「ハナ、きみに見せたい場所があるんだ。この世界でも指折りの、不思議な景色が広がる場所さ」
広い世界を旅してまわる男の子と女の子。これまでもたくさんたくさん、不思議で息を呑むような景色や、奇妙でおかしな国や街をめぐってきました。女の子は、もう、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信があります。
けれども、男の子は、そんな女の子を見て、ほほえましそうに言ったのです。まだまだ、この世界には、女の子が想像もできないようなわくわくする場所がたくさんあると。
そうして二人が旅へ出たのは、うっそうと生い茂る紫の深い森。ぶあつい木の葉と幾重にも織り重なった枝が、太陽の光を一年中通しません。でも男の子は言います。こんなところにも、人知れず暮らしている人たちがいるのだと。
はじめはかすかな光が差していた森の入口。でも、深く深く森に分け入ると、そこはまだ昼間なのに真っ暗闇です。
「ソラ、どうしよう、何も見えないよ?」
「大丈夫、ハナ、あれを見て」女の子が見上げると、そこには、青白いホタルのような光をはなつ、胴の長い虫がふわりふわりと羽ばたいています。
「あれが森の案内人なんだ」
男の子は、青白い光を放つ虫が枝の隙間を器用に飛んで行くのを追って、真っ暗な森の奥へと入っていきます。女の子も高鳴る胸を押さえて、その後を追いました。
ほのかに輝く虫を追ってどのくらい歩いたでしょうか。女の子は、あたりが不意に明るくなるのに気づいて、闇に慣れた目をしばたかせます。
「ついたよ、ここが夜光樹の集落さ」
男の子の声が響いて、明るさにようやく目が追いついたとき、女の子が見たのは、巨大な森の天井からぶらさがった、幾つもの光り輝く花、そして、その花の下に寄り集まった家々からなる異境の村てした。
夜光樹の森の下で
「空花物語」、今回ソラとハナが旅をしたのは、闇に輝く夜光樹の森の村です。
見た目はうっそうとしげった森ですが、毎日のように咲いてはしぼむ巨大な発光する花の明かりをたよりに生活している動物と人間たちがいて、孤立した集落を作って暮らしている、というイメージです。なんだかよくわからない巨大な発光する虫も飛んでいたり。そういえば、わたしが虫を描くのってかなり珍しいですね。
巨大な木のふもとの村は、以前に世界樹のふもとで描きましたが、今回は、夜の闇の中に輝く木の下で生活している村を描きたいなぁ、と思って、このアイデアにつながりました。
見返してみると、ハナのポーズが同じですね(笑) それに、ソラとハナの顔がかなり違う…。 たった三ヶ月ほど前に描いた絵のはずなんですが…どうしてこうなったんでしょう(苦笑)
今回の絵も、最近の「空花物語」と同様、Painterの油彩ツールメインで描いています。「ゆめまな物語」のほうで使っている水彩ツールは慣れているだけあって、適当に塗ってもわりと綺麗になるのですが、油彩ツールのほうは、文字通りの油彩さながら、何度も塗り重ねて理想の色に調節するのが大変でした。
わたしは立体感のある絵が苦手なので、樹木や建物の色使いや、ぼかし加減は、かなり試行錯誤しました。大変でしたが、たまにツールを変えて描くのは、頭の体操になっていいですね(笑)
ヴィネットを使った明暗の表現
夜光樹の森ということで、明るさの表現をどの程度強調するかは最後まで悩んでいて、途中まではもっと明るかったのですが、結果的には、かなりメリハリを強くするほうを選びました。
今回の絵では、明暗の表現に特徴を出すため、口径食(ヴィネット)の技法を使っています。
ヴィネットというのは、写真などで中心だけ明るくて、まわりが暗くなっている場合をいう用語で、絵画においては、レンブラントが多用したことで有名です。
レンブラントは光と影の画家と呼ばれたりしますが、ちょうどスポットライトを当てたように、絵のテーマとなる中心部分だけを明るくし、周囲の重要でない部分は暗く描きました。
このヴィネッティングは、主題を際立たせる効果があるだけでなく、ちょうど人間の眼のつくりに即したものだと言われています。わたしたちが普段身の回りのものを見るときも、あまり気づいていないかもしれませんが、視界の中央部分が明るく、視界の端は暗くなっているようです。
今回の絵では、レンブラントのヴィネッティングほど大胆ではありませんが、中心の村を明るくして、周辺の森の部分は絵の四隅に行くにしたがって暗くなるように明るさを調節して描きました。明暗のメリハリが出ていればいいなと思います。
毎度のことながら、空花物語の油彩ツール絵は、なかなか完成が見えず、塗り重ねている最中は、この絵は本当の完成するの?と言いたくなるんですが、なんとか?まずまず見せれるレベルにまで持ってこれてよかったです。立体感や色使いは、今後の課題として、地道に練習していきたいですね。