朝どうしても起きられない、夜なかなか寝つけない、一度眠ると10時間以上目が覚めない、早起きしようと努力するとかえって夜寝つけなくなる…。
こうした睡眠の悩みをお持ちでしょうか。まるで自分のことのようだ、と思う方もいるかもしれません。これは大人でも子どもでも発症する深刻な睡眠障害、DSPSの症状です。
DSPSは、特に小児慢性疲労症候群(CCFS)、不登校の子どもたちに関する研究で知られています。もちろん、大人の慢性疲労症候群(CFS)の方や慢性疲労症候群とは関係のない方でも、この睡眠障害を発症することがあります。
これから連載する一連のエントリでは、この深刻な睡眠障害について、わたしが調べたことをまとめます。DSPSとは何でしょうか。どうすればDSPSに対処できますか。
※疾患概念より治療法がまず知りたいという方は以下のリンクから四番目の記事へお進みください。
もくじ
DSPSとは何か
DSPSは、概日リズム睡眠障害(睡眠覚醒スケジュール障害)のひとつです。約10時間以上眠ることが多いので過眠型睡眠障害とも言われます。
このタイプの睡眠障害には、DSPSをはじめとして、次の3つの型があるそうです。しかしそれぞれは独立する病気ではなく、互いに移行することもある連続した疾患とみなされています。
1.睡眠相後退症候群(DSPS)
DSPSは、睡眠相後退症候群(Delayed sleep-phase syndrome )の略称です。1981年に、モンテフィオーレ医療センターのエリオット・ウェイズマン博士によってまとめられた疾患概念で、 最も一般的な過眠型睡眠障害です。
DSPSの特徴は、簡単に言うと、極端な「宵っ張りの朝寝坊」です。夜中の2時から朝の6時ごろまで眠れず、朝にまったく起きられなくなります。
しばしば誤解されますが、睡眠相後退症候群と夜型人間はまったくの別物です。単なる夜型の場合は、生体リズムが同調していますが、睡眠相後退症候群の場合はそうではないからです。この点については後ほど取り上げます。
この一連のエントリではおもにこの睡眠相後退症候群(DSPS)についての情報をまとめます。
2.非24時間型睡眠・覚醒症候群(non-24)
毎日の入眠が少しずつずれる過眠型睡眠障害です。たとえば30分ずつ規則正しく後退していく場合があります。DSPSと関わりが深く、互いに移行しあうこともある疾患と考えられています。
非24時間型睡眠・覚醒症候群は24時間にリセットできなくなっていることが問題なので、このリズムにしたがって生活できる場合には、体調面に大きな問題がないこともあります。
しかし無理に社会のリズムに合わせようとすると、1ヶ月に10日ほど著しい不眠が生じます。そのため、周期的な不眠や覚醒困難のように思われ、なかなか正しい診断に辿りつけないことがあります。わたし自身がそうでした。
non-24について詳しくは以下のエントリをご覧ください。
3.不規則型睡眠・覚醒症候群
睡眠をとる時間帯が24時間に散らばっている過眠型睡眠障害です。乳幼児期から睡眠・覚醒リズムが確立していない場合もあり、日常生活の困難さから疲労感も強いのが特徴です
睡眠相後退症候群(DSPS)の患者が、朝起床しようと努力を続けた結果 重症化し、不規則型のような睡眠リズムに至ることもあるため、素人療法には注意が必要でしょう。
鑑別を要するその他の過眠型睡眠障害には、以下のようなものがあります。
◆クライネ・レヴィン症候群…1日から数日にわたり異常に長い時間眠りにつく。
◆ナルコレプシー…抵抗できない睡眠発作により意識を失う。笑った瞬間に脱力するなどの特徴もある。睡眠麻痺(金縛り)や幻覚を伴う。
過眠型睡眠障害について詳しい専門的な情報は、以下のサイトをご覧ください。
B:過眠型睡眠障害|子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院
慢性疲労症候群との関わり
睡眠相後退症候群(DSPS)をはじめとする過眠型睡眠障害についてこのサイトで取り上げるのは、この病気が慢性疲労症候群(CFS)と非常に深い関わりを持っているためです。
子どもの慢性疲労症候群(CCFS)との関わり
次のようなデータがあります
◆不登校の子どもの約60%は小児慢性疲労症候群(CCFS)国際診断基準に当てはまる
◆不登校の子どもの約80%は睡眠相後退症候群(DPPS)の診断基準に当てはまる
ですから、DPPSと小児慢性疲労症候群(CCFS)は別の疾患ですが、両者は非常に合併しやすい関係にあります。
大人の慢性疲労症候群(CFS)との関わり
