道北の森で見つけた、食べられるキノコの見分け方まとめ

1年目、あまりに複雑すぎて自分には無理だろう、と思いました。

2年目、知らないものがあまりに多すぎて圧倒され、疲れ果てました。

3年目、やっと楽しくなってきましたが、知れば知るほど、まだほんの入口にすぎないことを痛感しています。

何のことでしょうか。

キノコです。

道北に引っ越した初年度、地元の人たちに、森に生えている有名な食用キノコをいくつか教えてもらえました。でも、いざ見分けるとなると、どれも同じように見えてしまいます。わたしには難しすぎる、絶対ムリだと感じました。

しかし、2年目、コロナの流行のせいで、ひたすら独りで森に入り浸るようになりました。キノコ観察の経験値を積み、細心の注意を払って同定して食べてみると、すばらしく美味でした。でも、わけのわからないキノコが多すぎて圧倒され、頭がパンクしそうでした。

そして今年、3年目。もうこれ以上進歩できそうもない、と思っていたのに、いつの間にかキノコを見る目が養われていました。キノコ観察が楽しくなって、食べられる種類も増えました。世界が広がったように感じました。

キノコ狩りは本当に難しいです。山菜採りとはわけが違います。まるで外国語のようです。キノコの言葉、キノコの文法があります。これまでと異なる物の考え方をしなければ、見分けることができません。

なおかつ、キノコの単語、すなわち覚えるべき種類は数百種から数千種もあり、中には猛毒をもつキノコも少なくないのです。

地元の人に聞こうにも、詳しい人が全然いません、1種類か2種類、有名なキノコ(北海道なら「ラクヨウ」と「ボリボリ」)の見分け方を知っている人は時々いますが、何十種類も食べたことのある人はごく稀です。

少なくとも、わたしの身近には誰一人いませんし、コロナ禍で人と会うのも難しくなったので、キノコの言語をすべて独学で身につけるしかありませんでした。

それでも、3年目にして、キノコ観察ほど楽しいものはないと感じています。森歩きも、山菜採りも、バードウォッチングも、自然に関わることすべてが好きですが、キノコはその中でも指折りの奥深さです。

わたしはキノコの研究をしているわけではなく、ただ見分けて採取して食べているだけですが、いつもその複雑なデザインに圧倒されます。個々のキノコの色や形はもちろん、森の木々と菌糸をつないで資源を循環させる仕組みのデザインはなんと精巧なのでしょう。

現代の科学でもほとんど研究が進んでおらず、未知なる種だらけ。もしキノコと菌類を解明できたら、現代の環境危機にもきっと役立つに違いない。そう感じさせてくれる最先端の分野だと思っています。

この記事では、これまで採取して食べてみたキノコ、および同定はしたものの食べるには至っていないキノコについて、来年以降に役立てる個人的な覚え書きとするために、まとめておきたいと思います。

新しいキノコを食べた時や、新しい情報を知った時など、情報は今後も、随時追記・修正していきます。

食べられるキノコの見分け方(五十音順)

森で見つけた食べられるキノコを五十音順に載せます。角括弧[]で名前をくくっているものは、同定はしたものの、まだ食べるには至っていないキノコです。

キノコは植物よりも格段に見分けが難しく、非常に慎重に観察しなければならないので、まだ食べてみたのはわずかです。

この記事を作成した主な目的は、個人的な覚え書きとするためです。まだ自然観察を初めて数年しか経っていない素人なので、間違っている部分もあると思われます。参考にする場合は、複数の情報源を確認してください。

キノコ以外の山菜類については別の記事にまとめています。

道北で見つけた山菜・野生ハーブの見分け方や食べ方まとめ
森歩きや自然観察の中で見つけて味わった、北海道の山菜・ハーブについて、見分け方や利用方法をまとめました。

また、ビアトリクス・ポターが描いたキノコの絵についての本ピーターラビットの野帳(フィールドノート) を以前読んだときは、全然知らない名前ばかりでちんぷんかんぷんでしたが、今読み返してみると、馴染みある名前ばかりになっていて、とても楽しめました。キノコ好きの人におすすめです。

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[アイシメジ]

見分けるポイント
・トドマツ、アカエゾマツ、ミズナラなどの林に生える
・金色っぽい色合いの傘。よく見ると黄色の地に、やや緑みをおびた焦げ茶色の繊維模様がある
・柄は白でやや黄みがかる。とりわけ上部が白く、下部がやや黄色を帯びる
・ヒダは白いが、外周部が傘と同じ黄色を帯びているという顕著な特徴がある

カラマツ、トドマツ、シラカバなどの混交林で見つけた黄土色の傘のキノコ。以前にチャオビフウセンタケやイタチタケを見た場所で発見しました。

黄土色というか、鈍い金色を思わせる、めったに見かけない傘色です。すぐに図鑑で見たアイシメジでは? と思い浮かびました。

アイシメジが生ええる環境はトドマツ、アカエゾマツ、ミズナラなどの林とされていて、発見した場所にはトドマツがあったので当てはまっています。

傘は黄色の地に、やや緑色を帯びた焦げ茶色の繊維模様が放射状についています。この2種類の色が混ざり合って、金色にも思える複雑な色合いを生み出していたのでした。

柄はほぼ白で、少しだけ黄みがかっています。アイシメジは柄の上部が白色で、下にいくほど少し黄色いという特徴があるそうです。

傘裏のひだの様子。後で調べて知りましたが、ひだは白色なのに、傘の外周部だけ黄色くなっているのがアイシメジの特徴だそうです。下の写真でも確認できます。

ちょうど傘の黄色がヒダまで侵食しているかのようで、似たような傾向をもつキノコには、ヒダの外周部が赤く色づくヤブレベニタケがあります。

断面を見ると、ヒダは元々は湾生のようでしたが、柄から分離しているため離生でした。

柄の内部は繊維質で髄状。調べてみると、中実から髄状となっている資料中空となっている資料空洞になっているものもある、という資料もあり、ばらつきがあるようでした。

アイシメジの名前の由来は、幾つかのサイトによると、何種か挙げられている近縁種の中間、間の子の特徴をもつ、という意味だそうです。

全体が黄色っぽいシメジであるキシメジ(キンタケ)と、もう少し黒っぽいシモフリシメジの中間だとする、シモフリキンタケという別名もあるそうです。

とはいえ、シモフリシメジは霜が降るような遅い時期に出てくるのに対し、アイシメジは普通に9月の他のキノコが多い時期に出るキノコですから、ふさわしい命名となると難しいものです。

アイシメジは黄色い傘やヒダが目立ちますが、他に黄色みを帯びるシメジには、キシメジ(キンタケ)、ニオイキシメジ、カラキシメジ、シモコシなどがあるそうです。(詳しくは「キシメジ」の項を参照)

調べてみたら、なにやらややこしいことになっている様子で、同定は一筋縄ではいかないかもしれません。キシメジやシモコシは日本で古くから食されているキノコですが、近年、海外の報告から安全性に疑問が呈されてしまったようです。

しかしいずれも、ヒダや柄が黄色を帯びるという特徴があります。アイシメジは柄とヒダが白く、ヒダの外周部が黄色っぽいという際立った特徴があるので、見分けることは難しくなさそうでした。

また、ハエトリシメジは、アイシメジと配色が似ていて、傘が黄色く、ヒダや柄は白っぽいようです。食用にされることもありますが、同じくハエ取りキノコとして知られるベニテングタケと同じイボテン酸という有毒成分を含んでいます。

しかしハエトリシメジは、ネズミシメジのように傘の中央が突出しているという特徴があります。

また、ハエトリシメジのヒダは白色です。アイシメジのような、ヒダの外周部だけ黄色いという特徴はありません。

アイシメジは多少苦いものの、食用になる美味なキノコとされているため、見分けやすいのはありがたい点です。今回は初めて見たキノコだったので持ち帰りませんでしたが、次回見つけたら、もう少し調査してから食べてみるかもしれません。

アカモミタケ

見分けるポイント
・傘も柄も全体がサーモンピンク
・傘に同心円状の環紋がある
・ヒダを傷つけるとオレンジ色の乳液が出る。乳液は変色しない
・柄の表面にクレーター状のくぼみができやすい
・柄は中空

アカモミタケは、9月下旬から10月にかけて、トドマツ林で頻繁に目にするキノコです。過去のアルバムを見直してみると、まだキノコの名前を全然知らなかった1年目にも、このキノコの写真を撮っていました。それくらい身近な存在です。

ピーターラビットの野帳(フィールドノート) によると、ビアトリクス・ポターもスコットランドでこのキノコを見つけていました。(p88)

色々な食用キノコを食べてきましたが、わたしが一番気に入っているのが、何を隠そうこのアカモミタケです。単体ではそれほど美味しいキノコではないのですが、旨味成分が強く、料理に混ぜると極上の味わいに変えてくれる魔法の食材です。

外見はとても鮮やかで、傘から柄に至るまで、全体がサーモンピンク。傘に同心円状の環のような模様(環紋)があります。下は幼菌の写真ですが、環紋がわかりやすいと思います

環紋があるのは、チチタケ属のキノコの特徴で、ハツタケ、チチタケなどが親しまれていますが、食べられないキノコも多いです。ですから、特徴をよく知って見分けることが大切です。

といっても、傘だけでなく柄まで全体がサーモンピンクのキノコは珍しいので、見分けるのはさほど難しくありません。2年目の秋、図鑑で調べてすぐに同定でき、味見することができました。

非常に鮮やかな外観で、林内の草地に生えている場合はすぐに目に止まります。一方、落ち葉の多い場所に生えている場合は、落ち葉の色に同化しやすく、見つけ出すのが至難の業になります。

最大の特徴は、傷ついたヒダからオレンジ色の乳液が滲み出ることです。これがさえ確認すれば、候補はアカモミタケかアカハツタケに絞ることができます。

滲み出た乳液が変色せずオレンジ色のままだとアカモミタケ、30分くらい経って青緑色に変色すれば、アカハツタケです。いずれも食用になるキノコなので安心です。

ヒダはもろいので、採取した段階ですでに破れて乳液が染み出していることもよくあります。

わたしが住んでいる地域に生えるのは変色しないアカモミタケばかりです。一般にアカモミタケは北海道に多いトドマツ林に出るのに対し、アカハツタケはヨーロッパアカマツ、クロマツなどに出やすいとされます。

それらは北海道には自生していないタイプのマツなので、アカハツタケは見ないのでしょう。(アカハツについては、特徴が似ている「ハツタケ」の項も参照)

アカモミタケの特徴としては、ほかに、柄の内部が空洞である柄の表面にクレーターのようなくぼみができやすい、といった点もあります。

しかし、全体の色と乳液の2点のみで十分に同定することができます。もしヒダや柄の色がサーモンピンクでなかったり、乳液が出なかったり、乳液の色が違ったりしたら別のキノコです。

調理する際には、水につけると旨味成分である乳液が出てしまうと書いてあったので、軽く流水で洗って、はけでゴミを落とすと良いようです。

外見は鮭の切り身のように見え、食感はボソボソしていますが、近縁のアカハツタケやチチタケ同様、だし汁を取るのに向いています。スープや炊き込みごはんの旨味を出すのにうってつけです。

下の写真はタマゴタケとアカモミタケを混ぜたキノコご飯です。出し汁が良いとされるアカモミタケの味が最大限に活かされて、ご飯が美味しいところに、タマゴタケのトゥルトゥルな食感が合わさって、完璧なバランスに思えました。

アカヤマドリ

見分けるポイント
・幼菌は赤褐色の傘と黄色い柄。特に傘に脳のようなシワがある
・幼菌は傘が柄から外れやすい
・成菌は20cm級まで成長し、とにかく巨大で重い
・成菌の傘はひび割れていて、触ると蒸しパンのようにもちもちしている
・傘の裏側は管孔で黄色。傷つけても変色しない
・断面は、肉は白、管孔は黄色で、変色しない
・傘の質感や巨大さがとてもユニークで、似ている毒キノコはない

脳のようなシワと、異様な巨大さで、一度見たら忘れない魅力的なキノコ、アカヤマドリ。手持ちの図鑑「北海道のキノコ」の表紙にも抜擢されており、人気の高いキノコであることがうかがわれます。

名前の由来は、高級食用ポルチーニ(和名ヤマドリタケ)に基づくもので、ヤマドリタケの仲間で傘が赤いことから、アカヤマドリとなっています。

アカヤマドリタケではなく、「タケ」部分が省略されているせいで、鳥みたいな名前になっていますが、植物などの命名ではよくある省略方法です。(例 : ツリフネソウとキツリフネ、ヒヨドリバナとヨツバヒヨドリ等)

有名なキノコでありながら、キノコ観察を始めて4年目になるまで、まったく遭遇したことがありませんでした。非常にユニークな外見でしかも美味しいという情報だけ知っていて、いつか出会える日を憧れていました。

やがて4年目の7月半ば、森の奥のほうで、柄が異常に太い、不可思議な姿のキノコを発見しました。

少し触ると、傘が簡単に柄から外れてしまったのも衝撃でした。後で調べたところによると傘がもげやすいのはアカヤマドリの幼菌の特徴だそうで、取り扱い注意です。

これが初めてのアカヤマドリとの出会いでしたが、もう虫食いだらけで食べられそうにはありませんでした。

しかし一ヶ月後の8月下旬に、森の入り口の草地に、超巨大なキノコが群生しているのに遭遇しました。

思わず笑ってしまうほどの巨大さで、初めて成菌を見るにもかかわらず、ひと目で同定できました。アカヤマドリ以外に考えられません。

あたりを見ると、点々と複数が散生していて、ぜんぶで6本ほど見つかりました。どれも巨大で、最も小さいのでも20cmは超えていて、大きいのは30cmくらいありました。間違いなく今まで見たあらゆるキノコのうちで最大です。

もう傘がひび割れていて、老菌に見えましたが、せっかく見つけたのだし、採ってみようと思い、根元をつかんで引き抜いてみました。すると、信じられないほどの重さ!

わたしの腕と同じくらいかと思われる太さの柄に、ぎっしり詰まった肉。ずっしりと重量感があります。傘は素手で触ると非常にさわり心地がよく、蒸しパンのようで、ふかふかした感触でした。世の中にこんなキノコがあろうとは。

裏側を見ると、食べられるかどうか微妙なライン。試しに裂いてみると、かなりきれいな肉だったので、試しに2つだけ持って帰りました。

買い物かごに入れて持ち帰る写真。大きさがよくわかります。

重さを軽量すると、1kgを超えていました。

解体してみると、柄の内部は虫食いがひどく捨てざるを得ませんでしたが、傘の内部の肉は、比較的きれいな場所が残っていました。虫食い部分、ピンク色に変色している部分は捨てましたが、それでもこれだけの量の可食部が残りました。

見てのとおり、管孔の断面は黄色、肉は白で、空気に触れると変色するような性質はありません。肉は古くなるとうっすらピンク色を帯びるようで、わたしは一応、その部分は取り除きました。

後日、同じ場所で、アカヤマドリの幼菌も見つけることができました。

地上に現れてすぐの段階では、傘がまだ膨らんでおらず、脳にそっくりなシワが刻まれています。これを可愛らしいと思うかグロテスクと思うかは人それぞれの感性次第ですが、わたしは大好きです。

隣に生えていた、もう少し成長した若いアカヤマドリ。傘に脳状の立派なシワが刻まれていますが、少しずつ膨らんでいるのがわかります。

傘が膨らみ始めたこのアカヤマドリは、わずか3日後に見に行くと、下の写真のような姿になり、すっかり傘が膨らんでいました。こうなると傘の肉もボリュームがあります

管孔に少し虫が入った穴がありましたが、解体すれば、傘の肉は食べられる部分が多くありました。一方、柄は虫食いがひどく食べられませんでした。

アカヤマドリは、全体を食べることができ、肉と柄は食感が異なると言われます。しかし、柄の中に虫が入りやすいので、もし柄を食べたいなら成長するのを待たず、幼菌の時点で採取する必要があるかもしれません。

とはいえ、アカヤマドリの魅力は傘の肉のほうにあると思うので、膨らむ前に採るのはもったいない気もして、悩ましいところです。わたしは膨らんでから採るので、柄は食べたことがありません。

アカヤマドリの下処理方法は、こちらのブログを参考にしました。塩を入れた水に10分浸して虫出しし、使いきれないぶんは冷凍保存しました。

煮汁をとると美味しいとあったので、鶏肉ならぬアカヤマドリの親子丼とパスタにしてみました。どちらもアカヤマドリの独特の煮汁のせいで、真っ黄色になってしまいました。

親子丼のほうは、アカヤマドリの肉が生麩のようにふわふわでしたが、あまりキノコの魅力が出ていなかったので、お勧めできません。

より美味かったのはパスタのほうで、ヤマドリタケ(ポルチーニ)と同じような香ばしさがあり、アカヤマドリの食感も滑らかで、とろとろしたクリームパスタのようでした。個人的にはポルチーニより美味でした。

憧れのアカヤマドリは、予想を上回る美味しさで、今まで食べたキノコの中でも、味も大きさも最高級でした。

こんなに巨大なキノコがそうそうポンポンと生えるわけはないだろう、と思いますが、意外にも大量発生の報告が多いキノコです。地中でいったい何が起こっているのか、本体の菌糸はどれほど巨大なのか謎が謎を呼びます。

非常に覚えやすく、見分けやすく、特に似た毒キノコも存在しないので、キノコ狩り初心者にもお勧めできるキノコです。

アシグロタケ/[キアシグロタケ]

見分けるポイント
・倒木や枯れ枝から生える
・どちらも足が黒い。キアシグロタケは下半分のみ黒いことが多い
・傘の色はアシグロタケは赤系統の褐色、キアシグロタケは黄系統の褐色
・アシグロタケは傘のふちが波打ち、中央が黒い
・キアシグロタケの傘には放射状の繊維模様があり、中央が黒い
・キアシグロタケは数cm以下、アシグロタケはその2倍の大きさ
・裏面はヒダではなく管孔。目は細かく穴はほとんど見えない
・管孔の色は白だが、キアシグロタケのほうがやや黄みを帯びる
・柔らかいが強靭なゴムのような感触で、裂くことができない

夏から秋にかけて、広葉樹林を歩いていると、枯れ木や倒木に、褐色のラッパのような傘のキノコが生えているのを見かけます。名をアシグロタケといい、手のひらくらいの大きさがあるので、遠くからでもよく目につきます。

遠目にはヒラタケやムキタケのようにも見えることもありますが、近づいて採取してみると、形が違います。ヒラタケやムキタケは木の幹に半円形の傘がくっついていますが、アシグロタケは柄のあるラッパ型のキノコです。

傘は茶色で、中心が凹んで黒くなっています。傘のふちはひらひらと波打っているので、大きな花のようだと感じることもあります。

このキノコは裏側に大きな特徴があります。裏はヒダではなく微細な穴が空いている管孔と呼ばれる構造です。管孔が極めて小さいので、肉眼では穴はほとんど目視できません。

このようなヒダではなく管孔をもつキノコは「多孔菌」と呼ばれ、木から生えることが多いキノコの一群です。

触った感触もまた独特です。驚いたことに、傘は薄く柔らかく、まるでヨガマットのようです。しかし手で引っ張ってもまったく裂けず、頑張って裂こうとしても下の写真のようにひび割れが入る程度です。

最大の特徴は、アシグロタケという名のとおり、柄(足)だけ黒いことです。傘の見た目だけでも似たキノコが存在しないのに、足だけ黒いという強烈な個性を持っているので、初心者でも他のキノコと間違えることはありません。

ゴムのように強靭な肉質なので、とても歯で噛み切ることはできません。そのため、食用キノコにはなりませんが、フルーツのような爽やかな香りがあり、とても良い出汁がとれることで知られています。

採取したアシグロタケは、軽く洗って水を切ります。ある程度乾いたら、1分ほどレンジで加熱して水分を飛ばし、カラカラになるまで屋外に干しておきました。

乾燥したら、水に入れて沸騰させ、一晩放置することで、美味しい出汁をとることができます。

実際に料理に使ってみたところ、アシグロタケ単独では水臭すぎて、役に立ちませんでした。あくまでメインとなるのは味噌や昆布などの出汁で、アシグロタケは香りや旨味を増すための補助的な食材と考えるべきでしょう。

アシグロタケと似たキノコに、キアシグロタケがあります。

アシグロタケの大きさが5~20cmとされるのに対し、キアシグロタケははるかに小型で、英語のサイトには、傘の大きさは2cm~7cm程度と記載されていました。

黄色っぽいラッパのような形の傘で、中央がくぼんで黒くなっています。アシグロタケは赤系統の褐色で、キアシグロタケは黄系統の褐色です。

かすかに放射状の繊維模様が入っていて、傘のふちはやや波打っていますが、アシグロタケほど顕著ではありません。

裏面はアシグロタケと同じく、ヒダではなく管孔です。

図鑑によると、アシグロタケの管孔は白色、キアシグロタケの管孔は帯白色(つまりクリーム色)となっており、キアシグロタケのほうが裏面の色は少し薄汚れて見えるようです。

