラフスケッチをもとに、線画の輪郭線を描きます。
ラフスケッチのレイヤー1の不透明度を下げて、下描きがうっすら見える程度にしてから、その上に水彩レイヤー1を作り、リアル水彩の「紙目水彩」で輪郭線を描いていきます。
人物の輪郭線は、この段階で清書になるので、表情や手の指、髪の毛などもしっかり正確に描き込みます。背景の輪郭線はあとで消すので、ある程度適当です。
完成したら、さきほどのラフスケッチのレイヤー1は非表示にします。
3.下塗り
次は背景を塗っていきます。
まずおおまかに、全体の配色を決めるために、水彩レイヤー2を追加して、リアル水彩の「フラクタルウォッシュ(水彩)」でざっくりと塗っていきます。
いきなり細かい部分から塗りだすと、全体の色のバランスが失われてしまうので、あらかじめおおまかに色のコーディネートを決めておくことでイメージどおりの絵を描きやすくなります。
このときに気をつけるのは、色のグラデーションを意識した配色にすることです。
上の絵のポイント(1)は、手前の草木をまず鮮やかな黄色で塗り、そこから奥に向かうにつれて、矢印にそって黄緑→緑→青緑というグラデーションをつけています。さらに青緑から、遠くの山の青→空の紫までグラデーションは続いています。
ポイント(2)は地面の道のグラデーションです。こちらも、手前の赤から、中景のオレンジ→黄色へとグラデーションをつけています。
こうして距離によって色相を変化させ、虹色のグラデーションを織り込むことで、絵の印象を鮮やかにしているのは、わたしの絵のいつもの特徴です。
4.背景を塗る
次に、今考えた配色を参考に、背景をしっかり塗ります。
全体の色のバランスを考えるために用いた水彩レイヤー2は非表示にしてしまって、新たに水彩レイヤー3を作ります。
すでに決めた配色を念頭に置きつつ、リアル水彩の「フラクタルウォッシュ(水彩)」と、「紙目水彩」で塗っていきます。それぞれ面塗りと線塗りに用途を分けています。
ここで注意する点は、色彩遠近法。まずポイント(1)の手前の近景部分は、暖色を多く用います。地面や花はかなり赤みを強くしていますし、草木の緑も、実際には橙色を塗り重ねて暖色寄りにして色みを誇張しています。
暖色は進出色なので、近景に多く用いることで、近景がより近づいて感じられます。
そして逆にポイント(2)では、遠景に寒色を多く用いています。遠くの方の草木は、緑ではなく青緑にして、地面は無彩色に近づけました。山や空も青みが強調されています。
寒色は後退色なので、遠景に多く用いることによって、空気遠近法の効果で奥行きが感じられます。
5.輪郭線を消す
次のステップは背景の輪郭線を消すことです。
近景から遠景まで、すべて茶色で描かれた輪郭線で統一されていると、全体が平面的になって奥行きが損なわれてしまいます。
それで、水彩レイヤー1の透明度を下げて、それを透かして参考にしつつ、上に水彩レイヤー4を作って、「紙目水彩」を使って背景になじむ色で輪郭線を描き直していきます。
たとえば、近景の草木は、濃い目の黄緑、遠景の草木は濃い目の青緑などを使って、違和感のない輪郭線にします。
終わったら、水彩レイヤー1の透明度を元に戻して、人物の輪郭線は残して、背景の輪郭線だけを消します。(このとき一応水彩レイヤー1は消す前に複製して予備を置いておきます)
6.背景を描き込む
続いて、背景のディテールをさらに細かく描き込んでいきます。
水彩レイヤー5を作って、「フラクタルウォッシュ(水彩)」を使って、さらに色を濃く塗り重ねていきます。
この場合も、赤い矢印のとおり、手前は暖色に、奥は寒色になるようにして、色のメリハリとグラデーションを意識します。手前ほど色を濃く塗って、奥は彩度控えめに薄く塗ると、遠近感が強調されます。
また、草木の下側の影になっている部分なども、この時点で濃く塗って明るさのメリハリをつけておきます。
7.人物を塗る
背景はほぼ完成したので、いよいよ人物を塗ります。
水彩レイヤー6を作って、やはり「フラクタルウォッシュ(水彩)」と「紙目水彩」で人物を塗っていきます。
人物を塗るときは、服の色など、背景と同化しないように気をつけますが、基本的には自由に塗っていきます。わたしの絵では登場人物ごとにだいたいよく着る服の配色(好み)が決まっていて、ゆめちゃんはピンクや紫、まなくんは青緑が多いです。
水彩らしさを出すために、服や髪の毛のフチなどの明るい部分は、色を塗らずに白のまま残しています。人物の立体的な色づけは、本当は光源を意識したほうがリアルになるのですが、構図によっては逆光になったりして自由な配置ができないので、わたしの絵ではあまりこだわっていません。
8.ハイライトを入れる
いよいよ仕上げとしてハイライトを入れていきます。
水彩ツールは、白を塗り重ねることができないので、ハイライトを描くには一番上にレイヤー2を追加します。
まず、ティントの「標準丸筆」などで、目立つハイライトを描き込みます。この絵だと、目の瞳のハイライト、じょうろから流れ出る水、空の雲などです。
「標準丸筆」で描いただけだと、境界がはっきりしすぎて背景から浮いてしまうので、「引きずり拡散」などのぼかしツールで程よくぼかします。
また、上の赤い円で囲んだ部分では、「エアブラシフィルタ」を使って、遠景の彩度を下げて空気遠近法を強くしています。「エアブラシフィルタ」は薄く色を塗り重ねるツールなので、白色で塗っていけば、少しずつ彩度が落ちて薄くなっていきます。
そのほか「フェアリーダスト」で空や木の葉っぱなどに白い光を散らしています。
9.テクスチャをつける
最後に、全体にアナログ風味のテクスチャをつけます。
レイヤー3をつくって、白と黒の中間の明度の、少し色みのある灰色で塗りつぶし、レイヤーモードを「オーバーレイ」にして一番上に配置します。
「効果」→「色調処理」→「色の調整」でレイヤー3の色相・彩度・明るさを調整して、絵の全体の印象が最適になるようにします。今回はほとんど調整しませんでした。
次いで、「効果」→「表面処理」→「表面テクスチャの適用」で、レイヤー3に好みのテクスチャをかけて、絵にアナログ風味のある凹凸を追加します。今回の絵では「ラフ水彩」と「エッチング」のテクスチャを二重にかけました。
最後にサインと日付を描き入れて完成です。今回は矢印などを書き入れて、絵のどの部分に、どのような技法を使ったのかを具体的に説明してみました。まだまだ未熟なところはたくさんありますが、少しずつでも、表現力を上達させていきたいと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。またときどきメイキングを書きたいです。
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