小児慢性疲労症候群(CCFS)とは (4)典型的な発症パターン

のエントリは、書籍「学校を捨ててみよう」とその関連書籍に基づいて、小児慢性疲労症候群(CCFS)についてまとめた一連のエントリの4番目です。

3番目のエントリでは、CCFSの10の原因と診断の流れをまとめました。この4番目の部分では、学校を捨ててみよう子どもの心身症ガイドブックの情報をもとに、典型的な発症パターンを取り上げています。

子どもたちはどのような兆候を経て小児慢性疲労症候群(CCFS)を発症し、どのような経過を経て回復するのでしょうか。

以下の内容は、CCFSの発症の予防に役立ちます。また、すでにCCFSを発症してしまった人にとって、今自分がどこにいるかを見極める助けにもなります。

子どものときからの疲労は除外する

まず、慢性疲労症候群は、ある時期から発症するものであり、生来の体質ではありません。子どものときから、疲労を感じている例は、慢性疲労症候群とは診断されません。その点は危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)に書かれています。

特に幼少期から疲労を訴える場合、訴えている疲労が本当に病的なものなのか、神経過敏による感覚異常の疲労によるのか、判別が困難です。

そうした理由によって、現在のところは子どもの疲労(物心がついた時からの疲労)については、慢性疲労症候群の診断から外すことになっています。

ただし、同じ子どもの疲労でも、ある時期までは元気だったのに、ある日を境に深刻な疲労に苛まれたときには慢性疲労症候群の可能性が出てきます。(p96)

前回の記事で紹介した遺伝的な感受性の強さである「HSP」は、素因としては関わっている可能性はあるでしょう。

しかしその場合でも、いつも最初から疲れているわけではなく、あくまで環境による影響を強く受けやすい、つまり学校などからくるストレスを普通の子よりも強く感じやすいという意味にすぎません。

あくまでCCFSは生まれつきの疲労感ではなく、ある時点から発症するものであり、具体的な発症パターンがあります。

CCFS発症の3つのステージ

学校を捨ててみようのp37によると、オーストラリアの小児科医、キャサリン・ロウは、海外における小児慢性疲労症候群(CCFS)の発症には3つの段階があると述べています。(p37)

1.気分不良期

頭痛、腹痛などが生じ、保健室通いが増え、なんとなく学校を休みがちになります。この時点で後述するPS(パフォーマンス・ステータス)は2-4になるので、慢性疲労症候群(CFS)を疑うべきです。(p38)

2.混乱期

睡眠時間が平均10時間程度になり、日常生活が阻害されていきます。食事の回数が減少し、疲れのため風呂に入ることもできなくなります。頭の中が混乱しはじめ、思考がまとまりません

両親はしばしば「何を考えてるの?」「どうしたいんだ?」と質問しますが、問われた本人にも、何が起こったのか、どうすればいいのかまったく見当がつきません。

本人はこんなはずではない、と思っているのに、周りの人から、わけもわからず「やる気がを出せ」、「甘えている」、「学校嫌い」などと言われます。三池先生はこの段階が小児慢性疲労症候群(CCFS)において最も悲劇的だと語っています。(p49)

3.疲労期

完全にCCFSが固定化し、重症になった状態です。この段階になれば、もはや学校での生活をあきらめて、学校から離れなければなりません。心に深く大きな傷跡が残るとしても、ほかに道は残されていないのです。(p73,145)

CCFS発症の典型的な8つのステージ

子どもの心身症ガイドブックのp170-174には、日本におけるCCFSの典型的な発症パターンがより詳しい8つのステージに分けて書かれています。子どもの慢性疲労症候群は、しばしば原因不明と言われる成人の慢性疲労症候群に比べ、典型的なパターンが顕著なように思います。

それぞれの段階には疲労の度合いを表すPS(パフォーマンス・ステータス)値が併記されていますが、詳しくは3番目のエントリをご覧ください

1.初期 (PS2)

起床後に頭痛、腹痛、気分不良など自律神経症状を訴えはじめます。保健室へ行く回数が増えたり、体育祭など、周囲に気を配る必要のある集団行動を嫌い始めます。

特に微熱が現れたり、帰宅と同時に寝てしまったりするようなら要注意です。睡眠不足症候群(ISS)による異常ながんばりの傾向がある場合には極めて危険です。

慢性的な微熱は、ウイルス感染などと関係している場合もありますが、慢性疲労症候群を研究している九州大学病院心療内科のサイトで説明されているように、心身の過剰な負荷により、自律神経系に乱れが生じている症状である可能性が大きいでしょう。

