はるかかなたの海の果て。山に囲まれた「時の王国」の物語。
それは、空が澄み切った日の昼下がり、閉ざされた高いお城の塔の、可愛らしい子ども部屋でのこと。
お姫さまの女の子は、ベッドの上で、たくさんのぬいぐるみとお話ししていました。
「お城の外には、どんな世界があるのかな」
ぬいぐるみのどうぶつたちは首を傾げます。
「絵本で読んだ、大きな渦巻くしっぽを持った生き物や いつまでも風が止まない谷や、最果ての時計台は本当にあるのかしら」
ぬいぐるみのどうぶつたちは何も答えません。誰も、外の世界のことを知らないからです。そのとき…
「あるさ」
ふいに後ろから誰かが答えました。女の子はびっくりして振り返りました。
「だれ?」
そこに立っていたのは、見たこともない男の子。
「驚かせてごめん、ぼくはソラ。世界中の宝物を探して旅をしてるんだ」
男の子は、なわばしごを伝って屋上から入ってきたようでした。女の子は目を白黒させて答えます。
「宝物を? でもここには宝物なんてないわ」
男の子はくすりと笑って言いました。
「そうかな? ぼくの目にはちゃんと見えてる」
女の子は男の子の言葉に目を丸くしました。
「あなたはロマンチストなのね。わたしはハンナ。生まれたときからずっとこのお城にいるの」
「ずっと…? ねぇ、ハンナ、このお城の外には、もっと広い世界が広がっている。いろんな冒険がぼくらを待っている。ここを飛び出して、ぼくと一緒に、広い世界を歩いてみない?」
男の子はスッと手を差し伸べました。女の子は高鳴る胸を押さえて考えました。わたしは、このままずっとこの閉ざされたお城の中で暮らすのかしら…。それとも、この男の子、ソラと一緒に、広い世界へと飛び立つのかしら…。
女の子は気づいたときには差し出された手をとって、立ち上がっていました。
「わたしは…広い世界を歩きたい」
男の子はにっこり微笑んで言いました。
「よろしくね、ハナ」
それは、とても澄んだ青い空の日の出来事でした。
空花物語の最初の一枚、「出会い」を描きました。お姫さまの女の子のハンナ(ハナ)と、トレジャーハンターの男の子ソラが、初めて出会ったときの様子です。
■空花物語とは何か
いきなりなぜこんな物語調の絵を描いたのか。じつは、この話はわたしが意識して考えたのではなく、昨日(5/5)の朝、夢で見た話なのです。
妙にストーリーをはっきりと覚えている夢でしたし、おとぎばなしのような雰囲気が心に残ったので、絵に描いてみたいと思いました。
夢の中で見たときは、ソラがトレジャーハンターではなく盗賊だったなど、少し設定に違いがありました。ストーリー化するにあたって肉付けした部分もあります。でも絵の雰囲気や、場面・構図に関しては、夢にできるだけ忠実に描きました。「ぼくと一緒に、広い世界を歩いてみない?」なんてセリフも、夢の中そのままです。
じつは、夢はこれで終わりだったわけではなくて、男の子と女の子の冒険や、5年後のストーリーまであったのですが、そこまで描けるかどうかはわかりません。もしかすると、「ゆめまな物語」と並行して「空花物語」も描くかもしれませんが、この一枚で終わりになる可能性もあったり。ストーリーは覚えていますが、夢の記憶はあいまいですしね。
■アドベンチャーゲームだった
ちなみに、夢の中では、この話はゲームでした。アドベンチャー風のゲームですが、バトルでは、Wiiリモコンを剣として振って闘うという仕様でした。シンプルなキャラクターと、ハッピーエンドのストーリーで、このゲームは隠れた名作だなあ、などと思いながら、夢の中で遊んでいました。
起きた直後、街の雰囲気などから、昔のSFCのゲーム「ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ」を思い出しました。確かあのゲームも主人公の少年がお姫さまの部屋に潜入する場面があったような…。
■ストーリーのある夢
夢でストーリーのある話を見るというのは、わたしにとって珍しいことではなく、空花物語を見た次の日である今日も、いくつか見ました。ロボットに乗って、雪山で仮面の破壊生命体と命がけで闘う話と、スタジアムで年配の女性起業家が必死に講演しているところへ、恨みを持つ3人の者によって陰謀が企てられ、ステージが爆破される話を覚えています。燃える火の熱風がリアルでした。あと定番の空を飛ぶ夢とかトロッコに乗る夢とか、今日は盛り沢山でした。
こういう夢は、たいてい起きたらすぐ忘れるのですが、一応枕元に紙とボールペンを置いてあって、気になった夢をみたら、メモするときがあります。昨日の空花物語は、たいそう気に入ったので、忘れないうちに、もうろうとした中で頑張ってメモしたのです。その流れで今日の夢もメモしたので覚えているのですが、空花物語にはかないません。
そういえば、お姫さまの部屋にだれかが迎えに来る、という夢は前にも一度見ていて、そのときも絵にしたのですが…このシチュエーションに潜在意識的なこだわりか何かがあるのでしょうか。
そのようなわけで、続きを描くかどうか、シリーズ化するかどうかはわかりませんが、面白い夢を見た記念として、とりあえず一枚描いてみたというわけです。