科学的統計から考える好まれる絵の構図の決め方―水平で左に光源を置くといい?


を描いている人なら誰もが考えるのが、構図の決め方です。特に、背景が含まれる空間的な絵を描く場合は、構図は非常に大切です。

構図には色々な要素が含まれます。斜めにするか水平にするか。光源を右にするか左にするか。透視図法の消失点をどこに持ってくるか。

そうした要素は、描く絵の内容によって決めるのが一番ですが、それでも、統計によると、好まれやすい構図が存在しているようです。

これから書く実験結果などは、あくまで統計的なもので、どちらかというとそう感じる人が多い、というデータです。ですから、全体として見れば、そうした構図のほうが好まれやすいといえますが、それを意識しすぎて創作表現を縛る必要はありません。

あくまで、ちょっと面白い読み物として読んでいただければと思いますし、わたしもその程度のスタンスで書いています。

では構図をめぐる興味深い研究の数々を肩の力を抜いて見ていきましょう。

思い出は燃えるように

水平垂直な構図の絵のほうが好まれる

まず、大切な要素は、用いられている線がどの方向を向いているか、という傾きの話です。絵を描くとき、特に背景のある構図を描く場合は、絵を水平垂直に配置するか、それとも斜めに配置するかを決める必要があります。

この場合、はっきりと統計に示されている事実は、「多くの人は斜めよりも水平垂直の構図のほうが好き」ということです。これは、模様を用いた実験でも、絵や写真を用いた実験でも、繰り返し裏づけられていることだそうです。たとえば最初に載せたわたしの絵「思い出は燃えるように」は、水平垂直方向を強調した構図です。

なぜ多くの人は水平な絵のほうが好きなのか、という点について、芸術的才能と脳の不思議―神経心理学からの考察にはこう書かれています。

水平方向や垂直方向に対して感受性が高いことの1つの説明として、発達期間に経験される環境の構造と視覚系の可塑性が挙げられている。

この考え方によると、環境のなかには水平方向と垂直方向の成分が斜めの成分より多く、その結果こうした環境が水平方向と垂直方向に対して感受性が高くなるように視覚系を造りあげていくことになる。

水平方向や垂直方向の検出や認識が斜め方向へり優れていることは、格子縞を用いた実験と自然を描いた絵の双方で明らかにされている。(p200)

つまり簡単にいえば、わたしたちは赤ちゃんのころから、水平垂直な世界で育っているので、視覚系が斜めよりも水平垂直を好むように発達するということです。わたしたちは、赤ちゃんのころからの経験によって、無意識のうちに水平垂直であれば安全だと感じるようになっています。

もし木や電柱が傾いていたら、とっさに危険だと感じますし、床が傾いていたら落ち着かないでしょう。何より、わたしたちは斜めのものより、水平垂直のものを見る機会が圧倒的に多いので、脳のニューロンレベルでも、水平垂直方向成分を検出するニューロンのほうが、斜め成分を検出するニューロンより多いことがわかっているそうです。

絵を見る場合でも、この水平垂直方向のほう慣れ親しんでいる、という点は同様です。、たとえば、ピエト・モンドリアンら新造形主義の画家たちは、水平・垂直方向の線は美的アピールが強いことに気づいていました。モンドリアンの「しょうが入れのある静物II」はまさに水平垂直の線だけで見る人の美的感覚に訴えています。

▼しょうがいれのある静物II (画像検索にリンク)

Still Life with Gingerpot 2

しかしながら、あらゆる人が水平垂直な構図を好むかというと、それはまた別の問題です。絵を描かない一般の人たちは主に水平垂直を好むかもしれませんが、いつも色々な絵や写真を見ているアーティストは、平凡な構図には見飽きてしまって、斜め成分の入った凝った構図を高く評価するかもしれません。

