絵に表れる視覚優位と聴覚優位の特徴―色と線の見え方


なたは視覚優位と聴覚優位のどちらですか?

視覚優位とは、何かを考えるとき映像を思い浮かべて考える人のことです。すべて映像に変換するため、人の話についていくのは苦手ですが、図解して教えてもらえると際立った呑み込みの良さを示します。

聴覚優位とは、何かを考えるとき言葉で考える人のことです。文字と講話で行われる学校教育のもとでは成績もよく、頭の回転も早いですが、頭の中に具体的な形や全体像をイメージすることは苦手です。

多くの人は、視覚と聴覚両方をある程度バランスよく使っていますが、利き手のように、どちらかに優位性を持っています。中には、極端な視覚優位、極端な聴覚優位の人もいて、そうした人たちはアスペルガーなどの発達障害(自閉スペクトラム症)として診断されやすくなります。

こうした感覚の優位性は、学校での成績や、日常生活によく現れますし、ひいては絵を描くときの特徴にも表れる、と説明するのは、室内設計家の岡南による天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)およびギフテッドー天才の育て方 (学研のヒューマンケアブックス)という本です。

この本に挙げられている具体例を参考に、絵に表れる視覚優位と聴覚優位の特徴について考察したいと思います。

視覚優位の人の色優位性

冒頭で述べたように、視覚優位の人と聴覚優位の人には、それぞれに得手不得手があります。まずはその点をもう少し深く掘り下げてみましょう。

視覚優位の人の中には、目から入ってくる情報が、より豊かな人がいます。

こうした色を見分ける能力の高さを「色優位性」と言います。

例えて言えば、画素数が多く、高精細なテレビのようなものです。色がはっきりくっきり見えて、認識できる色の数も多めです。

そのような人は、例えば、以下のゲームのようなテストを行うと、かなり高い成績を収めるでしょう。色の微妙な違いを見分けられるのです。

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※解説 : 画面に映る色のうち、一つだけ違うものがあるのでそれを選んでいくテストです。だいたいLv20-25くらいが一般の平均だそうです。わたしはたいてい 平均値、すごくうまく行って30くらいです。色優位性の人はたぶん初回から30は超えるのではないでしょうか。わたしの知り合いの写実的な絵を描く人は、 初回35点で、何度かやると45が最高得点でした。

脳には第一次視覚野(V1)から第五次視覚野(V5)までが存在し、視覚情報を処理していますが、「色優位性」の人は、色覚に関係するV4が特にしっかり働いているとされています。(p157)

この「色優位性」を持つ人は、立体を明確に認識できます。立体とはすなわち、ものの表面の微妙な色合いの変化からなる連続体だからです。それは絵を描くときにも長所となります。

たとえば石膏像をデッサンするときには、色優位性の能力の高い人は、微妙な中間色により表現される面の凹凸を視覚が拾い、影の存在を面の濃淡で表現し、奥行きのある空間や量感としての立体を描くことができます。(p41)

ときどき写真のような立体的・写実的な絵を描ける人がいますが、そのような人は色優位性を持っていて、物体表面の微妙な色の変化を捉えることができるので、生き生きした絵が描けるのです。

聴覚優位の人の線優位性

色の認知が発達していた視覚優位の人とは対照的に、聴覚優位の人は、視覚に不全があります。これは視力の問題ではなく、たとえしっかり見えていたとしても、視覚情報が限られているという意味です。

特に、聴覚優位の人の中には、色を見分けるのが苦手な人がいます。

ちょうど、昔のブラウン管のテレビで、映像を見ているようなものです。確かに問題なく映りますが、視覚優位の人の見ている高精細なHD画質の世界と比べると見劣りします。

これを「線優位性」といいます。

聴覚優位の人の視界が豊かでないのは、V4の色認知が悪いせいです。色の微妙な違いがわからないので、立体をうまく認識することができません。たとえば、人の顔を見分けるのが苦手だったりします。

