カラーか白黒か―絵を描くときの彩度の問題


前回の記事で、線で描くか面で描くか、といった輪郭線の問題を扱いましたが、同じ本芸術と脳: 絵画と文学、時間と空間の脳科学 (阪大リーブル)の15章に、カラーか白黒か、つまり絵の彩度という点も、少し解説されていました。

文化による彩度の違い

少し日本と海外の芸術を見ただけでも、その派手さに違いがあることが窺えます。

日本では水墨画をはじめとした、侘び寂びの文化があり、派手さを排して、彩度の低い、単調で奥深い世界を楽しむ傾向があります。

他方、海外の芸術には、彩度の高いものが多く、原色をふんだんに使った、目がチカチカするようなものさえ見られます。アメリカで売られているお菓子も、ものすごい色をしていたりします。

これにはどちらも、それなりの利点があるようです。

色鮮やかな絵は、人間の複雑な色覚に訴えかけ、多量の情報を伝えます。さまざまな刺激が入ってくるので見た人はすぐさま感動を覚えます。

他方、モノトーンに近い絵は、白黒のコントラストやグラデーションによって情報を伝えます。脳はコントラストのある場所に鋭敏な検出力を持っているので、十分に芸術として認識できますが、派手さはないので、脳に負担がかかりません

脳のより多くの領域をアクティブで創造的な鑑賞に当てることができるので、ぱっと見の感動は薄いものの、見る人は徐々に深みのある感動を覚えます。これが侘び寂びと呼ばれているものの正体だと思います。

しかし侘び寂びを表現するのはなかなか難しく、素人がただ彩度を抑えた絵を描いても、単にパンチのない主張に乏しい絵になってしまうのが難しいところです。

色のコントラストで主題を目立たせる

輪郭線を描くかどうか、という問題と同じく、この場合も、両者の組み合わせを試す画家がいます。

たとえばアメリカのアンドリュー・ワイエスは、絵の中の主題となる部分をカラー豊かにして目立たせ、背景のあまり大事でない部分は彩度を落とすことがありました。

これにより、色のコントラスト、明るさのコントラストが生まれ、目立たせたい部分を目立たせることができるのです。

この方法に倣って、主題を強調したい絵を描くときは、主題部分の彩度を上げ、背景部分の彩度を下げるという描き方が効果的です。

ワイエスの絵というとたとえばポリオ後遺症の女性を描いた「クリスティーナの世界」が有名ですね。最近の研究によると、実はポリオではない別の遺伝性の病気早発型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)だったとも言われています。

▼アンドリュー・ワイエスの絵 (クリックで画像検索)

Andrew Wyeth

17世紀の画家レンブラント・ハルメンス・ファン・レインは、ピンホールカメラで撮ったような、絵の中心のみ彩度が高く、四隅が暗くなっている表現で有名です。ちょうど中央にスポットライトが当たっているような表現で、カメラにおける口径食(ケラレ)とも似ています。これもまた、中心の主題を目立たせ、周囲の風景から浮き立たせる効果を狙っていたのでしょう。

当時、ピンホールカメラに似た光学装置のカメラ・オブスクラが絵画に用いられたとも言われており、特に同時代の画家フェルメールが活用したと述べる専門家もいるようです。

▼レンブラントの絵 (クリックで画像検索)

Rembrandt Harmensz. van Rijn

フォトレタッチソフトを活用する

わたしの場合は、やはり、色鮮やかな絵は、気に入ってもらいやすい気もするので、全体を色鮮やかに描いてしまうことが多く、まだまだ課題が残ります。

とはいえ、色のコントラストは絵を描く上で興味深く、過去には以下のような絵も描きました。

 

これは極端な場合ですが、絵の一部をカラー、一部をモノクロにすることで、メッセージを込めようとしています。

この絵の場合は、制作段階から、カラーとモノクロで描きましたが、今なら、彩度の調整はGIMPなど無料のフォトレタッチソフトで簡単にできるので、描きあがったあとにでも、自由に自分の好みに合わせることができます。

画面全体の彩度を調整して、彩度を抑えめにしたり、あるいは、色鮮やかな絵に変えたりできます。以前は彩度を落として、認知の負担を減らした絵にするのが好きでした。

また、アンドリュー・ワイエスのような画家に倣って、絵の一部分だけ彩度を下げることもできます。この手の手法は、絵を描きながら意識するのは、なかなか難しいので、描いたあとに調整できるのは重宝します。

よく使う手法は、背景の部分だけ、白のブラシで薄く塗っていって、彩度を落とす方法です。人物と背景が同じ彩度になってしまった場合、こうやって背景を薄くするだけでも、空気感や遠近感がでるものです。

あるいは、レイヤーで分けて描いているなら、背景のレイヤーだけ彩度と明るさを調整すればいいので、もっと簡単になります。

ソフトによっては、ブラシを使って、塗った部分の彩度を上げたり下げたりもできます。

一般に、遠くにあるものほど彩度を控えめに描くという手法は空気遠近法と呼ばれます。手前にあるものほど暖色系で色鮮やかに、遠くのものほど寒色系で彩度を控えめに描くのがポイントです。

わたしの絵でいうと、以下のような絵は、色のコントラストを用いています。

 

手前のくじらは色鮮やかに、遠くの風景は彩度を抑えめにすることで、遠近感を出しているつもりです。

色のコントラストを使いこなすのは難しく、わたしもなかなか活用できていませんが、フォトレタッチソフトで簡単に調整できるのは現代の利点なので、いろいろ試してみるといいと思います。

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