これまで、Painterのメイキング記事をいくつか書いてきましたが、いずれもリアル水彩ツールについてのものでした。
去年の暮れから、「空花物語」の絵を描くときに油彩ツールを使うようになり、少し慣れてきたので、このあたりで一度メイキングとしてまとめておこうと思いました。
このたびメイキングとして解説するのは、昨日描き上げた「夜光樹の集落」です。油彩と言っても、まだ油彩らしいことはまったく使いこなせていない段階ですが、この絵は明暗のコントラスト(キアロスクーロ)も強調したイラストなので、光と影のメリハリをつけるポイントなどを書いておこうと思います。
わたしは絵の描き方を人に教えられるほどの腕はないですが、自分の絵の描き方の変化をたどる軌跡として備忘録的に作ったメイキングだということをご留意の上、読んでいただければ幸いです。
使う筆について
最初に、用いるブラシ(バリアント)を紹介しておきます。
■丸筆(濃淡)[油彩]…塗りは、ほぼこれ一本でした。線でも面でも描きやすい筆ですが、塗り重ねると少し色ムラができるので、味わいがあります。
■引きずり拡散[ティント]…丸筆だけだと、線がはっきりしすぎてしまうので、縁をぼかします。
■エアブラシフィルタ[フィルタ]…明暗を強調するとき、暗い部分を塗り重ねるのに使います。
本当はもっと色々と油彩の筆を使うべくカスタマイズしていたのですが、まだあまり使いこなせず、今回の絵はたったこれだけの筆で描きました。途中で、インパスト(絵の具を盛り上げたような厚みを出す筆)のブラシで描き込んだりもしたのですが、結局そのレイヤーはおじゃんに…。 今後もっとレパートリーを増やしていけたらと思います。
油彩の筆を一本しか使っていないのに油彩ツールのメイキングを名乗るのはおかしいのかもしれませんが、いつも使っている水彩とはまったく違う描き心地なので、これだけでもある程度は、油彩らしさを味わえます。
いつものリアル水彩は、塗り重ねると色が透過してどんどん濃くなっていってしまうので、一度濃く塗った部分は、消しゴムを使うのでないかぎり、明るくはできません。そのため、うっすらと色を置いて、キャンバスの白色を活かす塗り方になります。重ね塗りによる修正ができないぶん、一回塗ったらそれで完成ですが、色使いのセンスが求められます。
それに対して、今回使っている油彩は、塗り重ねると、下の色を塗りつぶすので、濃い色の上から明るい色を塗ることも可能です。本物のと油彩と同様、塗り重ねることで修正が利きます。そのぶん、幾らでも塗り重ねられるので、全体の配色バランスをよくみて塗らないと、修正に次ぐ修正で終わりが見えなくなります。
1.ラフスケッチ
それでは描き始めましょう。
まずは、新規レイヤー1を追加し、ラフスケッチを描きます。だいたい頭のなかでイメージは決まっているので、おおまかに人物の配置や位置関係を確認するためだけの、本当にラフな下書きです。
細かいことは気にせず、構図としてのバランスだけを考えます。
2.ひたすら背景を描く
次に、新規レイヤー2を追加し、ラフスケッチのレイヤー1の下に置きます。レイヤー1の透明度を上げてうっすらと下書きの線が見えるようにして、それを参考にしつつ、背景を描き込みます。ある程度描いたら、レイヤー1は非表示にします。
とにかくひたすら「丸筆(濃淡)」で描き込み続け、線が主張しすぎるところ(木の葉っぱの部分など)は「引きずり拡散」でなじませます。いきなり本格的に描き込むので、このステップが一番大変でした。
意識したのは、色合いを統一すること。「空花物語」のイメージ色は紫なので、紫を中心に、ピンクや青、水色などの色相で統一しました。鬱蒼とした光る森の中の幻想的な色合いを出すのにも向いている色調だと思います。
この時点から、明暗のメリハリ(キアロスクーロ)をかなり大胆に出すように心がけていて、一番暗い影になっている部分(地面のみぞや、木の幹など)は、ほぼ真っ黒の濃い色で塗っています。逆に、光っている花は、かなり真っ白に近い水色です。
ここで明暗をはっきりさせず、思い切りのよさが足りない色使いで描くと、メリハリのない絵になってしまうので、最初が肝心です。明暗のコントラストを強くしても、「引きずり拡散」で縁をなじませれば、わりと違和感なく整います。
