マンガで学ぶ子どもの脳脊髄液減少症ーフォアミセス2012年8月号

はてなブックマーク - 脳脊髄液減少症をわかりやすく説明した漫画 - 脳脊髄液減少症患者のつぶやき、  「とりあえず、生きてみよか・・・。」どもの脳脊髄液減少症…

このブログでは、小児慢性疲労症候群(CCFS)をはじめ、起立性調節障害(OD)や若年性線維筋痛症など、子どもの慢性疲労や不登校の見落とされやすい原因を扱ってきました。

しかし見落とすことができないのは、子どもの脳脊髄液減少症です。

最近、柔道事故の問題で、子どもの脳脊髄液減少症がクローズアップされましたが、我が子が不登校や慢性疲労に陥ったとき、この病気を疑う人は、まだほとんどいないのではないでしょうか。

それで今回は子どもの脳脊髄液減少症を理解するのに最適な一冊をご紹介したいと思います。それはfor Mrs. (フォアミセス) 2012年 08月号 [雑誌]に掲載されている『病と闘う女たち 脳脊髄液減少症「怠け病と言われて」』という60ページからなるマンガです。

▼追記
単行本になりました。

激しい頭痛とめまいで起き上がれない…!

「病と闘う女たち」という題名のため、読んでみるまでまったく知らなかったのですが、このマンガは、成人の脳脊髄液減少症ではなく、子どもの脳脊髄液減少症を扱ったものです。

7月にゆめさんがブログで紹介しておられたので気になっていたのですが、やっと読みました。すばらしいマンガでした。

脳脊髄液減少症をわかりやすく説明した漫画 – 脳脊髄液減少症患者のつぶやき、  「とりあえず、生きてみよか・・・。」

主人公は中学一年の田中有加(ゆか)さん。

有加さんは、ある朝起きると、「天井がぐるぐるしてからだがふわふわしてる」という得体のしれない症状を感じます。しかしめまい止めを飲んでも治らず、翌日には激しい頭痛に見舞われます。

原因は…と聞かれて、はたと思い当たったのは10日前、廊下で転んで頭をしたたか打ちつけたこと。脳脊髄液減少症の知識があれば、ここでハッと気づきそうなものですが、ふつうの家族にとってそれは無理というものです。

病院でくだされた診断名は「起立性調節障害(OD)」。起立性調節障害も起立性頭痛が特徴ですから、まず真っ先にこの病名が疑われたのは不思議ではありません。しかし脳脊髄液減少症はODと違って、夜になったら回復する、ということはありません。残念ながら起立性調節障害の治療ではよくなりませんでした。

「吐きたい…」「気持ち悪い」「背中…いたい…」「頭いたい…」「頭の中で箸をぐるぐる回されてるみたい…」。一日中痛みでうずくまっている日が続きます。ここで書かれている「背中」の肩甲骨の間の痛みは、脳脊髄液減少症に特有の症状です。

脳脊髄液減少症について詳しくは以下のエントリをご覧ください。

【7/5】「あなたの頭痛 大丈夫?原因不明は“髄液漏れ”か」まとめ
2012年7月5日(木)にFNNで放送された脳脊髄液減少症を紹介した番組「あなたの頭痛 大丈夫? 原因不明は“髄液漏れ”か」のまとめです。脳脊髄液減少症とは何でしょうか、どんな原因

行きたくても行けないんだよ

それから、有加さんの状況は迷走していきます。父親があまり真剣に受け止めてくれなかったり、緊張型頭痛・偏頭痛・自律神経失調症と診断されたり…。

学校の先生は不登校と決めつけ、やっとの思いで遅れて登校すると「なまけてちゃダメよっ!」と大声で叱られる。“すごく有名な小児科の先生”のところに行くと、「親が死ねば子どもは元気になるよ」と言い放たれる…。

あまりにもひどい話ですが、まったく珍しい話ではなく、どこにも誇張がないことは、わたしも小児慢性疲労症候群(CCFS)のことで経験ずみです。まさに現実そのものです。

父親は娘の不調を心の問題だと思ってこう言います。

「学校に行かなくたって勉強はできるよ」

それに対し、有加さんは涙ながらにこう訴えます。

「行きたいよ… 本当は学校…行きたいよ 友達と…一緒にいたいよ… 高校にだって…行きたいよ でも行きたくても行けないんだよ」

小児慢性疲労症候群の子どもも、起立性調節障害の子どもも、これと同じ気持ちです。

「学校嫌い」とか「精神的な問題」、「なまけもの」、「サボり」、「やる気がない」、「親の過保護」、「心の弱さ」、「不登校」…。散々ひどいことを言われますが、学校に行きたくないのではありません。どうしても学校へ行きたいのに、どうしても行けないのです。

学校に行きたくてたまらない生徒だったんです

マンガとしては、ここが折り返し地点です。娘の涙に心を動かされた父親は協力的になります。中学二年生になって代わった担任の先生は気遣ってくれるよい人でした。やがてついに脳脊髄液減少症という病名にたどり着きます。