そして名前のとおり、下から見上げてみると、アシグロタケと同様に、柄の付け根が黒くなっています。ただし、アシグロタケの柄が全部黒いのに対し、キアシグロタケの柄は下半分だけ黒いという違いがあります。

アシグロタケのほうも、下の写真のように、柄全体ではなく、柄の下半分だけ黒い個体を見たことがありますが、まれだと思います。ネットでも画像検索すると、柄の下のほうのみ黒いアシグロタケの写真がありました。

キアシグロタケもアシグロタケと同様、美味な出汁がとれるそうです。しかし、小さい上に、アシグロタケよりも見かける頻度が少なく、あまり利用価値がないかもしれません。

アミガサタケ

見分けるポイント
・春に生える
・傘が立体的な網のような形
・傘が脳のような形ではない(猛毒シャグマアミガサタケとの区別)
・縦半分に切ると内部は空洞

フランスで高級食材「モリーユ」として知られるアミガサタケは、珍しく春に生えるキノコです。その名のとおり、立体的な網目のような傘が特徴で、そのユニークさゆえに他のキノコと間違うことはほとんどないでしょう。

傘の形には個体差があり、写真のように平べったいものから、球形に近いもの、円錐のように尖っているものまで色々です。

形状や色の微妙な違いによって、普通のアミガサタケ、マルアミガサタケ、チャアミガサタケ、トガリアミガサタケなど細かい種類の分別されますが、いずれも同じように食べることができるようです。

半分に切ってみると、内部は空洞になっています。

たいてい手のひらの半分くらいの小さなサイズなので、かなりの量を収穫できなければ、食べごたえがありません。

種類によって発生する場所が異なり、林内に出るものもあれば、林道脇や草地に出るものもあります。むしろ発生する場所によって形状や色が変化しているのかもしれません。

石川県林業技術センターの資料によると、トガリアミガサタケはサクラが咲く前、針葉樹、カツラ、イチョウなどの木の下や、落ち葉が積もった場所、畑地、山火事跡などに発生するようです。

一方、普通のアミガサタケはサクラが散った後、サクラやツツジなど広葉樹の植え込み周辺や、畑、牧草地、畦の周辺に発生すると書かれています。

区別しなければならない猛毒キノコは、同じく春に生えるシャグマアミガサタケや、その近縁のオオシャグマタケです。しかし、下の写真のように傘が脳のような形になっていますし、トドマツ林内に生えるので、間違う危険は少ないでしょう。

シャグマアミガサタケにはギロミトリンという毒成分が含まれていますが、アミガサタケにも同じ成分が少量含まれています。幸い、煮沸すれば除去できます。

この特徴は、別項のノボリリュウタケとまったく同じなので、詳しい解説はそちらに譲ります。ある意味、アミガサタケは、春に食べることができるノボリリュウタケのようなものとみなせばいいのかもしれません。

食感もノボリリュウタケと似ていて、弾力がある鶏肉のようです。パスタやスープなど、さまざまな料理に合います。茹でてから乾燥させることで、より風味が増すそうです。

アミヒラタケ(幼菌)

見分けるポイント
・枯れた広葉樹から生える(側生)
・傘の表面に、キジやキジバトの模様のような、平らな鱗片がある
・柄は太く短く、中心からずれていて(偏心性)、根元が黒っぽい
・裏側(管孔)の匂いを嗅ぐとスイカっぽいフルーティーな香りがある
・幼菌は食べられるが数日で硬くなってしまう

8月末に枯れかけた樹木から生え始めていた、かなり大きなキノコ。サルノコシカケの仲間より縦に厚みがあり、タマチョレイタケ属ではないかと思われました。

調べたところ、おそらくタマチョレイタケ科のアミヒラタケのようです。ピーターラビットの野帳(フィールドノート)によるとビアトリクス・ポターも、このキノコを発見して絵に描いていました。(p176)

木の種類は確認できませんでしたが、ハルニレ、シナ類、カエデなどの広葉樹の枯れ木に出るそうです。

英名Pheasant’s back mushroomは、キジの背中のキノコという意味で、キジのメスの模様に似ています。北海道にキジはいませんが、やはりキジに似ていることが名前の由来となったキジバトの模様を思わせます。

幼菌時には食べることのできるキノコですが、わずか数日で成長し、硬くなってしまうとありました。成長すると10~30cmになるとのことだったので、今回見つけたものはまだ幼菌に近く、傘が小さいものは食べることができたと考えられます。

しかし、食べられることを知ったのは帰宅後、図鑑を調べている時で、あいにく翌日は新型コロナウイルスのワクチン接種の予定が入っていました。その後、案の定、副反応で高熱が出て、一週間ほど体調が悪かったため、採取できませんでした。

体調が回復した後に見に行くと、もう崩壊してしまっていました。サルノコシカケみたいに長年残るものなのかと思っていたので、わずか一週間で朽ちてしまうとは予想外でした。

翌年8月初頭、同じ木の幹に、成菌がひとつ生えているのを見つけました。手のひらほどの大きさに成長した姿は、とても立派で壮観でした。

残念ながら、ここまで大きく成長してしまうと、肉が硬くなってしまい、食用には向かないそうです。

幼菌が発生して、成長して、朽ちていくまでのサイクルがとても短い(おそらく10日くらい?)ので、食べられるタイミングはほんの数日でしょう。

嬉しいことにその一ヶ月後、9月初頭に、また同じ木に、アミヒラタケの幼菌が発生しているのを見つけました。まさに千載一遇のチャンスです。

手で採ると菌床を傷めそうだったので、ナイフで切り取りました。ちょうどエリンギを包丁で切るような柔らかくもプルプルとした弾力性のある感触です。

採取したアミヒラタケの細かい管孔部分を鼻に近づけてみると、驚くほど濃厚な甘酸っぱいフルーティーな香りがしました。この香りはスイカ臭と言われ、言われてみけば確かにそうです。最初にそう表現した人は素晴らしい連想記憶の持ち主です。

料理する時に切ってみましたが、肉は引き締まっていて、とてもきれいでした。

調理方法を調べると、バター炒めやホイル焼きにすると、ヒラタケやシイタケより美味しいと評されていました。

それで、ニンニクの芽と一緒にバター炒めにしてみました。まるで炒めた豚肉のような旨味が出て、キノコの香りも残っていて、かなりの逸品でした。普通に味も食感もよく美味しいキノコで、エリンギの高級バージョンという感じ。

とはいえ、めったに採れないレアなキノコであることを思えば、普通に美味しい程度では釣り合わないかもしれません。

幸い、アミヒラタケは、紛らわしいキノコはほとんどなく、同じタマチョレイタケ属のキノコと多少見た目が似ている程度です。区別の難しい毒キノコはありません。

タマチョレイタケ属のアミスギタケやハチノスタケは食不適ですが、特徴が異なっているので区別は簡単です。

どちらもアミスギタケと比較すると、管孔が明らかに大きく、穴の形も角ばっています。この2種は硬くて食べられませんが、毒はなく、出汁をとることができます。(「ハチノスタケ」の項も参照)

タマチョレイタケ属の属名にもなっているタマチョレイタケは、図鑑によると、かなりまれなキノコとされています。わたしも見たことがありません。

タマチョレイタケは、基本的には地面から生えるキノコですが、たまに材上生のものがあます。その場合、幼菌の段階では、アミヒラタケとかなり紛らわしい外見です。

タマチョレイタケとアミヒラタケの違いは、アミヒラタケは傘の鱗片は平らで跳ね上がらず、柄の根元が黒ずむ点です。近縁種だけあって、タマチョレイタケも、幼菌なら食べることができるので、間違えても問題ありません。

以上のように、アミヒラタケは、似ている毒キノコがなく、近縁種ともさほど似ていないため、非常に見分けやすいキノコといえます。

惜しむらくは見る機会が少ないこと、そして食用になる期間が極めて短いことです。それでも、味も香りも食感もよいので、もし運良く出会えたら、ぜひチャンスを生かして味わってみるとよいでしょう。

ウコンガサ / [シロヌメリガサ]/[キヌメリガサ]等

見分けるポイント
・ウコンガサは傘や柄に黄色い鱗片がある
・シロヌメリガサは柄の上部にささくれがある
・ヒダは直生~垂生。オトメノカサのヒダは垂生
・ヒダは疎で隙間が多い
・柄は長めで、しっかりしており、中実
・傘はすべすべした感触で湿っている時ぬめる

ヌメリガサ科は、地味ながら食用になるキノコを多く含む種類です。

例えば、カラマツ林では、秋になると有名な食用キノコであるハナイグチが採れますが、それが終わったころにキヌメリガサが生えてくると言われます。

ほかにも、シロヌメリガサ、オトメノカサ、ウコンガサ、サクラシメジ、ヤギタケなど、ヌメリガサ科に含まれるキノコの大半が食用になります。

キノコ狩りのメインを張るような華々しいキノコはないものの、ついでに採取して収穫量を増やすにはもってこいです。

しかし、問題なのは、ヌメリガサ科のキノコは地味で、見分けるのが難しいということです。3年目にしてやっと、シロヌメリガサやオトメノカサは何となく見分けられるようになりましたが、確証が持てないのでまだ食べていません。

そんな中で、比較的見分けやすく、初心者に優しいヌメリガサ科のキノコがあります。わたしが住んでいる地域に、9月中旬ごろから大量発生するウコンガサです。

図鑑によると北方系のキノコで、国内での発生量は多くない、とされているのですが、なぜか大量発生します。逆に有名なキヌメリガサのほうは全然生えません。日本列島の最北部に住んでいるからかもしれません。

国内の情報が少なく、ネット上の写真も少ないので、学名のHygrophorus chrysodonで調べて、外観をよく確かめて同定しました。

ウコンガサは、生え始めは鮮やかな黄色で、近縁種のキヌメリガサとよく似ています。

引き抜いてみると、意外と柄が長く5cm以上あります。柄が長めの印象を受けることもヌメリガサ科のキノコの特徴のひとつです。また、やはりヌメリガサ科に共通する点として、柄にツバはありません

柄は中実。か弱く見えて中身が詰まってがっしりしています。

キヌメリガサと違うのは、地色が黄色ではなく白だという点。黄色く見えるのは、実は白い地に黄色い鱗片がついているからです。傘も柄も、黄色い鱗片に覆われています。

もう少し傘が成長して大きくなると、白い地色が見えてきます。このような黄色い鱗片をまとっている白いキノコは、少なくともわたしの身近には他に例がないので、ウコンガサを見分けるのは簡単です。

傘は最終的に平らに開きます。シロヌメリガサ、キヌメリガサ、ウコンガサ、オトメノカサなど、ヌメリガサ科の食用キノコはいずれも、傘がまんじゅう形から平らに開き、柄が細長い印象を受けます。

傘の幅は3cmから7cmくらいにまでなるので、傘が開いてしまえば、中程度の大きさのキノコになります。

成長するにつれ鱗片は薄くなりますが、ルーペで拡大すれば、どの成長段階でもはっきり鱗片に覆われていることがわかるので、確実に見分けることができます。

成長し、傘が開いてくると、この鱗片は失われていくのですが、傘のふちには残っています。

傘の鱗片が少なくなっても、柄の上部の傘との境目あたりには鱗片が残っているので確認しやすいです。

上の写真のとおり、ヒダは白く垂生であることも重要な特徴です。とりわけ、ヌメリガサ科の食用キノコのほとんどは、ヒダが疎である、つまり隙間が多いスカスカのヒダであるという特徴を持っているので、見分ける手がかりになります。

ヌメリガサという名前のとおり、傘の表面はぬめります。しかし、表面がぬるぬるするのは湿っている時だけです。乾いているときは、ラバーのようなすべすべした感触です。

珍しいキノコであるせいか、レシピも見つからないので、近縁種の有名な食用キノコであるキヌメリガサのレシピを参考に料理してみました。

茹でてポン酢で和えてみたところ、意外にも全体的に黄色っぽく変色しました。英語文献によると、KOH(水酸化カリウム)を垂らすと傘や茎の表面に垂らすとレモンイエローに変色するとのことでした。

味は特にありませんが、食感がトゥルトゥルとして、びっくりするくらい美味に感じました。タマゴタケと似ているかもしれません。

その後は、他の食用キノコの料理に合わせて、適当に混ぜ込んでいます。あまり特徴のない主張の弱い食材なので、どんな料理でも合うのが良い点です。

ウコンガサ以外のヌメリガサ科もよく見かけるのですが、今のところ食べるには至っていません。

以下に参考程度に、他のヌメリガサ科について載せておきますが、まだ経験不足なため、確実に同定できている保証はありません。

まずキヌメリガサ。前述のとおり、晩秋のカラマツ林に生えることで、キノコ狩りの対象としても有名なキノコですが、わたしの住んでいる地域では全然見かけませんでした。

しかし、5年目に入ってやっと、公園のカラマツ林でそれらしいキノコを発見。見たところヌメリガサ科らしい特徴を備えていますが、傘が明るいレモンイエローでした。

残念ながら、すでにナメクジに食われてボロボロだったので、食べてみることは叶いませんでした。それでも、道北の果てでも、少ないながらキヌメリガサが出ることを確認できたのは貴重な収穫でした。

次にシロヌメリガサ。傘は大きめで7cmくらい。トドマツ林の地上に一本だけ生えていました。傘の表面には全然特徴がなく、平らに開いていることくらいしか情報が読み取れません。

引き抜いて裏側を見てみると、ひだは白く、柄に垂生していて、疎であることがわかりました。また、柄の内部は中実でした。これらの特徴からヌメリガサ科である可能性が高まりました。

また、柄の上部には、細かいささくれが確認できました。この柄の上部にささくれがあるという特徴は、シロヌメリガサを見分ける重要な手がかりです。トドマツ林に出るという状況も当てはまっています。

次の写真は、別の時にトドマツ林で見かけた、やはりシロヌメリガサと思われるキノコ。まだ幼菌らしく、傘が開いていません。

シロヌメリガサは若い時は傘の中央が盛り上がっていて、毒キノコのシロトマヤタケと間違えやすいそうなので、注意が必要です。白いキノコは他にも猛毒をもつ種類が多いので、ウコンガサよりも食べるには慎重にならざるを得ません。

裏側を見てみると、ひだは疎、垂生。

そして柄の上部に、やはり白いささくれのようなものが確認できたので、シロヌメリガサだろうとわかりました。

さらに、素手で触って確認したら傘だけでなく柄もぬめっていました。この点は近縁のオトメノカサとの違いでもあるそうです。

次の写真は、トドマツ・カラマツ林に生えていた、オトメノカサと思われるキノコです。

傘のサイズは3~4cm、柄はもっと長く10cm程度でした。ヒダが疎であること、柄が細長いこと、中実であることなど、ヌメリガサ科らしき特徴は確認できました。

しかし、シロヌメリガサを特定する助けになった、柄の上部のささくれはありませんでした。

参考サイトによると、シロヌメリガサは柄の頂部が「細粒状」と書かれているのに対し、オトメノカサの柄は「平滑」とありました。つまり、オトメノカサは柄の上部のささくれがないのだろうと思います。

また、ひだは垂生ですが、単なる垂生ではなく、「長く垂生」に当てはまるように見えます。

参考サイトによると、オトメノカサは、シロヌメリガサよりヒダが長く垂生するとのこと。

そのせいで、シロヒメカヤタケという毒キノコと紛らわしいので、注意が必要です。シロヒメカヤタケのほうはヒダが密であることで区別できますが、むやみに食べないほうがいいでしょう。

次の写真は、別の時に同じトドマツ・カラマツ林で見つけたオトメノカサらしいキノコです。

抜いてみると、柄が予想以上に長く、ヌメリガサがの仲間だなと直感。長いだけではなく、ヘビのようにとぐろを巻いているという不思議な形でした。ヒダは垂生で疎、柄の上部にはささくれがありませんでした。

このキノコの場合、傘の中央が肌色がかっているのも見て取れます。ほんのり赤みを帯びたオトメノカサは、アケボノオトメノカサと呼ばれて区別されているそうです。

しかし、参考サイトによれば、通常のオトメノカサでも中心がやや肌色がかることがあるそうです。通常のオトメノカサはヒダが柄に長く垂生するのに対し、アケボノオトメノカサは直生状垂生と書かれていて、このキノコは通常のオトメノカサに近く感じました。

一方、下の写真のキノコは傷んでいたので判別しにくかったのですが、今のところアケボノオトメノカサかなと思っているものです。傘も柄も赤みを帯びていて、ヒダは垂生というより直生に近いことから判断しました。

ヌメリガサ科には、他にも食用になるキノコが多数あります。

具体的には、傘が桜色のサクラシメジ、フキサクラシメジ、アケボノサクラシメジ、肌色を帯びるハダイロガサ、ブナヌメリガサ、オリーブ色を帯びるシモフリヌメリガサ、フユヤマタケ、コケイロヌメリガサ、暗い灰色を帯びるヤギタケなどが、ヌメリガサ科の食用キノコです。

(このうちフキサクラシメジについては、該当する項目を参照)

いずれも、傘の色は違いますが、傘にぬめりがあり、まんじゅう型から平らに開く、ヒダが疎で、直生~垂生、柄が長く曲がりくねる、縦にとても裂けやすいといった特徴は、ほぼ共通しています。

それで、どれか一つでも、近隣に生えるヌメリガサ科のキノコを見慣れれば、傘の色が違う近縁種を見つけても、なんとなくヌメリガサ科っぽい、と当たりをつけられるようになります。

もちろん、食べてみたいなら、もっと細かい点まで確認して、確実に同定する必要がありますが、ヌメリガサ科は比較的親しみやすく、見つけるのが楽しいキノコたちです。

エセオリミキ

見分けるポイント
・晩秋の針葉樹林の落ち葉から生える
・傘はなめし革のようで条線はない。外周部分が白く、ふちが波打つ
・柄は傘と同色で、ヒダは白色なので、色のコントラストがはっきりしている
・ヒダはやや密で上生~離生
・柄は下にいくほど太い末広がり。ツバはない
・内部は中空~髄状
・柄の表面に薄い縦の条線がある
・柄の根元に白い菌糸をまとう

秋も深まった時期から、晩秋の他のキノコがなくなる頃まで、カラマツ林やトドマツ林でよく見かけるのがエセオリミキです。

オリミキとは「幹を折る」の意で、立ち木を枯らして折ってしまうことで、林業関係者に嫌われているキノコであるナラタケの別名です。

そのナラタケに似ているが異なるもの、という意味でエセオリミキと名付けられたようですが、ナラタケと似ているのは傘の色のみで、他の特徴は全然似ていません。

(1)地面から生え、落ち葉を分解する
ナラタケ(オリミキ)は名前のとおり木材から生え、木を分解するキノコですが、エセオリミキは地面から生え、落ち葉を分解するキノコです。この段階ですでに、オリミキの名にふさわしくないことがわかります。

近年の分類では変更されたようですが、もともとは、モリノカレバタケ属に含まれるキノコでした。

モリノカレバタケは森を歩いているととよく落ち葉から生えている薄っぺらいキノコで、とてもよく見かけます。エセオリミキはモリノカレバタケより傘も柄も厚みがありますが、雰囲気は確かによく似ています。

(2)傘はなめし革のようで、ふちが波打ち、外周部分は白い
傘は最大でも5cmくらいで、なめし革のような微妙な透明感のある光沢があります。言葉にすると難しいですが、かなり特徴的なので、一度覚えれば見分けるのは難しくありません。

傘はのっぺりしていて、条線はありません。ナラタケを見分ける特徴が、放射状の条線であるのと対照的です。

さらに、成長すると、傘のふちが、ひらひらと波打つように反り返ることや、傘の外周部分が白くなるのも特徴です。

(3)ヒダは白くやや密
裏側を見てみると、傘と柄が同じオレンジ色~黄土色なのに対し、ヒダの色の白さが際立っています。古くなってもヒダの色は変わらないので、成長とともに色が変わって惑わされるようなことはありません。

ヒダの密度は、やや密で、ヒダのふちはややギザギザぎみに波打ちます。ヒダの付き方は上生~離生で、柄にそって上向きに入り込んでいます。これも、ナラタケが垂生ぎみで、下向きに湾曲するのと正反対です。

(4)柄は傘と同色で、下にいくほど太くなり、中身は中空
柄の色は傘と同色のオレンジ色~黄土色。ヒダが白いのでコントラストが際立ちます。

柄の形が特徴的で、てっぺんが最も細く、下にいくほど太くなる末広がりの形状をしています。

半分に切断してみると、柄の内部はスカスカで、中空または、ややスポンジ状(髄状)です。

(5)柄の表面に薄い縦の条線があり、根元に白い菌糸をまとう
さらに細かい特徴をみると、柄の表面には薄い縦の条線が入っていて、ルーペで拡大すると確認できます。

また、柄の根元には、落ち葉を巻き込むように、白い綿毛のような菌糸をまとっています。これはよく似ているモリノカレバタケの仲間にも見られる性質です。

また、すべての個体にみられるわけではありませんが、柄がL字型に折れ曲がっていることもしばしばあります。近縁のキノコであるエルネハルシメジにもみられる性質で、「L根」という名前に示されています。

