せっかく北海道に引っ越してきたからには、流氷を見に行きたい、ということで、紋別までガリンコ号に乗りに行ってきました。
わたしが住んでいるのは、内陸のほうですが、数時間ほどでオホーツク海まで出られるのでそこそこ近いです。自家用車で行くのは、雪道一年生にはちょっと辛い距離ですが、北海道はバスが充実しているので、時間さえ余裕を持てば、どこにでも行けます。。
ガリンコ号に乗るには、公式サイトを見て、電話で予約。その日の流氷状況も調べることができます。この日は、朝一番の運行の時点では「流氷あり」でしたから、たぶん大丈夫だと思って行ってみたんですが…。
残念ながら、第二便以降はぜんぶ「流氷なし」。同じ北海道に住んでいて日帰り旅行なので、また日を改めて出直してくることもできましたが、せっかく紋別まで出てきたので、「流氷なし」のガリンコ号にも乗ってみることにしました。
今回の記事はそんなオホーツク海への旅日記です。
初めて見た北海道の海
朝早く家を出て紋別へ向かう路線バスへ。今年は暖冬で雪が少ないと言っても、さすがに早朝はそこそこ冷え込みます。
路線バスは、けっこうな距離を乗ることになるので、乗り放題パスポートを買ったほうがお得でした。
道中は、高速道路や市街地ではなく、変化に富む山や森のあいだの道路を通るので、道中の雪景色がとてもきれいです。真っ白な雪原や雪山、ときには樹氷の林など
途中で点在する町に停車しますが、北海道の市町村はそれぞれが独自路線で町おこししているので、なかなか個性豊かです。たとえば西興部村なんかは公共施設の色や名前が統一されていて、村全体がメルヘンな印象でした。
しばらく走っていると、ふと景色が開けて、白く降り積もった雪原の向こうに、鈍く光を反射して輝く藍色の景色が見えてきました。
海です! たぶん、北海道に来て、はじめて見た海。以前見に行った沖縄の透明なエメラルドの海とはまったく好対照で、深い藍色で重々しくて、いかにも寒そうな冬の海でした。この日は曇っていたこともあって、いやが上にも寒そうに見えます。
通り過ぎたバス停には、なんと「海水浴場」も!
本当にここ、夏になると泳げるんでしょうか?(笑) 冬景色だけ見ていると、「海の家」が永久に閉ざされていそうな雰囲気です。
「海水浴場の利用は終了しました」。なんだろう、すごい説得力です。きっと夏は景色ががらりと砂浜のビーチに変化して、青い海が気持ちいいんでしょうね。
途中、紋別バスターミナルで、冬期運行のシャトルバス「ガリヤ号」に乗り換えて、ガリンコ号乗り場へ向かいます。
紋別バスターミナルでは、「氷紋の駅」という道の駅や温泉、さらには雪像やこんなジュークボックス?も。
どんな曲なのか気になったけど、乗り換えで時間がなかったので、あとでインターネットで探して聞いてみました(笑) 今ではあまり耳にしない、どことなく郷愁を感じさせるノスタルジックな音楽ですね。
ガリヤ号でガリンコ号乗り場に着くと、さすが観光地、各地からの旅行者でごった返していました。札幌からはるばる来ているバスも。5,6時間はかかりそうです。外国人観光客も多く、あちこちで耳慣れない言葉が飛び交っていました。
ガリンコ号乗り場のわきには、こんな立派な氷のお城が!