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CFSでなぜ微熱がでるのか ストレス性高体温症とは?
岡孝和先生のHPに、慢性疲労症候群(CFS)ではなぜ微熱が出るのか、という点が説明されていました。
?ちなみにCCFSを発症しやすい年齢について、日本臨牀 2007年 06月号 の友田先生が掲載している表によると、「12-17歳でCCFS患児の数が増えていることがわかる」とあります。

中一ギャップと呼ばれる時期や、中学生から高校生になる時期は、CCFS発症の危険が高まるのかもしれません。(p1122)

2.発病期 (PS3-4)

本人にも理由がわからないまま、週に1回、月に3-4回、学校に行けなくなります。疲れやすさや集中力の低下から学校での活動にかげりが現れ、部活をやめたり、勉強が手につかなくなったりします。

集団行動でも修学旅行などの楽しい活動はできますが、緊張を伴う日常社会活動はおっくうになります。周りからは矛盾しているように思われ、理解が得られません。

自分自身への自信がなくなり、被害意識を持つこともあり、人間関係に問題が起こりやすくなります。心療内科にかかると「うつ病」と誤診されますが、心身の疲労のために「うつ状態」になっているに過ぎず、理由がなく落ち込む「うつ病」とは本質的に異なります。

PS3のこの時点でCCFS発症と診断します。なぜなら、すでに小児慢性疲労症候群(CCFS)とは(2)12の症状 で述べた、さまざまな生理学的異常が出現しているからです。

この時期に家族が送り迎えするなど無理を重ねると重症化するので要注意です。私的な経験からですが、思い切って休もうとせず、学校生活にこだわって無理を続けるなら、3.極期、4.混乱期が非常に重く長いものになりかねません。

1.2.の時点ですばやく対処し、睡眠を30-60分早め、2週間ほど休養させるなら、元気を取り戻すことができます。重症化するかどうかのターニング・ポイントといえるでしょう。

3.極期 (PS7)

無理を重ねる生活の後に訪れるエネルギーの枯渇状態で、本来の活力の30%ほどしかありません。一般にCFSの活力は本来の50%以下とされていますが、それさえも大きく下回る極限状態です。

不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによると、CCFSの典型例には発病期のPS3-4から、突然 極期のPS7に悪化するという特徴があります。(p91)

必ずしもそうなるとは限りませんが、学校過労死―不登校状態の子供の身体には何が起こっているかにも「数ヶ月から年余にわたってできあがるもの、数日で認められるもの、極端な例では1日で出現するものもある」と記載されています。

極期には、これまでの睡眠不足症候群(ISS)の結果、睡眠時間が15時間にも及び、ほぼ一日じゅうベッドで過ごします。食事の回数が減少し、疲れのため風呂に入ることもできなくなります。頭の中が混乱しはじめ、思考がまとまりません。そのため、この時期の記憶はごっそり抜け落ちていることがあります。

極期は、完全にCCFSが固定化し、ほぼ寝たきりになった重症状態です。この段階になれば、もはや学校での生活をあきらめて、学校から離れなければなりません。

極期はふつう1-2週間ほどとされていますが、無理を重ねた場合、もっと長くその状態が続くかもしれません。

4.混乱期 (ps5-6)

本来の活力の50%程度に回復し、少しずつ起床できるようになります。しかし、思考力は無きに等しく、起きている時間はテレビ・マンガ・ゲーム・音楽などで時間をつぶします。

不登校外来―眠育から不登校病態を理解するのp122には、「時には読書能力が残っている、あるいは回復することもある」とありますが、それをあわせても、できることはごくわずかです

生活時間がずれ、本格的な睡眠相後退症候群(DSPS)の10時間睡眠のパターンを呈します。一日じゅうだるいものの、午前中から昼にかけては特に疲れています。入浴・洗面・食事などの定期性はなく、部屋も雑然としています。過食・拒食になることもあります。

この時期の特徴は、なんといっても、混乱のため、苦悩に満ちていることです。うつ状態のため、毎日死を考えたり、すぐにキレたりしてまともにコミュニケーションができません。子ども本来の性格が失われてしまったかのように感じられます。

