このエントリは、書籍学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてているとその関連書籍に基づいて、小児慢性疲労症候群(CCFS)についてまとめた一連のエントリの最後です。
4番目のエントリでは、CCFSの典型的な発症パターンを紹介しました。この最後の部分では、CCFSの治療に役立つ情報を簡単にまとめたいと思います。
なお、わたしは一患者の立場として、調べたことをまとめているに過ぎません。より正確かつ広範な情報を望まれる方は、専門家に問い合わせるか、該当書籍をご自分でお読みになるようお勧めします。この記事の最後に役立つ資料・サイトを紹介しています。
CCFSの治療法ーそれぞれの立場でできること
治療は、医療従事者、本人、家族が協力して行います。
1.医者ができること
不登校外来―眠育から不登校病態を理解するのp87-93にはさまざまな治療法が詳しく解説されています。それらのうち、医者ができることは、睡眠の改善、エネルギーの回復、入院治療、薬物療法 に大別されると思います。
◆睡眠の改善
さまざまな治療薬を用いて、就寝時間を早め、10時間睡眠を確保させます。現在では、過眠型睡眠障害の方面からの治療が現在最も効果を挙げているそうです。(p87-88)
(ⅰ)入眠の確保
まずメラトニンやクロニジン(カタプレス)の鎮静作用によって、脳の興奮を鎮め、望ましい時間に寝つけるようにする
(ⅱ)中途覚醒の解消
上記の薬で寝つくことができても短時間で起きてしまうので、抗ヒスタミン薬など、眠気を持続させる薬によって中途覚醒を解消させる
(ⅲ)質の改善
睡眠リズムを正しても、まだ睡眠の質が悪いので、ノルアドレナリンやドーパミンの遮断に関係する薬を寝る前に少量用いて、体がリラックスするよう促す
一般の睡眠障害と違い、CCFSの場合は、以下のような悪循環があると書かれています。
不登校状態では脳機能のバランスを欠くために脳全体の細胞群を総動員して興奮させなければならず、…気分不良、寝つき不良につながり生体時計がますます乱れ、脳機能もさらに乱れることになってしまう。 (p85)
前述のクロニジンは、通常睡眠障害で処方される薬ではありませんが、興奮した脳を沈静化させる作用があるので、このタイプの睡眠障害に効果があることが分かっています。(詳しくは、書籍子どもとねむり 乳幼児編―良質の睡眠が発達障害を予防するのp132をご覧ください)
三池先生は、「子どもたちの睡眠の異常と問題行動」という講演のなかで、「メラトニンとクロニジンという治療法は,何年かかけて編み出したものだが,これは結構効果がある。先ほどのステージ2ぐらいまではこれで何とか戻せるかと思われる」と述べています。
一概に睡眠障害の治療といっても、どうやらベンゾジアゼピン系の睡眠薬が第一選択で用いられるわけではなく、CCFSの場合は、専門病院ならではの特殊な処方があるようです。
近年の理化学研究所の研究によると、ADHD(注意欠如多動症)と同様のドーパミン神経系を対象とした薬物療法が有効である可能性が示唆されています。
◆エネルギーの回復
小児慢性疲労症候群(CCFS)ではエネルギー生産を担うミトコンドリアの機能が低下し、学習・記憶機能障害や易疲労性が生じています。
そのため、還元型コエンザイムQ10やアスコルビン酸、ビタミンB12、Lカルニチン、ピルビン酸、漢方薬などのサプリメントによって、エネルギー生産機構を活性化させることが提案されています。(p88)
またCCFSの子どもでは、糖質からのエネルギー生産性は低下しているものの、脂質からのエネルギー生産性は比較的保たれているので、書籍学校を捨ててみよう!では食餌療法についても触れられています。
学習・記憶機能障害の治療については以下をご覧ください。
◆入院治療
CCFSの睡眠障害の治療には、高照度光療法や低温サウナ療法といった特殊な施設を必要とする高度な医療も活用されています。
高照度光療法は不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにおいて「概日リズム睡眠障害による不登校状態の根本治療に迫る数少ない治療法」と言われています。(p89)
はは゛たき VOL.025 によると高照度光療法は「睡眠障害への有効率は70-80%、疲労に対しては50% に著しい効果を認めた」そうです。
三池先生の特別講演「子どもたちの睡眠の異常と問題行動」によると光治療の効果として「PS7やPS5からPS3程度に上昇してくる。PS5というのは引きこもっている状態。PS3というのは,1週間に1日休めばいいという程度であるから疲労度は改善したことになる」とされています。