DSPSはおもに思春期に発病する病気ですが、大人の慢性疲労症候群(CFS)にも合併することがあります。大人のCFSの場合でも、平均睡眠時間が健康な人より長いというデータが示されています。
検査でわかるようになる? 慢性疲労症候群(CFS)の10の異常によると、CFS患者の平均睡眠時間は470分であり、過眠型睡眠障害の「約10時間」という定義に肉薄しています。
さらに、アクティグラフによる以前の検査によると、「CFS患者[の睡眠時間]は大きく分けて3つのパターンになる」と書かれています。(日本臨牀65 第6号 p1059)
それは以下の3つです。
(1)「一度睡眠に入ると10時間以上睡眠が見られている」過眠型
(2)「深夜2時ごろに就床し、午前11時ごろに起床している」睡眠相後退型
(3)「一度寝ても短時間で覚醒する」断続睡眠型
加えて非24時間型も散見されると述べられています。
ですから、DPPSをはじめとする過眠型睡眠障害は、大人と子どもの別なく、慢性疲労症候群に合併しやすい、関連性の深い病気といえるでしょう。
起立性調節障害(OD)と関わり
DSPSの「朝起きられない」という症状は起立性調節障害(OD)などの低血圧関連疾患にも見られる特徴です。日本では子どもの慢性疲労のうちODを合併しているのは1/3ほどという研究があります。
CFS患者が朝起きられない場合、DSPSの可能性が高いとはいえ、ODを合併している可能性も見過ごすことはできません。ある見解によると、起立性調節障害の自律神経症状は、慢性疲労症候群の前段階を示す体のアラームであるとされています。
起立性調節障害(OD)の症状については以下のエントリをご覧ください。
DSPS最大の問題は、気づかないこと
DSPSは難治性で治療が非常に困難です。しかし治療を始める以前の深刻な問題があります。それは、病気であることに気づきにくいということです。
家族や医者が気づかない
DSPSは、夜遅くまで起きていて朝起きられない、という症状が目に留まりやすいため、単なる生活習慣の乱れと勘違いされがちです。
子どもであれば、昼ごろようやく起きてきて、ゲームやテレビ、マンガ、音楽鑑賞で一日が終わってしまい、しかも夜なかなか寝ようとしないため、親や学校関係者から見ると、怠けているようににしか思えないかもしれません。
DPPS患者は、「本人の自覚が足りない」「甘えだ」「心の弱さだ」「怠けている」「しつけがなっていない」と非難の的になりやすく、れっきとした病気だとは思われません。もし病気を疑われても、精神疾患や不眠症と誤診されるのが関の山でしょう。
本人さえも気づかない
DSPS最大の問題は、本人さえも、これが病気だとなかなか気づかないことです。朝起きられないのは生活習慣の問題だと指摘されると、本人も、自分の努力の不足で起きられないのだと思い込んでしまいます。
それで一念発起して朝早く起きようと努力しますが、DSPSは早起きしようとするほど体内時計が狂う病気です。やがてどんなに努力してもうまくいかないので、自分はダメな人間だと自分を責め、自尊心を失ってしまいます。よもや病気のせいだとは思い当たりません。
DSPSを合併している慢性疲労症候群の患者でも同じです。多くの患者は、睡眠のリズムくらいは自分でコントロールできるはずだ、と考えます。慢性疲労症候群は仕方ないとしても、早寝早起きできないのは自分の責任だと感じ、自分を責めてしまうのです。
しかし小児慢性疲労症候群(CCFS)についての専門書不登校外来―眠育から不登校病態を理解するのp28-29にはこう書かれていています。
これらの睡眠問題は、極めて不規則な生活を強いられている当の本人でさえ気がついていない場合も多々ある
…[DSPSの患者たちは]何とか朝の活動時間に起床しようとしていることもあるが、このような場合は微熱、あちこちの痛み、不定愁訴等の訴えが多く、エネルギーが枯渇した状態に気合を入れ、鞭打って、何とか社会生活を持続させようとする、健気で涙ぐましい、実りのない戦いを続けている人たちである
DSPSは決して怠けや意欲の不足ではありません。難治性で、固定化すると治療は困難を極める重度の睡眠障害です。それなのに、指摘されるまで病気と気づかないところに、この病気の深刻さがあるのです。
睡眠相後退症候群(DSPS)には、生半可な素人療法は役に立ちません。それはむしろ症状を悪化させ、重症化させます。対処するには正確な知識が不可欠です。
続く二番目のエントリでは、引き続き睡眠相後退症候群(DSPS)に注意を喚起し、DSPS特有の症状にはどんなものがあるのか、という点をまとめたいと思います。