なぜか北海道なのに、熊本城らしいのですが(笑) 後で調べてみたら、先日のもんべつ流氷まつりのときに、自衛隊によって復興をテーマに作られたんだそうです。
北海道のお祭りというと、さっぽろ雪まつりが有名ですが、各地でさまざまなお祭りが開かれています。札幌や旭川は雪像なのに対し、紋別の彫像は氷のブロックを積んで作られているんですね。「氷灯りの街もんべつ」の名前どおり、氷をメインにしている個性が感じられました。
オホーツク海は、わたしが住んでいる内陸に比べて風が強いだろうと予想していましたが、ガリンコ号乗り場付近は、それほど体感気温は低く感じられませんでした。
それでも、足元はというと、風のせいか凍っている場所も多くて、歩くのは気を使いました。凍っているとスノーシューズを履いていても滑ります。ふだんは滑らない雪の中ばかり歩いているので、こういう場所は気をつけないといけません。
「とっかりセンター」であざらしと触れ合う
ガリンコ号乗り場に着いてみると、前の便がちょうど帰ってくるところでした。残念ながら「流氷なし」運行だったようです。
その次の、わたしたちが予約していた回も、「流氷なし」がすでに決まっていました。
でも、一縷の望みをかけて、もしかすると「流氷あり」に戻るかもしれないと思って、次の便に予約を変更できないか聞いてみたところ、快く変えてくれました。帰りのバスの時間を考えると、それ以上の変更はできません。
後になってわかったところでは、この日は最初の便以外はすべて「流氷なし」だったので、結局、どの時間に変えても同じだったんですけどね。残念。
予約を変更したことで、次の便まで1時間以上の時間ができたので、ガリンコ号乗り場のすぐ向かいにある、「オホーツクとっかりセンター」に行ってみました。
「とっかり」とはアイヌ語でアザラシのこと。とっかりセンターでは、怪我をして近くの港に漂着するなど、弱ったアザラシを見つけて保護しているそうです。
わたしは野生動物を閉じ込めて見世物にする水族館や動物園があまり好きではないんですが、とっかりセンターみたいな自然界では淘汰されてしまう個体を保護して飼育する施設は、いいコンセプトだな、と思います。
入館料は大人200円ほど。小さな施設なので、見学できる場所は少ないですが、一日5回ほどある餌やりタイムがおもしろい。ちょうど入ってすぐの時間だったのので、凍った床で滑らないよう気をつけながら急いで見に行きました。
この餌やりタイムでは、飼育員さんの解説を聞きながら、なんと、柵もガラス壁もなしに、間近でアザラシたちを見て、背中をなでなでできます!
入り口で手を消毒し、アザラシたちの健康に配慮してから、びっくりさせないように後ろから背中をなでる。背中以外はNG。
本当は野性のアザラシたちは、体に触られるのを嫌がりますが、ここのアザラシたちは訓練されて背中だけなら我慢できるのだとか。保護ザラシも生活費のために頑張ってるんですね…(笑)
背中を触ってみた感触は…思ったよりも暖かくて、固太りしていて、ちょっとヌメッとしていて、短毛種のネコをなでているような感触でした。
だけど、この外国人旅行客が多い観光地で、アザラシたちをじかに触ってもらえるイベントを管理するのはけっこう大変そう。
飼育員の方たちは「ここから注意事項なのでしっかり通訳してください!」と声を張り上げたり、アザラシの前に回り込もうとする人をかなりの迫力のジェスチャーや語気で静止したりしていました。言葉が通じないからか、大変そうなお仕事です。
施設内には、アザラシのQ&Aや手書きの解説資料がたくさん貼ってあって勉強になります。アザラシってネコ目なんですって。飼育員さんの横でゴロゴロしてるアザラシちゃんたちは確かにネコだなーって思いました(笑)
それにしても、雪と氷の地方の飼育施設だからか、どのアザラシも、都会の水族館よりはるかに生き生きとしているように見えました。
もちろん大自然の中を自由に泳ぎ回るほうがいいんだろうけど、自然淘汰で死を待つばかりだったアザラシたちにとって、ここはなかなかいい住み家なのかもしれません。
流氷科学センターの厳寒体験室に潜入
まだ時間があったので、続いて、徒歩10分ほどの流氷科学センターへ。歩いてみると、そこそこ距離がある感じ。
スノーシューズを履いてきているわたしたちはともかく、普通の観光客には雪道の10分は遠いですね。行ってみるとお客さんは全然いなかった。
展示はいろいろとありますが、最初に見て回った常設展示は、だいぶ老朽化していて、ひと昔前の科学館という感じ。勉強にはなりますが、そんなに楽しいものでもない。
ガリンコ号にも採用されているアルキメデスが開発した単純な原理で水を汲み上げるアルキメディアン・スクリューとか、オホーツク海が上下二層構造になっているおかげで池のように表面が凍って流氷になるといった体験展示は面白かったです。
しかし、中でも圧巻は、この「厳寒体験室」。
なんと-20℃以下の極寒の展示室です。
…あれ? -20℃って、うちの地元では冬場は日常の光景のような…もっと寒い中でサイクリングしてなかったっけ。
というのはまあ、さておいて、この厳寒体験室の見どころは、単純に寒い部屋、というわけではなくて、厳寒体験室でしか見られない、とんでもない展示をしていることです。それがこれ!
まさかあの昔ながらの科学館の設備の下にこんな超常空間が広がっているなんて!