ただし、「不登校12万人のかげで ~広がる子どもの睡眠障害~」というクローズアップ現代の放送では、光治療で一時的に良くなっても、退院すると再発を繰り返すケースが紹介されていました。
概日リズム睡眠障害の代表であるDSPSの治療について詳しくは以下をご覧ください
入院による少人数による共同生活はコミュニケーション能力のリハビリにもなります。
不登校になってから、ある程度時間が経ち、エネルギーが戻ってくると、緊張やストレスを受けない自宅での生活では元気な笑顔が見られるようになります。
しかしこの段階では、まだほんのわずかなストレスが加わるだけで強い緊張が生じ、思考力が停止してしまいます。
不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにはこう書かれています。
不登校状態における脳機能はさまざまに低下していることが明らかになっているが、特徴的に一つの情報しか処理できない状態になっている。同時に二つ以上の情報処理ができないのである。
…たとえば久しぶりに教室に入るとき、ぽつぽつと一人ずつ教室に入ってくるクラスメイトに対してどうにか対処できるが、数人のクラスメイトがすでにいる状態 のなかに入っていくのはどう対処すればよいかがわからず混乱してしまい入れなくなる。同時に多数の顔や表情や声などの情報が入ってくるため対応できないのである(p34)
家庭→少人数→社会という順序で徐々にコミュニケーションのリハビりをしなければなりません。
学校を捨ててみよう!によると、少人数による共同生活は、一日じゅう生活を共にする中で、本音と本音、素顔と素顔で人と付き合うことを学び、対人関係に自信が芽生えます。(p59,207-210)
また、低温サウナ療法は、温熱療法や和温療法という名前で取り入れているクリニックもあります。
◆心理療法
不安やストレスを軽減させ、リラックスさせるために、箱庭療法や芸術療法など、子どもの状況に応じて、さまざまな心理療法が行われているようです。
2.自分でできること
◆学校を捨てる
「疲れた子どもたちよ! 学校を離れて人生に役立つ大事な勉強を始めよう」 (p145)
ひとたび小児慢性疲労症候群(CCFS)を発症したなら、学校にとどまればとどまるほど疲労の重症化が進みます。
もちろん教育が必要ないというわけではありません。しかし忙しい学校生活は、CCFSを発症した生徒にスピードを合わせてはくれません。無理やり登校しようとしつづけると、睡眠不足症候群が悪化し、クラスメイトから置いて行かれるストレスは、焦りを増し加えます。
不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによると、三池先生はある進学指導の教師とこんな会話を交わしたそうです。
「途中で一週間も休んでしまうと、もうついていけなくなるのですよ」
「どうしてそのような教育をするのですか。それでは病気をした場合どうなるのですか。学生たちは病気もできないわけですよね」
「そうなんです」 (p30)
現代の偏差値教育のシステムを考えると、この先生がそう述べるしかなかったのは、わたしにもわかります。しかしそのシステムは、CCFSの子どもにとっては苦痛でしかありません。
学校を捨ててみよう!によると、典型的な例として、高校1,2年生の場合、ただちに休学を勧め、治療を受けてもらい、元気になったところで簡単なアルバイト、次いで高卒認定試験、そして大学あるいは専門学校へ進ませるのがよいとされています。(p198、218)
今では定時制高校や通信制高校(通学型と添削型がある)や高卒認定試験といった多様な選択肢があります。進学校に通っている場合、これらを選ぶのはとても辛いかもしれませんが、学歴より健康のほうが大切です。
◆10時間以上睡眠を摂る
睡眠時間の確保ができないまま気力で学業に復帰しても、生体リズムの乱れは改善していないので、再発してしまいます。復帰、再発の繰り返しは慢性疲労をより重症化させます。成人の慢性疲労症候群(CFS)の研究においても睡眠が疲労回復に不可欠だと分かっています。
10時間睡眠が必要な状態になってしまったら、睡眠表をつけ、十分な睡眠時間を確保できるような生活へ見直します。(p72,198)
また、自動で睡眠と疲労を測定できる機器を、子どもの睡眠と発達医療センター、大阪市立大学と任天堂が協力して開発中です。
そのような機器によって、日々の状態をモニタリングすると正確なデータが得られるかもしれません。
◆考え方を変える
三池先生の著書フクロウ症候群を克服する―不登校児の生体リズム障害に、このような言葉があります。
「お父さん、日本の大人たちはわき目もふらず山の頂上に上ることを子どもたちに教えるけれど、登ってしまったらそんなに長いこと頂上に立っているわけにはいかないのだから、慌てて登った人は、まわりの景色など見もしないで、またまっすぐおりてきてしまうよ。