ちなみに、ナラタケは柄にツバがあり、柄の上部と下部で色の違いがありますが、エセオリミキはどちらの特徴もありません。

以上がエセオリミキの特徴です。地味にキノコのようで、かなり特徴が多く、そのほとんどがナラタケ(オリミキ)と正反対なのが面白いところです。

エセオリミキは個人的にはかなり見分けやすいキノコだと思っているのですが、ネット上には「姿が変化に富むため自信を持ってエセオリミキと判断するのが難しい」との記述も見られました。

確かにモリノカレバタケの仲間には、判別に困るものもしばしばあるのですが、よく観察して上記のようなポイントを確認し、明らかにエセオリミキだと判別できたものは食べても大丈夫でしょう。

モリノカレバタケの類で毒キノコは特に図鑑には載っていませんが、ネットによると、ドクカレバタケという名の種があるそうです。しかし、具体的にどのような毒性があるのかは調べても出てきません。

ドクカレバタケは、毛のないアマタケっぽいキノコらしく、確かにそのようなキノコは見つけたことがあります。いずれにしてもエセオリミキとはそんなに似ていませんし、上記の特徴を詳細に観察すれば大丈夫そうです。

エセオリミキは、図鑑によると、鍋物に合うそうです。ネット上の情報では、美味しくもまずくもない水っぽいキノコで、あまり食用価値は高くないとされることが多いですが、旨味があって美味しいとしている人もいました。

わたしはまず、茹でて、酢醤油で味見。すると、意外にも美味しく。白身魚の肉を食べているかのようでした。その後も鍋物に混ぜたりしましたが、キノコらしい食感はそこそこあり、淡白であるがゆえ料理によく馴染みます。

晩秋の他のキノコがほとんどなくなった時期に、エノキタケと共に遅くまで採れるキノコである、という点も重宝します。

姿が変化に富む、という言葉に留意して、しっかり特徴を確かめた上で、典型的なエセオリミキであれば、積極的に採りたいと思える、なかなか良いキノコでした。

エノキタケ

見分けるポイント
・朽ち木から生える。地上からは生えない
・傘は湿っている時ぬめる。条線はない
・ヒダは白色→クリーム色。古くなると褐色の染みができる
・ヒダはやや疎で上生
・柄の表面にビロード状に細かい毛が密生。毛がはげた部分の地色は褐色で縦に条線が走っている
・エノキタケ特有の匂いがする
・生でかじると味は苦くない。(ニガクリタケとの区別点)

日本人なら誰でも知っているエノキタケ。でも、スーパーで売られているエノキタケと、野生のエノキタケの見た目がまったく違うことを知っている人はごくわずかでしょう。

エノキタケはハルニレやミズナラなど、さまざまな広葉樹の倒木や切り株に発生するキノコ。

ピーターラビットの野帳(フィールドノート) に掲載されているビアトリクス・ポターの絵にもエノキタケを描いたものがありました。しかも、通常のエノキタケと、暗いところで成長した市販品のようなエノキタケの両方をスケッチしているのが面白いところです。(p70-71)

スーパーで売られているエノキタケは糸のように細く真っ白ですが、野生のエノキタケははつややかな褐色の傘で、平べったく開きます。柄も市販の白とは好対照をなす黒で、まったく異なる印象を受けます。

初めてエノキタケを認知したのは2年目の晩秋。枯れ木の枝から生えている足の黒い謎のキノコを見つけ、調べたところエノキタケかもしれないことがわかりました。のちに地元のガイドさんからエノキタケが生えていると聞いたことで確信を深め、3年目にやっと食してみました。

エノキタケが生えるのは、森の中の見通しがよくなり、他のキノコが出なくなった10月半ばから11月半ばごろという晩秋なので、否が応でも目立ちます。あちこちの広葉樹の朽ち木から、みたらし団子のようにテカテカした褐色のキノコが生え出てきます。

遠目に見ると、エノキタケより少し前に広葉樹に発生するムキタケとよく似ています。ムキタケも褐色でテカテカした傘だからです。

しかし下から裏側を覗き込んで見ると違いは一目瞭然です。ムキタケは柄がほぼなく、木から直接、傘が生えているように見えるのに対し、エノキタケは立派な黒い柄を持っているからです。

晩秋に朽ち木から褐色のテカテカのキノコが生えていて、足が黒ければ、ほぼエノキタケと考えてよいでしょう。でも、油断していると万が一、毒キノコと間違ってしまう可能性があるので、慎重であるべきです。

エノキタケと混同する可能性のある毒キノコは、ニガクリタケドクアジロガサ(別名コレラタケ)の2種類であり、どちらも猛毒なので、絶対間違うわけにはいきません。(北海道にドクアジロガサは分布していないことになっていますが、近縁のヒメアジロガサモドキがあります)

次の写真がニガクリタケです。エノキタケと同じように朽ち木から生え、傘は黄色く、中央がやや褐色を帯びます。

一方、下の写真はエノキタケの幼菌です。上から見下ろす限りでは、当初、ニガクリタケだと思っていたほどよく似ていました。成長すると共に、エノキタケっぽさを増し、特徴をよく確認してみたら全部エノキタケだと判明しました。

次の写真は、ヒメアジロガサモドキの可能性があると思ったキノコです。柄が褐色なので、エノキタケとは似ていないようにも感じますが、ネットの写真ではもっと黒い柄の個体もあるようなので、油断できません。

それで、こうした毒キノコと間違わないためにも、エノキタケの特徴をよく知っておく必要があります。以下に詳しい特徴をまとめてみました。

(1)傘は湿っている時ぬめる。条線はない
エノキタケの表面は湿っている時、強い粘性があります。

一方、ドクアジロガサ、ヒメアジロガサモドキ、ニガクリタケは粘性がないようです。

それで、水洗いして傘のぬめりを確認できれば、怪しい毒キノコは、ほぼ除外できそうです。

また、エノキタケの傘には、基本的には条線は見られませんが、非常に湿っているときには、傘のふちに短い条線が現れることがあります。

一方、ヒメアジロガサモドキは、乾いていると条線はありませんが、濡れると長い条線が現れます。それで、濡れている時限定の手がかりですが、少なくとも長い条線が見られたらエノキタケではないと判断できます。

(2)ヒダは白色→クリーム色。古くなると褐色の染みができる
ヒダの色には次のような違いがあります。

・エノキタケは、白→クリーム色。
・ニガクリタケは、オリーブ色→紫褐色。
・ドクアジロガサのヒダは傘と同じ色で、クリーム色→肉桂色。
・北海道の生える近縁のヒメアジロガサモドキも、図鑑によって表記のばらつきはありますが、おそらく同じ色。

ということで、ヒダが傘よりも白ければエノキタケの可能性があり、傘と同色に近い黄色や褐色であれば、エノキタケではないと判断できます。下の写真のように、エノキタケは、ヒダの色が明らかに傘の色より白っぽいです。

一方、以下の写真のキノコは、傘が褐色で光沢があり、柄が黒くてエノキタケの外観によく似ていました。でもヒダが白っぽくなく、傘と同じ褐色だったので、エノキタケではありません。(何のキノコかは不明)

ただしヒダの色は、あくまで除外診断にしか使えません。ヒダの色が濃ければエノキタケではない、とみなすことはできますが、ヒダの色が白っぽいからといって、エノキタケであるとみなすことはできません。

上述のとおり、若いドクアジロガサやヒメアジロガサモドキのヒダはクリーム色をしていますし、若いニガクリタケもクリーム色に近い硫黄色だったりするので、他の特徴と合わせて判断するべきです。

ほかにヒダの色からわかる点として、エノキタケは、ヒダが古くなるにつれ、褐色の点々とした染みが生じるというユニークな特徴があります。

このような特徴を持つキノコは、他にカキシメジやアシナガタケなどがありますが、いずれもエノキタケとは似ても似つかないキノコなので、区別する大事な手がかりになります。

(3)ヒダはやや疎で上生
さらに、ヒダの特徴は、それぞれ次のような違いがあります。

・エノキタケは、やや疎で、上生~離生。
・ニガクリタケは、密で、直生~湾生~上生。
・ドクアジロガサは、やや疎で、直生~やや垂生。
・ヒメアジロガサモドキも、やや疎で、図鑑によると直生~上生となっていたので要注意。

エノキタケは明らかに上生で、離生にさえ見えるくらいヒダが上向きなので、ニガクリタケやヒメアジロガサモドキの直生~上生とは雰囲気が異なっているかもしれません。ヒダの向きは重要な鑑別点です。

また、エノキタケのヒダはやや疎なので、隙間が多く、スカスカ気味に見えます。ただし、ドクアジロガサやヒメアジロガサモドキもやや疎であることには注意が必要です。

一方、下の写真はニガクリタケのヒダ。こちらは密なので、隙間なくぎっしり詰まっていて、エノキタケのスカスカ気味のヒダとはかなり印象が異なります。

(4)柄の表面にビロード状に細かい毛が密生
柄の特徴は、それぞれ次のような違いがあります。

・エノキタケの柄は、黒いビロード状の毛で覆われている。下部のみ黒いこともあれば、かなり上のほうから黒いこともある。毛が取れている部分の地の色は褐色で、縦に条線が走っている。
・ニガクリタケの柄は、上部は硫黄色、下部は褐色。
・ドクアジロガサの柄は、ツバがあり、傘と同色の褐色か、もう少し濃い色。写真で見ると、ほとんど焦げ茶色になっていたり、傘の下部だけ焦げ茶色のこともある。
・ヒメアジロガサモドキの柄は、やはりツバがあり、写真で見ると、柄の色はかなり濃い焦げ茶色の場合がある。

以上のように、柄が黒ければエノキタケの可能性が高まりますが、他のキノコも似たような色合いになる場合があるようなので、色だけで判断するのは危険かもしれません。

それで、ルーペを使って、エノキタケの柄の表面を覆う、ビロード状の焦げ茶色の毛を確認しておくとよさそうです。そのような特徴があるキノコは他にないとのこと。

このビロード状の毛は、乾くと色が薄くなり、濡れると濃く見えるようです。それで乾いている状態のエノキタケを見つけると、あまり柄が黒くない印象を受けることがありますが、持ち帰って水洗いすると、つややかな黒色になって目立ちます。

黒色の微毛は、必ずしも柄の全体を覆っているわけではなく、はげている部分もあります。毛が取れた柄の地の色は傘と同じような褐色ですが、縦に条線が走っているのが特徴です。こちらのサイトにもっと良い写真が掲載されています。

たとえ柄がはげていて、ビロード状の毛が確認できなくても、ルーペで見れば薄く残っていることはわかります。柄の下方に残っていることもあります。

万が一毛がなくても、周囲に生えている他の毛が残っているエノキと並べて観察すれば、柄やヒダの質感が同じだとわかるので、同じキノコかどうか判別するのは容易です。

特に柄が束生(束になって生えている)場合は、つながっている個体と比較するのも簡単です。

一方、柄が黒いキノコで、柄に毛が生えている場合でも、毛が白かったり、まばらに生えていたりしたら、エノキタケではありません。

下の写真は、(2)の項に掲載した不明キノコの柄をルーペで拡大したものです。柄が黒く、その上に白い毛が生えていますが、エノキタケとは毛の色も、毛の密度も、柄の地の色も異なっています。

(5)エノキタケ特有の匂いがする。生でかじると味は苦くない
最後に、エノキタケは市販品のエノキタケと同じ匂いがします。洗って虫出ししてからでいいので、鼻をひだに近づけて近距離で匂いを確かめれば確実に香りがします。

甘い香りとも鉄さびの香りとも言われるので、香りに敏感な人はそれだけでも判断材料になると思います。

また生のままかじって味を確かめてみることで、猛毒のニガクリタケの可能性を除外できます。

ニガクリタケは猛毒ですが、かじってみるとびっくりするほど苦いので、確実に同定できます。もちろん、かじって味を確かめるだけで、絶対に飲み込んではいけません。

それで、不安な場合は、水洗いした後、調理する前に(ニガクリタケは調理の方法によっては苦味が失われるという説あり)、傘をかじって苦くないか確かめると良いでしょう。

以上、エノキタケの特徴を確認しましたが、それぞれの特徴だけでも、かなり信頼が置けますし、全部確認すれば確実でしょう。キノコの食中毒は油断から起こるものなので、面倒がらず、チェックリスト的に全部確認するのがいいと思います。

ここに挙げたニガクリタケ、ドクアジロガサ、ヒメアジロガサモドキ以外にも、似ている毒キノコがないとは限りません。たとえば、次の写真は、チャツムタケではないかと思ったキノコですが、第一印象はエノキタケに似ていました。

しかし、ヒダが傘と同色かつ密で、柄がビロード状の毛に覆われていないなど、明らかにエノキタケとは特徴が異なっています。

ですから、もし他にもエノキタケに似て見えるキノコがあるとしても、ここに挙げた特徴すべてをしっかり確認すれば、毒キノコと間違うことはないはずです。

採取したエノキタケは、塩水に漬けて虫出しし、市販のエノキタケと同じように調理します。

スパゲッティに入れてみましたが、口の中に充満するエノキタケ特有の香りがものすごく、さすが野生のエノキタケだと感じられました。市販品は柄が歯に詰まって食べにくいですが、野生のものは風味も食感も格段に勝ります。

[オシロイシメジ]

見分けるポイント
・全体がおしろいを塗ったように真っ白
・傘はつや消し加工されたかのように光沢が少なく、波打つ段差がある
・傘に毛は生えていない
・ヒダは密でやや垂生
・柄は意外と長く、中身は幼菌は中実、老菌は中空
・一箇所にたくさん束生する

アイヌ民族も乾燥保存するなどして食料にしていたとされる、由緒正しい北海道のキノコ、オシロイシメジ。

しかし、たまに弱い食中毒を起こす人がいることがわかり、近年ではもっぱら毒キノコ扱いです。

白いシメジは種類が色々ありますが、オシロイシメジはとても見分けやすい特徴を持っています。

というのも、傘が同心円状に波打ち、段差がついているように見えるからです。幼菌のころからすでに段差はありますが、老菌になると極めて顕著に波打ちます。

傘はハッとするほど白く、名前のとおり、おしろいを塗って化粧したかのようです。写真だとテカテカ光っているように見えてしまいますが、実物は光沢はほとんどなく、つや消しのマット加工が施されているかのようです。

裏面もやはり真っ白。ヒダは密です。ヒダの付き方は浅い垂生。またこの写真からは、束生(束になって生える)するキノコであることもわかります。

白いシメジには、他にシロシメジ、シロシメジモドキ、シロケシメジ、シロケシメジモドキ(シロゲカヤタケ)など多数あり、いずれもヒダは密。

しかし、シロシメジ、シロシメジモドキ、シロケシメジはヒダの付き方が上生か湾生(上向きにカーブする)です。オシロイシメジは浅い垂生(やや下向きにカーブする)なので違いは明らかです。

シロケシメジモドキはカヤタケの仲間らしくヒダは垂生ですが、傘の表面に毛が生えているので区別できます。

もとより、これらのキノコは白いといってもオシロイシメジほど真っ白ではないですし、オシロイシメジのような段差のあるユニークな傘ではありません。

もっとも、オシロイシメジは毒があるとされるのに対し、これら類似の白いシメジたちは今のところ食用になるとされているので、オシロイシメジではないとわかったほうがありがたいかもしれません。

柄の内部は成長段階によって変化し、若いころは中身がつまっている中実です。これに対し、シロケシメジモドキは最初から中空です。

しかし、成長して大きくなると中空になって空洞ができます。

草むらの中などに、大きな段差のある傘を広げているので、地面に這いつくばって覆っているキノコというイメージがあるのですが、採取してみると、意外と柄は長いです。図鑑によると3~10cmとされていました。

オシロイシメジは薬品臭がするというので、試しに香りをかいでみましたが、なんとなく甘い香りに感じられたくらいで、よくわかりませんでした。匂いによる識別は苦手です。

食中毒との因果関係は明らかではありませんが、成分の分析では変異原性(DNAや染色体に突然変異をひき起こす性質で発がん性と関連がある)をもつリオフィリンという物質が確認されているそうです。

もし食用にできるなら、大量に採れるキノコなのに、とても残念です。北海道のものは成分が異なるとか、乾燥保存すれば減毒できるといった性質があればいいのですが、研究されていないのでわかりません。食糧危機が来たら食べると思いますが、今は見かけても通り過ぎるだけです。

カバノアナタケ

見分けるポイント
・シラカバの幹から生えている
・色が真っ黒で木炭のよう
・触ると硬い

カバノアナタケ(ロシア語で「チャーガ」)といえば、万病に効くかのような触れ込みで販売されている健康食品の一つ。Wikipediaを見ても、あまりに華々しい健康効果が書かれているせいで、かえって怪しく見えます。

しかし、森の中で見かける本物のカバノアナタケは怪しくもなんともなく、たくさんあるキノコの一種にすぎません。姿がとても個性的で、似たキノコがないという意味では特異な存在ですが、ただそれだけのことです。

人間は昔から、向こう見ずにも自然界のものを乱獲して、誇大広告で宣伝して、自然界のことを何も知らないような人たちに売りつけてきました。カバノアナタケも、そんな貪欲な人たちに片っ端から消費されて数を減らしているそうです。

でも、さすがに道北地方は、いまだ大自然が残されている秘境。というよりも、そもそも人口が少ないおかげだろうと思いますが、カバノアナタケもあちこちで比較的よく見かけます。

カバノアナタケが出るのはシラカバの木です、そこそこ樹齢のあるシラカバ林を歩いていると、ときどき木炭のような黒い色をしたコブがついているのを見つけることができます。

シラカバの木についているコブがすべてカバノアナタケである、というわけではなく、ただの木コブもあります。フィンランドのラップランドに住むサーミ族はそのような木コブを使って、ククサと呼ばれる木製コップを作るそうです。

一方、カバノアナタケは、ただの木コブではなく、真っ黒な炭のような外見で、あたかも樹皮を突き破って木炭が生えているかのようなようです。昔はシラカバのガンだと思われていたというのも納得の、どちらかというと禍々しい見た目です。

手の届く高さに生えていることもあれば、もっと高い場所に出ていることもあります。

巨大なシラカバの根元に生えているのを見つけたこともありました。案外いろいろなところに見つかるもので、公園のシラカバに生えていることもありました。

触ってみると、非常に硬く、手で採取することはできません。でも、砕けたかけらがポロポロと落ちるので、それを持ち帰ってみました。数を減らしているとのことなので、木を傷つけてまで採ろうとは思いません。

そのかけらをどうやってカバノアナタケ茶にすればよいのか、調べても健康食品の話ばかり出てきてよくわかりませんでした。一般には、水2リットルに対し、カバノアナタケ4~5グラム程度を煎じて服用するとのことです。

販売されているカバノアナタケは粉末なので、できれば細かく砕いてから、ティーパックに入れて煎じたほうがいいのかもしれませんが、面倒なのでそのまま煮出しました。

水1リットルにカバノアナタケの欠片3gほどを入れて、沸騰させてから5分ほど煮出したところ、ウーロン茶のような色になりました。

さっそく味見してみましたが…、なんというか無味無臭で、美味しくも不味くもありません。健康効果目的でなければ、わざわざ採るようなキノコではありませんでした。

キクラゲ

見分けるポイント
・朽ち木から生えている。地面からは生えない
・光に透かすと透過して赤茶色に見える
・ルーペで見ると背面に白い点々のような毛が生えている
・採取して水に漬けて戻すと耳のような形

中華料理の食材として有名なキクラゲ。夏から秋にかけて、森の中の朽ち木にびっしりと生えているのを時々見かけます。似ている毒キノコがほぼなく、見分けるのが容易なので、優秀な食用キノコです。

一般的には広葉樹の朽ち木に生えるキノコとされていますが、トドマツに生えているのを見つけたことがあります。

調べてみると、やはりトドマツに出るのを観察した人もいるようですし、トドマツ材でキクラゲを栽培しているところもあるそうです。

大きさはその時々の状況によって変化します。湿っている時は傘が大きく膨らんでぷるぷるとした見た目になりますが、乾燥すると縮んで硬くなります。乾燥している場合でも、採取して水に漬ければ元に戻ります。

茶碗のような形をしていて、背面はうっすらと白く見えます。これは微毛が生えているためで、ルーペで確認すれば、白い粒々のようなもので覆われているのがわかります。

キクラゲは、大きく分けて、北方系の無印キクラゲと、南方系のアラゲキクラゲの2種類がありますが、これは無印のほうです。アラゲキクラゲは見たことがありませんが、ネットの写真で確認する限り、もっと毛が明瞭です。

