今夜は年に一度の花火大会。
街じゅうの街路に炎が灯り、夜道が明るく照らされます。
お姫さまは、高鳴る胸を抑えきれず、目をぎゅっとつむって、飛び跳ねます。これまでずっとお城の中で、窓から独りぼっち花火を眺めているだけでした。街の人たちと一緒に花火大会を満喫できるのは今日が初めてです。
眩しい炎、ぱちぱちと火花を立てるたいまつ、色とりどりのお店。なんて賑やかなのでしょう。こんな大勢の人が集まるところは見たことがありません。みんな流れのように城下町の門をくぐっていきます。
ふと城門のわきに目をやると、見慣れない姿をした女の子が佇んでいるのを見つけました。麦わら帽に白いワンピース、鮮やかな金髪の三つ編みおさげと、青い瞳がよく目立ちます。
どうやら、城下町の子どもではないようです。けれども旅人のようにも見えません。まるで、どこか別の国から迷い込んできたかのような不思議ないでたちで、夢を見ているかのようにあたりを見回しています。
「あなた、どこから来たの? よかったらわたしたちと一緒に、花火大会、楽しまない?」
お姫さまはそう言って、女の子に手を差し伸べました。青い瞳の女の子は驚いたようすでしたが、小さく頷いて、お姫さまの手を取りました。お姫さまは満面の笑顔になって、女の子と手をつないだまま、城下町の門へと走り出します。
花火大会の長い夜の始まりです。
「空花物語」のソラとハナの二人が、不思議な姿の女の子と一緒に花火大会を楽しんでいる絵を描きました。
■花火大会
今回の絵は、「空花物語」の番外編であり、友人のリクエストに答えて描いた絵です。「家族でお祭りを楽しんでいる絵」というリクエストだったのですが、現代的なお祭りではなくファンタジーにしたいなあ、と思ったので、「空花物語」の世界観のほうで描くことにしました。
家族で楽しんでいる絵ではなくなってしまいましたが、友人のキャラクターにも出演してもらって、ソラとハナとの共演の絵にしてみました。
わたし自身は、もう長いこと花火は見ていなくて、花火大会の機会も逃しています。今の時期は近くで花火大会がときどきあるのですが、他の予定との兼ね合いで、楽しむことができず、残念な思いをしています。音だけしか聞こえないので、お城から花火だけでも見えていたお姫さまよりひどいですね笑。
■中世のお祭り
今回は、中世のファンタジーな世界観の花火大会を描きましたが、中世ヨーロッパで、実際に花火は使われていました。
フランスのプロヴァンでは、今でも中世のようなお祭りがあるそうです。その名も「中世祭り」(Les Médiévales de Provins)といって、みんなで中世の衣装を身にまとい、さまざまな催しが行われるといいます。
プロヴァン(Provins)は中世の町並みを残した中世市場都市で、世界遺産にも認定されています。そのような街で、中世の衣装を着るわけなので、中世祭りの間にそこを訪れると、タイムスリップしたかのような雰囲気が味わえるそうです。
中世祭りの様子はこちら(画像検索)
プロヴァンの町並みはこちら(画像検索)
中世祭りは、特にプロヴァンのものが有名ですが、ヨーロッパの各地で似たようなものは開催されているそうです。
今回の絵では、おおまかな部分は中世ファンタジー風ですが、あまり細かいことは考えず、現代的なところも盛り込みました。お城の雰囲気は、中世風というより、ディズニーランドのイメージが先行しているのかもしれませんね。
背景は夜なので光の加減に苦労しましたが、なかなか難しい。ちょっと炎の勢いが強すぎて、街が燃えないか心配な感じです。ほむら祭りのような雰囲気になってますね。
ここのところ、書きたい絵の題材はいろいろあるのですが、時間の余裕がなく、なかなか新作を描けない日が続いています。そんな中、こうして一作でも新作を描けるとなんだかホッとするものです。