絵を描くアイデアを見つけるのはなかなか大変です。独創的なアイデアを見つけるには努力が必要ですし、せっかく思いついたアイデアを忘れてしまうこともあります。また、自分の画力に見合ったアイデアがなかなか見つからないこともあります。
そこで、いろいろな発想法について調べてみて、世界で最もクリエイティブな国デンマークに学ぶ 発想力の鍛え方という本を読んだので、アイデア探しの助けになる5つのヒントをまとめてみました。
1.メモを持ち歩く
ピーターは、自分が利用しているテクニックを一つ教えてくれた。彼は、おもしろいアイデアを書き留めたメモを集めている。いつでもどこでも、アイデアを思いつくと、それを書き留める。そのアイデアが、当面の仕事とはまったく関係なくてもである。
すると、おかしなアイデアを書き留めた一枚の紙片が、ある日突然、新製品のヒントをもたらしてくれるのだ。(p25-26)
とにかくメモを持ち歩くことがアイデアを集める第一歩だと言う人は大勢います。ピカソもメモ帳を持ち歩きましたし、ニュートンもメモ魔でした。
心理学者ミハイ・チクセントミハイも、クリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学の中で、詩人たちが着想を日々書き留めていることに触れています。
アンソニー・ヘクトや、ゲオルク・ファルディ、ヒルデ・ドミンのような詩人たちは、日々の印象や出来事、そして特に感情を、索引カードやノートに書き留める。これらの蓄積された経験が、作品が発展していく原材料になるのである。(p95)
最近話題になったUSJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?によると、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの新アトラクションは、夢で見たことをすぐさまメモすることによって生まれました。
アイデアは思いついてすぐメモしないとすぐにどこかへ飛び去ってしまうので、メモ帳を持ち歩かないことは大きな損失になるのです。
2.クリエイティブな環境に身を置く
次なる創造性の秘訣として、世界で最もクリエイティブな国デンマークに学ぶ 発想力の鍛え方では、今しがた名前が登場した心理学者ミハイ・チクセントミハイの見解に触れつつ、こう書かれています。
チクセントミハイもまた、“クリエイティブな場所”というものが存在すると述べている。チクセントミ ハイはクリエイティビティを関係概念として理解している。やや専門的な言い方になるが、クリエイティビティを、個人の心理内的性質としてではなく、人、分 野、場所相互の関係に基づくものととらえているのだ。(p58)
アイデアを多く得るためには、クリエイティブな環境に身を置くことが大切です。常に、多くの刺激が得られる空間を用意し、密接に関わる必要があるのです。
そのための一つの方法は、クリエイティブな都市に住むということです。たとえば、1400年ごろのフィレンツェには、メディチ家を中心に莫大なお金が流通し、芸術家や作家が大勢生まれ、ルネサンスにつながりました。
現代では、たとえば日本の東京がクリエイティブな都市として知られています。
アドビ社は最近、世界各国の成人5000人にインタビューし、クリエイティビティの世界的動向に関する調査をおこなった。
その結果、クリエイティブな国の第一位に日本が、クリエイティブな都市の第一位に東京が選ばれた。(p9)
こうしたクリエイティブな都市に住むなら、アイデアを得る機会も多くなるでしょう。
Adobe – アドビ システムズ、“クリエイティビティ”に関する世界的な意識調査を実施
それに加えて、クリエイティブな人と相互交流することも大切です。人は、一人で多くのアイデアを思いつくわけではありません。
「ソロのアーティストを気の毒に思うよ。私の場合、何を作るにしても、誰かと一緒に作業をする。そのほうが創造プロセスが豊かになるからね。一足す一が四になる」(p105)
アイデアを得るには、クリエイティブな人同士で集まり、刺激を受け合うことが大切なのです。
幸い、現代のグローバル社会では、このようなクリエイティブな環境をネット上で築くことも可能です。
「インスピレーションを得るために、まずはインターネットでさまざまな情報に目を通します。忙しくなければ、まる一日インターネットを見ていることもあります。
話題になっているウェブサイトを開いて、世の中のことや新しいトレンドについて情報を集めるんです。アート、音楽、娯楽、今日の一言、ブログなど、自分がどこへ向かっているかを考えずに、興味のおもむくままウェブサイトをあちこち見て回ります」 (p274)