いずれにせよ、ルーペでこの白い毛を確認できれば、キクラゲとみなして間違いありません。他に似ているキノコはありません。

気をつけるべき毒キノコとして、しばしば挙げられるのはクロハナビラタケです。しかし、クロハナビラタケの表面に、このような白い毛はありません。

また、キクラゲは光を透過するため、逆光で見ると、下の写真のように赤茶色く透けます。それに対し、クロハナビラタケはまったく光を透過せず真っ黒に見えることで区別できます。

ほかに似ているキノコとしては、クロハナビラタケに多少似ている、クロハナビラニカワタケというキノコがあります。そちらは光を透過して、キクラゲと同じような色に見えるそうです。

図鑑では食不適扱いですが、ネットでは食べている人もいて、毒ではなさそうです。いずれにしても背面に白い毛はないので、ルーペで確認すれば、キクラゲとの区別は簡単です。

また、ヒメキクラゲというキノコも、名前のとおりキクラゲの親戚なので多少似ているかもしれません。これも図鑑では食不適扱いとなっていますが、やはりネットでは食べてみた人がいるため毒ではなさそうです。

よく見かけるキノコですが、キクラゲより明らかに小さく、黒いビラビラっとした塊がぐちゃっとついているように見えるため、外見から十分に区別可能です。

キクラゲは漢字で木耳と書きますが、実際に耳の形にそっくりです。水戻しした時の形が耳に似ているというだけでも、他のキノコと容易に区別できそうなくらい個性的です。

茹でたキクラゲを、ムキタケとハルサメと一緒に和えてみました。中華風サラダというものでしょうか。

食感は、びっくりするほどコリコリして、確かに中華の伝統食材!という印象でした。ムキタケの弾力性のある歯ごたえも逸品なのですが、それとはまた全然違う食感で、さまざまな料理のアクセントになると思いました。

[キオビフウセンタケ(チャオビフウセンタケ)]

見分けるポイント
・シラカバ・ミズナラなどの広葉樹と針葉樹の混交林に生える
・傘は黄土色、柄は白っぽい黄色
・ヒダは上生~湾生。はじめ薄紫色で、のちに肉桂色に変化する
・柄の根元はやや棍棒のように太くなる
・最大の特徴は、柄に数段にわたって膜の破片がリング状に残ること
・フウセンタケの仲間は見分けにくいので注意

シラカバ・トドマツ・ハリギリなどが生えている森に発生していた、かなり特徴的なキノコ。

傘はいかにもフウセンタケというまんじゅう形のものや、なだらかに開いたものがありました。

最大の特徴は、この膜の破片が何段にも輪のように残っている柄。この特徴から、キオビフウセンタケ(チャオビフウセンタケ)だろうとみなしました。

ミズナラ、シラカバなどの広葉樹や針葉樹のある混交林に生えるとされ、見つけた環境と一致しています。

傘の大きさは5cmくらいでしたが、図鑑によると、最大15cmの中型~大型になるキノコだそうです。

ヒダは白っぽく、多少、紫がかっても見えます。キオビフウセンタケのヒダは、若い頃は薄い紫、後に肉桂色に変化するそうです。ヒダの密度は、図鑑によって、やや疎から密と記載に幅があるので、あまり当てになりません。

ヒダと柄の付け根にはっきり凹みがありますが、その奥にもひだが見えているので、湾生のようです。傘を割いて断面を確認するとやはり湾生です。図鑑によると、ヒダは上生~湾生と記載されていました。

柄のささくれはフウセンタケ科の外皮膜の破片で、チャオビフウセンタケの場合は数段になって残るという特徴があります。また、柄の根元が棍棒状に膨らむという性質もあります。

柄の内部は茶色っぽいものが詰まっていました。図鑑にもネット上の情報にも、中空とも中実とも書かれていないので、これが典型的な内部構造なのかはわかりません。

図鑑によると食毒不明とされているキノコですが、ネット上ではシチューにして食べている人がいました

英語のwikiを見ると、「Edibility」の項目があり、一部のガイドは食用としているものの、他の人たちは疑っていて、おそらく避けるのが最善とされていました。

食べる人もいるという時点で多分大丈夫な気はしますが、キノコは「多分」で食べるべきではないので、確かに今は避けるのが最善でしょう。

とりわけフウセンタケの仲間は見分けにくいことで知られていて、毒性のある種類もあります。

今のところ、数段のリング状のささくれに頼って判別しているだけなので、確実に同定するには、他に似たようなフウセンタケ科のキノコがあるのか詳しく調べてみる必要がありそうです。

[キシメジ]/[シモコシ]

見分けるポイント
・キシメジはミズナラ・トドマツ林、シモコシはクロマツ林に発生
・傘は黄色。中央部は褐色。キシメジは中央部に鱗片がつく
・ヒダは密で全体が鮮やかな黄色。湾生~離生
・柄は中実。まれに中空。中空のものは食不適の近縁種の可能性あり
・柄の色はキシメジは全体がクリーム色、シモコシは下部のみ黄色
・不快臭はない。(ニオイキシメジとの鑑別点)
・傘や柄は触っても赤く変色しない。(カラキシメジとの鑑別点)

キノコの種類を調べていると、とても多くのキノコが、キシメジ科という種類に分類されていることがわかります。ですが、分類名になっているキシメジというキノコは、これまで見たことがありませんでした。

しかし、10月中旬に、近隣の公園の林に出ていたキノコを調べて、思いがけぬ出会いを果たしました。

見つけた場所はエゾヤマザクラの根元でしたが、一般にキシメジであれば、ミズナラやトドマツの林に出るらしいので、周囲の別の木と関係していたのかもしれません。

このキノコの傘は黄土色で、わずかにつぶつぶの模様や、放射状に走るかすれ模様があります。割れたところから白い肉が見えていました。

通常、キシメジの傘は黄色であるとされ、このやや褐色がかった傘の色はどちらかというと近縁種のシモコシに似るのですが、後述する他の特徴からキシメジのほうだと判断しています。

裏返してみると、ヒダはなんと鮮やかな黄色でした。ぎっしり詰まっていて密です。

別項で取り上げたアイシメジに傘の色は似ていますが、キシメジ(別名キンタケ)はヒダ全体が黄色いのに対し、アイシメジ(別名シモフリキンタケ)はヒダの外周部だけが黄色です。

断面を見ると、ヒダは上生~離生。図鑑によれば、キシメジの一般的な性質としては、ヒダは湾生~離生とあったので、個体差の範疇です。

柄はクリーム色で中実。図鑑によると、キシメジは基本的には中実で、まれに中空のものがあるとのことです。繊維が縦向きに走っていて、縦に裂けやすいキノコのようでした。

キシメジには、ほかにシモコシ、ニオイキシメジ、カラキシメジといった近縁種があり、区別するのはなかなか難しいようです。

図鑑によると、キシメジは前述のとおり、ミズナラ、トドマツなどのそばに生えます。傘の中央部に褐色の鱗片があり、柄は全体がクリーム色です。

シモコシは、海岸のクロマツ林に生えるとあり、北海道では稀なキノコのようです。また傘は湿っている時ぬめりがあり、傘の中央部には鱗片がある代わりに赤みを帯びるとなっています。柄は上部が白色、下部が黄色とありました。

他の2種は北海道のキノコ図鑑には載っていませんでした。

ニオイキシメジは、ネット上の資料によれば、ミズナラやコナラなどの森に発生し、名前のとおり、コールタールのような不快臭があるとのことです。また傘に粘性がなく、色がくすんでいていて、柄に赤褐色の繊維が縦に走るともされます。

カラキシメジは、やはりミズナラやマツなどの森に発生し、成長とともに傘の表皮が割れてささくれ状になるそうです。傘や柄は触ると赤く変色します。名前のとおり、苦味や辛味があるという性質があるようです。

また、資料が少ないため、信憑性があるかわかりませんが、ニオイキシメジは中空であるとされています。カラキシメジもまた中空であるとしているサイトもあります。

キシメジやシモコシは、図鑑によると、柄は中実でまれに中空とされていましたが、もしかすると、中空のニオイキシメジやカラキシメジと混同されていた可能性もあるかもしれません。

これらの特徴を比較すると、わたしが見たキノコは傘に鱗片があったことから、通常のキシメジの可能性が高そうだと思われました。

クロマツのそばではないので、シモコシはひとまず除外できます。ニオイキシメジやカラキシメジの特徴は調べていませんが、観察する際、不快臭はありませんでしたし、触ったところが赤く変色した様子もありません。

また、柄は中実だったので、もし本当にニオイキシメジやカラキシメジが中空だとすれば、普通のキシメジである可能性がぐっと高まります。

この4種のうち、キシメジとシモコシは古くかに優秀な食用キノコとされてきました。ところが近年、外国からの一報で毒キノコとみなされるようになってしまったそうです。

その情報がなければ、わたしも採って食べてみようかと検討したはずですが、論争に決着がつくまで難しそうです。特徴がわかりやすいキノコであるだけに残念です。

キハツダケ

見分けるポイント
・大型のチチタケ属。傘の色は白→薄い黄色
・傘のふちは内側に巻く
・ヒダは白っぽく密
・傷つくと分泌される白い乳液は、時間が経つと青緑色に変色する
・柄の表面にはクレーター状のくぼみがあり、内部は中空

2年目の10月下旬に、森の奥のトドマツ林を歩いていたら、肌色ないしは薄い黄色をした巨大なチチタケ属のキノコが群生しているのを見つけ、いったい何だろうと不思議に思いました。

3年目もまったく同じ時期、同じ場所にこのキノコが大量発生しました。今度はキノコの知識も増えていたので、調べてみたところ、キハツダケだと判明しました。

トドマツ林に大量発生して、多少傷んだものでは、傘の表面やひだが青緑色に変色していたため、変色性があることを推察できました。

全体的に薄い黄色で、乳液が白く、後に青緑色に変わる特徴を持つチチタケ属はキハツダケしかありませんでした。なぜかキハツダケは〇〇ダケと濁りますが、このような正式名称をもつキノコはとても稀です。

傘の色が薄く肌色に見えるものもありましたが、成長段階によって色が変わるそうです。図鑑によると、傘の色は最初は白く、やがて薄い黄色やキツネ色になるとのことでした。

キハツダケは、典型的なチチタケ属、つまりまんじゅう型から平らに開き、傘のふちは内側に巻く形をしています。そのため、写真で見る限りは、ハツタケ、チチタケ、アカモミタケなどの近縁の食用キノコとフォルムがそっくりです。

しかし、現地で実物を見るとあまりの大きさに驚きます。これまで見たチチタケ属の中で最大級。傘は10cmを超えており、ずっしりした重量感があります。思わずお化けチチタケと呼びたくなるほど巨大に見えます。

傘や柄の色合いは薄い黄色で、柄にはアカモミタケと同じくクレーターのような凹みがたくさんあります。ヒダは白~クリーム色で密に並んでいます。

柄は中空。大型のチチタケ属だけあって、太いちくわのような立派な柄です。中空の空洞も、普通のキノコの柄がすっぽり入るくらい大きいです。

チチタケ属らしく、傷ついたヒダからは、白い乳液が滲み出ています。

周囲のキハツダケを見ると、傘や柄に青緑色の染みがあったので、滲み出た乳液は時間が経つと青緑色に変色するのではないか、と推測できました。

ヒダを傷つけてから10分くらいして確認しに行きましたが、乳液は白いままで変色していませんでした。しかし、翌々日に改めて訪れたところ、青緑色に変色していました。

図鑑などにも、乳液は「後に」青緑色に変化する、とあるので、変色するまでそこそこ時間がかかるようです。

キハツダケは食べることのできるキノコとされています。大型のキノコで、なおかつ大量発生するので食べごたえがありそうですが、残念ながら美味しいという意見をほとんど見かけません。

しかし、中にはキハツダケを美味しく食べることができるレシピを紹介してくれている人もいました。1分煮て15分水さらしすることで苦味が抜けるとか、グラタンや炊き込みごはんにすると美味しいといったテクニックがあるそうです。

ということで、わたしもそれを参考にして、採ってきたキハツダケを1分間煮て、15分水にさらしてから調理してみました。オリーブ炒めにしてパスタに入れてみましたが…。

かすかに苦い。ニガイグチのような飛び上がるような苦さではなく、本当にかすかな苦味です。

上のリンク先で「遠い苦み」と表現されていたのがぴったりでした。遠くで聞こえる音のようにかすかな苦味なのです。しかし、遠くで聞こえる工事の音が、気になりだすとうっとうしいように、キハツダケの苦味もスルーできませんでした。

それでも、ボリュームがあるので、料理にキノコが入っている、という感覚的な嬉しさを増量することはできます。

何よりキハツダケは、とても特徴がはっきりして、毒キノコと間違える可能性が全然なく、短期間ながら、量もたくさん採れるという稀有なキノコです。

おそらく調理方法によっては、苦味を感じさせないテクニックもあると思うので、どうにかして美味しく食べたいものです。

[クリタケ]

見分けるポイント
・倒木や枯れ木にたくさん生える。根元で束になる(束生)
・傘の色は栗色(赤系統の色み)。サイズはやや大きめで4~10cm
・傘はほぼ粘性なく乾いている。綿毛状の鱗片がある
・ヒダは密で、直生~湾生
・ヒダの色は最初は白っぽい。成熟するにつれ、紫がかった褐色になる
・柄は細長く中空
・柄の上部は白っぽく、下部は茶色。繊維状のささくれがある
・生のままかじっても苦くない。(ニガクリタケ、アシボソクリタケとの鑑別点)

昔から食べられている美味なキノコであるにもかかわらず、キノコ狩り初心者は、あまり採って食べようという気になれないキノコ。それがクリタケです。

というのも、第一に、近縁にニガクリタケという猛毒キノコがあり、間違えたら死ぬということ。

第二に、近縁にクリタケモドキ、ニガクリタケモドキ、アシボソクリタケという似たキノコもあり、ややこしそうに思えること。(クリタケモドキとニガクリタケモドキは可食、アシボソクリタケは無毒と思われるか食不適)

第三に近年クリタケにもニガクリタケと同じ毒成分が少量ながら含まれていると判明したということ。(茹でこぼせば可食)

これら諸々の理由から、森で見かけても、なんとなく気が重く、ついスルーしてしまいがちです。

でも、裏を返せば、森で見かけるたびに、ああクリタケだな、と気づくことはできているということ。実のところ、クリタケは傘の質感や色合いから、非常に見つけやすいキノコです。以下で特徴を詳しく見ていきたいと思います。

(1)傘の色と大きさ
クリタケの傘の色は、名前のとおり栗色、つまり赤系統の褐色です。

これに対し、猛毒のニガクリタケの傘は、硫黄色という黄系統です。

また、クリタケの傘は最終的には4~10cmくらいまで成長し、わりと大きく感じられます。一方、ニガクリタケは1~5cm程度と小型です。

クリタケとニガクリタケの外見はさほど似ているわけではなく、大きさや色みだけで、だいたいは見分けられます。しかし、猛毒キノコである以上、「だいたい」では困るので、他の特徴もしっかり見定めて、確実に区別する必要があります。

(2)広葉樹から生える
クリタケはおもに広葉樹から生えるキノコです。基本的には木から生えますが、ときおり地面に埋まっている木片から生えることもあるとされます。

他方、近縁のクリタケモドキというキノコは、針葉樹から生えるという違いがあります。

クリタケの傘が赤系統の褐色であるのに対し、クリタケモドキの傘は、赤系統と黄系統の中間の褐色、つまりオレンジ色に近いです。下の写真はもしかしたらクリタケモドキかもしれないと思ったものです。

クリタケモドキも可食で、普通のクリタケより美味とさえ言われます。しかし、傘が赤系統と黄系統の中間であるがゆえに、傘が黄系統のニガクリタケと似ていることがあり、要注意です。

また、稀なキノコであるとされていますが、針葉樹林の地上や切り株に生えるアシボソクリタケという種類もあるそうです。(広葉樹林としているサイトもあるが、図鑑では針葉樹林とされている)

大きさはニガクリタケと同じくらいの1~5cmと小型で、赤みの強いニガクリタケのような見た目です。生でかじるとニガクリタケほどではないものの苦いそうです。わたしは発見したことはありません。

一方、ニガクリタケは、広葉樹にも針葉樹にも生えるため、生える場所で区別することはできません。そのせいか、森のあちこちで頻繁に見かけます。キノコ狩りを始めると、否が応でもニガクリタケには出会うことになります。

(3)束生する
クリタケ、クリタケモドキ、ニガクリタケは、いずれも束生する、つまり根元がくっついて束になって生えるという特徴があります。下の写真は前述のクリタケモドキと思われる株ですが、根元でくっついているのがわかります。

クリタケだけでなく猛毒ニガクリタケも束生するので、この特徴だけで毒の有無を見分けられるほけではありませんが、他のさまざまなキノコと区別して種類を絞り込む手がかりにはなります。

また、クリタケの仲間の中でも、ニガクリタケモドキという種類は、束生せず、一本ずつ生えます。ニガクリタケは外見は猛毒ニガクリタケによく似ていますが、生でかじっても苦味がないことや、束生しないことで区別でき、食用にもできるとされます。

とはいえ、もしニガクリタケと間違えたら死ぬので、よほどキノコの鑑別の経験を積んでいるのでもなければ、採らないのが無難です。

(4)傘に鱗片が付着し、ぬめりはほぼない
クリタケの傘をよく見ると、白い綿毛状の鱗片がついています。

鱗片はモエギタケ科の特徴で、ニガクリタケにもあるとされますが、クリタケは傘がより大きいので目立ちやすいです。

クリタケの傘のふちは白くなっていて、幼菌のときにヒダを覆っていた外被膜の破片が付着しています。これらは成長すると消えてしまうこともありますが、クリタケらしさを見分ける有力な手がかりです。

個体によっては裏側から見ても、ヒダの周囲に残っていることさえあります。

クリタケの傘はぬめりがほとんどないのも特徴です。湿っている時わずかにぬめるとされますが、基本的には乾いています。それで、老菌になるとふかふかしたパンのような雰囲気になります。

最終的には焦げたパンのように黒っぽくなります。ここまで老いてしまうともう食べられません。

ところで、クリタケの傘には鱗片がありますが、やはり同じモエギタケ科の食用キノコであるチャナメツムタケ(「チャナメツムタケ」の項参照)にも、同じような鱗片があります。

個人的な感覚として、キノコを見慣れてくると、クリタケを見つけた時、第一印象として、ニガクリタケよりもチャナメツムタケによく似ていると感じることがよくあります。

しかし、チャナメツムタケは常に傘に激しいぬめりがある点が異なります。またチャナメツムタケは主に地面から生え、柄の内部が詰まっているのに対し、クリタケは木から生えて柄の内部が空洞であることで区別できます。

(5)ヒダは直生~湾生で密。ほぼ白→ややオリーブ色→紫がかった褐色へと変化
クリタケのヒダは、やや密~密なので、比較的、隙間が詰まって見えます。また、ヒダの付き方は、直生~湾生、つまり柄に対してほぼ直角に付きます。

ヒダの色は、若い時はほとんど白色です。これに対し、ニガクリタケは最初から黄色なので、ヒダが白であればニガクリタケを除外できます

しかし、ヒダの色は成長とともに変化し、やがて紫みを帯びた褐色へと変化します。

下の写真は老菌のヒダですが、肉眼でも紫みがかって見えます。ヒダが密、かつ直生~湾生で、紫みを帯びるキノコは珍しいので、判別にとても役立つ手がかりです。

猛毒ニガクリタケのヒダも、最初こそ黄色ですが、やがて紫みを帯びた褐色に変化するのは同じです。

ただし、元々の地の色が黄色であるため、クリタケより黄色みが目立つことで、ある程度の見分けは可能です。下の写真はニガクリタケ老菌のヒダですが、紫色がかっている以前に、明らかに黄色みが際立っています。

(6)柄は中空。上部が白っぽく下部は褐色。繊維状のささくれがある
柄の内部は中空で、折るとはっきり空洞が見られます。ただし、ニガクリタケなど、他の近縁種もおしなべて中空です。

柄の全体を見てみると、ツートンカラーのように濃淡があることがわかります。基本的に、柄の上部は白っぽく、柄の下部は茶色っぽいことが多いです。かなり上のほうから褐色を帯びているものも見ます。

また、柄には繊維状のささくれのようなものが付着しています。同じモエギタケ科のチャナメツムタケ(「チャナメツムタケ」の項参照)と似ていると感じる特徴です。

一方、ニガクリタケもやはりツートンカラーの傾向がありますが、柄の上部は黄色っぽく、下部はオレンジ色です。つまり、柄もヒダと同じで全体的に黄色みが強いです。

(7)ニガクリタケは生でかじると苦い
ここまで、クリタケとニガクリタケのさまざまな違いを見てきましたが、確実に区別する方法は、生のままかじってみることです。

猛毒ニガクリタケは、生でかじると非常にはっきりとした苦味があるのに対し、クリタケ、クリタケモドキ、ニガクリタケモドキなど食用3種には苦味はありません。それら食用キノコの場合は、かえって旨味があるとする人もいます。