それは以前の記事で書いた、一般人がラッセンの正統派な絵を好み、富裕層や専門家がピカソの奇をてらった絵を好むのと似たようなものです。

なぜエリート層はピカソの絵を飾り、大衆はラッセンを愛するのか―芸術と脳の処理

わたしも絵を描く側の人間ですが、はっきり言って斜めの構図のほうが好きなのでよく用いています。以下の「異国の街のお姫さま」はほとんどの線が斜めですね。

異国の街のお姫さま A Princess in the Mysterious Country
空花物語コラボ編。ミステリアスな異国の街

全体の統計からすると、斜めの構図を好む人は間違いなく少数派であり、多くの人に好まれる絵を描きたいなら、水平方向の絵を描くほうがいいという結論になるでしょう。もちろん、水平垂直といっても、物差しで引いたような直角である必要はなく、ある程度自然なもので構いません。

しかし斜めの構図にだってメリットはあるのです。垂直水平方向の線は、無意識のうちに安全さを感じられると書きましたが、逆にいえば、斜めの線は、不安定さを強調したい絵に用いれば効果的だといえます。わたしの描く絵は、メルヘン・ファンタジーの現実にはありえない世界がテーマなので、斜めにすると、不安定で不思議な雰囲気が強調される可能性がありそうです。

写真は右側が強調されている構図が好まれる

次に構図を決める際に悩ましい点が、光源を左右どちらに置くか、ということです。光源を置いたほうは当然多くの情報は描かないので、左に光源を置けば、右側に人物などを描き込み、右に光源を置けば、左側を描き込むことになるでしょう。

この場合も、どちらのほうが好まれるのか、という点は統計によって示されていて、おもに写真の場合は、「多くの人は右側に色々な情報が描き込まれている写真を好む」ということがわかっているそうです。写真ではないですが、わたしの絵でいうと、たとえばこの「星の記憶の物語」は左側に光源があり、右側に重要な情報が描き込まれています。

星の記憶の物語 Momories of the Earth
巨大な恐竜たちのいる惑星

この右側に情報が多い写真が好まれるという点は、何度も実験により裏づけられているそうですが、特に右利きの人ほどその傾向があるそうです。

Levyはこの実験で、右利きの被験者と左利きの被験者で結果が違っていたことに興味を示している。

すなわち右利きのの被験者は、写真がオリジナルなものか左右を逆転したものかに関係なく、重要な情報源が右にある写真を好み、一方左利きの被験者にはそうした嗜好がみられなかったのである。(p201)

この解説からすると、右利きの人と左利きの人とで傾向が異なることがわかります。右利きの人は右側が強調された構図を好みますが、左利きの人は別に左側が強調された構図を好むわけではないので、単に利き腕のほうを好むというわけではありません。

おそらくは、脳の右半球と左半球の優位性が関係しているのでしょう。右利きの人の99%、左利きの人の70%は左半球優位だと言われていますから、左利きの人の30%は右半球優位であり、そのせいで左利きの人では好みの傾向が打ち消されたのかもしれません。

人類の大部分を占める右利きの人が右側に情報がある絵を好む理由としては、2つの説が考えられています。

1つ目は、右側が強調されていると、右視野から入る情報が脳の左半球の美的感覚を刺激するとする説です。

2つ目は、右側が強調されていると、視線が右のほうに寄るため、結果的に左視野に多くの情報が入り、空間認識を担当している脳の右半球を刺激されるというものです。

どちらが正しいのかは今のところ不明ですが、これから考えていくことによれば、2つ目の説のほうが意味ありげに思えます。

ところで、大半の人が右にあるものに注目する、というのはマーケティングの心理学にも活用されています。なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学にはこう書かれていました。

買い物客がぶらぶらと歩くとき、それがスーパーの通路でも大通りの歩道でも、通るのは右側になる傾向がある。

このようなわけで、上手に設計された空港では、出発ゲートに向かう旅行客から見てファストフード店は左側にあり、土産物店は右側にあるのである。(p222)

こうした右側を好むという性質は「右の絶対性」と呼ばれていて、スーパーマーケットでは、通路の進行方向の右側の棚につい手に取ってしまいやすいものを置いているのだそうです。こちらは単に利き腕のせいなのかもしれません。

右側強調が好まれるかは絵の種類による?