この後半部分は、脳脊髄液減少症をとてもわかりやすく説明した内容で、脳脊髄液減少症の子ども自身やその家族に希望を与えるストーリーです。最後まであらすじを書いてしまうのは考えものですから、ぜひご自身でお読みになってみてください。

最後に、「え…田中って本当に病気だったの?」と言う前の担任の先生に新しい担任の先生が言い放つ言葉は、子どもの脳脊髄液減少症の患者にとってとても慰めになります。

「そうですよ、『ただの不登校』じゃないんです それどころか彼女は学校に行きたくてたまらない生徒だったんです」。

子どもの脳脊髄液減少症を知ってほしい

この話では脳脊髄液減少症という病名にたどりつくまで1年以上、8割がた回復するまで2年近くかかっています。しかしそれでも経過としては早いほうかもしれません。わたし自身はCCFSにたどり着くまで数年かかり、まだ回復途上です。

すべての子どもが、この話のように正しい診断にたどり着き、回復するとは期待できないかもしれません。しかし、子どもの脳脊髄液減少症についての知識が広がれば、学校に行きたくてたまらないのに、「怠け病と言われて」傷ついている子どもを減らすことができるでしょう。

このマンガを通して、不登校にひそむ隠れた原因の一つ、子どもの脳脊髄液減少症を、一人でも多くの人に知ってもらいたいと思います。

子どもの脳脊髄液減少症について詳しくはこちらをご覧ください。

頭痛で学校に行けない子どもの脳脊髄液減少症―よく似た起立性調節障害(OD)と区別するポイントとは?
不登校の一因である子どもの脳脊髄液減少症についてまとめました。同じ起立性頭痛を特色とする起立性調節障害(OD)と見分けるポイントや、LUP testと呼ばれる検査方法、治療法につい

その他本文エントリには関係ないものの、気になったことを書いておきます。

腰椎からの髄液漏れ

有加さんの脳脊髄液減少症の検査は脳MRIとRI脳槽シンチグラフィーで行われましたが、発見されたのは腰椎からの髄液漏れでした。これは、「画像で分かる脳脊髄液漏出症」と脳脊髄液減少症というエントリで書いたように、現在議論になっている点です。

RI脳槽シンチグラフィーの前に腰椎穿刺によって検査薬を注入しますが、そのせいで腰椎から髄液漏れが生じることが指摘されています。つまり、検査によって異常が生じるのではないかということです。

このマンガで、腰椎からの漏れ、という誤解を招きやすいケースが書かれているのは、この話が実際の話に基いて忠実に書かれたか、誤解を払拭したいという思いがこめられているかどちらかでしよう。

一つ明らかなのは、腰椎から髄液が漏れている患者の中には、腰椎穿刺で漏れだしたわけではなく、ブラッドパッチが本当に効く人がいるということです。検査法の改善が待たれます。

小児慢性疲労症候群(CCFS)

マンガの中では、不登校13万人という新聞の見出しが登場します。

このブログは、おもに、不登校の子どもにひそむ、小児慢性疲労症候群(CCFS)という病気について扱っています。子どもの脳脊髄液減少症について調べて、このエントリをご覧くださった方がいれば、小児慢性疲労症候群(CCFS)のことも知ってくださると嬉しく思います。

その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?
その「不登校」は、本当に単なる「怠け」「こころの問題」「親の育て方のせい」でしょうか。もしかすると深刻な中枢神経の病気、小児慢性疲労症候群(CCFS)かもしれません。

起立性調節障害(OD)

起立性調節障害(OD)はこのマンガではただの心の問題のように扱われています。新起立試験もせず、起立性調節障害を診断し、痛み止めを処方しています。本来あってはならないことなのですが、実際にあった話なのかもしれません。

起立性調節障害の理解は広がったものの、軽い自律神経失調症と誤解されていることも少なくないのでしょう。小児慢性疲労症候群(CCFS)の三池先生もそのように扱われることを危惧して、起立性調節障害と小児慢性疲労症候群(CCFS)を区別しておられました。

起立性調節障害は単なる心の問題ではありません。詳しくは以下のエントリをご覧ください。

朝起きられず学校に行けない子の「起立性調節障害(OD)」とは? よくある誤解と正しい対処法
朝、起きられない。目覚めても顔色が悪くぼーっとしている。起き上がろうとするとフラフラする。日中はだるいが、夕方からは元気になる。思春期の子供に発症しやすい疾患、起立性調節障害(OD

パーキンな日々 でんぐり返りができるまで

for Mrs. (フォアミセス) 2012年 08月号には、若年性パーキンソン病の闘病マンガとして有名なぴんくのハート―パーキンソン病と明るく向き合う実録体験記でおなじみのごとう和さんの新連載「パーキンな日々 でんぐり返りができるまで」も掲載されています。

ぴんくのハートでは慢性疲労症候群(CFS)とは違って、人から症状が見えてしまうゆえの悩みが書かれていたりして、パーキンソン病の友人の気持ちを考えるきっかけになりました。

いきなりぴんくのハートでキーパーソンだった人の訃報からはじまり、少しショックですが、今回も元気の出る闘病マンガです。単行本になったら読んでみようかと思いますが…。10月号までの3回連載?だったようなので単行本収録は遠そうです。