男の子の手助けで、こっそりお城を抜けだしたお姫さま。初めて歩く外の世界は、知らない音、不思議な香り、まだ見ぬ景色でいっぱいです。
「わぁ、こんなに大勢、人がいるなんて」
女の子は興味津々、あたりを見回します。
「ここがお城の城下町さ。賑やかでしょ?」
男の子は、陽気に笑いながら、軽やかな足取りで、女の子を案内します。けれども、周りを慎重にうかがうことは忘れません。女の子はフードをかぶって、普通の旅人のように装っていますが、このまま気づかれずに街を抜けることができるでしょうか。
「ねぇ、ソラ、あれは何?」
女の子はひときわ色とりどりの、賑やかな一角を指さして聞きました。
「あれは市場のお店だよ。食べ物や工芸品を売り買いしてるんだ」
女の子は物珍しげにあちらこちらへと目を動かします。初めて見るもの、ひとつひとつに心が踊ります。
そのとき、二人のそばを、荷物を載せた大きなゾウが通り過ぎて行きました。
「すごい、あんなに大きいの、絵本の中でしか見たことないわ」
「この世界には、もっと大きい生き物だって、たくさんいるんだよ。火吹き竜とか、極楽鳥とか」
男の子は身振り手振りを交えて説明します。女の子は驚いて尋ねます。
「そうなんだ、ソラは見たことあるの?」
男の子は優しく微笑んでこう言いました。
「これから見に行くのさ、もちろんハナも一緒にね」
調子に乗って、「空花物語」の二枚目の絵を描きました。お城を抜けだして、城下町を歩いているイラストです。
■街並みや服装
中世の街並みの城下町を描く、というのは、これまでも何度か挑戦していて、雲くじらの見える城下町や、ちょっと街でお買いものを描きましたが、毎回表現はちょっとずつ変わっていますね。今回の描き方も、もう少しリアリティを高めたかったなあ、と思います。やっぱり街並みは難しい…。
もしできるなら、もっとリアリティを感じさせる売り物とか、不思議な空想生物が荷物を運んでいるところとかを描きたかったのですが、力不足でした。
女の子の服装は、自分の趣味を反映させました。フード付きのマントをまとった姿はけっこう好きなのですが、「ゆめまな物語」の双子には似合わないと思ったので、お姫さまに着ていただくことになりました。夢の中で来ていたかどうかは覚えていません。
この絵も夢の中で見た場面ですが、記憶はあいまいで、はっきり再現したわけではありません。もし次回作があるとしたら、夢のストックはもうないので、いつものように空想で描くことになりそうです。
■ファンタジーとメルヘンの違い
「ゆめまな物語」と「空花物語」の区別ですが…、今のところは、次のように考えています。
「ふたりの時間」=リアル…現実世界を舞台にした絵
「空花物語」=ファンタジー…現実世界の要素も入った架空の世界
「ゆめまな物語」=メルヘン…夢の中の架空の世界
前に、ファンタジーとメルヘンの違いをある人に教えてもらったとき、ファンタジーとは、リアル成分が入ったメルヘンだと言われました。現実性をもった架空の世界、ある種のリアリティを持った空想世界だということになります。
たとえば、完全にメルヘンの「ゆめまな物語」では、海の中でも普段着のまま泳ぎまわったり、空飛ぶくじらに乗って移動したりしています。しかし、ファンタジーの世界だと、やっぱり溺れる危険がありますし、空は簡単には飛べません。
また「ゆめまな物語」にはドラゴンなど怖い生き物は出てきませんし、闘う場面はありません。しかし、ファンタジーの世界なら、命の危険もあるかもしれません。もし「空花物語」を今後も描くとしたら、そうした住み分けをするかもしれないと思いました。
といっても、そういう世界観は苦手なので、これっきり終わりになって、続きを描かない可能性は十分あるのですけどね。リアルなファンタジーを描く画力がないから、メルヘンを描いている、という部分は確かにあります。
メルヘンを描くにはあまり知識が要らないのに対し、ファンタジーを描くにはリアリティを演出する知識が要る、と感じます。わたしはあまりファンタジーを読んだり鑑賞したりしないので、その知識がありません。だから絵柄がメルヘンになるのだと思います。
そのあたりがちょうど今読んでいる、哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ) という本に少し書かれていました。さまざまな観点があって、とてもおもしろい本ですが、このブログ的には空想世界の作り方あたりが関係してそうなので、またまとめたいです。