本人は、先生や同級生はもちろん、家族とさえ顔を合わせるのが苦痛に感じます。こんなはずではない、と思っているのに、コントロールタワーである脳機能が破綻しているため、自分で自分の状況が認識できないのです。

なぜ登校できないのか自分でも理解できないので、非難・中傷されるうちに、「そのとおりかもしれない…」と感じ、みるみる自尊心を失います。前述したように、この混乱期が小児慢性疲労症候群(CCFS)において最も悲劇的な部分です。

わたしの場合、混乱期と極期と合わせて3年ほどだったと思いますが、一言で言うと、生きてはいても死んでいるかのような…、いえ、死んでいるほうがまだ望ましいような時期でした。

▼睡眠相後退症候群とは
不登校状態に伴いやすい概日リズム睡眠障害のひとつ、睡眠相後退症候群(DSPS)については以下をご覧ください。

夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(1)DSPSとは
朝どうしても起きられない、夜なかなか寝つけない、一度眠ると10時間以上目が覚めない…そうした悩みは症状は睡眠相後退症候群(DSPS)の症状の可能性があります。一連のエントリの最初で

5.回復期 (PS5)

混乱の中でも家族の支えによって休息が得られ、少しずつ回復が見られます。ここでいう“回復”とは病気そのものからの回復ではなく、混乱期における、異常な精神的混乱からの回復です。

自宅でリラックスしているときは活動力もあるので、周りから「元気そうだ」「顔色がいい」と誤解され、落ち込みます。「ニコニコと元気で不登校している」「ニートの身分だ」などと言われて傷つくのもこの時期です。

一見症状が和らいだかに思えますが、何らかの緊張がかかると手のひらを返したように心身の硬直が生じ、さまざまな症状がぶり返します。過眠型睡眠障害も持続しているため、ふつうの社会生活は不可能です。疲れやすさや思考力の低下も決して和らいではいません。

幸い、混乱状態が消失するため、うつ状態やすぐにキレることはなくなり、理知的なコミュニケーションがとれるようになります。部屋の片づけや定期的な食事・入浴もできるようになり、子ども本来の性格が戻ってきます。

学校への復帰を考え、学校へのこだわりが強くなりますが、精神的な混乱が治っただけで、CCFSが治ったわけではないので、結局復帰は困難です。

不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによると、こう書かれています。

無理に学校に復帰しようと試みることは、再度の引きこもりを作り出すことが多く、時期が満ちていないときのこのような頑張りが繰り返されると、重症のCFSが引き起こされ“長期的ひきこもり状態”につながっていく。(p103)

6.始動期 (PS3-4)

本来の活力の70%ほどにまで回復し、起きる時間が安定し、昼からなら外出できるようになります。疲労回復機構が働き始め、その日の疲れをある程度回復できるようになります。

自らアルバイトや塾を探したり、少人数での活動が可能になったりします。学校に復帰する人もいますが、過眠型睡眠障害が回復していないため、再発し逆戻りすることが多く過信は禁物です。

7.学校社会復帰期 (PS1-2)

本来の活力の80-95%まで回復した状態で、リハビリが可能です。リハビリが必要なのは、次の3点です。

1.遅れた学力の補填
2.睡眠障害の改善
3.対人関係への自信

これらが整って初めて、学校に復帰できると考えてください。家庭でのリハビリは難しいので、入院や付属養護学校での集団生活を通して行います。不可能な場合は、従来の学校への復帰ではなく別の道を考えます。

例えば以下のような選択肢があります。

◆通信制高校
◆定時制高校(夜間・昼間)
◆フリースクール
◆高卒認定試験

わたしの場合は、体力の回復はPS5止まりだったので、高卒認定試験を選択しています。思考力が回復したことが幸いしました。その後、体力も徐々に回復しつづけています。

※回復期、始動期、学校社会復帰期については、書籍にはPS表記がありませんでした。それぞれ文章の内容からPS5、3-4、1-2としていますが、はっきりとしたものではありません。