猛毒キノコをかじるなんてとんでもない、と感じるかもしれませんが、かじって味をみるだけでは死にません。もちろん、かじった後は、絶対に飲み込んではならず、吐き出すように気をつけます。

わたしも、初めてかじってみた時は、かなりの勇気が要りました。ネット上にかじった人の体験談がたくさんあるにもかかわらずドキドキしました。ニガクリタケは確かに苦かったですが、味をみただけで体調が悪くなることはありませんでした。

注意点として、ニガクリタケは茹でてしまうと、毒性はそのままで苦味が失われるといわれます。よって、必ず生の状態でかじって毒見するべきです。

クリタケ以外にも、エノキタケ(「エノキタケ」の項を参照)など一部の食用キノコは、ニガクリタケと似て見えることがあるので、調理前にかじって苦味がないか確かめておけば安心です。

なお、稀なキノコとされますが、赤系統のニガクリタケのような見た目のアシボソクリタケも、生でかじると苦味があるそうです。毒はないとされていますが食不適扱いなので採らないほうがいいでしょう。

以上が、クリタケを見分けるためのポイントです。

最後に改めて、クリタケとその近縁種のおおまかな共通点、そして相違点を、それぞれ箇条書きにしてまとめてみましょう。

おおまかな共通点
・樹木から生える
・傘に粘性はほぼない
・柄は細長い
・柄の色は上部は薄く下部は濃い
・柄の内部は中空
・ヒダは密。直生~湾生
・ヒダの色は、成熟すると紫がかって見える

相違点
・生でかじると猛毒ニガクリタケは苦いので識別できる。味を見た後はすぐに吐き出すこと。アシボソクリタケも苦いそうなので採らないのが無難。
・クリタケは広葉樹、クリタケモドキは針葉樹に生えやすい。猛毒ニガクリタケはどちらにも生える
・クリタケ、クリタケモドキ、ニガクリタケは束生する。ニガクリタケモドキのみ単生
・傘の色は、赤系統(栗色)がクリタケ、赤系統と黄系統の中間(黄褐色)がクリタケモドキ、黄系統(硫黄色)がニガクリタケ、ニガクリタケモドキ
・傘の大きさは、クリタケが最も大きく3~10cm、次にクリタケモドキで3~6cm。ニガクリタケは小さめで1~5cm、ニガクリタケモドキはさらに小さい
・ヒダの色は、クリタケとクリタケモドキは、最初は白い。ニガクリタケとニガクリタケモドキは最初から黄色い。どちらもやがて紫みを帯びるが、ニガクリタケやニガクリタケのほうは常に黄色みが強い
・クリタケは傘の鱗片や柄の繊維状のささくれが目立つ

よって、以下のようなプロセスで、クリタケを見分けられるはずです。

(1)倒木や枯れ木に群生している赤茶色っぽい色のキノコを見つける。

(2)以下のような特徴があればクリタケっぽいとみなせる。
・傘はぬめらない
・傘に鱗片があり、柄に繊維状のささくれがある
・ヒダが密で、直生~湾生
・ヒダの色が白か紫がかっている
・柄が長めで中空
・柄の色は、上部は薄く、下部は濃い

(3)ヒダの色が白や紫に近いなら、クリタケやクリタケモドキの可能性が高まる。黄色みが強い場合は、ニガクリタケの可能性が高まる。

(4)傘が赤系統で4cmを超える大きさなら、クリタケの可能性が高いので採取を考える。赤系統と黄系統の中間でもクリタケモドキの可能性があるが、ニガクリタケとの区別に注意。ニガクリタケモドキは無毒だが、紛らわしいので採ろうとしないのが無難。

(5)念のため生のままかじってみて、苦味がないか確かめる。苦味がなければ採取する。苦味があれば、すぐに吐き捨てる。

というわけで、クリタケは、しっかり知識をもっていれば、かなり食べやすい部類のキノコだと思います。さすが昔から食されているだけのことはあります。弱い毒性が判明したことは気がかりですが、茹でこぼせば問題ないとされています。

クロラッパタケ

見分けるポイント
・広葉樹林や混交林に生える
・傘は黒っぽい焦げ茶色、ラッパ型で、中央が地面付近まで深くくぼむ
・傘裏(外側の面)は、上部が灰色、地面付近の柄の部分は傘と同じ焦げ茶色
・傘裏(外側の面)はヒダではなく、滑らかで、多少シワがあるのみ
・肉質は極めて薄く柔軟
・最低でも高さ5cmくらいある
・バターのような芳香がある

ヨーロッパでは「死者のトランペット」などと物騒な名で呼ばれているものの、非常に美味な高級食材として広く使われているのが、クロラッパタケです。

図鑑か何かで見て存在は記憶していましたが、長らく縁がなく、4年目にトドマツ・ミズナラ林を歩いていた時、初めて発見しました。

図鑑によると、ミズナラやカンバ類など広葉樹林や、針葉樹の混じった混交林に発生するキノコとされています。

目がよほど慣れていなければ見つからないキノコで、背景に完全に同化する色合いです。これまで発見できなかったのも無理はないと思えるほど地味で、見つけられたのは運が良かったからにほかなりません。

図鑑によると、傘のサイズは4~6cm、高さは5~11cmとされていました。わたしが発見した最低サイズは、それよりも小さく傘3cm、高さ5cmほどでした。

一方、食毒不明とされている近縁種のコクロラッパタケは傘1~3cm、高さ2~3cmでした。それで、傘の大きさはともかくとして、高さは少なくとも5cm程度かそれ以上あるのが見分けるポイントの一つです。

横から見た姿はそれなりに存在感があり、オレンジ色のラッパ型のキノコであるウスタケの色違いのようです。ウスタケは毒キノコ扱い(昔の資料では食用とれることもある)なのに、もっと怪しげなクロラッパタケのほうは高級食材なのが意外です。

最初に発見した時は、まだ類似種など詳しい知識がなかったので採取しませんでした。残念ながら数日後に見に行った時には、すっかり消え失せてしまっていました。

しかし、後日、その周辺に生えているのをまた見つけることができ、無事に採取して味見できました。同じ場所に出やすいキノコなので、一度発見できたら、その周辺を時々探してみると見つかるかもしれません。

採取するにあたり、よく似ている毒キノコは特にありません。

強いて言えば、前述のコクロラッパタケ(Craterellus dubius)、およびアクイロウスタケ(Cantharellus cinereus)がやや似ていますが、どちらも傘裏が普通のキノコのヒダの形に近い脈状なので区別は容易です。この2種は食毒不明です。

一方、クロラッパタケは、下の写真のように、傘裏が全くヒダ状ではなく滑らかです。

また、傘全体の形はいかにもラッパのような形状でした。この写真のように傘裏の上のほうは灰色で、下のほうの柄にあたる部分は焦げ茶色に濃くなっているのもクロラッパタケの特徴だそうです。

さらに、クロラッパタケの顕著な特徴として、バターのような美味しそうな香りをもつことが挙げられます。採取するときに傘の匂いを嗅ぐとはっきりわかるほど強い香りなので、同定する際の強力な手がかりになります。

調理するにあたっても、バターを入れていないのにバターの風味や香りがある他のキノコにはない薄く柔軟な肉質、などと評され、スープやオムレツなどさまざまな料理に合うそうです。

もともと味や香りの強いキノコなので、しっかり水洗いしてから、パリパリになるまで焼いて、何もつけずに食べてみました。

すると、まるで濃く味付けしたポテトチップスのようで衝撃的な美味しさ!  老菌でも、焼いてみれば全く問題なく、濃厚な匂いも味も健在でした。

このクロラッパタケで、これまで食べたキノコがちょうど30種類になったのですが、これほど濃い味がついたキノコは、ホテイシメジとヤマドリタケ(ポルチーニ)くらいしか記憶にありません。

クロラッパタケは単に食べても大丈夫、というだけのキノコではなく、独特な香りや味をもつとても優秀なキノコなので、今後も見つけたら積極的に採取したいです。

[コガネヤマドリ]

見分けるポイント
・広葉樹林またはトドマツ林に生える
・傘は黄金色。マット加工を施されたかのようにビロード状で光沢がない
・管孔も黄色で、柄に対して離生する
・柄の上部をルーペで見ると、隆起した網目模様がある
・柄の下部には、隆起はしていないが、黄色と褐色の濃淡模様がある
・半分に切るなど傷つけても変色しない

トドマツ林で見つけた、茶色い傘で、つやのない大きめのキノコ。

試しに手に取ってみたら、なんと裏側は管孔。この形はまさか、ずっと憧れていたヤマドリタケ(ポルチーニ)では?と気持ちが沸き立ちました。

可食のヤマドリタケを、毒キノコのドクヤマドリと見分ける方法は、柄に網目模様があるかどうかだと知っていたので、柄を確認。

すると、柄の上のほうにだけ網目がありました。詳しく調べたところ、これはコガネヤマドリというキノコでした。

かの有名な「キノコの王様」ポルチーニこと、ヤマドリタケ(別項参照)の仲間、と言いたいところなのですが、ただ単に名前が似ているだけで、ポルチーニには含まれません。

それどころか、非常に美味であるヤマドリタケの仲間に対して、コガネヤマドリは食毒不明扱いとされていることが多く、果敢にも食べてみた人の感想を見ても苦いとか、あまり美味しくないという意見ばかりでした。

ところが、手持ちの図鑑のうち、比較的新しい2種、DVD付 きのこ[改訂版] (小学館の図鑑 NEO)くらべてわかるきのこ 原寸大 (くらべてわかる図鑑) では、コガネヤマドリは可食扱いになっていました。

しかも小学館の図鑑にはレシピ例まで載っています。この図鑑は、ヒョウモンクロシメジを間違えて可食と記載した際に回収騒ぎになったような本なのに、コガネヤマドリは食扱いのまま残っているということは、本当に食べることができるのでしょう。

ネット上の情報によると、地域によって味に差異があるそうで、苦いものもあれば、比較的美味しいものもある様子。9月限定ですが、わりとたくさん見かけるキノコなので、一度食べてみるだけの価値はあるかもしれないと思いました。

ヤマドリタケを含むイグチ科は、マイナーなキノコも多く、種類の判別に苦しむことが多いとされます。しかし、コガネヤマドリは比較的見分けやすく、似た毒キノコもないので、もし可食なら安心して採れるキノコといえます。

コガネヤマドリは一般には広葉樹林生とされていて、図鑑を見てもミズナラ林などに生えるとされています。しかしわたしが発見したのは針葉樹のトドマツ林です。

怪訝に思いましたが、こちらのページに、コガネヤマドリは「広葉樹林のほか、トドマツ林内の地上に発生」とありました。理由についても注記されていて、疑問が解決されました。

傘の色は名前のとおり、鮮やかな黄金色です。傘はまったくぬめらず、つや消しのマット加工を施されたかのように光沢がなく、ふかふかのパンのように見えます。このような色とビロード状の質感のキノコはほとんどないので目立ちます。

裏側を見ると、イグチ科らしい管孔で、鮮やかな黄色。穴の大きさはとても細かく引き締まっていのす。虫が入りやすいキノコですが、これくらい管孔がきれいなものなら食べることができると思われます。

他のイグチ化の大型キノコと同じように、胞子が成熟してくると、管孔が焼いたパンのように膨らみ、せり出してきます。管孔と柄の境目に谷間ができ、離生します。こうなると中に虫が多そうです。

最大の特徴は、前述のとおり、柄に網目模様があることです。ルーペで見なければ判別できないほど見にくいです。網目模様がついているのは、あくまで柄の上のほうだけで、下のほうにはありません。

しかし、柄の網目模様のない部分には、網目のように隆起はしていないものの、黄色と褐色の濃淡からなる、動物の毛皮のような模様がついています。これもかなり特徴的な外見です。

半分に割って断面を見てみると肉の色は薄い黄色でした。肉質はふかふかのパンのようです。

半分に切ってしばらく放置しても、色が変わることはありません変色性のなさもコガネヤマドリの特徴です。

内部がきれいなら食べることができますが、半分に切ってみるまでは状態はわかりません。外見は比較的きれいでも、内部が虫に侵食されてしまっていることもあります。きれいな状態の幼菌を見つけるのは少し難しいキノコです。

似ているキノコは特にありません。イグチの仲間はややこしいことで有名ですが、鮮やかな黄金色のため、簡単に判別できるのはありがたい点です。

柄の上部のみに網目模様をもつというのは、有名なヤマドリタケ(ポルチーニ)と同じ特徴ですが、ヤマドリタケは傘に光沢があり、色合いも黄金ではなく褐色寄りです。また図鑑によると、柄の網目模様は白っぽいそうです。

トドマツ林に出る食用ヤマドリタケの仲間には、もっと茶色いススケヤマドリタケもあります。肉は白く、白い網目模様が柄全体にあります。柄の上のほうにだけ網目模様が見られる場合もあるようですが、どのみち他の特徴は一致しません。

コガネヤマドリに最も似ているのは、最近発見されたキアシヤマドリタケ(仮称)というキノコかもしれません。しかし、柄の全体に網目模様をもつ点でコガネヤマドリとは異なります。

気をつけるべきキノコはドクヤマドリです。傘が黄色系統かつ光沢のないビロード状、管孔もやはり黄色っぽいので、色合いだけだと似てみえる個体があるかもしれません。

しかし、ドクヤマドリは柄に網目模様がなく、コガネヤマドリのような柄の濃淡模様もなく、何より肉を傷つけると、ゆっくりと弱く青色に変化するという特徴があります。それで、半分に切ってしばらく放置し、変色性を確認すれば大丈夫です。

タマゴタケ

見分けるポイント
・鮮やかなオレンジ色や朱色の傘
・傘のふちに非常にはっきりとした条線がある (タマゴタケモドキとの区別点)
・ヒダと柄の色は黄色。白ではない (ベニテングタケとの区別点)
・柄にマントのような黄色のツバがある
・柄の中身は中空
・柄にだんだら模様があることもある
・柄の株には卵のような白いツボをもつ

濃いオレンジ色の見た目が毒々しく、同じテングタケ科には恐ろしい猛毒キノコも多数あるにも関わらず、なぜか無毒で非常に美味しいタマゴタケ

2年目に初めて自分で見分けて食べた、わたしにとって記念すべきキノコです。つまり、初心者がはっきり見分けられるほどわかりやすい特徴を持ったキノコといえます。

わたしが住んでいる地域では、7月中旬から9月中旬によく見かけます。

地面から出てすぐの幼菌は、本物のタマゴのようにも見えます。タマゴタケの幼菌は、なんとマッシュルームと同じく、世にも珍しい生食できるキノコのひとつとされています。数あるキノコの中でも極めて無毒です。

最初は白い膜で覆われていて、白い殻に包まれた卵にそっくりです。白い膜は成長とともに破れますが、キノコの柄の根元に残ります。この構造は「ツボ」と呼ばれます。

傘は最初は卵のような形ですが、やがて平らに開いて、幅は10cmを超え、とても立派な外観になります。

非常に見分けやすく、なおかつ美味なキノコですが、同じテングタケ科は毒キノコだらけで、中にはタマゴタケモドキ、タマゴテングタケなど致命的な猛毒をもつ種類も多々あります。

それで、採取する際には、以下の特徴をチェックリストにして確認することが大切です。

(1)傘の色は赤系統。傘のふちに、はっきりした条線がある
まず傘の色は赤系統です。オレンジ色や朱色を含んでいることが重要です。わたしが見かけるタマゴタケは、黄色からオレンジ色のグラデーションが多いですが、傘全体が朱色に近い個体もあります。

傘のふち(外周)には、はっきり目視できる放射状の条線があり、溝のように立体的に刻まれています。後で書くように、条線の有無は猛毒のタマゴタケモドキとの重要な区別点になります。

(2)ヒダ、柄、ツバの色は全て黄色
ヒダと柄の色も大切な手がかりです。タマゴタケは、ヒダ、柄、そして柄についているツバ(ヨーロッパの貴族が胸につけているヒラヒラみたいな部分。ジャボ)のいずれも黄色です。

もし傘が赤くても、ヒダや柄が白だったら、タマゴタケではありません。これはおもに、後述するベニテングタケとの区別点となります。

(3)柄の内部は中空
柄はまっすぐ直立して、しっかりした構造で、内部はちくわのように中空です。柄の表面は黄色ですが、内部は白くなっています。空洞にはスポンジ状の綿みたいなものが詰まっていることがよくあります。

(4)柄にだんだら模様がある場合がある
図鑑によっては、柄にダンダラ模様があると解説されていますが、道北のタマゴタケではダンダラ模様がない場合も多いです。セイヨウタマゴタケもダンダラ模様がないそうです。

これら4つの特徴のうち、特に重要なのは最初の2つです。1つ目の傘の色と条線の有無は、猛毒のタマゴタケモドキ、タマゴテングタケと区別するのに役立ちます。

この2種類は、細心の注意を払わなければならない猛毒キノコで、もし食べてしまうと一週間拷問のような苦痛が続いた末に死に至るそうです。

タマゴタケモドキとタマゴテングタケは、両者とも外見はそっくりで、特徴もほぼ同じなので顕微鏡でしか見分けがつかないそうです。

図鑑によると、タマゴテングタケのほうが大きく傘が5~12cm、タマゴタケモドキは3~7cmとあり、わたしがよく見かけるのは小さめなので、タマゴタケモドキのほうだと考えています。

タマゴテングタケは「オオタマゴタケモドキ」のような名前のほうがわかりやすそうです。このあたりのキノコは名付けが錯綜していて、あまり似ていないのがモドキ呼ばわりだったり、そっくりなのが全然違う名前だったりするので、いつかまともな名前に整理してほしいところです。

この2つの猛毒キノコは、タマゴタケと同じく幼菌のときはタマゴのようですが、傘の色が赤やオレンジ色ではなく黄色です。

最も重要な違いは、傘のふちに放射状の条線がないことです。幼菌時であれ、成長してからであれ、条線がなければタマゴタケではないので、採ってはいけません。

柄とヒダとツバも、タマゴタケのような黄色ではなく白です。ですから、一般的なタマゴタケとは特徴がことごとく異なります。しっかり特徴を確認して採ればタマゴタケと間違うことはないでしょう。

傘が黄色くても、条線があれば、キタマゴタケという食べられるキノコだそうですが、危険は冒さないのがいいでしょう。あくまで上のリストすべてに当てはまるものだけを食べれば安全です。

もう一つ、タマゴタケと間違う可能性のある毒キノコは、スーパーマリオのキノコのデザイン元にもなったともされる毒キノコ、ベニテングタケです。食べても死に至る毒ではありませんが、痙攣、錯乱、幻覚などが生じるそうです。

ベニテングタケは、傘の色がタマゴタケとそっくりの赤系統です。真っ赤なものもあれば、黄色やオレンジ色がかっているものもあります。写真ではわかりにくいものの、ベニテングタケも傘の周囲に条線があります。

ただ、普通の状態なら、イボがついているため、タマゴタケと間違うことはありません。

しかし、このイボはもともと傘を覆っていた殻の破片が付着しているだけなので、雨でイボが洗い流されてしまうことがあります。そうなると、タマゴタケに似て見える場合があり、要注意です。

次の写真は若いベニテングタケですが、かろうじて白いイボが残っているとはいえ、もしこのイボが完全に洗い流されてしまっていたら、タマゴタケにそっくりに見えたことでしょう。現に遠目ではタマゴタケだと思いました。

しかし、もし白いイボがなかったとしても、見分けるのは実は簡単です。タマゴタケはヒダ、柄、ツバがどれも黄色ですが、ベニテングタケはこれらが白いからです。

下の写真のベニテングタケは、イボが取れてしまったらタマゴタケにそっくりの傘になりますが、柄が白いためタマゴタケではないと判断できます。

ベニテングタケは有毒であると同時に大量の旨味成分も含んでいるとされます。長野県の一部地域ではベニテングタケを毒抜きして食べる風習があるとのことですし、エゾシカもベニテングタケを好んで食べるそうです。

いつか旨味を維持しながら無毒化する方法が見つかったら、ぜひ食べてみたいと思うほど、ベニテングタケは魅力的なキノコだと思います。

ほかに、タマゴタケに似たキノコとしては、ヒメベニテングタケがあります。傘の色がタマゴタケによく似ていて、条線もはっきりしているため、森歩きの最中に見つけるとタマゴタケに錯覚します。

しかし、写真だと似ているようでも、実物はあまり似ていません。

まず、サイズ感が全然違います。タマゴタケが背丈20cmくらいあるのに対し、ヒメベニテングタケは10cmくらいと小型です。

次に、ベニテングタケのような白いイボはありませんが、傘と同色の鱗片があります。写真の傘の中央のうろこ状の部分がそれです。傘だけでなく柄も鱗片に覆われているため、すぐにタマゴタケとのち外に気づくはずです。