しかし人間の脳というのはよくできていて、色認知が劣っている場合には、境界線を認知することで、立体を意識しようと働きます。

線優位性の人は、文字など線で表現されたものを認識するのが得意です。また二次元的な絵や写真であれば、スムーズに認知できます。

色の微妙な違いが分からない、というのは、写真を減色した場合を考えてみればわかりやすいと思います。写真には本来非常に多彩な色が含まれていますが、16色に減色すると、色の連続性が失われます。立体感がなくなり、色の境目という線で区切られた、どこかイラストチックな画像になります。

▼フルカラーのハイビスカス(一枚目)と16色に減色したハイビスカス(二枚目)

ハイビスカス ハイビスカス16

そのようなわけで、線優位性の人は、やはり絵にも独特の特徴が表れるといいます。

線優位性の能力の高い人は、色彩の明暗の微妙な拾いよりも、石膏像の周囲の輪郭をつくる際(エッジ)、すなわち線の認知の能力が高くなりますから、面の明度ではなく線で描こうとする傾向が強くなります。(p41)

このような特性は、石膏デッサンとしては今ひとつかもしれませんが、二次元的なイラストでは力を発揮します。

色優位性の絵と線優位性の絵

ここで、それぞれの絵の具体例を見てみることにしましょう。以下のリンクは、その画家の絵のGoogle画像検索にリンクしてあるので、参考にご覧ください。

この本では、色優位性の画家として、アンドリュー・ワイエスクロード・モネが挙げられています。

ワイエスの絵は、写実的で立体感があり、色の微妙な違いを活かした、わびさびを感じさせる繊細な色づかいがされています。モネは、印象派の始祖として有名ですが、「光の画家」とも呼ばれていて、色の微妙な違いを意識した深みのある風景画を描きました。

▼アンドリュー・ワイエスの絵 (クリックで画像検索)

Andrew Wyeth

▼モネの絵 (クリックで画像検索)

claude monet

線優位性の画家としては、アメディオ・クレメンテ・モディリアーニアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックアンリ・マティスが挙げられています。

彼らの絵は、線を重視した二次元的なイラストに近いものです。また色は繊細な色みではなく、特にマティスは派手でわかりやすい色を使っています。

▼モディリアーニの絵 (クリックで画像検索)

Amedeo Clemente Modigliani

▼ロートレックの絵 (クリックで画像検索)

Henri Marie Raymond de Toulouse-Lautrec-Monfa

▼アンリ・マティスの絵 (クリックで画像検索)

   Henri Matisse

これらの点から、絵を描く人には、その認知特性によって、少なくとも二通りのタイプがいることがわかります。

タイプ1…色優位性

■立体的なデッサンが得意
■線をあまり使わず面で描く
■純色より微妙な色合いの細やかな色を用いる

タイプ2…線優位性

■二次元のイラストが得意
■面で描くより線で描く
■見分けやすい派手な色を用いる

もちろん、絵を描く人には、ほかにもさまざまな認知の特徴がありますから、これだけですべてが決まってしまうわけではありません。絵の表現の幅はもっと限りないものです。何より、多くの人は、これらの両極端ではなく、中間の位置にいます。

しかし自分の描いている絵柄というのは、自分の脳に生まれつき備わっていた認知の特徴が関係している、ということを覚えておくと世界が広がると思います。

あなたから見て気に入る絵を描く人は、あなたと世界の見え方が似ているのでしょうし、あまりピンとこない絵を描く人は、あなたとはまったく違う見方で世界を認知しているのだと理解できます。

どちらにしても、人にはそれぞれ生まれ持った認知特性があり、それが各人の絵の個性につながっているのです。

ときには自分とまったく違う認知によって世の中を見ている人と仲良くなって、新しい観点に触れてみるのもよいのではないでしょうか。

わたしの絵の特徴

ちなみにわたしの絵はというと、最初に掲載したものを見ていただくとわかるとおり、聴覚優位の線優位性です。立体感を出すのは苦手で、線を中心に表現していて、色は明るく派手です。