8.予後

日本の研究(5年以上経過観察)によると、PS5以上を経験した子どもの予後は次のようになっています。

70%:本来の生活に完全に復帰しかし約半数に、疲れやすさが残る
15%:日常生活に制約がある
15%:気の遠くなるような闘病を続けている引きこもり状態

小児慢性疲労症候群における疲労と認知障害に関する研究によるとこう書かれています。

また、小児期に慢性疲労症候群に陥った子どもたちの予後は、報告によって大きな差があるが、Bellらの報告によると13年間経過し80%の患者は改善から治癒に至ったとしながらも、その約半数は軽度から中等度の症状の持続を認め、20%程度の患者は改善が認められないかむしろ悪化したという(David SBell,2001)。

このように、CCFSは、生命予後が不良な疾患ではないが、心身ともに発達すべき小児期から思春期にひきこもりの原因となり、長期にわたり著明に日常生活、社会生活を障害することから社会的な死に瀕する原因となるのである。

同じ研究についてチャールズ・ラップ先生の講演でも触れられています。

私の同僚であるデビッド・ベル博士が、15年に及ぶ長期間の研究を行った。その結果、青年のCFS/MEの予後は成人よりもかなり良く、80%の患者が回復又は著しく改善し、20%は病気のまま、あるいは非常に重いままであったとのことである。アメリカとイギリスにおける同様の研究においても、似たような回復率が示されている。

三池先生は平成16年に「子どもたちの睡眠の異常と問題行動」という講演の中で、診察した3000人のうち、18歳ごろに発症した3人は最終的に寝たきりになっていると述べています。

平気そうに見えるが,絶対にそうではない。慢性疲労症候群では最終的には寝たきりになる。寝たきりになった人は私たちの経験では3人/3000人いた。それも18歳ごろから発症した若い人たちであるから気の毒でしようがない

同じ資料によると、後遺症として「引きこもり、PTSD、睡眠障害の持続」が見られると書かれています。

子どもの夜ふかし 脳への脅威 (集英社新書)によると、「エネルギーを生産する能力が低下したまま、回復せず、疲れやすい状態が将来にわたって延々とつづく状態」が半分以上の子どもに残るとも書かれています。(詳しくはこちら)

不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによると、長期化する要因は、「不十分な休養期間」「家族や周囲(含学校関係者)の無理解」「本人の理解不足」「根性論者」「低年齢」「高年齢」だそうです。(p103-104)

低年齢(幼稚園から小学校低学年)の場合は生体リズム形成不全が見られるためであり、高年齢(高校生以上?)の場合は睡眠不足状態の蓄積が慢性化しているためです。

脳科学と学習・教育によると、年齢が上がるほど、一日を24時間で過ごすための自動的なリセット機構が弱くなり、概日リズムが狂うこと、また時計遺伝子mRNAの時計の振り子が止まってしまい、生活のメリハリが消えてしまうことが分かっているそうです。(p84)

回復に要する年月については、子どもの心身症ガイドブックに手がかりがあります。海外の報告(5-10年経過観察)によると、回復した(=社会復帰した)人は全体の60%です。

そのうちフルタイムの仕事についたのは30%で、平均3年半で回復しています。残りの30%はハーフタイムで働いており、平均4年半で回復しています。しかし残りの40%は自宅療養を続けていて、5-10年経っても治っていないとのことでした。

CFSは精神症状などの併存疾患が現れるかどうかによってA群からC群に分けられますが(後にA-D群になりました)、CCFSの場合も併存疾患がある場合は回復が長引きます。

このように、CCFSは、学校社会における さまざまな要因が重なりあって限界を迎えたときに発症する病気です。

また典型的なステージを経て発症するので、早期発見のためには、家族や教育関係者が子どもたちの変化に目ざとくあることが大切です。

次回、一連のエントリの最後の部分では、小児慢性疲労症候群(CCFS)の治療のために、医師、本人、家族ができることをまとめます。

小児慢性疲労症候群(CCFS)とは (5)治療法ーそれぞれの立場でできること
小児慢性疲労症候群(CCFS)の治療のために、当人、家族、医療関係者ができることをまとめています。子どもたちがCCFSを乗り越えるにはどうしたらよいでしょうか。これは、一連の記事の

▼治りやすい症状と治りにくい症状
小児慢性疲労症候群の症状の中には、治るものもあれば後遺症として残りやすいものもあります。その点はこちらの記事にまとめてあります。

子どもの慢性疲労症候群(18歳以下発症のCCFS)はどこまで治るか
時間はかかろうと、あきらめず情報を集め、治療に専念するのは賢明なことだといえます。

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