最後に、裏側を見てみると、タマゴタケのヒダは柄と同じ黄色なのに対し、ヒメベニテングタケのヒダは白いという違いがあります。

食用キノコであるタマゴタケは、近縁種にも食べられるとされるものがいくつかあります。

たとえば、前述のキタマゴタケのほか、チャタマゴタケなど、傘が黄色や茶色をしている、普通のタマゴタケの色違いがあります。色以外の特徴はタマゴタケと同じです。

しかし、タマゴタケの見分けにおいて、色はとても重要な要素です。色が違うことで猛毒キノコとの見分けがやや難しくなります。、傘が赤~オレンジ色の典型的なタマゴタケ以外は、初心者は採らないのが無難です。

ほかに、、奥山にしか生えない日本特産キノコとされる、ミヤマタマゴタケという種類を何度か見たことがあります。ネットでは食べたという報告もありますが、本当に安全なのか確証はありません。

ミヤマタマゴタケは、おそらく毒キノコと思われるタマゴテングタケモドキや、ドウシンタケ、ハマクサギタマゴタケなど、外見や色がよく似ているキノコが複数あります。注意深くヒダの色や条線の長さなどを観察すれば区別可能ですが、手を出さないのが無難でしょう。

採取したタマゴタケは、旨味成分が豊富に含まれているため、さまざまな料理に合います。

細かく切って、ホットプレートでバター炒めにしたり、

卵スープならぬタマゴタケスープにしてみたり、

ホットプレートでそのまま焼きうどんに混ぜてみたりしました。どれもゆで卵のようなトゥルっとした食感と旨味が出ていて、とても美味しかったです。

タモギタケ

見分けるポイント
・広葉樹の倒木や枯れ木に生える
・夏の暑い時期に発生
・傘はレモンイエロー
・傘の中心が凹む
・傘の裏と柄は白っぽい
・傘の裏のひだが長く、柄まで伸びている
・似ている毒キノコはない
・複数が集まって生え、基部で合着
・穀粉の匂いがする

真夏の暑い6~9月ごろ、ひときわ鮮やかなレモンイエローの傘が目立つキノコ、タモギタケ。地元ではタモキノコと呼ばれています。

名前からタモの木、つまりヤチダモに出るキノコであることがわかります。ほかにもハルニレ、オヒョウニレ、ミズナラ、カエデなどにも出るそうです。いずれも広葉樹で、枯れ木や倒木に生えます。

一部では「幻のキノコ」と呼ばれているようですが、地元の人たちが言うには、そんなに珍しいキノコではありません。それだけ道北が自然豊かだということかもしれません。

しかし、今のところわたしは一度しか見つけたことがありません。夏の暑い時期に、密林のような広葉樹林に入るのは簡単ではなく、危険も多いです。

タモギタケは、夏の食糧が少ない時期のヒグマの好物だとも言われています。そんなに珍しくないとしても、採りに行くのが難しいという意味では「幻のキノコ」です。

今では、原木栽培の方法も確立されているので、わざわざ森に採りに行かなくてもスーパーで買えます。それでも森を探検している最中に天然物のタモギタケを見つけられたら、とても嬉しいものです。

とにかく、鮮やかなレモンイエローが目を引きます。夏の森で枯れた広葉樹に生える、黄色い傘のキノコを見つけたら、ほぼ間違いないでしょう。

もちろん、念のため、他の特徴も確認する必要はあります。冒頭に見分けるポイントをまとめましたが、ネットでタモギタケの画像を調べて比較するだけでも、確実に同定できるほどわかりやすいです。

匂いについては、穀粉らしいかと言われるとよくわかりませんでしたが、確かに刺激臭でも菌臭でもない穏やかな香りがありました。しかし人によっては匂いが苦手で嫌いになることもあるそうです。

有名なキノコなので、調べればレシピはたくさん出てきます。

調理する前に、まず塩水に10分ほど漬けて虫出しします。それから、旨味が凝縮されているのでいい出し汁が取れるとのことだったので、鍋物やうどんに入れてみました。

残念ながら鮮やかな黄色は抜けてしまいますが、食べてると、コリコリとした弾力性のある歯ごたえがかなり美味しいです。味もしっかりと出ていて、満足度の高いキノコでした。

チチタケ

見分けるポイント
・傘は鮮やかなオレンジ色か、それよりやや濃い色
・傘は微粉状・ビロード状。つまりマット肌で光沢がない
・傘にはっきりとした目立つ環紋はない。傘が大きく成長すると、薄い段差のような環紋がわずかに出ることはある
・柄は傘と同色
・柄は縦に裂けにくい
・ヒダは傘や柄より薄い白っぽい色
・ヒダを傷つけると多量の白い乳液が出る
・乳液は時間が経つと茶褐色に変色するため、成長したチチタケではヒダに染みがあったり、柄の頂部に黒っぽいネバネバしたものがついていたりする
・乾燥させるとニシンに似た香りがする

栃木県でこよなく愛されているという食用キノコ、チチタケ。名前のとおり、白い乳液が出るのが特徴的なキノコで、乾燥させるとニシンのような香りがして、とても良い出汁がとれます。

とても見分けやすく利用しやすいキノコなので、以下に特徴を箇条書きします。

(1)傘は鮮やかなオレンジ色で、光沢のないマット肌
傘の色はオレンジ色か、それよりやや濃い色で、傘の表面は微粉状・ビロード状と表現され、濡れているのでもない限り、光沢はありません。

この鮮やかな色マット肌の質感は、似ているキノコがなく、見慣れると、森の中ですぐにチチタケだと気づけるほど独特です。

(2)柄は傘と同色。ヒダはそれより薄い色
柄は傘と同色の鮮やかなオレンジ色で、やはり光沢はありません。ヒダは傘や柄より薄く、白っぽい色で、間隔が密に詰まっています。

ヒダは直生(柄に対し垂直に付く)か、やや垂生(柄に対して下向きに少し流れる)です。

(3)ヒダを傷つけると白い乳液がたっぷり出る
最大の特徴は、ヒダを傷つけると牛乳のような白い液体が大量に出てくることです。これが旨味の元であることを思うと、あまり流出させてしまうのはもったいないので、軽く傘を折り曲げてヒダを裂く程度で確認するといいでしょう。

(4)乳液は時間が経つと茶褐色に変色し、ネバネバする
この乳液は、時間が経つと茶褐色に変色する特徴があります。そのため、やや古いチチタケでは、ヒダに褐色の染みができていたり、柄の上のほうに、焦げ茶色のネバネバした液(垂れて変色した乳液)が引っ付いていたりします。

(5)縦に気持ちよく裂けない
チチタケを含むベニタケ科のキノコは、縦に裂けないという特徴があります。正確に言うと、組織構造のせいで、縦にすんなり気持ちよく裂くことができず、裂こうとすると変な形に崩れてしまいます。

さほど重要な特徴ではありませんが、チチタケが猛毒キノコであるドクササコと似ている、と感じる人がいるようで、見分ける際のポイントの一つとされています。

ドクササコは、確かに全体の配色はチチタケとやや似ていますが、形は漏斗形なので、さほど似ているとは思えません。

さらに、チチタケのような乳液が出ず、柄は繊維質で、縦に裂こうとすると、気持ちよくきれいに裂けるため、よく観察すれば、間違うようなものではないでしょう。

以上5つの特徴さえ知っておけばチチタケは見分けられます。

チチタケは成長すると、傘がかなり大きくなり、10cmを超えることもあります。

傘はやや反り返って中央がわずかにくぼむなど、形はかなり変化しますが、鮮やかな色とマット肌は変わらないので、見分けるのは簡単です。

微妙にうっすらと同心円状の模様(環紋)が現れ、段差がついているかのように見えるのも、成長したチチタケのポイントです。

問題は、大きくなって古くなると、最大の特徴である白い乳液が枯れてしまって出なくなってしまうことです。それでも、乳液が変色した茶褐色のネバネバした液が柄に引っ付いていることが多く、見分ける手がかりになります。

たとえ乳液が枯れている老菌でも、出汁はしっかり出るので、朽ちかけていて汚いものでなければ、採取しても大丈夫です。

似ているキノコには、まず、チチタケと同じように利用できるチリメンチチタケとヒロハチチタケがあります。

チリメンチチタケは、通称「黒チタケ」と呼ばれ(クロチチタケという名称のキノコがあるが無関係)、傘の色が赤黒い(暗赤褐色)のが特徴です。

また成長すると傘に放射状にシワが寄るらしく、ここのサイトの写真がわかりやすいと思いました。

チチタケと同じように白い乳液が出て、食用にすることができますが、ややまれなキノコとされています。

ヒロハチチタケは、チチタケと見た目がよく似ていますが、裏側のヒダの間隔が疎らでスカスカなのが特徴です。やはり同じように乳液が出て、食用に使うことができます。

ほかに似ているキノコの中には、有毒ではないものの、乳液から辛いなどの理由から、食用に適していない種がいくつかあります。しかし、ここまで書いた特徴に合致しないことで、確実に見分けることができます。

例えば、カラマツチチタケは、名前のとおり針葉樹林(カラマツ林)に出ます。普通のチチタケは広葉樹林に出るので発生環境が違います。

また、傘は普通のキノコと同じ程度の光沢があり、マット肌ではありません。乳液は少量しか出ず、茶褐色に変色する性質もありません。

チョウジチチタケやニオイワチチタケは、白い乳液が出る点では似ていますが、傘に非常にはっきりした同心円状の模様(環紋)が現れます。

下の写真は、カラハツモドキと思われるキノコで、やはり白い乳液が出る点では似ていますか、傘にはっきりとした同心円状の模様が出るため、ひと目で違いがわかります。

前述のとおり、普通のチチタケは、大きく成長した時に、かすかに段差のような環の模様が現れる程度なので、見た目が全然違います。

いずれにしても、チチタケの特徴をしっかり押さえておけば、間違えるほど似ているキノコはありません。

採取したチチタケは、基本的には乾燥させてから使うのが良いようです。小さい場合はそのまま、大きい場合は少し切り分けて干すなどして乾燥させると、ニシンのような匂いがするようになります。

この匂いは非常に独特なので、どうしてもチチタケかどうか迷うようなことがあれば、乾燥させて匂いを確かめてみるのも良い手段です。

乾燥チチタケを入れた水を沸騰させ、一晩おいておくと、チチタケの傘色と似たオレンジ色の出汁がとれました。写真はとれた出汁の一部で、本当はもっとたくさんありました。

舐めてみても味は感じられませんでしたが、魚で取った出汁らしい良い香りがありました。

チチタケの肉そのものは食感がボソボソしてあまり美味しくないとされますが、より旨味を濃くするためには、出し殻として捨ててしまうのは望ましくないようです。

調べてみると、チチタケを冷凍保存してミキサーで粉砕して料理に入れるとよいとされていました。わたしも、チチタケはまず干して乾燥させてから、冷凍保存しておくことにしました。

チチタケの出汁を使ってラーメンを作ってみると、不思議なことに、今まで作っていたのとは別物の味に仕上がりました。何種類もの魚で出汁をとった老舗料理店の味のような深みがあり、とても気に入りました。

アカモミタケもそうですが、キノコを混ぜただけでこれほど旨味が出るなんて、お得感を感じられます。

キノコそのものの食感や旨味が魅力的なタマゴタケやノボリリュウなども好きですが、わたしは料理をグレードアップしてくれる相乗効果があるチチタケ系のキノコが、一番気に入っています。

チャナメツムタケ

見分けるポイント
・地中に埋まった朽ち木から生えるため、地面から生えるように見える
・倒木や朽ち木から生えていることもある
・傘の色は赤茶色や赤褐色
・傘は湿っている時、激しくぬめる
・若い個体は、傘に白い綿毛状のささくれがつく。ふちにリング状に白い鱗片がつくことも。成長すると白いささくれは失われるが、傘をよく見ると、傘と同色のオレンジ色の鱗片で覆われている(カキシメジとの区別点)
・幼菌の時は、ヒダが白い繊維状の膜で覆われている
・ヒダは白から褐色で密、直生~湾生
・ヒダに赤褐色の染みがないことを確かめる(カキシメジとの区別点)
・匂いを確かめてみて、不快臭がないことを確かめる(カキシメジとの区別点)
・柄の表面が繊維状でささくれている
・柄は白だが、時間経過とともに根元から褐色を帯び、ときにだんだら模様

9月~10月のそこそこ長い期間にわたり、かなり頻繁に目にするにもかかわらず、3年目まで正体不明だったチャナメツムタケ。成長段階によって、見た目が変わりやすいからかもしれません。

チャナメツムタケはナメコの王様のようなキノコで、ぬめりと旨味を兼ね備え、人気のある食用キノコとされています。

最初にこのキノコを認知したのはトドマツ林でした。遠くからでも鮮やかなオレンジ色で、ハナイグチに見えましたが、トドマツ林だから違うだろう、と近づいてみたら、知らないキノコでした。

その後、何度もトドマツ林のあちこちでこのキノコを見かけるうちに手がかりが集まり、モエギタケ科のチャナメツムタケだと判明しました。

以下に特徴をまとめます。

(1)傘に白いささくれがある。それが脱落しても傘と同色の鱗片がある
最大の特徴は、褐色の傘に点々とついている白いささくれのような鱗片です。この鱗片がはっきりしていれば、類似する毒キノコとも確実に区別でき、安心して採取できます。

傘の大きさは、白い鱗片が残っている若い個体だと5cm程度までですが、最大で10cmくらいまで成長します。大きくなると、白いささくれが脱落してしまって見分けにくくなります。

しかし、傘をじっくり見ると、傘色とほぼ同色のオレンジ色の鱗片で覆われていることが見て取れます。これはスギタケ属のキノコ特有の性質です。

チャナメツムタケと外見が似ている毒キノコには、カキシメジマツシメジがあります。

この2つは近縁関係にあるキノコで、広葉樹林に生えるのをカキシメジ、針葉樹林に生えるのをマツシメジと呼んでいるようです。とはいえ、ここのサイトの表にまとめられているように、それぞれ似ているようで異なる点もあるようです。

カキシメジとマツシメジは、どちらも湿っている時は、チャナメツムタケと同様にテカテカしていて、見分けが難しいと言われています。

しかし、これらの毒キノコには、チャナメツムタケのような白いささくれはないので、それが残っている若い個体であれば、安心して採取できます。

白いささくれがない場合も、傘全体が傘と同色の鱗片で覆われていることや、他の特徴をよく観察することで見分けることができます。

(2)激しいぬめりがある
チャナメツムタケという名前のとおり、ナメコと同様、傘にはぬめりがあります。湿っている時ほどぬめりがつよく、雨の後には、まるでみたらし団子のような外観のテカテカした傘になっていることもあります。

このぬめりは相当激しいもので、採取する時にはみたらし団子のタレのような粘液が手にベトベトくっつきますし、下処理のために水洗いすると、ツルツル滑って掴みどころがなく感じるほどです。成長しても粘性は失われません。一方、前述のよく似た毒キノコであるカキシメジも、やはり濡れている時、傘にぬめりがあります。カキシメジの粘性が強いのは主に幼菌で、成長するにつれ弱くなるそうですが、区別するには他のポイントも合わせて調べるべきでしょう。

(3)ヒダは白く、直生、密
次にヒダの特徴。傘を裏返してみると、褐色の傘に比べて、かなり白みを帯びたヒダが目に入ります。単に白いだけでなく、ヒダの間隔が密でぎゅっと凝縮されているため、いっそう白みが強く感じられるのでしょう。

半分に割いて断面をみると、ヒダが直生、つまり柄から真横に伸びていることがわかります。チャナメツムタケのヒダは直生か、少し湾曲している程度の湾生で、上や下に大きくカーブしてはいないので、整然とした印象を受けます。

毒キノコのカキシメジやマツシメジは、ヒダが白く、湾生し、密であるという点で、チャナメツムタケの特徴に酷似しているのが厄介です。

しかし、カキシメジやマツシメジは、少し古くなったり傷ついたりすると、ヒダに赤褐色の染みができるという特徴があります。そのような染みがあれば、チャナメツムタケではないので、注意深く観察することが大切です。

わたしはカキシメジを見たことがないので、赤褐色の染みの写真は手持ちにありませんが、ここの記事の写真がわかりやすいと思いました。同じような染みはエノキタケやアシナガタケで見たことがあります。

チャナメツムタケのヒダは、古くなるとやや褐色に変化していきますが、全体が一様に変色するだけで、一部だけ染みのように変色することはありません。

若いカキシメジの場合は、赤褐色の染みはまだ現れていないため、チャナメツムタケのヒダと似て見えるようです。

とはいえ、若いチャナメツムタケには、まず間違いなく傘の白い鱗片が残っているでしょうから、ヒダに頼って両者を区別する必要はないでしょう。

また、カキシメジのヒダは、古くなった場合だけでなく、手で触れた時も染みができるとも書かれていたので、下処理の段階でも変色していないか、よく観察するといいかもしれません。

(4)柄は白いささくれがあり、古くなると褐色を帯びる
柄は縦方向に白い繊維状のささくれが走ります。

柄の色は白ですが、成長とともに下のほうから褐色を帯びてくるため、やがて白と茶色が入り混じり、もっと成長すると、白と茶色のだんだら模様のようになります。

カキシメジやマツシメジの柄も、白色と褐色が混じるそうですが、カキシメジは傷ついた部分が褐色になりマツシメジは白色と褐色の境目がはっきりしているとされているため、チャナメツムタケの柄の特徴とは異なっています。

それで、傘の白い鱗片がなくなっている場合でも、柄が白と茶色のだんだら模様になって、明らかにささくれが目立っていれば、チャナメツムタケを疑うことにしています。

チャナメツムタケの柄は縦の繊維が強いため、ポキっと折れることはありません。縦に割いて断面を見てみると中実で、内部も繊維が詰まっています。

ネット上では、チャナメツムタケは中実である、と書いているサイトが多く、わたしが採取したチャナメツムタケも柄の中身が詰まっているものがほとんどでした。

しかし、ここのサイトの断面写真では中空とされていて、わたしもチャナメツムタケの老菌らしきキノコを見つけたときは、やや中空でした。

手持ちの紙の図鑑では、チャナメツムタケをはじめ、近縁種のシロナメツムタケやキナメツムタケについては、中実とも中空とも書かれていませんでした。

もしかすると、古くなると柄の内部に空洞ができるなどの傾向があるのかもしれません。柄の内部で虫食いが進行して、空洞ができている個体もしばしばありました。

どのみち似ている毒キノコのうち、カキシメジは中空か髄状ですが、マツシメジは中実とされているので、この点だけで区別することはできません。

(5)地面から生えることが多い
ナメコは木から生えるキノコですが、チャナメツムタケは地面から生えることが多いキノコです。といっても土から生えているわけではなく、地面に埋まった古い朽ち木から生えるため、見かけ上、地面から生えているようになるそうです。

一般的には、チャナメツムタケは単生~群生とされていますが、時おり、束になって生えている(束生)チャナメツムタケも見かけます。

このサイトの説明を見ると、地中の埋没木に束生しているものの、地上では単生・群生であるかに見えるということのようです。

絶対に地面から生えるというわけでもなく、下の写真のように、普通に倒木や朽ち木から生えていることも時々あります。しかし、個人的な経験からすると、地面から生えている頻度のほうがずっと多いです。

(6)幼菌の場合は繊維状の膜でヒダが覆われている
傘がまだ十分に開いていない若い個体の場合、細かい糸を張り巡らせたような、白い繊維状の内被膜でヒダが覆われています。

幼菌の場合は、傘に白い綿くずのようなささくれが残っている場合がほとんどなので、その特徴だけで十分に判別できますが、他の特徴み覚えておいて損はありません。

この繊維状の内被膜は成長するとすぐに失われてしまうので、見かける機会はあまりありません。

以上がチャナメツムタケの特徴です。モエギタケ科には、チャナメツムタケのほかに、キナメツムタケやシロナメツムタケといった類似の食用キノコもあり、特徴がほぼ共通しています。

シロナメツムタケも、チャナメツムタケと同じく、地中に埋まったトドマツなどの朽ち木から生えるため、地面から生えているように見えることが多いです。

チャナメツムタケと同様、ヒダは白く直生で密です。ヒダの色は古くなると白色からやや褐色に変色します。柄は白から褐色で、下部がささくれに覆われています。

傘にはチャナメツムタケと同様、白い綿くずのような鱗片がついていますが、傘の色が無彩色に近いため目立ちません。

もう一つの近縁のキノコであるキナメツムタケも、地面または材木上に生えます。猛毒キノコのニガクリタケに非常によく似て見えるとされていて、わたしも発見した時、大きめのニガクリタケかな?と思いました。

傘が開く前であれば、チャナメツムタケと同様に傘に鱗片があるので、区別は簡単です。しかし、この写真のように、傘が開いて鱗片が無くなっていると、かなりニガクリタケに似た容姿に見えます。

