記憶、アイデア出し、講義ノート、買い物メモ、備忘録、日記…。使い方はさまざまです。
ではコミュニケーションはどうでしょうか。
マインドマップを家族や友だち、子どもとのコミュニケーションに使うよう勧めている本、ふだん使いのマインドマップ 描くだけで毎日がハッピーになるを読んでみました。
これはどんな本?
この本は、保育士としての勤務経験やコーチングの技術を活かして、ブザン公認マインドマップインストラクターとして活躍しておられる矢嶋美由希さんの著書です。
保育士の経歴を持っておられるだけあって、マインドマップを用いた家族間コミュニケーションの方法について、実例を交えて分かりやすく説明されています。
本書は、いきなりマインドマップのかき方を説明している本ではありません。
まず、トニー・ブザンの生き生きとしたマインドマップ開発秘話から始まり、興味をぐっと引き寄せます。個人的な記憶ノート術として開発されたマインドマップが、これほど世の中に受け入れられ、さまざまな使い方をされているのは、開発者自身も意外だったのです。(p20)
さあいよいよかき方か、と思わせておいて、続くのはマインドマップのメリットとそれを体感しておられる方たちの「ハッピー」な声。上手なイラスト入りではなく、だれでもかけるような「ふだん使いのマインドマップ」がフルカラーでたくさん載っています。
気持ちをしっかり高めておいて、ようやく終盤の5-6章でマインドマップのかき方が丁寧に解説されます。セントラルイメージはセントラルピクチャーはないので「絵」でなくても構いません。(p169) 伸ばす枝は、手の5本の指を広げたようにかいていきます。(p184)
セミナー慣れしておられる方らしく、読み手を退屈にさせない配列と、不安を取り除く丁寧な説明が、とても読みやすいと思いました。
マインドマップをコミュニケーションに使う
この本はマインドマップの入門書としては珍しく、コミュニケーションに使おう! という提案が全体を貫いています。こう書かれています。
可能であれば、ぜひ相手と一緒にマインドマップを描きましょう。ふたりで互いの考えを話しながら描いていくのです。
最初は考え方がまったく違うことに戸惑うかもしれませんが、なぜそう思うのか、その考えの先にある価値観を知れば、納得できるようになるかもしれません。
あるいは、どうしても納得いかなくても、他のところに妥協点を見出したり、自分の中でも譲れるポイントを見つけられたりします。 (p236)
マインドマップを一緒にかくという方法が、とても優れたコミュニケーションツールであるというのはよく聞きます。そのことは「ザ・マインドマップ[ビジネス編]」にも、ブレインストーミングを例として書かれていました。
通常のブレストだと、発言の大きい人が流れを左右してしまい、ストレスが溜まりがちです。しかしマインドマップを使えば、だれの意見も平等に記録されるので、ほんとうの意味でのブレインストーミングになります。
この本で特に際立っているのは、子どもとのコミュニケーションに使えるという声です。
子どもと楽しむマインドマップ
親子の関係においても前述のブレストと同じで、親の意見を押し付けたり、型にはめようとしたりするとうまくいきません。その点、子どもの声をしっかり聞く態度を示すのにマインドマップは役立つといいます。こう書かれています。
ぜひ親子でマインドマップに取り組んでみてください。「親子のコミュニケーションに生かそう」などと難しく考える必要はありません。
子どもが何をして、何を考え、どんなふうに感じたのかを知るための手段のひとつとして、マインドマップを描かせてみればいいと思います。
言うまでもなく押し付けは禁物。子ども自身が積極的に取り組めるテーマを選んで、自由に描かせてあげましょう。 (p41)
マインドマップはとてもカラフルなので子どもは興味を持ちやすいといいます。(p87) 先生が、勉強が苦手な子や落ち着けない子とコミュニケーションするのにも、絵を描いて話を聞いてあげるのがよいそうです。(p96-98)
わたしも小さい子と遊ぶときには、ホワイトボードやスケッチブックを持ってきて、まず絵を描きながらコミュニケーションします。そんなときは自分の絵心のなさを痛感しますが、同じキャンバスに絵をかくだけでも、心が通い合うと思います。
マインドマップはもともと記憶術ですが、子どもが主体的にマインドマップを使うようになってはじめて「勉強にも使えるんじゃない」と言うことができるとあります。まずは親子で楽しむのが一番です。