このように写真の場合は、右側に重要な情報源があるものが好まれるという結果が繰り返し出ていますが、不思議なことに、絵ではどうもそうではないらしいことがわかっています。芸術的才能と脳の不思議―神経心理学からの考察にはこうありました。

これまで述べてきた休暇中の状況写真や風景写真、単純な図形などで明らかにされた右側への情報源の集中は、名のある絵画作品を用いた研究の成果とは一致していない。

絵画作品では、左側に情報源がある絵のほうが、より美しいと判断されたのである。(p202)

なんと、絵では、左側に大事な情報が多い作品のほうが好まれるという結果になってしまいました。どういうことなのでしょうか。

この本で続けて紹介されている研究では、14世紀から20世紀に描かれた2124点の絵を分析しています。注目に値するのは、17世紀の絵の70%で光源が左にあり、その結果右側が強調されていたことです。それ以前は光源が明らかでないものが多く、それ以降は、左に光源がある比率は減っているそうです。ただし右側の光源が増えたわけではなく、光源が真ん中にあるか、どこにあるか分からない絵が多いといいます。

いったい17世紀に何があったのか。実はその時期は、ルネサンス以降の写実主義が頂点に達したころでした。光源が左にあって絵の右側が強調されていたのは、空間や奥行きを強調する遠近法に有利だったからであるようです。

はっきりと断言できるわけではありませんが、この調査結果は、絵の中でも、写真のようなリアルさを強調した写実主義の場合は、光源が左にあって、右側の情報が強調されている構図が好まれる、ということを示しているように思われます。

写真と写実主義の絵の共通点は、もちろん、空間と奥行きが表現されていることです。写真は言わずもがなですし、写実主義の絵は遠近法によって立体感が演出されています。そして空間や奥行きの位置関係は、どちらかというと脳の右半球で処理されていることがわかっています。

そうすると、先ほど、右側が強調された写真の2番目が好まれる理由を説明した仮説の2つ目が意味ありげに思えてきます。つまり、右側が強調された構図は、視線が右に誘導されることで、結果的に左視野に情報が多く入り、脳の右半球が刺激されるというものです。

写真や写実主義の絵の場合、右側に情報が置かれることで、空間認識を担当している右脳がより強く刺激されて、立体感や奥行きなど、空間の表現がよりリアルに感じられるのかもしれません。

わたしの絵は写実主義ではありませんが、遠近法を使っているような絵では、もしかすると、左側に光源を置き、右側を強調した構図にしたほうが生き生きと見えるのかもしれません。さきほどの右側に情報を多くしたわたしの絵も、空間的な奥行きを強調した絵でした。

「美しさ」のためには左側を強調するべき?

しかし、すでに引用した文で説明されていたように、写真と違って、絵の大半、おそらくは写実主義でないタイプの絵においては、左側が強調される絵のほうが好まれる可能性があります。わたしのこの絵「思い出はいつもきみと」は左側を強調しています。

思い出はいつもきみと My Memories are Always with You
アルバムを開くといつも一緒にいた

先ほどの右側強調の写真が好まれる理由が正しいとすると、左側が強調されている絵は、逆に脳の左半球を刺激していると考えられます。

じつは、絵画作品や写真など、いろいろな物を対象とした実験では、美しいと感じたときには脳の左半球が活性化していることがわかっています。

MEGの結果から、刺激が芸術作品であるかどうかには関係なく、美しいと判断されたときには、左前頭前野背外側領域が有意に活性化することが明らかとなった。(p197)

そうすると、右側が強調された写実や写実的な絵は、脳の右半球で空間的に「リアルだ」と感じられるために好まれるのに対し、大半の芸術作品は、脳の左半球で「美しい」と判断されるために好まれるのかもしれません。もちろん写真でも「美しい」と判断されたときには脳の左半球が活性化しています。

おそらく「リアルな」絵と「美しい」絵は、脳にとっては別物であり、それぞれ好まれやすい条件も異なっているのではないかと思います。

ちなみに女性の人物画については、絵の左側(顔の右側)が強調されている作品が美しいとみなされやすいとのことでした。この場合は、たいていは紙の中央に描かれているので、視線が右や左に誘導されることはなく、絵の左側はそのまま左視野に入って顔認識に関わる右脳を活性化しているとされています。ややこしい話ですが(笑)