しかし裏側を見ると、ヒダは白~クリーム色です。ニガクリタケのヒダはオリーブ褐色と表現され、汚れていても黄色みが目立ちます。またキナメツムタケの柄はニガクリタケよりがっしりしている印象で、内部も中実です。

とはいえ、ニガクリタケに似て見えることは確かなので、キナメツムタケを食べるのはお勧めできません。

ニガクリタケは生で噛むと非常に苦いので、ひと口かじってみれば確実に区別できますが(もちろん味を見るだけで呑み込んではならない)、そこまでしてキナメツムタケを食べる気にはなれません。

採取したチャナメツムタケは、塩水に漬けて虫出ししてから茹でて食べます。下処理しても表面のぬめりが落ちることはなく、みたらし団子みたいな見た目のままで、手で触るとツルツル滑ります。

まず、何もつけずに味を見てみましたが、まったくの無味でした。そこで醤油をつけて一口でまるごと食べてみると…。

傘はぬるぬる、つるつるという食感、柄はぎゅぎゅっとした歯ごたえ。ナメコの親玉というか、高級なナメコというか。どこまで行こうがナメコの域は出ないけれど、美味しいナメコという感じでした。

シーズン中、かなり長い期間見つかるので、森に出かけては数個ずつ持って帰ってきて、色々な料理に入れて楽しんでいます。基本的にナメコと変わらないので、味噌汁などに入れるのが最も合っていると感じました。

ナラタケ(ボリボリ)

見分けるポイント
・木からも地面からも生える
・大量発生する
・傘に黒い鱗片がある
・ヒダが白く、傘の色より薄い
・柄にツバがあるか、ツバの痕跡がある

ナラタケは、採取するときの感触や歯ごたえなどから、北海道ではボリボリと呼ばれ、広く愛されているキノコです。しかし一種類ではなく、多数のキノコの総称です。

ナラタケはその名前のとおりブナ科の木など、広葉樹林に生え、倒木、木の根元、地上などに発生します。

北海道だと、ミズナラの木が多いので、その根元を探して歩くとよく見つかりますが、他の種類の木や針葉樹にも生えることがあります。

ネット上の情報では、ナラタケは材木上に発生するキノコだと書かれていることがよくありますが、必ずしも朽ち木や倒木だけでなく、その周辺の地上からもよく生えます。

キノコ狩りを始めた当初、地上から生えているナラタケを見て、ネット上の情報と食い違うので、これはもしや似ている毒キノコでは?と不安に駆られたことがありました。

しかし、よく調べてみると、本州では無印ナラタケがよく生えるのに対し、北海道では別の種類のナラタケが多いことがわかりました。

特に、「日本産ナラタケ属について」という20年前の資料を調べてみたところ、無印ナラタケはおもに材木上に生えるのに対し、他の種類のナラタケ(ワタゲナラタケ、ホテイナラタケ、ヒトリナラタケなど)は地上から生える場合があることがわかりました。

同様に、ネット上の情報だと、ナラタケは広葉樹に生えるとされているので、トドマツなど針葉樹から生えているのを見て困惑していました。でも、北海道に多い種類のナラタケは、広葉樹からも針葉樹からも生えることがわかり、疑問が払拭されました。

ナラタケ菌は世界最大の生物である、と言われることがあります。それを裏付けるように、8月か9月ごろ、突如として森全体に大発生することがあり、地面も倒木も、数え尽くせない量のナラタケで覆い尽くされます。

幼菌のナラタケは傘がまだ小さく閉じているため、成長したナラタケとはかなり印象が異なります。

それでも、ナラタケの重要な特徴である黒い鱗片が確認できるため、他のキノコとの区別は簡単です。

柄にツバがあるという特徴については、幼菌の時のほうが皮膜が残っているため、はっきり確認できます。

ナラタケは劣化するのが早く、大発生の日から2~3日以内に森に行かないと、もう食べられなくなってしまいます。経験からすると、幼菌を確認してから2日以内が食べごろ。3日目は怪しく、4日目はほぼ無理、といった感じです。

森全体に大量発生するという特徴は、他のキノコでは考えられないため、大発生のときに観察すれば、どれがナラタケなのか簡単に見分けられ、特徴を覚えることができます。

ナラタケには様々な種類がありますが、以下に挙げる特徴はどの種類にも共通していて、いずれも食べられます。

(1)傘に黒い鱗片があり、特に中央付近に多い
ナラタケを見分ける際の最重要ともいえる特徴は、傘の鱗片です。どの種類のナラタケでも、傘の中央付近に黄褐色から黒褐色の鱗片があります。

ルーペで見るとわかりますが、これは染みや模様ではなく、立体的なささくれです。種類ごとに鱗片の雰囲気は異なっていますが、立体的なささくれがあることは共通しています。

次の写真は、おそらくワタゲナラタケ(ヤワナラタケ)と思われる種類の鱗片です。他のナラタケと比べると鱗片の色が薄く、弱々しく見えます。鱗片は中央部に多く、周辺にはほとんどありません。

続く写真は、やはり地元でよく発生する種類で、おそらくクロゲナラタケだと考えています。ワタゲナラタケに比べると鱗片がはっきりしていて、毛深い印象を受けます。

クロゲナラタケの鱗片は、中央部に非常に多いだけでなく、周辺部にもたくさんあります。

最後の写真はトドマツ林で見かけたツバナラタケ(オニナラタケ)で、剛毛といってよいほどの鱗片で覆われています。

各種ナラタケに共通する この黒い鱗片を確認できれば、致死的な毒キノコであるドクアジロガサ(コレラタケ)ドクササコと間違えるのを避けられます。これらの毒キノコの傘には鱗片はありません。

これらの猛毒キノコは、いずれも北海道には分布していないとされますが、ドクアジロガサの近縁のヒメアジロガサモドキは分布しています。それに、昨今の温暖化や異常気象で、いつ分布域が変わらないとも知れないので、区別点を覚えておくのは大切です。

ほかに、わたしは確認したことがありませんが、毒キノコのオオワライタケは、色がよく似ている上、傘が黄褐色の繊維状の鱗片に覆われるとされているので注意が必要です。しかし、他の特徴も合わせて調べれば区別は容易です。

(2)傘は褐色、ヒダは白
全体の色みはどのナラタケでも共通していて、傘は褐色で醤油せんべいのような色、ヒダは白からクリーム色です。言い換えると、傘とヒダの色は同じではありません。ヒダは傘よりも白っぽく薄い色合いです。

この特徴は重要です。似ているとされる毒キノコのうち、ドクアジロガサ(コレラタケ)やオオワライタケのヒダは、傘とほぼ同じ色で黄みを帯びているからです。

(3)傘の周囲に、放射状の条線がある
傘の外周部分には、はっきりとした放射状の条線があります。

下の写真はワタゲナラタケ(ヤワナラタケ)と思われる種類の傘で、周辺部に条線がよく目立ちます。

一方、次の写真のクロゲナラタケと思われる種類の傘は、周辺部も鱗片が覆われてる反面、あまり条線が目立ちません。

続く写真はツバナラタケ(オニナラタケ)で、鱗片も条線も非常にはっきりと目立っています。

このような条線を確認できれば、他の似ている毒キノコと区別する助けになります。

毒キノコのドクアジロガサやヒメアジロガサモドキは、湿っている時には条線が現れますが、乾いている時には条線は消えます。

また毒キノコのドクササコやオオワライタケには、そもそも条線がありません。

それで、傘の黒い鱗片と、周囲の条線の両方を確認できれば、これらの毒キノコの可能性を除外することができます。

(4)柄にツバがある、またはツバの痕跡がある
どのナラタケも、柄にツバがある、またはツバの痕跡があることが共通しています。

特に本州に多い無印ナラタケや、ツバナラタケ(オニナラタケ)は、立派なツバをがよく目立ちます。次の写真はツバナラタケです。

このツバナラタケ(オニナラタケ)は非常に大型で、他の種類と比べて2倍以上の大きさの巨人のようなナラタケです。発生する時期も他のナラタケより遅いです。

一方、わたしが住んでいる地域で多い、クロゲナラタケやワタゲナラタケと思われる種類では、ツバは早くに消失してしまいます。それでも、ツバの痕跡は節のようになって柄に残っています。

この写真のように、ワタゲナラタケやクロゲナラタケの場合、柄の色が、ツバより上では白く、ツバより下の根元近くでは黒っぽくなることが多いです。これも見分ける手がかりになります。

もし(1)と(2)の特徴は確認できるのに、ツバが見当たらない場合は、ナラタケモドキかもしれません。ナラタケモドキも食べることができますが、味は劣るといわれます。

(5)柄は中実でポリっと折れる。例外もある
ナラタケの柄は中実でポリっと折れることから、別名ボリボリ、ポリポリなどと呼ばれるとされています。食べた時の食感に由来しているという説もありますが、やはり茎にポリポリとした歯ごたえがあるということなのかもしれません。

しかし、森の中に生えるナラタケの茎を触ってみても、ふにゃふにゃしていて、手応えなく感じられることがありました。柄の断面を見てみても、中実というより、髄状(つまりスポンジ状)に近いことも多いです。

先ほどから何度も登場している、わたしの住んでいる地域に多い2種類のナラタケを比較してみると、同じナラタケでも様々な特徴が異なっていることがわかります。

下の写真のうち、左がクロゲナラタケと思われる種類、右がワタゲナラタケ(ヤワナラタケ)と思われる種類です。並べてみると、同じナラタケの仲間とは思えないほど外見が違っています。

左側のナラタケは材上にしか出ず、黒い鱗片が目立ちますが、条線はあまり目立ちません。つばは痕跡だけ残っています。

右側のナラタケは、材上にも地上にも大量に発生します。黒い鱗片はあまり目立ちませんが、条線ははっきりしています。つばは痕跡だけ残っています。

柄の特徴をみると、左側のナラタケは基部がとても太くなっています。

この特徴は「ホテイナラタケ」と呼ばれる種類を思わせます。しかし、見分けるのに役立ちそうな詳しい情報がネット上にありません。

しかし、「日本産ナラタケ属について」によると、DNA分析的にはクロゲナラタケと近縁とされている、とあるので、ここではホテイナラタケ≒クロゲナラタケとして考えています。

左側の黒っぽいナラタケのほうは、柄が硬く締まっていて中実なので、折るとはっきりポキっと音がします。ナラタケの異称の由来になった、柄を折るとボリボリと音がする、という特徴を備えています。

一方、右側の色が薄いナラタケは、柄がふにゃふにゃしていて、締まりがありません。折れば一応ポキっというくらいの音はしますが、内部も髄状(スポンジ状)です。本当にナラタケなのか随分悩まされた特徴です。

しかし、「日本産ナラタケ属について」を調べてみると、クロゲナラタケの柄は中実とされているのに対し、ワタゲナラタケの柄は髄状(海綿状)となっていました。ワタゲナラタケは別名ヤワナラタケと呼ばれているので、柄がふにゃふにゃでも不思議ではありません。

このように、ナラタケという名前は、多くの種類を一括した総称です。地域によって、どの種類のナラタケが多いかは異なるので、ネット上の一般的なナラタケの情報だけ見ていると、地元のナラタケとは食い違っていることがあります。

残念ながら、各ナラタケの特徴について説明した資料は少ないのが現実ですが、傘に黒っぽい鱗片がある、傘のふちに条線がある、柄にツバの痕跡がある、ヒダは白っぽい、といった特徴は共通しているので、見分けることは可能です。

ナラタケは非常に重宝され、地元の人たちからも愛されているキノコです。調べればレシピもたくさん見つかります。生のままではもろいですが、茹でると丈夫になって歯ごたえが出るとされます。

食感はぬめりがあってナメコに近いため、味噌汁の具などに向いていると言われます。下の写真は柔麺に入れたナラタケです。

ただ、わたし個人の好みとしては、ぬめりのあるキノコといえば、他にハナイグチ、シロヌメリイグチ、チャナメツムタケなど色々あるので、それほどナラタケに魅力は感じません。

大量発生に運良く出くわしたら、たくさん採取できることが魅力の一つですがが、たくさん食べると消化不良になるとも言われているので悩ましいキノコです。

ニカワジョウゴタケ

見分けるポイント
・おもに針葉樹林の地面や落枝に生える
・オレンジ色の光を透過するゼラチン質
・ヘラ型、ないしは切れ込みの入った不完全な漏斗型

トドマツ林などの針葉樹林を歩けば簡単に見つかるゼリーのようなキノコ。それがニカワジョウゴタケです。その独特の見た目から、同定するのも簡単でした。

「ニカワ」という名のとおりゼラチン質。「ジョウゴ」とありますが、縦に切れ込みがあるため漏斗型ではありません。むしろ、オレンジ色のヘラのような形をしていて、針葉樹林の地面のあちこちから顔を出しています。

図鑑には「地面から生える」とあるのですが、落枝から生えているのも時々見かけます。ネット上にも落枝から生えている写真がありました。

裏側を見てみると、つやつやしています。この面に胞子が形成されるそうです。

試しに割いてみると、ゼラチン質のゼリーのような断面がつややかで、美味しそうに見えます。

ニカワジョウゴタケはヒメキクラゲ科であり、食用キノコのキクラゲと近縁。どの図鑑を見ても食べることができると記載されています。

でも、ネット上の情報によると、取り立てて美味しいものではないそうです。そもそも日本語の情報はかなり限られている地味なキノコです。

同定が簡単で、似た猛毒キノコもないので、軽く茹でて、酢醤油で食べてみました。

見た目のようなゼリーっぽさはなく、コシのないきしめんのような食感でした。可もなく不可もなしといった印象です。他のキノコを採ってくるついでに採ってくるには良いかもしれません。

汎世界的キノコなので、海外ではアプリコットゼリー(apricot jelly)と呼ばれて親しまれており、英語wikiの情報はそこそこ充実しています。

それによると、サラダに使用したり、酢で漬けたり、砂糖漬けにして果物のように保存したり、ワイン醸造に利用されたりしているとのこと。英語で利用方法を検索してみたら、思いもよらない活用方法が見つかるかもしれません。

[ニカワハリタケ]

見分けるポイント
・針葉樹の切り株や倒木に生える
・灰色~やや褐色のゼラチン質で透明感がある
・裏側が針状

ニカワジョウゴタケの親戚で、同じヒメキクラゲ科。にもかかわらず、見た目がかなり違っていて、もっと不思議な外見をしているのがニカワハリタケです。

一般には針葉樹の切り株や倒木に生えるとされていますが、なぜかトドマツ林内の地面のコツボゴケ地帯によく発生しています。じつはコケの下に木材が埋まっているのかもしれません。

上から見た限りでは灰色か、ごく薄い褐色の地味なキノコで、長らく生えていることにすら気づかず踏んでしまっていました。

しかし、腰をかがめてキノコを手にとって観察すれば、裏側に予想もしない芸術的意匠が施されていることに気づきます。なんと白く透明なゼリー状の針でびっしり覆われているのです。これが「ハリ」タケという名の由来です。

「ニカワ」の名のとおり、全体がゼラチン質でぷるんぷるんなので、まるで子どもが大好きなゼリーのお菓子のようにも見えます。「ネコの舌」という別名もあるそうです。

裏側が針状になっているキノコは、他に「シカの舌」のように見えるカノシタの仲間や、〇〇ハリタケと名のつく仲間、そして、コウタケ、シシタケモドキ、ケロウジなどがあります。しかし、これほど透明感があり、みずみずしく透き通っているのはニカワハリタケだけです。

ニカワジョウゴタケと同じく、ニカワハリタケも食べることのできるキノコですが、やはり情報が少ないのがネック。

食べ方によっては食感が美味しく、デザートとしていただくこともできるそうです。英語のwikiによれば、砂糖漬けやマリネにもできるとのこと。新鮮な状態で発見できたら味見してみようと思っています。

ヌメリイグチ

見分けるポイント
・ハナイグチに似たイグチ科のキノコ
・傘の色には個体差があるが、ハナイグチよりも、やや彩度が薄い傾向がある
・管孔は薄いレモン色。ハナイグチ(鮮やかな黄色)より彩度が薄い
・柄は白く、ツバがあり、表面に微細な褐色の粒点がある
・ツバがない個体や、管孔に乳液が滲んでいる個体はチチアワタケなので採らない

北海道にはハナイグチ、通称ラクヨウというイグチ科の有名な食用キノコがあります。詳しくはハナイグチの項で説明してありますが、誰でも簡単に見分けられる上に味もよく、キノコ狩りを始めてすぐに教えてもらいました。

一方、本州にも、ハナイグチに相当する似たキノコがあり、名をヌメリイグチといいます。ハナイグチはカラマツ林に出るのに対し、ヌメリイグチは本州に多いアカマツ・クロマツなどの二針葉マツの林に出やすいため、地域差があります。

図鑑によると、北海道でも、アカエゾマツやトドマツなどの林に出ることがある、とされているのですが、見たことはありません。

しかし、10月中旬に、公園に植栽されているアカマツ林で発見できたので、ここに記載しておきます。

ヌメリイグチの傘の色は薄いオレンジ色~焦げ茶色まで、さまざまでした。北海道のカラマツ林に多いハナイグチも、傘の色の幅が大きいので、傘だけ見るとよく似ていて、区別がつかないほどです。

とはいえ、ハナイグチとヌメリイグチの両方を何度も観察してみると、ヌメリイグチのほうが彩度が低いと感じます。

ハナイグチもヌメリイグチも、傘の色の明度はさまざまなので、明るいオレンジ色っぽい個体や、暗い焦げ茶色っぽい個体もあります。

しかし、ヌメリイグチのほうが彩度(色味の鮮やかさ)が低いので、いずれもハナイグチよりくすんだ色に見えます。

そうは言っても、傘だけで区別することは難しく、なんとなくヌメリイグチっぽいかな?と気づくくらいです。確実に区別するには、傘の裏側を見る必要があります。

ヌメリイグチの裏側は、ハナイグチと同様、管孔と呼ばれるスポンジ状になっています。

管孔の色は、ハナイグチは鮮やかな黄色ですが、ヌメリイグチの管孔の色は、それよりずっと薄いレモンイエローです。ここでも、ヌメリイグチのほうが彩度が低いという特徴がみられます。

最大の特徴は柄の色です。ハナイグチは茶色い繊維模様で覆われていますが、ヌメリイグチは白い柄です。これもまた「色が薄い」という傾向が当てはまります。

また、ハナイグチと同じくツバがある、あるいはツバの痕跡が残っていることも特徴です。これは、軽い中毒を起こすチチアワタケとの重要な区別点となります。詳しくは後述します。

さらに、柄を拡大してみると、白地に紅の粒点があるのが見て取れます。特にツバより上の部分では赤いつぶつぶが目立つので、ルーペで観察すれば、より確実です。

断面は、肉色はやや汚れた白色、管孔はそれより少し濃いレモンイエローです。特に変色性はありません。

(※奇妙なことに、茹でると柄の下部が赤く変色する個体群を採取したことがあります。どこを調べても、そのような特徴があるとは記載されていませんでした。

近縁種の食用キノコであるアミタケは、茹でると全体が赤くなりますが、明らかにアミタケではなくヌメリイグチでした。少なくとも似ている毒キノコはないはずなので食べてみましたが、特に問題はありませんでした)

ヌメリイグチは、ハナイグチと同じように利用できる優秀な食用キノコです。料理の方法も同じで、味噌汁の具などに向いているため、ハナイグチとヌメリイグチを区別する必要性はさほどありません。

注意しなければならないのは、チチアワタケという近縁のイグチ科のキノコとよく似ていることです。

チチアワタケは食用とされることもありますが、人によっては食べるとお腹を壊すため、弱い毒があるとみなされています。

チチアワタケは、ヌメリイグチと同じ二針葉マツ林に出るキノコなので、発生環境が重なっています。

チチアワタケという名前は、幼菌の時に管孔から乳液を分泌することに由来しています。それで、幼菌なら区別は容易ですが、成長すると乳液は出なくなってしまいます。

その場合、見分ける最大の相違点は、ヌメリイグチがツバをもつのに対し、チチアワタケはツバがなく、なめらかな柄をしている、ということです。よって、ツバを確認して採れば、確実にヌメリイグチだけを採取できます。

困ったことに、ヌメリイグチの中には、しばしばツバが脱落した個体があり、その場合はチチアワタケとの区別は困難です。柄にツバがないなら採らないのが無難でしょう。

もちろん、つぶさに観察すれば、ツバがなくてもヌメリイグチかチチアワタケか判別できるはずです。チチアワタケの断面や柄の詳しい写真が載っているサイトがあったので参考にできます。

幸い、チチアワタケの毒はさほど強くなく、もし間違えても少しお腹を壊す程度らしいので、過度に恐れる必要はありません。(ネット上で経験者の話を読むと、腹痛はなく、むしろお腹がすっきりすると書かれていますが、定かではありません)