この本では親子でかいたマインドマップがとてもたくさん出てきます。家族旅のプラン(p77)や、夏休みの計画マインドマップ(p81)、漢字学習(p100)など、さまざまです。
本書に登場される前多先生は、学校でマインドマップを使う方法について電子書籍を書いておられたので、そちらも紹介しておきます。
思考ツールを授業で活用する – 前多昌顕 | ブクログのパブー
気をつけたい点
マインドマップは、相手が子どもであるかどうかに限らずコミュニケーションに用いることができますが、気をつけるべきこともあると思います。
■ 一緒に描く、または説明することが大事
本書には「外見的な要素や挨拶程度の会話よりも、数枚のマインドマップを見たほうが、その人の人柄をより正確に把握できる」とあります。(p30)
しかしマインドマップをコミュニケーションに使うには、落とし穴があって、自分がかいたマインドマップを何の説明もなしに相手に見てもらうのは、かえって溝を広げるかもしれません。
著者は再三再四「一緒に」かくことを強調しているのですが、つい、自分のマインドマップはこんなに分かりやすいのだから、そのまま相手に見せれば伝わるはずだ、と思ってしまうときがあります。
わたしもそれでよく失敗したのですが、あくまでマインドマップは自分の頭の中を「そのまま」写しとるツールだと思います。著者も「そのゴチャゴチャを、ゴチャゴチャのまま視覚化できるのがマインドマップなのです」と述べています。 (p27)
ゴチャゴチャの部屋だからこそどこに何があるかよく分かる、という人がいますが、それはその人の感覚であって、他人から見ればただの汚い部屋です。自分にとって分かりやすいマインドマップでも人から見ると、わけがわからない、ということはよくあります。
マインドマップをコミュニケーションに使いたいなら、1.マインドマップを見せながら説明する、2.一緒に描く、のどちらかの方法が大切だと思いました。
■ 大人は興味をもってくれるとは限らない
この本を読んで、特に難しいと思ったのが、マインドマップをだれかと一緒に描く、というのはすばらしいけれど、どうやってその段階に持っていくのか、ということでした。相手が子どもであれば、こちらがかいていると興味を示してくれますが、大人はそうはいきません。
本書にも、『現に、職場でのマインドマップ使用禁止を言い渡された人もいると耳にしています。「カラーペンで落書きばかりしている」というのが理由のようです』とありました。(p146)
その対策として、職場ではモノトーンでかいたり、ひとりでさりげなく使ったりして、まず周囲の興味を高めてから紹介するのがよいとされています。
わたしの経験からしても、マインドマップを友だちに受け入れてもらうのは、かなりハードルが高いと感じます。あからさまに警戒心を示されるわけではなくても、「またよくわからないことをやってるなぁ…」と、一歩引いた冷たい姿勢を感じます。
この本の特徴は、マインドマップをコミュニケーションに使おう、というメッセージであり、確かにそうしてみたい、と思うのですが、一方で、あまり意気込まずにマイペースに使っていくのがいいかなとも思いました。
どれだけマインドマップに親しんでも、やっぱり箇条書きのほうがいい、という人もいるのです。マインドマップは、わたしにとっては「魔法の杖」ですが、別の人にとっては「棒きれ」かもしれません。
自分の中にいる子どもと対話するツール
この本では、マインドマップを使って自分と対話することも、コミュニケーションのひとつだ、と書かれています。(p228)
過去から未来までの自分を整理した方や、「クリップ」というとなぜか「制服」を連想してしまう思考パターンの謎を探り当てた方の話が面白かったです。(p66,205)
マインドマップを、他の人と折り合いをつけるコミュニケーションツールとして使うのもいいですが、まずは、自分の中にいる子ども、不安を感じ、パニックになり、恐れたり心配したりしている小さな自分をなだめるためにマインドマップを使うのはどうでしょうか。
3.11後の状況の整理のために使ったという2つのエピソードは、マインドマップが心配や不安を鎮める有効なツールであることを証明していると思います。(p52,136)
マインドマップは親子としてコミュニケーションをとるための優れたツールであり、個人としても、自分と会話するための有用な道具でもある。ふだん使いのマインドマップ 描くだけで毎日がハッピーになるはマインドマップのそんな使い方を教えてくれる本でした。