凍りづけの生き物たちの博物館。ホルマリン漬けなどでの展示はよく見かけますが、凍りづけの展示は初めて見ました。ホルマリン漬けと違って、グロテスクさがなく、恐ろしいほどに美しい…。生きている動物を、そのまま時間を止めて固めたかのよう。
なんだかナルニア国物語の白い魔女の館のようです。おとぎ話の氷の魔女って、いかにもこんな凍りづけの生き物をコレクションしていそう。
部屋の中が-20℃なこともあって、空気が凛と張り詰めて緊張しています。ずっととどまって説明文をじっくり読んでいたら、自分が凍りづけにされて、ここのコレクションに加えられてしまいそうな錯覚に陥ります。そんなファンタジー空間。
こんな氷の楽器の展示も。
木製なら木琴、鉄製なら鉄琴。氷製だから名前は“氷琴”と書かれています。とってもおしゃれで幻想的。
寒さ対策はしっかりして来ているので、もっとじっくり鑑賞したかったのはやまやまでしたが、時間が押していたため、早足で見て回るしかなかったのが残念。
ドームシアターもやっていたようですが、時間が合いませんでした。またこんど来てじっくり見て回りたいな。
「流氷なし」ガリンコ号
さて、そうこうしている間に、ガリンコ号に乗る時間が近づいてきたので引き返しました。残念ながら「流氷なし」だったけれど、流氷なしクルーズはちょっとだけ割引されるし…と強がる。
ただし割引はされても航行時間が短くなるからお得でもない…。それでもまあ、ネットで調べたら、流氷なしでも楽しかったという意見もあったので、それに期待。
ガリンコ号乗り場の列は、乗船時間前からかなり人が並んで混雑していました。でも、船内はたくさん席があるから、わざわざ並んで待っているメリットはなかったです。それに、船内の席はどこに座ろうが窓ガラス越しなので、あまり風景はきれいに見えない。
どちらかというと、乗船後すぐ、みんなが船内に向かうときに、船内ではなく甲板の眺めがいい場所に向かうことのほうが大事かも。今回はそんなに混んでいませんでしたが、混んでいると甲板の前のほうには入れないこともありそう。
流氷にしろ、風景にしろ、船内で見るよりは、外の甲板でじかに眺めたほうが、よっぽど楽しいです。音や風や空気感も含めての流氷ツアー。
一番の問題は、甲板だと直接寒風にあおられるので寒いことですが、それを見越して、ちゃんと準備はしてきました。
ふだんから毎日、氷点下2ケタの屋外をサイクリングしてるわけなので、寒さ対策には抜かりありません。-20℃以下でもサイクリングできる厳寒対策の服装をちゃんと準備してきました。
これで航行時間中、ずっと甲板にいても大丈夫。寒さ対策で大事なのは我慢でも工夫でもなく、ちゃんど防寒着を着るかどうか、それだけです。顔が寒いので、耳あてやフェイスマスクも用意しておきたいところ。
「流氷なし」とのことでしたが、いざ出港してみると…
あれ? 流氷がある?
実は、「流氷あり」「流氷なし」の流氷とは、流氷の本体のことで、港内に流れ込んだ過去の流氷は残っているんですね。だから、一応、気分は味わえます。分厚い氷をガリガリできないから、あくまで気分程度にすぎないんですが。
「流氷なし」でも、少しでも流氷を見せてあげようと、港内の流氷が残っているところに連れて行ってくれます。でも、港の近くをうろうろしているだけなので、クルーズらしい迫力は皆無です。
それでも初めて見る北海道の海や流氷だったので、なかなか美しかった。よくよく見ると、うちの家の裏の池に張る厚い氷とよく似ているんですよね。
池の氷が割れると、ちょうどこの流氷みたいな幾何学的な模様になる。池のスケールをもっと大きくしたらこうなるんだな、と感じました。
ひととおり港内の流氷を見せて回ったら、最後に沖の方にも出てくれましたが、見事に何もなく、ただひたすらに、にび色に照り輝く寒そうな海が続いていました。冬の海に出ていく漁師の過酷さが味わえる風景です。
面白かったのは、港内を遊覧中に、埠頭にワシが留まっていたこと。流氷にワシは映えます。
乗組員の方はオオワシだと言っていましたが、たぶんオジロワシですよね。
二羽で並んでこっちをちらちら眺めていて、まるで、わたしたちのクルーズを不思議に思っているのようでした。なんであっちの流氷本体見に行かずに、こんなところぐるぐるしてるんだろうねって(笑)
ほかにも、あちこちに、ウミネコとおぼしきカモメ類の鳥が飛んでいました。もしかするとオオセグロカモメとか別の種類かもしれませんが、経験値不足のわたしにはわかりません。
少し沖の方までクルーズしたとき、一匹のウミネコ?が船の上にずっと留まっていました。
わたしたちと一緒にしばらくクルーズを楽しんでから、おもむろに飛び立ち、甲板から手がとどくほどの近距離を滑空。港に帰ってくるまでずっと、船に並走して飛んでくれました。なんだろう、船の乗客に餌をもらったりするのかな。
「流氷なし」の沖に出て帰ってきて心なしかがっかりしているところに、ウミネコの滑空を間近で見ることができ、思わず乗客も目を見張って喜んでいました。港につくと、船から離れて、どこかへ飛び去っていきました。
次回は2年後? それとも…?