インターネットをうまく用いて、感性を刺激する情報を集める手段を確立しておけば、アイデアを得る機会が増えるでしょう。具体的には、好きなクリエーターのSNSをフォローすることができます。
3.脳を休ませる
アインシュタインは、ひげをそっている時に偉大な理論にたどり着いた。ピカソはバスタブに浸かっている時にキュビズムを考えだした。すなわち、日々の仕事の間のわずかな休憩時間が、創造プロセスの重要な要素なのである。(p44)
ちょっとした休息の時間には、脳は自動的に情報を整理する状態になっています。このようなぼんやりとしているときの脳の働きは、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれます。
デフォルト・モード・ネットワークの状態では、連想が自由に起きています。通常ならアイデアをチェックする常識的な機能が休んでいるため、突拍子もないアイデアが生まれやすくなります。
意識してデフォルト・モード・ネットワークの状態になるには、ぼんやりとできる活動を予定に組み込むことができます。その一つは、たとえばお風呂にはいることです。
ケネトは、頭をすっきりさせるため、一日に三回風呂に入ることもある。冬に屋外プールで泳ぐのも好きなのだそうだ。
…あまりに過剰な自意識は、ゆったりとした思考を抑制する。時には自分を忘れることがクリエイティビティのコツなのだ。(p120-121)
風呂に入っているときは、だれでもリラックスして、無心になれます。そのとき、脳はぼんやりと連想を働かせる状態になるため、アイデアをよく思いつくのです。
二つ目は、散歩に行くことも役立つといいます。
ルソーの著作を見ると、散歩をしている時にだけ瞑想(哲学的な思索)ができるとある。散歩をやめるとその途端に思索も止まってしまうらしい。「私の心は、足と一緒でなければ動かない」とも記されている。(p125)
散歩するときもやはり、脳がリラックスするので、自由連想が働きやすくなります。デンマークの哲学者キルケゴールも、インスピレーションを求めてコペンハーゲン中を頻繁に散歩しました。
そして、さらにもうひとつ、脳を休める重要な方法が、テレビなどの電子機器を消すということです。
ソレンによれば、クリエイティビティにたどり着くには、退屈するのがいちばんだという。「私は子供のころ、あり余るほど退屈な時間を過ごしてきた。テレビ、パソコン、電子機器の前に子供を置いてはいけない」(p104)
これは一見、先に取り上げた、インターネットで多くの情報に触れる、という点と矛盾しているように感じられます。確かに、多様な情報に接することは、発想を豊かにします。
しかしインプットの時間ばかり取って、アウトプットのための用意をしなしなら、いつまでも情報がアイデアに変化することはありません。この場合アウトプットに必要なのは、電子機器を切る時間を設ける、ということなのです。
クリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学の中で、心理学者ミハイ・チクセントミハイも、次のように書いています。
一般の人々が、一日のうち数回、無作為にポケットベルの合図を受信し、どれほど創造的であると感じているかを評価するよう求められると、散歩や運転の最中、あるいは水泳の最中にもっとも高い創造性のレベルにあると報告する傾向にある。
言い換えれば、それは、意識的志向性の閾下で、アイデアどうしの結合が起こるように注意のある部分を自由にさせておき、その一方で、ある程度の注意を必要とする半自動的活動に従事するときである。
つまり、注意のすべてを一つの問題に注ぐことが創造的思考を行うための最良のレシピであるとは限らないのである。(p156)
情報収集をする時間と、その情報を整理してアイデアに変換する時間の両方をバランスよく取り分けるなら、豊かなアイデアにつながるでしょう。
このように、いろいろな手段によって、脳の休息状態を意識的に作り出すことにより、アイデアをたくさん得ることができます。
4.ちょっとしたきっかけを作る
改めて、世界で最もクリエイティブな国デンマークに学ぶ 発想力の鍛え方に戻って、創造性に役立つ次の点を見てみましょう。
文章を終わりまで書かないでおくことは、ブレイクスルーの一つのテクニックとなる。アンドレアス・ゴルダーは時々、キャンバス全体を横切る線を描いてから制作を始める。ヤーアンも一語あるいは数行の文章から始める。それがきっかけになるのである。(p127)