一時期 地味なトーンを使おうとしていたのですが、どうもしっくり来なくて、Painterに移ってからは、すっかり虹色の鮮やかな色づかいになってきました。これが一番落ち着くのですから、賑やかな色が好きなのでしょう。

もっといえば、学校のころの成績はよかったですし、人の顔を見分けるのは苦手です。何かを考えるときは言葉で考えます。頭の中に映像を用意するのは得意ではありません。

(WAIS-III検査によると、「絵画完成」が非常に苦手で、頭の中に視覚イメージを用意できないことが明らかになりました。しかし、全体のIQはわずかに聴覚優位なくらいでバランスはいいそうです)

そのため、立体的なデッサンのできる人や、映像を思い浮かべて描ける人にはあこがれをもっています。

たとえばこの本の著者の岡南さんは視覚優位ですが、こんな経験があるそうです。

小学校の低学年だったと思います。近くに住む一つ年下のMちゃんとお絵かきをしていたときのことです。

私は頭の中になぜかカエルを左斜め上から見ている映像がありましたので、それをそのまま緑色のクレヨンで描いたというよりは、手というプリンターを使い写していました。(p289)

わたしは、頭の中にそんな鮮明な映像が浮かぶことはありません。視覚優位の人は、さぞ絵を描くときにイメージがありありと浮かぶのだろうなと思うわけです。

わたしは頭の中にぼんやりとした映像しかありませんから、絵を描くときは必死になって参考画像を見たり、何度も描き直したりして、一から作っていかなければなりません。

絵を描く者として、最初はこのことを残念に思っていましたが、今ではそれもいいかな、と思っています。絵を描いて、形にしたときの達成感がとても大きく感じられるからです。形にならなかったものを形にできたという達成感です。

それに、視覚優位であれ、聴覚優位であれ、何も練習しないのに、何か絵が描けるというわけではありません。結局のところ、練習して自分の特性を伸ばすしかないのです。

そう思うと、ないものねだりをして、自分には描けない絵、つまり認知特性が違う人が描いた絵を羨ましく思うのではなくて、自分の認知特性を信じて、自分の描ける絵をのびのびと描いていけばいい、と思えるようになりました。

人間は、ひとりひとり認知特性が違うからこそ、豊かな個性が生まれるのです。そして自分の個性を愛することで、創造する喜びを味わうことができるのです。

結びに、どの感覚が優位か、という点と、芸術的才能との関係について、ミハイ・チクセントミハイがクリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学の中で述べている次の言葉を心に留めておくのは有益だと感じます。

創造性を促進する第一の特質は、おそらく、ある特定の領域に対する遺伝的素因であろう。

色彩や光により敏感な神経系をもつ人が画家になる有利さを持ち合わせていることや、絶対音感を持って生まれた人が音楽の才能を発揮することは、道理にかなっている。

そして、それぞれの領域で優れていれば、音や色により深い興味を持ち、それらについてより多くを学んでいくだろう。したがって、彼らは音楽あるいは芸術の領域をきわめて容易に変革できる立場にある。

その一方で、感覚の優位性は必ずしも不可欠なものではない。

エル・グレコは視神経の疾患に苦しんでいたようであり、ベートーヴェンはもっとも優れた作品のいくつかを作曲した当時、機能的に耳が不自由であった。

偉大な科学者の多くは、幼少期に数学や実験に引きつけられていたようだが、最終的にどれほど創造的になったかということと、子どもとしてどれほど才能にあふれていたのか、ということはほとんど関係がない。(p59)

▼線で描く絵と面で描く絵
線で描くか、面で描くか、というのは個人の認知特性だけでなく文化によっても影響されてきたようです。

線で描くか面で描くか―輪郭線と脳科学
絵を描くときの輪郭線に関する脳科学の見解

▼リアルな写実
視覚優位の人がリアルな写実画に向いている理由についてはこちらをご覧ください。

写実画と記号絵の違い―なぜリアルな絵は難しいのか
リアルな写実画を描くのが難しい理由

 ▼自閉症・アスペルガー症候群の絵
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