お父さんやお母さんみたいに『ほらここに花が咲いているよ。ほら小川が流れているよ。蝶が飛んでいるよ』って育てられたらなかなか頂上に行きつかないけど、おりるときは景色や、花や、風や、いろんなものが楽しめて豊かだよね」 (p200)
三池先生はCCFSの子どもたちに心に余裕を持つよう勧めています。学校のカリキュラムとは裏腹に「不思議なことに勉強に一年や二年のブランクがあっても、数ヶ月で追いついてきてしまう」と書かれています。 (p184)
要は焦らないことです。このブログのカテゴリ考え方の記事も役立つかもしれません。自動車と徒歩では自動車のほうが速いのは当たり前ですが、自動車で飛ばしたからこそ見落とすものがあり、自分の足で歩いたからこそ気づく発見があるのです。
◆さまざまな疲労対策を試みる
病気についてよく知ることは、自己管理の第一歩です。情報を集め、さまざまな疲労対策を試みてください。慢性疲労症候群(CFS)の治療に役立つサプリメントや生活の工夫を調べてみることができます。最近では還元型コエンザイムQ10が有望視されていました。
◆決して見捨てない
「あなたに何事があろうと、他人からどのように思われていようと、私たち両親はあなたのことが大事です」
「自分たちの命をかけてもあなたを守ります」
というメッセージこそが彼らに必要なものである。(p137)
自尊心の低下した子どもを守れるのは家族しかいません。黙っていても愛情は伝わりません。子どもがどのように惨めな状態にあろうとも、「あなたを愛しており、信じており、私たち親が命をかけて守る覚悟である」ということを言葉と行動で示しつづける必要があります。(p65,220)
愛情不足は生きる力を奪います。しかし、家族が子どもの居場所を守り、真剣に子どもたちと向き合い続けて、決してあきらめないなら、子どもたちはどれほど時間がかかろうと、絶望の淵から戻ってくることができるのです。(p86)
以下のエントリも参照してください。
◆子どもの体調を説明する
慢性疲労症候群(CFS)の患者は見た目には病気に見えないため、誤解されがちです。また子どもは自分の体調を上手に説明できないため、家族がCCFSの子どもと他の人たちとの間に立って患者を守る必要があります。
しかし、親がいつまでも子どもの代わりに説明していると、代理ミュンヒハウゼン症候群の疑いをかける人が現れるかもしれません。子どもの体調を見ながら、徐々に、自分で自分のことを表現できるよう手伝ってあげることも必要です。
このブログのカテゴリコミュニケーションにある情報が役立つかもしれません。
また、子どもがHSP(人いちばい敏感な子)の場合は、子どもの特性をよく学んだ上で、周囲の圧力から敏感な子どもを守ってあげたり、対処する方法を子どもと話し合ったりすることができます。
◆率先して教育に関わる
「
自分が大人になったとき、こんな大人になれたらいいなと思うような人に日本では一人も出会うことができなかった」(p231)
子どもたちは、学校社会における成績が最も大事だという価値観に常にさらされています。学校教育は子どもたちに正しい価値観を教えることができません。親が自分で正しい手本を示し、役割モデルになる必要があるのです。(73,80)
子どもたちの成育に責任を持たなければならないのは、まず家庭であり、親です。学校に丸投げせず、両親が自らの力で子どもの教育に関わろうとすることはとても大切です。(p59)
そのためには、できるだけ多くの時間を子どもと過ごすことが大切です。子どもが話すことに冷静に耳を傾け、落ち着いて対処する手本を示してあげてください。学力を補填するさまざまなサービスを活用することもできます。
▼偉人たちと家庭教育
ところで、アルベルト・アインシュタインやトマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチは、天才として名を馳せていますが、幼い頃には世俗の教育に馴染めず、家庭教育で育ったことが知られています。
彼らの性格と前のエントリの「疲れる子どもの特徴」を照らし合わせると、よく似ていることが分かります。彼らがもし今の日本に生まれていたら、不登校児のレッテルを貼られていたかもしれません。
逆に言えば、不登校がちな子どもであっても、親が責任をもって教育に関わるなら、個性豊かで発想に満ちた大人に育つ可能性があることが示されています。
▼病気の子どもの幸せのためにできること
ポジティブ心理学など、最新の「幸福学」をもとに、病気の子どもが幸せを感じられるようにするために親ができることをまとめてみました。
CCFSを乗り越える!