航行中、ずっと甲板の上にいましたが、不思議なことに、沖のほうに出ているときはそれほど寒くなく、港内にいるときが一番冷え込みました。港のそばのほうが風が強いのだろうか。
沖のほうから戻ってくるとき、雪に覆われた紋別の港の全景が見えましたが、その風景はなかなかに美しかった。それだけでも流氷のない沖まで出た甲斐がありました。
冬の海に出ていく漁師たちは、この風景を見て、家族の待つ暖かい我が家に帰ってきた、と感じてほっとするんでしょうね。
港が近づくにつれ、魚臭い潮風が漂ってきます。港内に帰ってくると、また流氷が少し見られましたが、やっぱり流氷本体のほうを見たかったな、という気も。
流氷がなくて残念がる乗客たちに、乗組員の方は、「33年にまた見に来てください」とのこと。33年? なんのこと? と思ったら、平成33年のことなんですね(笑) いやそのころには平成は終わっているから、2021年と言ってくれたほうがよかったかな。
船員さんによると、去年、紋別市が観光事業への投資として、新しいガリンコ号を4億円で建造することを決めたとのこと。新造船は、もっと遠くまで行けるパワーがあるので、今は流氷が遠すぎて見に行けない今日のような日も、見に行けるようになるそうです。
でも、これって素直に喜べることではない。流氷科学センターの資料にも書かれていましたが、流氷が年々減っていて、遠くまで行かないと見られなくなっているのは、気候変動のせい。北海道はまだ大自然が残っているように見えるけれど、人間の環境破壊の影響はすぐ間近まで来ています。
わたしはもっと自然を体験し、自然と調和した暮らしがしたくて北海道に来たけれど、ガリンコ号のツアーは、ちょっとわたしの求めていたものとは違った気がしました。
「流氷なし」の体験だからそう思うのでしょうか。確かに「流氷あり」だったら、もっと違う感想を持っていた可能性はありますが、それ以前に、観光客でごった返している観光事業に組み込まれた自然では、自然との調和をじっくり体験できないように感じました。
2年後に新造船ができたら、きっとものすごい数の人が押し寄せるでしょうから、今回よりもっと人混みに揉まれそうです。紋別という町も、わたしにとってはあまりに都会すぎて、落ち着かない感じでした。
わたしはどちらかというと、このような有名な観光地に来るよりは、もっと落ち着いて静かに自然と触れ合える体験を楽しむのが合っているのかもしれません。
たとえば流氷関係でいうと、ドライスーツを着て、流氷の上を歩いたり、動物たちを観察したりできるネイチャーツアーがあるそう。
たぶんわたしにとっては、大がかりな人工物である砕氷船に大人数で乗って、ガリガリと氷を砕いて回るより、自分の足で氷の上を歩き、肌で自然を感じるこうした体験のほうが合っているんじゃないかな、と思いました。来シーズンの冬はぜひこうした体験に挑戦したいです。
とか言いつつも、二年後、やっぱり気になって新造された砕氷船に乗りに来ちゃうかもなーとも気持ちは揺れ動く。もともと新しいもの好きだし、イベントも好きなので(笑)
帰りのバスに乗って帰途につくころには、もうすっかり暗くなっていました。初めてのオホーツク海から、森の中へと帰ります。意外と近かったので、きっとまた夏にも来ることでしょう。
流氷本体は見られなかったにしても、海を覆う氷の幾何学模様は、なかなかに芸術的でした。
これからも、まだ見ぬ自然の壮大なアートとの出会いを楽しみにして、積極的にいろいろな場所に足を運んでみたいと思います。
▽そして翌年・・・
このとき流氷を見に行って、「流氷とはこの程度のもの」という第一印象を持ってしまいましたが、翌年、改めて見に行ったときの実感はあまりにも違いました。
ガリンコ号には乗らなかったけれど、澄み渡る青空の下、どこまでも続くかのような浜辺に接岸した流氷を見た衝撃は、次元が違いました。
そのときの感想は独立した記事にはまとめていませんが、自然観察日記にて。