独立行政法人理化学研究所 理研の産業連携-連携推進部-のサイトに、 「2012年11月の知財トピックス」として、「慢性疲労症候群の血液バイオマーカーの発見」が掲載されました。
慢性疲労症候群の血液バイオマーカーの発見 (理研№:23626)| 独立行政法人理化学研究所 理研の産業連携-連携推進部-(リンク切れ)
これまで慢性疲労症候群(CFS)は、単なる慢性疲労やこころの問題ではないか、と誤解されがちでした。しかし、最近になって客観的な診断方法がいくつか考案され、慢性疲労症候群を確かな病気として区別できるようになりました。
この血中代謝物のメタボローム解析は、客観的な診断方法の中でも、とりわけ重要かつ信頼できるものになるかもしれません。
なお、類似疾患の線維筋痛症も、血液で診断できるかもしれないとする記事が最近掲載されています。
エネルギー産生機構に異常を発見
研究の成果そのものはずっと以前に発表されていましたが、その概要が分かりやすくまとめられています。
慢性疲労症候群(CFS)の患者の血液代謝を調べたところ、「エネルギー(ATP)産生に与る解糖系およびTCA回路中の代謝物が減少していること、さらに、その低下は自覚的疲労度(PS)に相関すること」が分かりました。
つまり、症状が重い人ほど、エネルギーの生産工場がうまく働いていないということです。
それで、この代謝に関連する物質を測定し、三種類の比率を割り出すと、「95%の正確さで慢性疲労症候群を客観的に診断できる可能性がある」と書かれています。
実用化されたときの3つのメリット
この検査が実用化された場合の利点や応用できる点が3つ列挙されています。
簡単に診断
数種類の代謝物を測定するだけで、慢性疲労症候群を診断できるため、慢性疲労症候群を客観的かつ迅速に診断するキットの開発が期待されているようです。
患者のフォローアップ
慢性疲労症候群の症状や効果のある治療法は人それぞれですが、治療によって症状がどれほど改善されたかが数値化できるので、個々の患者にあった治療計画を立てたり、効果がありそうな治療法を予測することができるようです。
治療法や予防法の開発
今回明らかになったバイオマーカー、つまり慢性疲労症候群(CFS)の生理学的な特徴は、自律神経検査のような、症状そのものを測定するバイオマーカーではありません。むしろ、症状を引き起こしているおおもとの原因に迫るものです。
そのためこの成果に基づき、疲労を予防・軽減する食薬が開発されることが期待されています。たとえば、これまでに以下のような点がすでに提案されました。
◆コエンザイムQ10の服用
エネルギーは解糖系→クエン酸(TCA)回路→電子伝達系といったサイクルを経て造られます。この機構に直接関係するコエンザイムQ10などの成分をサプリメントとして摂取することにより、すでに治療効果が確認されています。
◆抗疲労食による予防
疲労にかかわる成分が分かったことで、疲労を防ぐ食事のレシピが作れるようになりました。その成果は、書籍抗疲労食―毎日の食事が疲れに効く!にまとめられています。
このように慢性疲労症候群(CFS)のメカニズムが明らかになるにつれ、検査だけでなく治療法の発見も期待できそうです。
▼追記(2016/10/17)
CFS患者の血液のメタボローム解析による新しい研究成果が発表されました。