わたしはCFS発症直後から、あるひとつの不快感が気になっていました。便宜上「目の背部の不快感」と表現することが多いのですが、意味を理解してもらえることはまずありません。
本を読んでいるときなどに、眼球の背部をゾワゾワっと触られるような我慢しがたい不快感を感じるのです。その感覚は個人的には「うずうず」が一番近いのですが「むずむず」のほうが分かりやすいかもしれません。
当初からの悩みであったので、発症当時、教えて!gooで質問したこともあります。何のヒントも得られず、眼科に行っても解決しないので、だれにも分からないものだとすっかりあきらめていました。
はじめに断っておきますと、これは解決策のある記事ではありません。CFSにも関係がないかもしれません。しかし悩んでいる人は一定数いるようなので、文章化しておくことに意義があるかもしれないと思って書きました。
目をえぐりだしたいような不快感
わたしはこの悩みをだれかに話して理解してもらえたためしがありませんでしたが、最近インターネットで調べたところ、同じ悩みを抱えている人もいるようです。
以下はわたしの質問ではありませんが、言いたいことは多分同じです。「頭に霧がかかった感覚」と同様、解決策が見つかりにくい微妙な問題なのかもしれません。
運転すると目や眉間がむずむずします : 心や体の悩み : 発言小町 : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
悩んでいる方の発言の意図は確かにわたしと同じです。「共感者がまわりに一切いない」と書いている人もいますが、わたしもそう感じていました。少なくとも、会って話せる人の中には、同じ感覚に悩んでいる人はいないのだと。
ところが、先日、わたしのCFSを診断してくれた先生にそのことをチラッと話したとき、意外な返事が返ってきました。
先生は最初、わたしの訴えをブレイン・フォグ(脳に霧がかかった感覚)の類だと思ったようでした。そちらのほうは訴える人がかなり多く、ドーパミンの問題ではないかと考えられているそうです。確かにわたしもそれはあったのですが、運が良かったのかほぼ回復しました。
気を取り直して目の不快感について具体的に説明すると、先生は思い当たるところがあったようで、ボソッと、「わたしも経験があるかもしれない」と言いました。そして、ためらいながらもご自身の経験について話してくださいました。
話によると、先生は昔、過労死しそうなほど働いていたころがあったそうです。そのころ、本を読もうとして目の焦点を合わせる際に、目をえぐりだして捨てたいような不快感に悩まされていたとのことでした。まさにそれでした。
先生の知り合いの中にも同様の状態を経験している人が2-3人いて、しかしそれらの人はみなある程度年配だ、とのことでした。わたしのように10代から感じている人は知らないそうです。
この不快感の原因について先生は先生なりに答えを持っていました。眼科に行っても不明だったが、細かいところに気づくような目の感度の良さを指摘された、とのことです。だから細かい文字に目の焦点を合わせたとき、ストレスに感じるのだと。
わたしは一応、それは文字が読めなくなる失読症のようなものではないということも確かめました。先生が言うには、そちらのほうは慢性疲労症候群でよく聞くが、目の不快感については聞かないとのことでした。CFSと関係がないか、そもそも言葉にするのが難しいかのどちらかでしょう。
これはいわゆる眼精疲労の一種なのでしょうか。
もしかして眼精疲労?
眼精疲労については、疲労の医学 (からだの科学primary選書2)の「眼の疲労」という章に詳しく書かれています。
眼精疲労(asthenopia)とは、視作業により物がぼやける、眼が痛む、涙が出る、前額部圧迫感、めまい、吐き気などの自覚症状を主体といる症候群です。
ちょっとした視作業でも、容易に作業の持続が困難な眼の疲労を感じます。そして、休息によっても容易に回復しません。したがって治療の対象となります。
これに対して、眼疲労(eye strain あるいはvisual fatigue)とは、眼の疲れの訴えを示す用語であり、病的なものではなく、生理的な回復可能な範囲の疲れを言います。(p83)
眼精疲労には、【1】調節性眼精疲労(遠視の人など)、【2】筋性眼精疲労(斜視の人など)、【3】症候性眼精疲労(眼科的病気による)、【4】不等像性眼精疲労(眼の左右差による)、【5】神経性眼精疲労(眼以外の自律神経などの病気による)の5種類があるそうです。
わたしの場合、遠視や斜視、眼の左右差はありません。【3】の症候性眼精疲労は、この本によると、腱膜性眼瞼下垂による疲労も含むそうです。腱膜性眼瞼下垂は以前テレビでも取り上げられて有名になりましたが、慢性疲労の一因になっている場合があるそうです。
腱膜性眼瞼下垂に関する信州大学の松尾清先生の著書、まぶたで健康革命―下がりまぶたを治すと体の不調が良くなる!?はわたしも読みました。
ミュラー筋が青斑核を刺激する仕組みはとても興味深く、一重まぶたで肩こりや疲労を感じやすい人は読んでみて損はない本だと思います。
わたし自身、一重まぶたで目が細いので、腱膜性眼瞼下垂の可能性はありえますが、年齢的な面や症状からしても、それが原因になっているとは考えにくく思います。テープでまぶたを留める実験でも特に効果は感じませんでした。
以上のことから、わたしの症状が眼精疲労だとすると、神経性眼精疲労ですが、これはつまり他の病気による自律神経失調が原因と言っているようなものかもしれません。
脳の中枢神経の疲労?