なかなかアイデアが思い浮かばないときは、ツァイガルニク(ゼイガルニーク)効果を利用することができます。人間は中途半端に終わったものが印象に残るという効果です。
はじめのほんのとっかかりだけでも描くことができれば、脳は中途半端に終わらせるのをよしとしないため、その続きを考え出そうとすることでしょう。何かきっかけがあれば、その続きを作るためのアイデアが出てきやすくなるのです。
きっかけをつくる手段のひとつが、ほかの作品をインスピレーションのきっかけとして借用することです。
「私はほかの作品を、インスピレーションの直接の源として利用する。ほかの作品を作り変えることもあれば、ほかの作品にお粗末な偽装を施して自分の作品に挿入することもある」(p128)
自分の過去の作品のリメイクや、お気に入りの作家の作品のオマージュなど、すでにある作品をきっかけとして、何か新しい作品を生み出すのです。すでにある作品から連想するとき、アイデアは生まれやすくなります。
心理学者のユングが提唱した「シンクロニティ」という概念を利用することもできます。これは一見関係のないできごとの間に意味が生まれる現象です。ある趣味をはじめたら、今までまったく目につかなかったのに突然身の回りに同じ趣味の人が多くなったというようなものです。
シンクロニティを利用すれば、ありふれたできごとをきっかけにアイデアを得ることができます。たとえばポケットにアイデアを得たい分野に関係した写真を入れておけば、日常のあらゆることと、その写真とが結びつく機会が増えます。(p266)
また、このブログで以前取り上げたように、「しみ」や「なぐり書き」をきっかけに想像力を働かせ、アイデアを思いつくという方法もあります。
さらに、アイデアにあらかじめ「枠」という制限をかける方法もあります。
ビャルケによれば、客から「好きなようにやってください」と言われるのがいちばん困るという。物事には従うべき制限がなくてはならない。創造プロセスには、自由にやらせてもらうことと厳しく制限されること、その両方が必要なのだ。 (p244)
枠を作る、とは、何かのコンセプトや、テーマを決めてしまうということです。そしてそのテーマの枠ぎりぎりのところで考えれば、いいアイデアが浮かぶといいます。
Minecraftがあれほど人気を博しているのも、デジタル空間と限られたツールという制限の枠がありながらも、その中でのびのびと作れる自由が保証されていることにあるのかもしれません
5.自由な発想を刺激する
クリエイティビティを高めるにはさまざまな方法がある。ここではマインドマップなどを利用したブレインストーミングとブレインライティングに注目してみよう。
「千人いれば、千の道」という禅僧の言葉がある。まさにそのとおりで、物事をおこなうにはさまざまな方法がある。(p275)
自由な発想を刺激し、文字通り千通りもの発想を可能にするのはマインドマップやブレインライティングといったツールです。
マインドマップは、ネット上でかき方を解説したサイトがいくらでもあるので、ここでは省きますが、わたしも愛用しているツールです。箇条書きよりもはるかに多くのアイデアを連想することができ、思考を刺激するきっかけとして役立ちます。
またブレインライティングは、ブレインストーミングを紙に書くように改良した発想法です。集団のブレインストーミングでは、声の大きい人のアイデアが優先され、なかなか発言しにくい雰囲気があります。
しかしブレインライティングは、各々がアイデアを紙に書いて持ち寄るので、発言のしやすさによる格差がありません。結果としてより多くのアイデアが集まります。
マインドマップにしてもブレインライティングにしても、大切なのは、アイデアを選別しないことです。アイデアの良し悪しを考えず、とにかく多くの発想を得ることを重視するのです。
良いアイデアを得るには
ここまで、アイデアを得る方法として
1.メモ帳を持ち歩く
2.クリエイティブな環境に身を置く
3.脳を休ませる
4.ちょっとしたきっかけを作る
5.自由な発想を刺激する
という5つの点を考えてきました。どれを活用するにしても、アイデアは多すぎて困るということはありません。ノーベル賞科学者のライナス・ボーリングはこう述べたと言われています。
よいアイデアを得る最良の方法はたくさんのアイデアを考えることである。(p245)
アイデアを多く出せば出すほど、質の高いアイデアに恵まれる可能性も高くなるのです。ぜひこれら5つの方法を試して、自分に合ったアイデア出しの方法を探してみてください。