疑うことを知らない子供時代に、突然思うように動けなくなった子どもたちが、家族や先生や医者から嘘つき呼ばわりされたり、仮病のようにみなされたりするときの心痛がいかに深く胸をえぐるかは、想像にかたくありません。
学校にいきたい、みんなと遊びたい、楽しみたいと願っている子どもたちが、「学校嫌い」「やる気がない」「不まじめ」というレッテルを貼られたときのやりきれない気持ちはいかばかりでしょう。
ついに、自らの意志に反して、学校を去らなければならないとき、「不登校児」という汚名を帰せられて退学せざるをえないときにはどう感じるでしょうか。
大人にとっては「たかが学校」かもしれません。平衡のとれた親であれば、「学校に行けなくなっても、ほかの道があるよ」と声をかけるかもしれません。しかし社会に出ていない子どもにとっては学校生活が人生のすべて、アイデンティティの根幹なのです。
教育関係者が、決して責任を認めようとせず、教育制度を改めようとしない現状において、子どもたちをその悲劇から救えるのは、まず親の立場にある人たちです。
加えて、わたしたち慢性疲労症候群(CFS)の患者も、同じ病に苦しむ者として、このような子どもたちを理解し、守ることができます。特にわたしは、自分もまたCCFSを経験していますから、なおのこと力になりたいと思い、この一連のエントリを書きました。
小児慢性疲労症候群(CCFS)を発症初期に見つけ、適切な医師のもと、適切な医療を受けさせることができれば、子どもたちを人生最大の危機から助けることができるかもしれません。
この一連のエントリが、不登校に陥った我が子を助けたいと心から願って情報を集めている親の皆さんの目に留まることを願ってやみません。
また、このサイトを見てくださっているCFSの方が、周りにいる子どもたちに目ざとくあり、子どもに発症する慢性疲労症候群(CFS)や起立性調節障害(OD)、線維筋痛症(FMS)、化学物質過敏症(MCS)、脳脊髄液減少症などに気づいてくださるなら、多くの子供たちが助けられるに違いありません。
▼さらに知りたいなら
このブログの関連記事:
小児慢性疲労症候群(CCFS)の関連記事の目次です。
この記事執筆から4年半後に、改めて学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)からCCFSとは何かを読み解いた考察はこちら。
医師による解説:
子どもの睡眠と発達医療センターの三池輝久先生、福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美先生による解説です。
B:過眠型睡眠障害|子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院
子どもの慢性疲労(2012.12.11放送分) |ラジオNIKKEI
似ている病気について:
CCFSと重複する、あるいは鑑別を要する病気のなかには、子どもの脳脊髄液減少症や、若年性線維筋痛症などがあります。
このサイトのリンク集には、小児慢性疲労症候群(CCFS)、子どもの脳脊髄液減少症、線維筋痛症、起立性調節障害に関するサイトへのリンクを含めてありますので、あわせてご覧ください。