先生はこの不快感を感じていたのは過労のころだけだそうなので、目の問題だと思っていても不思議ではありません。わたしも当初、これは目の問題だと思ったので、眼科に行ったり、目について質問したりしていました。
しかしわたしやネット上で発言している人の不快感を分析すると、眼精疲労といってよいのかよくわからない部分があります。
Yahoo!知恵袋で質問をされた方は、ストレートネックが原因かもしれないと書いておられましたが、わたしはストレートネックではなさそうです。
わたしの場合は、以下のような特徴があるように思います。
1.不快感は本の文字を読むときなどに感じることが多い
2.テレビやページのスクロール、本をめくる、人の顔を見るなど、動くものを見るとき思わず目を背けたくなる
3.目を閉じていても、オーディオファイルを聞いたり、何かを話したりする刺激で感じることがある
4.特に新しい情報を認知した時に生じる
5.不快感は目で顕著だが、それ以外の部分、首筋や全身などにも飛び火する
6.不快感は集中しているときには感じなくなる。
7.目頭を押さえたり、どこかに痛みを与えたりするような刺激によって感覚をそらすことができる。
8.そのときどきで程度は異なる
9.食後特にひどくなることがある
わたし以外の人の記述でも眉間や鼻について述べているところがあります。細かい作業をする時や、運転などの動くものを見るときに感じるという点でも一致しています。
もしかすると、目の問題というより、何かしらの情報を知覚したときに脳が拒否反応を起こしているのではないか、と思えます。先生も、文字を見たときに脳がそれを拒否しているかのような感じだと述べていました。
わたしの先生が過労状態でその症状を感じたこと、Yahoo!知恵袋の方が毎日8時間ものパソコン作業によって症状が現れたこと、そしてわたし自身が過労の果てにそれを感じるようになったことからすると、どうやら疲労と関係しているのかもしれません。
この感覚が異常にひどかったころは、新しいことを学ぶことはほとんどできませんでした。今定期的に読書し、ブログも書けているのはかなり軽い日が多くなったからです。やはり疲労の程度と関係しているのでしょうか。
むずむず脚症候群と関係?
根拠があるものではありませんが、目に感じるゾワッとした不快感は、むずむず脚症候群のむずむず感と似ているのではないかという気がします。
わたしはずっと、どう言い合わしてよいか分からなくて、最初は「うずうず」と表現し、次いで単に「不快感」と言い表すようになり、最終的に「むずむず」が一番伝わりやすいかと思いました。Yahoo!知恵袋でも「不快感」「うずうず」「むずむず」と表現されている点と合致します。
もしかすると他の表現でネット上に書いている人もいるかもしれませんが、ちょうど内部に手をかきいれたくてうずうずするような感覚なのです。
さて、どう形容して良いか分からなくて、最終的に「むずむず」と表現するしかない不快感を感じる病気というとむずむず脚症候群です。
むずむず脚症候群では脳のA11領域(不快感を制御する部分)の働きが低下してると言われています。むずむず脚症候群は脚以外の部分の症状、たとえば顔の症状が主体の人もいるそうです。一応A11領域は顔面の三叉神経や偏頭痛ともつながりがあるようです。ただわたしの症状がそれかと言われるとよくわかりません。
もしむずむず脚症候群と関係があるのであれば、ドーパミン作動薬が効くのかもしれません。ブレイン・フォグのほうではドーパミンを抑える薬を処方するそうなのですが、その反対です。
また発言している人の中に、妊娠中に悪化したと書いている人がいます。むずむず脚症候群が妊娠中の鉄欠乏で発症しうる点と符合します。わたしは鉄欠乏で引っかかったことはありませんが、むずむず脚症候群はドーパミン代謝と鉄欠乏どちらでも生じるそうです。
むずむず足症候について、詳しくは以下の記事をどうぞ。
とはいえ、むずむず脚症候群の日内変動に沿っているような気はしませんし、前述のように疲労が原因と思える節もあります。
もう一つの可能性として、やはりドーパミン関係の問題である注意力散漫によって、痛みや疲労などの不快感を隔離できず、強く感じてしまう人がいるそうです。こちらはADHDと関係があると見られています。
じつはわたしはADHDの薬を服用したことがありますが、実際に薬が効いている間は、症状が軽くなりました。しかし治ることはありませんでした。
そして、じつはわたしの主治医もADHDなのです。主治医とわたしの症状が共通しているのは二人ともADHDでドーパミン異常があるからかもしれません。(ただし、わたしも主治医も一般的な発達障害としてのADHDではなく、トラウマ由来の愛着障害だと思われます)