なぜモナリザは左半分だけ微笑んでいるのか―脳の顔認識には左右差があった
女性は顔の左半分に微笑みが現れやすいという研究について

高い価値を強調するなら「三角構成」

ここまでは右を強調するか、左を強調するか、という観点から見てきましたが、さきほど触れたように、17世紀よりあとの時代の絵になると、真ん中を強調する絵も増えてきます。19世紀には、光源を真ん中に置くか、光源をはっきりさせていない絵が60%にも上るそうです。

真ん中を強調するのもまた、マーケティングの心理学で使われている手法で「三角構成」と呼ばれています。なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学にはこう書かれています。

衣服や、効果な輸入食品、魅力的なギフト、便利な小道具、香水や化粧品など利益率の高い商品を陳列している売り場では、三角構成と呼ばれるものの効果が発揮されるように商品を配置することが多い。

「三角構成は、人間の目線は常に写真の中央へとまっすぐ向かうようになっているという事実に基づいたものだ」とカール・マッキーバーは説明する。(p224)

三角構成とは最もサイズが大きく、一番大事なものを真ん中に配置し、それより価値が劣るサイズの異なるものを周りに配置する方法です。

簡単にいえば、周りに花を添えることで真ん中を強調する方法であり、たとえば日本の伝統文化の生花で中央の花を強調したり、相撲の横綱土俵入りで横綱の左右に格下の力士が付き添ったりするのも三角構成でしょう。

絵の場合でも、大事なもの、価値の高いもの、高貴なものを表現したい場合には、主役をどーんと真ん中において、周りに花を添える直球な三角構成の構図にしてしまうのも良さそうです。わたしの絵の場合は、この「こもれびお昼寝タイム」あたりが三角構成に近いでしょうか。

こもれびお昼寝タイム Afternoon Nap Time
森のみんなは ぽかぽかお昼寝

絵の構図を決めるには?

ここまで書いてきた内容をまとめると、こうなります。

絵の構図を考えるときに役立つ実験結果

■水平・垂直の線を用いた構図は、安定した雰囲気になり好まれやすい
■写真や奥行きのある遠近法を用いた絵は、左側に光源があり、右側に情報がある構図が好まれやすい
■芸術としての美しさを表現したい場合は、左側にある情報が大切かもしれない
■大事なものを強調したいなら、三角構成にして中央を魅力的にする構図も良い

もちろん、最初に書いたとおり、これらはあくまで傾向です。例外は数多くあるでしょうし、そもそも文化や地域によって差がある可能性もあります。海外の研究によるサンプルが、日本人の特性にも当てはまるかどうかはわかりません。

また、右側を強調した写真が好まれる理由の二つの仮説のどちらが正しいのかわかっていないのも問題です。今回は二番目の仮説が正しいと仮定しましたが、ひとつ目の仮説が正しければ、少しややこしくなってきます。

それに結局のところ、構図は絵の魅力を決める要素の1つにすぎません。絵の魅力は他にも、描くテーマや色使い、タッチなどが関係していますから、好まれやすい構図を用いた絵が人気を集めるわけではありません。

何より、絵を描く動機は、好まれるかどうかという評判(外的報酬)より、自分の心の中にあるものを自由に表現したいという熱意(内的報酬)を大切にしたほうが、長続きするはずです。(もちろん絵をマーケティングの手段として用いている人たちは別です)

ですから、参考程度として、好まれやすい構図があることを知っておくと面白いですが、理論に縛られることなくのびのびと描くほうがいいでしょう。歴史上革新的と言われた画家たちは、それまでの理論を超えた絵を描いたことで、反発に合いながらも、次第に評価を高めたのですから。

わたしの場合も、水平な構図が好まれやすいとわかっていても、斜めの構図が大好きですし、そのときの気分や絵の内容に合わせて、光源の位置を決めることが多くなりそうです。

けれども、どちらに反転しても問題ないような構図なら、今回の記事の内容を思い出して、空間的奥行きが重要な絵なら光源を左にして右を描き込み、色使いや人物などが主役の絵なら左を書き込むよう向きを調節したりするかもしれません(笑)

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