「無理難題」。難しい病気を抱えて日常生活を送っていると、まるで山積する書類の束のように、無理難題がうず高く積み上がってしまうものです。
ちょっとしたコミュニケーション、体調の変化への対処、さらには一日一日を生き抜くことそのものが無理難題に思えてならないときもあります。
そのようなとき、無理難題を細かく刻んで料理できる、切れ味の鋭い包丁のようなものがあればどんなにか楽でしょうか。わたしが最近読んだ本、解決する脳の力 無理難題の解決原理と80の方法はその期待に答える良書です。
もくじ
これはどんな本?
脳神経外科医として「人生を賭して」脳科学を研究してきたという林成之教授の本です。
教授がこの本を書いたのは、「脳の力をどう使えばよいか知らないばかりに、人生に対して後ろ向きになってしまう方がいるのは大変もったいないことだ」と思ったからでした。(p200)
教授は「脳を支配する法則は非常にシンプルだ」と言います。(p54) この本では、たった7つの脳のシンプルな本能に基づいて、よくある80の問題に、具体的な解決策が提示されています。
なぜこの本を手にとったか
林成之教授の前著「脳に悪い7つの習慣」がとてもおもしろかったからです。内容がとても腑に落ちたので、A10神経群やら自己報酬神経群、ダイナミックセンターコアといった用語をいとも簡単に覚えられました。日常会話でも使ってしまうほどです。
また単なる脳科学の本ではなく、救急救命センター部長としてチームを率いた教授自身の経験談が豊富なのも面白いところです。その経験に基づいて、緊急時に冷静に判断し、良いリーダーとなる方法がいろいろ書かれています。
脳を導く7つの本能 p39-42
林教授によると、脳はたった7つの本能に従って行動しています。これらはいわば、無理難題を解き明かすときに用いる“公式”です。
これらのシンプルな“公式”を応用すれば、どんな問題に対しても、脳の働きに沿った、スムーズな解決策を見つけることができます。
本能1.生きたい
脳は常に働き続けます。
本能2.知りたい
脳は常に新しいことを求めます。
本能3.仲間になりたい
脳は独りでいることではなく、他の人に認められ、受け入れられることを望みます。
本能4.自己保存
脳は自分を守ろうとします。しかしそのために、自分の立場を守ろうとやっきになることがあります。
本能5.自我
脳は、自ら進んで物事に取り組み、達成することを喜びます。つまり、他の人に言われていやいや取り組むときには、本来の能力を発揮できません。
本能6.統一・一貫性
脳は情報をよりわけ、似たものを好みます。しかしそのために、新しい情報や、環境の変化、自分と異なる人を受け入れ難く思うことがあります。
本能7.違いを認めて共に生きる
脳は仲間を持ち、共に手を携えて生きていくことを望んでいます。つまり競争社会や営利主義のもとでは、本来の能力を発揮できません。
“公式”を当てはめる
これら7つの“公式”をどのように当てはめる事ができるでしょうか。本書では80ものシチュエーションが言及されていますが、続くエントリでは、そのうちの3つを取り上げてみたいと思います。
“公式”から導く 無理難題と闘う3つの解決策
1.闘病、2目標の達成、.3.コミュニケーションという3つの分野において、まず避けるべきNGな態度を挙げます。次いで脳の“公式”に基づいた正しい態度について、本書から引用したいと思います。
1.「敵を倒したい」はNG p27
◆役に立つ公式:仲間になりたい
一つ目のアドバイスは闘病の心構えです。
わたしは常々、病気は「敵」であると述べてきました。しかし病気の場合でも、現実の人間の場合でも、だれかを「敵」ととらえるのは、脳の仕組みからして好ましくないようです。
「敵を倒したい」と思うことは、「仲間になりたい」という強力な本能に反することになるため、勝負をかけようというときにこころの迷いが生まれてしまいがちなのです。
…私は北島選手に、ライバルをライバルと思わず、「自分が力を発揮するための大事な仲間であり、ツールだ」と考えるように言いました。