背景を一枚のレイヤーで描いてしまうというと違和感を感じる人もいるかもしれませんが、昔からPainter使いの人は、パーツごとに分けてレイヤーを重ねるよりキャンバスに直接描き込んでいくスタイルの人が多かったようです(笑) 当初はレイヤー機能がかなり不安定だったとか。
わたしはレイヤー機能がそもそもない絵心教室出身なので、絵心教室と同じ使い勝手の塗り重ねる系のツールのときは、一枚でかなり描き込んでしまいます。
3.人物を描く
背景が完成したら、新規レイヤー3を上に追加して、人物を描き込みます。人物と背景はレイヤーを分けました。ラフスケッチとかなりポーズが変わっていますが、そのあたりは背景に合わせて調整します。
この状態では、人物が浮いているように見えますが、このあと影を別途描き込んでいくので問題ありません。
いつもの絵なら、このあたりで完成と言いそうですが、今回は、明暗を強調するということでここからが本番です。
特に背景の木の葉っぱのもっさり感などが強すぎて、全体的にごちゃごちゃした絵になってしまっているので、明暗表現によって、強調したい部分を際立たせ、重要でない部分は主張しないよう整えていきます。
4.明暗を追加する
新規レイヤー4を上に追加して、濃い目の灰色で塗りつぶし、オーバーレイにして重ねます。「効果」→「色調処理」→「明度/コントラストオプション」で明るさを調節し、全体にかなり暗いフィルターがかかるようにします。
それから、「消しゴム」を使って、明るくしたい場所を消していくと、ちょうど覆い焼きのようにして明暗がくっきり出てきます。「消しゴム」で消したところの縁は「引きずり拡散」でなじませます。
今回の絵では、光り輝いている花や、ソラとハナの顔などに消しゴムをかけて明るくしました。
5.ハイライトを入れる
続いて、暗いほうだけではなく、明るいほうも強調するために、新規レイヤー5を上に追加して、ハイライトを入れていきます。おもに光っている花や、夜光虫などを描き込みました。
全体的に暗くなったことで、明かりが強調されるようになりましたが、まだごちゃごちゃしている感はぬぐえません。
6.ヴィネット(口径食)で明暗を強調する
さらに明暗を強調し、絵のテーマを際立たせるために、カメラでいう、ヴィネット(口径食)のような効果を追加します。絵の四隅を暗くして、中心の強調したいところだけがほのかに明るく光っているような印象を出します。
新規レイヤー6を上に追加し、「エアブラシフィルタ」で深い藍色を選択し、暗くしたい部分を塗っていきます。エアブラシフィルタはうっすらと色が乗るだけなので、塗り重ねることによって段階的に暗さを調節していくことができます。
絵の四隅や、影になっている部分を暗くすることで、闇の中に浮き出ているような雰囲気を作りました。また光る花のまわりはぼんやりと明るい水色を「エアブラシフィルタ」で塗り重ね、ほのかに輝く光の輪を演出しました。
前のステップの絵と比べてみると、周囲のごちゃごちゃしていた部分が暗くなってほとんど見えなくなり、光っている花と中心部分だけがスポットライトが当たったように強調されているのがわかると思います。
7.色フィルターとテクスチャをかける
最後に、全体の色調を整えます。
もう少し夜光樹のルシフェリン的な青白い発光を強調したいので、水色のフィルターをかけます。
新規レイヤー7を上に追加して、水色がかった灰色で塗りつぶし、オーバーレイで重ねます。「効果」→「色調処理」→「色の調整」で好ましい色合いになるまで調整します。
続いて、アナログのキャンバスに描いたような風味を出したいので、「効果」→「表面処理」→「表面テクスチャの追加」で、レイヤー7に適当なテクスチャをかけて、ざらざらした味わいを追加します。
もともと紫系の色相で統一していましたが、水色のフィルターをかけたことで、赤みが弱まって、より全体の色調が統一され、青白く輝く不思議な明かりが目立つようになったと思います。
おわりにサインを描き入れて完成です。
細部の描き込みが甘いとか、立体感が微妙だとか、気になる点は色々とありますが、相変わらず根気がないですし、修正を重ねるときりがないので、このあたりで完成としたいと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。油彩ツールを使うようになって、描き方の幅が広がってきたので、またときどきメイキングを書きたいですね。
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