結論として、はっきりわからないというのが正直なところです。
わたしは体が動かない分、頭を使う比率が多くなっていますが、CFSは中枢神経の疲労です。頭を使うことなら元気というわけではありません。そこを無理しているのがこの症状として出ているのかもしれません。
もともとこの文章は公開するつもりはなかったのですが、他にも同じ悩みをもっている人がいることを知ったので文章としてまとめました。
追記:その後の考察
その後、わたしは主治医の判断で、ADHDの薬をもっと定期的に服用するようになりました。すると、確かに薬がよく効いている間は、不快感を意識の外に押しやれるようになりました。
ADHDの薬によって、不快感がなくなることはありませんでした。しかし注意の方向性をコントロールできるので、意識を向けないようにしていることができました。
ということは、やはりこの症状は、体の不快感を制御する脳の部分の働きの弱さと関係しているように思えます。その部分はドーパミンによって働きが強まります。
また、わたしの不快感は目が主体だと思っていましたが、本文でもちょっと触れたように、全身あちこちに飛び火することがありました。
しかし、もっとじっくり自分の体と向き合ってみて気づいたのは、もともと全身さまざまな場所の不快感が相当強い、ということでした。
全身の不快感は、あまりに子どものときから当たり前すぎて、誰にでもある普通のことだと思いこんでしまっていたようです。一時的に目や頭のあたりの症状が強くなったので、それを特別視していただけでした。
これに気づいてからは、よりいっそう、自分の不快感が、いわゆる脚以外の全身の手足、顔などにも症状が現れるむずむず脚症候群に近いと思うようになりました。
この問題と付き合っていく中で、原因について、幾つか可能性をしぼることができました。
(1)まず、目だけの不快な症状が特徴的な場合、両眼視機能異常で、うまくピントが合わせられていなかったり、目の協調運動に異常があるのかもしれません。
その場合は、あまり一般的ではない両眼視機能検査を受けて、ふさわしい矯正用のメガネなどを作れば、かなり良くなるはずです。
両眼視機能異常もADHDの人に多いそうなので、主治医の悩みはこれだった可能性があります。
(2)目だけでなく全身に不快感が出る場合は、本文でも触れたように、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)の一種とみなせます。
むずむず脚症候群では、名前に反して顔や手足に症状が出るケースが報告されています。だから、「むずむず脚」という名前はふさわしくないとして、「ウィリス・エクボム病」に改称されました。
わたしはADHDの薬の服用で少しましになりましたが、ADHDもむずむず脚症候群も、ドーパミン異常という共通性があります。
(3)生い立ちの中でトラウマ経験があり、全身にさまざまな不快感がある場合、体感異常と呼ばれる症状に該当するかと思います。
トラウマ由来といっても、メンタル的なものではなく、以下の記事で考察したように、実体のある生化学的な症状と思われます。
小児期トラウマを経験した患者では、やはりドーパミン系やノルアドレナリン系の異常が確認されていて、ADHDと区別がつきにくいといわれています。
おそらく、上のむずむず脚症候群のメカニズムとまったく無関係ではなく、こちらも、より複雑で厄介な形のドーパミン異常がからんでいるのではないか、と思います。
もしドーパミン系が原因なら、それを安定させる幾つかの方法によって、症状がいくらか改善するはずです。
(1)ドーパミンに働きかけるADHD、むずむず脚症候群、パーキンソン病などの薬の服用。日本で認可されていないため個人輸入になるがブプロピオンのようなDNRIも選択肢かも。
(2)何かに集中してフロー状態になる。たとえばゲームやスポーツに熱中しているときは症状が気にならないかもしれない。
(3)作業用BGMとして音楽を流す。音楽がドーパミンに働きかけることは研究で確かめられている。パーキンソン病の歩行リズムを安定させたり、ADHDを改善したりできる。
(4)自然の中を散策する。都市部での散策と異なり、自然の中の散策は、ADHDの症状を安定させることが知られている。
(5)根底にトラウマがある場合は、体に働きかけるタイプ(ボディワークと呼ばれる)のセラピーを受けることが役立つかもしれない。ただしすぐには効果が出ないので、上記の他の方法も併用したほうがいい。