病気は決して、神さまが与えた試練や、成長を促す贈り物ではなく、克服すべき敵であるという わたしの考えは、以前に書いたとおりです。
しかし、たとえ病気が敵であるとしても、かむしゃらに怒りに任せて闘っていては勝てるものも勝てません。以前に引用したマイケル・J・フォックスの言葉の通り、「尊重して」初めて打ち負かすことができるのです。
病気の中でこそ気づけることを大切にして、心に余裕を持ち、その結果として病気を克服することが大切でしょう。以下の記事も参考にご覧ください。
2.「そろそろゴールだ」はNG p102,187
◆役に立つ公式:自我(自分からやりたい)
2つ目のアドバイスは、目標を達成することにおいて役立ちます。
病気と闘うことにおいて、目標を設定することが大切である、ということは、このブログでも再三再四お伝えしてきました。
林教授は、特に一歩踏み込んだ目標を設定することが大切だと述べています。
「壁を破るために必要な、具体的で明確な目標」を設定することによって、「自我」の本能の力を引き出しましょう。壁を破るための目標設定は、「壁を破ったその先」に置かなくてはなりません。
…よく「オリンピックは参加することに意義がある」と言われますが、オリンピックそのものが目標になってしまっては、その先の飛躍はないのです。
脳は、目標を定めて自分で努力することを好むので、「そろそろゴールだ」「だいたい終わった」と思った瞬間、働きが鈍くなってしまうそうです。それを避けるには、目標をゴールの先に設定することが必要です。
わたしの場合、病気を治すことそのものが目標にならないようにしたいと思っています。病気を治すことは大切ですが、病気を治して何をするか、ということに目を留めておくほうがよほど賢明です。
そうするなら、病気が治る前から、目標に向けて何らかの努力を積み上げることができますし、たとえ病気が治らなくても、工夫をこらして前進することができるからです。
3.「わからないやつがバカ」はNG p161
◆役に立つ公式:統一・一貫性
3つ目のアドバイスは、コミュニケーションにおいて役立ちます。
慢性疲労症候群(CFS)のような、見た目でわかりにくい病気の場合、説明してもなかなか理解してもらえず、困ることがあります。また研究途上の病気なので、医者にも配慮してもらえないことがあります。
そのようなとき、「わからないやつがバカ」とまでは思わなくても、「なんで理解してくれないんだ」とイライラしたり落胆したりするかもしれません。しかし林教授はこう述べています。
私自身、まったく新しいアイデアを考え出したとき、周囲から「わけがわからないことを言っているな」という目で見られたことは少なくありません。
このような場合「わからない奴がバカなんだ」などと相手を見下す態度は、厳に慎むべきです。
…「統一・一貫性」を外すには、時間をかけて辛抱強く話をし続け、少しずつ「そういう考えもあるかもしれない」という方向に持っていく必要があるのです。
わたしたちの場合、周りの人たちも、知人が突然不可思議な病気になってしまい、困惑している、ということを忘れてはなりません。
わたしたちは、自分自身が病気を発症したとき、受け入れるのに時間がかかったのではないでしょうか。ときには反発し、ときには怒り、ときにはたいへん落ち込みました。
そうであれば、周りの人たちにとっては、なおさら、わたしたちの病気は受け入れがたいものなのです。ひどいことを言われるかもしれませんが、それは当たり前の反応なのです。
わたしたちは、自分たちが病気を受け入れたときと同じように、ゆっくりと時間をかけて、病気について辛抱強く説明する必要があります。
解決する脳の力
これらは、本書に乗っている「解決する脳の力」のほんの一部に過ぎません。
人生で向き合わねばならない問題の多くは、脳の仕組みに基づいて解決方法を導くことが可能なのです。
この書籍を読み、脳を導く原則と、それを用いた問題の解決法についてよく知るなら、これまでに比べ、問題解決が用意になることに気づくでしょう。それは、対処しにくい時期を乗り越える強力な力となるに違いありません。