線で描くか面で描くか―輪郭線と脳科学


昨年から、絵を描くときで描くか、で描くかにずっと悩んできました。これは言い換えると、イラストのように輪郭を描くか、厚塗りのように面で描くかという問題です。

今のところ混合で描くといった結論に落ち着きつつあるのですが、それを脳科学の観点から説明した簡単な資料が芸術と脳: 絵画と文学、時間と空間の脳科学 (阪大リーブル)のp315-317にあったので、紹介したいと思います。

線で描く、面で描くとは

線で描く、面で描く、というのは、イラストを描く人ならピンと来るかもしれませんが、あまり日常的な話ではないので解説しておきます。

まず、わたしは最初、絵心教室で絵を学んだこともあり、面で描くことが多くありました。

以下に挙げる絵は、ほとんど面で描いています。写実的で、立体感のある厚みのある絵であることが分かると思います。

面で描く絵とは、すなわち輪郭を描かない絵でもあります。色を塗り重ねて物体の形や質感を表現するので、厚塗り(インパスト)と呼ばれることもあります。

 それに対して、最近描いたこちらの絵は、線で描いています。自由さが上がりましたが、立体感はほとんどありません。

輪郭を描くことですべてのものを表現しているので、マンガ的、イラスト的といえるかもしれません。

どちらがいいかは人それぞれだと思いますが、わたしの力量からすると、線で描くほうが得意です。

面で描く方法は、写実的であるがゆえに、見本がないとなかなかうまく描くことができません。対して線で描く方法は、思いついたものを簡単に表現できます。

しかし、どちらの見栄えが好きか、というと、正直なところ、面で描いた絵のほうが好みなのです。すべて線で描くと、奥行きが損なわれてしまいます。

脳科学から見た線と面

この線で描くか、面で描くか、という問題は、脳科学の観点からも分別することができます。

まず、線で描くというのは、脳のV1野という場所に関係しています。

V1野(一次視覚野)は、後頭葉にあり、大脳皮質の視覚情報の入り口です。特に物体の境界となる線の位置、傾き、太さ、動き、奥行きなどのさまざまな要素を分析し、より高次の視覚野に出力します。

これに対し、面で描くことは、脳のIT野という場所と関係しています。

IT野(下側頭葉)は、側頭葉にあり、大脳皮質の視覚情報の最終ステージです。特に質感のある面の組み合わせで作られる形など、統合された物体の情報を処理します。

そのようなわけで、線で描いた絵は、視覚情報の入り口に強く訴えかけ、面で描いた絵は、最終ステージに強く訴えかけます。

実際には、上に挙げたような作品は、線と面両方の要素を含むので、どちらか一方に訴えかけるわけではありません。しかし、線と面どちらの要素が強いかによって、脳の活性化する場所が異なると見て差し支えないでしょう。

日本絵画と西洋絵画

線で描く、面で描くというのは、今でこそどちらの描き方も頻繁に見かけますが、それぞれ、別の地域で発展してきた作風です。

線で描くのは、おもに日本絵画に由来するそうです。日本絵画は輪郭線が、表現の中心であり、浮世絵はその最たるものです。

線で描くことが絵の中心であった日本で、マンガやアニメなどの文化が発展したのも、当然といえるでしょう。日本人にとって馴染みのある画風なのです。

日本では、輪郭線を描かない画風は、あえて没線画法(もつせんがほう)と呼ばれて区別されていたくらいです。

一方、面で描く方法は、西洋絵画に由来します。西洋絵画の多くは、輪郭線を描かず、厚みのある絵の具を立体的に塗り重ねて質感を表現するインパストで描かれています。

日本の浮世絵が、アニメチックな人物表現をしているのに対し、西洋の肖像画は、リアルで精密な人物画です。

カルチャーショック

このように、日本絵画と西洋絵画は、線と面という決定的な作風の違いがありました。しかもそれは前述のように脳の異なる場所を刺激するので、お互いが出会ったとき、双方にカルチャーショックをもたらしました。

フィンセント・ファン・ゴッホなど西洋の後期印象派の画家は浮世絵に強い刺激を受けました。逆に、横山大観菱田春草は、西洋絵画のような輪郭線の無い絵を描き始めました。

どちらの場合も、それぞれ周囲に認められるまでは時間を要しましたが、こうしたカルチャーショックを経て、今の多様な表現があるのです。

▼ゴッホの絵 (クリックで画像検索)

gogh

▼横山大観の絵 (クリックで画像検索)

横山大観

▼菱田春草の絵 (クリックで画像検索)

菱田春草

組み合わせて描く

わたしの場合、どちらで描くかは、かなり悩んだのですが、どちらにも良い点があると考え、両者の組み合わせを意識しています。

今のとこしっくり来ているのは以下に挙げる絵のように、手前の人物は線で描き、奥の背景は面で描く手法です。

 

これによって、人物と背景を区別し、奥行きを出すことができます。

他の人の絵を見てみても、この手法を取り入れている絵はときどき目にします。

3DSの立体視を取り入れたゲームでも、人物は2Dの立ち絵で手前に配置されていて、背景は3Dの立体ポリゴンで奥に配置されているというような表現がありますが、それに似ています。

少なくとも、すべて線で描く絵は、限界があるように感じました。他方、すべて面で描く絵は、わたしの力量的に困難です。

まだまだ試行錯誤中であり、今後どうなるかは分かりませんが、ちょうどゴッホや横山大観のように、新しい技術を積極的に取り入れて、さまざまな方法にチャレンジしてみたいと思います。

▼視覚優位と聴覚優位

線で描くか面で描くか、という問題には、個人の脳の生まれつきの特性である、視覚優位か聴覚優位かという点も関係しているようです。

絵に表れる視覚優位と聴覚優位の特徴―色と線の見え方
生まれつきの脳の認知特性が絵の描き方にも関わっているという話
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