似た毒キノコがないハナイグチに比べると多少気を遣いますが、ヌメリイグチも比較的親しみやすい食用キノコです。

ピーターラビットの野帳(フィールドノート) には、ビアトリクス・ポターが描いたヌメリイグチとチチアワタケの絵も載せられています。生き生きとした質感で、写真よりリアルに感じられる絵でした。(p80,99)

ヌメリスギタケモドキ

見分けるポイント
・ヤナギなどの木の幹の高い場所に生える
・傘はオレンジ色、柄は少し薄い色
・傘や柄がささくれ状の鱗片で覆われている
・柄にツバの痕跡がある
・傘にぬめりがある

9月から10月に、おもにヤナギの木の幹に生えるヌメリスギタケモドキ、別名ヤナギタケは、見分けるのがかなり容易な食用キノコです。

わたしが道北に引っ越してきて、ちょうど一年経ったころの秋に、近隣のキノコ観察会に参加して教えてもらったのもヌメリスギタケモドキでした。確か、ナラタケとラクヨウ(ハナイグチ)の次くらいに覚えた食用キノコです。

初心者でもわかりやすいのは、木の幹に生え、見た目がとてもユニークで、同属の近縁種を除けば、他に似ているキノコがないからです。

傘の色はオレンジ色で、ささくれ状の鱗片に覆われており、遠くからでもよく目立ちます。

柄の色は傘より薄い黄色です。柄にはツバの痕跡があり、ツバより下はささくれで覆われています。

ヌメリスギタケモドキは、枯れ始めたヤナギの幹に生えることが多く、上を見上げながら歩くと見つけやすいです。ハンノキなど他の木々にも生えますが、特にヤナギに多いので、別名ヤナギタケと呼ばれています。

スギタケという名前がついていますが、スギなどの針葉樹には生えません。この名前はスギタケ属から来ていますが、由来など調べ始めると諸説あるようです。

しかも、スギタケ、スギタケモドキ、ツチスギタケ、ヌメリスギタケ、ヌメリスギタケモドキといった親戚がいて、とてもややこしいです。

このうち、問題なく食べられるのは、ヌメリスギタケヌメリスギタケモドキであり、どちらも地面ではなく木から生え、傘の表面にぬめりがある、ということを覚えておけば十分です。

つまり、ヤナギなどの木の幹に、写真のようなオレンジ色のキノコが生えていて、傘の中央や柄にささくれがあり、触ってみた感じがぬめっていれば食べることができます。

ヌメリスギタケは柄もぬめっているのに対し、ヌメリスギタケモドキは柄はぬめっていないという違いがありますが、どちらも食べることができます。

一方、昔は食用とされていたものの、体質によっては軽く中毒する人もいるとのことで、今では食不適扱いになったスギタケスギタケモドキは、名前のとおりぬめりがないことが特徴です。よって、採取したキノコを素手で触れば見分けられます。

食べるときは、ぬめっている傘部分だけを食べ、柄は捨てます。大きくなっているものだと、ひだの中に虫が入り込んでいることが多いので、十分塩水にさらします。

川のそばなど、ヤナギの木が生えている場所を歩けば、すぐに見つかるのがヌメリスギタケモドキの良いところです。キノコに詳しくなくても、ヤナギタケのことは聞いたことがある、という人も大勢います。

残念ながら手の届く高さ生えていることは少なく、採取するには高枝切りバサミのような道具が必要になることもあります。でも、モエギタケ科らしいふっくらした傘と、ささくれに覆われた柄は、遠くから見るだけでも可愛らしいものです。

ヌメリツバタケ

見分けるポイント
・広葉樹の枯れ木、落枝など、材上に発生
・傘は微妙に黄色みがかった白
・傘の表面は素手で触ると著しくぬめる
・ヒダは白く、疎で、スカスカ隙間が空いている
・タートルネックの襟のような立派なツバがあるが、脱落していることもある
・柄は細く、色は白、オレンジ色、薄い紫褐色など。内部は詰まっていて硬い
・匂いはやや薬品臭がある

3年目6月半ばに遠出して、地元ではない広葉樹林の森を歩いていた時、落枝に美しいドーム型の白いキノコが発生しているのを見つけました。

普段ならこの手のキノコは名前が不明のまま終わることが多いのですが、今回は、タートルネックの襟のような立派なツバがついていたおかげで名前が判明、ヌメリツバタケという食用キノコだとわかりました。

そして翌年、家のすぐそばの広葉樹林を歩いていると、倒木から凄まじい量のヌメリツバタケが出ているのを見つけました。

一般にキノコ狩り初心者にとって、白いキノコは危険だ、と言われることがあります。それは主に、地上から生える猛毒キノコであるドクツルタケなどを指してすると思われます。

一方、それら白い猛毒キノコは木からは生えません。倒木や落枝から生えている場合、むしろ黄色や褐色のキノコのほうが危険に感じます。ニガクリタケ、コレラタケ(ドクアジロガサ)やオオワライタケなどの可能性があるからです。

ヌメリツバタケモドキは白いとはいえ、枯れ木や枝から生えるキノコです。調べてみたところ、特に似ている毒キノコは存在していないようでした。

見分ける特徴は、以下の5点です。

(1)完全に純白でない傘色
まず傘の色は、図鑑によると「類白色」すなわち、おおむね白に似た色で、完全な白ではありません。肉眼で見ると、ややクリーム色がかっています。

(2)傘の表面は非常にぬめる
名前に「ヌメリ」とあるとおり傘の粘性が著しく、見た目上でもテカテカしていて、素手で触ると強いぬめりがあります。濡れるとさらにぬめりは強くなります。その感触だけでも見分ける重要な手がかりになりえます。

(3)スカスカなヒダ
傘の裏側はいわゆる「疎」で、間隔が広く空いていてスカスカな印象を受けます。

ヒダの付け根は図鑑によると直生、つまり柄に対して垂直についているとされます。少し個体差があり、ルーペで見ると、わずかに下方向になだらかに流れていて、やや垂生ともいえる場合もあります。

(4)タートルネックの襟のようなツバ
最大の特徴は、名前のとおり「ツバ」(茎の上部についている襟巻き状の部分)にあります。このサイズのキノコとしては珍しいほど立派なツバで、タートルネックの襟のような形で、ヒダからつながる縦線が入っています。

採取して裏返すと下の写真のように、傘と同心円の環のように見えることもあります。これはとても珍しい特徴なので、ヌメリツバタケを見分ける最有力の手がかりです。

しかし、ツバが脱落してなくなってしまっていることもあります。その場合は、たいてい同じキノコが群生しているので、ツバのついている個体を探して判断の手がかりにしたり、ツバがついていた痕跡を調べたりします。

(5)細くて硬い柄
ヌメリツバタケの柄は、傘と同じ類白色のこともあれば、上の写真のように、ややオレンジ色を帯びていたり、やや紫がかった色(淡紫褐色)に見えたりすることもあり、個体差が激しいです。

しかし、その特徴は色ではなく質感にあり、細くて硬いという特徴があります。断面も中実(中身が詰まっていて空洞がない)です。そのため、柄の部分は食用にはならず、取り除くのが普通です。

以上、5つの特徴があれば、ヌメリツバタケと考えてよいでしょう。そもそも特に似ているキノコはないので、見分けるのは難しくありません。

ヌメリツバタケは多くの文献で食用キノコとされていますが、手持ちのキノコ図鑑の一つでは、「特有の強い薬臭があり、とても食用といえるものではなかった」と記載されていました。

ネットで調べてみたところ、おそらく地域ごとに若干香りに違いがあるようで、問題なく食べられる地域もあれば、強い薬品臭を帯びる地域もあるようです。(同じく地域差のある食用キノコにコガネヤマドリがあり、苦味が異なります)

わたしが採取したヌメリツバタケは、やや薬品臭がありましたが、おおむね爽やかなキノコの香りで、美味しく食べることができました。とはいえ、もっと薬品臭が強ければ食べられないというのもわかる気がします。

採取したヌメリツバタケは、柄が硬くて食べられないので取り除きます。ヒダは粗く、虫が隠れるような場所もないので、短い時間、水に浸けて洗うだけで汚れや小さな虫は落とせます。

採取したヌメリツバタケを見るとわかるとおり、傘の大きさは個体差がとても激しく、3cm~8cmくらいの幅でバラつきがあるのもこのキノコの特徴です。

それから一部は味噌汁に入れてみて、残りは、こちらのレシピに従って、冷凍保存しました。

ヌメリツバタケの味噌汁は、香りはまったく気にならず、非常に美味しかったです。食感が抜群で、ナメコやハナイグチなど味噌汁に合う他のきのことも違って、弾力性のある歯ごたえでした。

ヌメリツバタケは、薬品臭がないタイプなら、とても美味で、見分けやすく、採取できる量も多いという素晴らしいキノコです。

名前のとおり、傘の強烈なぬめり、大きなツバ、疎なヒダ、硬い軸といった特徴が唯一無二で判別しやすいため、これからも見つけたら積極的に利用していきたいです。

ノボリリュウタケ/クロノボリリュウ

見分けるポイント
・奇妙な鞍のような形の傘
・色は白または黒。褐色のものは危険
・柄はたくさん裂け目や空洞がある

9月から10月にかけて、近所の森に次から次に出てくるのがノボリリュウタケピーターラビットの野帳(フィールドノート) によると、ビアトリクス・ポターもこのキノコを知っていて、スケッチもしました。(p67,73,91)

裂けるチーズのような裂け目や空洞が目立つ柄に、鞍のようなひしゃげた形の傘という、非常にユニークで他に類のない姿をしています。そのため、一度覚えれば、たやすく見分けられます。

さまざまなサイズがあり、中には15cmから20cmにもなる超大型のノボリリュウタケもあります。

巨大ノボリリュウタケは食べごたえも抜群で、食材として大いに価値があります。

見分けやすいばかりか、これでもかと大量発生するので、採って楽しい食べてお美味しい、良いことずくめのキノコ。…のように思えるのですが、気がかりなのは、いくつかの文献で、微量の毒を持つ食不適キノコだとされていることです。

調べてみると、ノボリリュウタケはこれまで一般に食用とされてきましたが、微量のギロミトリンという毒性成分が含まれることがわかったとのことでした。

ギロミトリンは加熱すると、発がん性が疑われているモノメチルヒドラジンという成分に変化します。

しかし、モノメチルヒドラジンは水溶性かつ、沸点が低く、揮発性が高いため、沸騰した湯でしっかり茹でて、茹で汁を捨てて洗えば、無毒化できるようです。

毒を含む、というと危険を感じますが、近縁種のシャグマアミガサタケという猛毒キノコには、この成分がはるかに高濃度に含まれています。

わたしがよく行くトドマツ林にも、初夏の5月ごろ、シャグマアミガサタケと近縁のオオシャグマタケというキノコがたくさん生えます。何も下処理せず食べようものなら致死的な猛毒キノコです。

しかし、フィンランドでは、昔からこのシャグマアミガサタケ食べる文化があります。長時間茹でたり干したりすることで、無毒化できるそうです。

シャグマアミガサタケが食用になるなら、それよりもギロミトリンがずっと少ないノボリリュウタケははるかに安全なはずです。事実、10分間煮沸すれば、99%以上無毒化できることがわかっているそうです。

ノボリリュウタケを危険だとするなら、一般に食されているワラビのほうが、よっぽど危険だと言わねばなりません。ワラビは、アク抜きしても発がん成分が残ることが研究で判明しているからです。

それで、しっかり知識をもって処理すれば、ノボリリュウタケは安心して食べられるキノコだと言えます。

通常のノボリリュウタケは全体が白っぽい色ですが、色違いのクロノボリリュウという種類もあります。なぜか食不適としている文献もあるようですが、同じように食べられます。わたしも食べてみましたが問題ありませんでした。

一方、姿が似ているアシボソノボリリュウというキノコは食不適とされています。実際に毒が確認されたという文献は見たことがないので、単に食べた人がいないだけかもしれませんが、念のため食べないほうがいいでしょう。

ノボリリュウタケの柄はたくさん溝や空洞が空いた樹木のうろのような形をしていますが、アシボソノボリリュウは名前のとおり、柄が細くシンプルな円柱形なので見分けは簡単です。

また、わたしは見たことがありませんが、ヒグマアミガサタケ(トビイロノボリリュウ)というキノコは食べられないとされています。どの程度の毒性なのかはっきりしませんが、致命的な可能性もあるので注意が必要です。

ノボリリュウタケは地上に出るのに対し、ヒグマアミガサタケは材木上に出るとする文献もありますが、材木の周辺の地上にも出るそうなので、発生場所は区別点になりません。

しかし、ヒグマアミガサタケは、アシボソノボリリュウと同じく柄が円柱形で裂け目がないこと、また傘の色がシャグマアミガサタケと同じく褐色であることから、ノボリリュウタケとの違いは明らかです。

つまり、ノボリリュウタケの仲間は、柄が複雑に裂けていて、全体の色が白か黒のものだけを採れば安全だということです。

柄が円柱形のもの(アシボソノボリリュウ、ヒグマアミガサタケ)や、傘が褐色やオレンジ色をしているもの(ヒグマアミガサタケ、シャグマアミガサタケ)には、手を出してはいけません。

ノボリリュウタケは下処理で10分加熱しても、非常に弾力性のある食感が残り、鶏肉のようです。特に香りや味はないので、スパゲッティなどに入れて味付けすると美味しいです。

体験談によると、シャグマアミガサタケを毒抜きして食べた場合も、やはり弾力性のある肉のような食感があるとのことでした。わたしは基本的には動物の肉を食べない生活なので、精進料理の食材のようで気に入っています。

試していませんが、別項のアミガサタケと特徴が似ているので、茹でて乾燥保存するのもよいかもしれません。

ハタケシメジ

見分けるポイント
・地面から束になって生える
・傘はグレーがかったくすんだ褐色。かすれ模様や粉を吹いたような跡がある
・傘はまんじゅう型から平たく開き、中心は尖らない
・ヒダの色は白からクリーム色。赤っぽく色づくことはない
・拡大しても、ヒダのふちにギザギザはない
・柄の色は傘と同系色。白ではない。光沢もない
・柄の上部の傘のとの境目のみ、色が抜けて白くなっている
・柄は中実。柄の内部に空洞はない

ハタケシメジは、人家のそばにも生え、スーパーでも栽培品が売られている非常に身近なキノコです。ピーターラビットの野帳(フィールドノート) にもビアトリクス・ポターが描いたスケッチ載っていました。(p92)

これほど身近な食用キノコの代表格なので、誰でも知っていて誰でもわかるキノコ。…だと思っていたのですが、キノコについて学び始めると、その根拠のない自信は打ち砕かれました。

キノコ図鑑には、〇〇シメジと名のつくキノコが無数にあり、共通点などないかに思えます。実際、シメジと名がついているからといって同じ科や同じ属ではなく、形も色も多種多様で、食べられるものもあれば毒キノコもあります。

キノコについて学べば学ぶほど、シメジという言葉がゲシュタルト崩壊してきて、何を意味するのかわからなくなります。

もともとは、大量に発生して地面を占める、ないしは、湿った土地に生えることから、シメジと名付けられたそうですが、その定義に合わない〇〇シメジも少なくありません。

見た目がシメジに似ているから、〇〇シメジと名付けられたキノコも多々ありますが、それさえも、やや曖昧に感じられます。とはいえ、傘がまんじゅう型から平らに開く柄が滑らかでツバがないといった外見はほぼ共通しているようです。

しかし、これぞシメジといった定義は特にないので、名前にこだわらず、一つ一つ覚えていくほかに、見分ける手立てはありません。

キノコを覚え始めたころ、有名な食用シメジであるホンシメジ(ダイコクシメジ)やハタケシメジを図鑑やネットで見て、こんなの絶対に見分けられない、と思いました。よくある普通のキノコのようで、特徴に乏しく感じられたからです。

でも、時経つうちに、意外と、この「普通のキノコ」のような外観は珍しいことに気づきました。それで、3年目にして初めて近所の遊歩道でこのキノコを見たとき、すぐにハタケシメジではないだろうか、と直感しました。

傘は薄い褐色。放射状のかすれた線が入っていて、中心部は粉をふいたように白くなっています。傘のふちは部分的に割れていて、白く厚い肉が見えています。

このような傘のキノコは他にめったに見かけません。それで経験を積めば、そんなに見分けが難しいキノコではないとわかりました。

上の株は傘がかなり開いて色も薄くなっていましたが、4年目に、もっと若い株も見つけました。傘の色はもっと濃い黒褐色、傘の形はまんじゅう型です。指先サイズくらいしかない時期は、傘にやや光沢もあります。

さらに成長すると少しずつ色が間延びして薄くなり、茶を帯びてきます。でも、傘に白い粉を吹いていたり、かすれ模様があったりといった特徴は同じです。

老菌になると色が間延びして薄茶色に変化します。こうなってくると、ヒダが傷んでいたりするので、食べるにはギリギリのタイミングです。

まだキノコ観察に慣れていないころ、ハタケシメジの画像をネットで見て、こんなに傘の色や形が変わるなんて見分けられない、と思っていましたが、不思議とわかるようになるものです。

しかしながら、ハタケシメジの場合も、慎重に見分けなければならない毒キノコが幾つかあります。クサウラベニタケ、イッポンシメジ、ネズミシメジ、カキシメジあたりです。

いずれも、ハタケシメジの特徴をしっかり覚えてさえおけば、そんなに似ているキノコでもないので、以下に特徴をまとめておきます。

(1)地面から束になって生える
ハタケシメジは地中に埋もれた古い木材などから菌糸を伸ばして生えるため、見かけ上は地面から生えるキノコです。畑や公園、道端など身近な場所に生えることもあります。

また、一本だけ生える(単生)ことは少なく、根元でくっついて束になって生える(束生)であることも特徴です。

これに対して、毒キノコのイッポンシメジやネズミシメジは、束になって生えることはなく、単生します。群生することもありますが、根元が束にはならず、一本ずつ分離しています。

しかし、イッポンシメジ属の毒キノコであるクサウラベニタケは、ハタケシメジと同じように束生することがあるので、他の特徴も確認して注意深く見分ける必要があります。

(2)傘は灰褐色で光沢はない
ハタケシメジの傘は灰褐色、つまりグレーっぽいくすんだ褐色で、粉を吹いたような跡があり、(傘が濡れている時を除けば)光沢はほとんどありません。また、まんじゅう型から平らに開き、中心が尖ったりはしません

すでに載せた写真のように、若いハタケシメジの場合、もっと黒みを帯びることもあります。もともとの色は黒く、成長するにしたがって色が間延びして茶色っぽくなります。

しかし、いずれにしても、単なるグレーや黒でも、単なる褐色でもなく、褐色にグレーや黒を混ぜたような色みです。

一方、毒キノコのネズミシメジは、もっとグレーに近いねずみ色で、傘の中心が顕著に盛り上がります。ネズミの鼻のように尖る、と覚えておけばよいかもしれません。

やはり毒キノコのカキシメジは、逆にもっと褐色(オレンジ色)に近い、鮮やかな色で、表面がぬめってテカテカ光っています。

そして、イッポンシメジ属の毒キノコである、コクサウラベニタケ、クサウラベニタケ、イッポンシメジなどは、基本的には黄土色で絹糸のような光沢があります。

しかし、傘の色や光沢は個体差があり、乾いているか湿っているかで印象は変化するので、この特徴だけをもって確実に区別できるわけではありません。

下の写真は成長して色が間延びしたハタケシメジですが、傘色だけなら黄土色に近くなっていくので、よく似て見えるかもしれません。

(3)ヒダは白~クリーム色で密。ピンク色でないことを確認する
ヒダの色は、毒キノコと区別する最重要のポイントです。なぜなら、もしヒダの色がピンク色を帯びていたら、イッポンシメジ属の毒キノコの可能性があるからです。

ハタケシメジのヒダの色は、白かクリーム色、つまり黄色系統にほんのり色づく程度です。決して赤系統の色にはなりません。

これに対し、イッポンシメジ属の毒キノコである、イッポンシメジ、クサウラベニタケ、コクサウラベニタケの場合、ヒダは最初は白ですが、やがて赤系統にほんのり色づきます。

次の写真は、クサウラベニタケのヒダの写真です。上のハタケシメジのヒダと比較すると、明らかに色みが赤寄りです。

しかしながら、イッポンシメジ属のキノコは、最初はヒダが白く、胞子が成熟するにしたがって赤みを帯びるため、若いキノコでは判別しにくいこともあります。

キノコのヒダの色が変化するのは、多くの場合、劣化して傷むからではなく、胞子が成熟して放出されるためです。イッポンシメジ科のキノコの胞子の色は薄い桃色なので、胞子が成熟すればねヒダがほんのり赤みを帯びるようになります。

それで、必ずしもヒダの色だけで毒キノコを除外できるわけではありませんが、少なくともヒダが赤系統の色を帯びていれば、ハタケシメジではないと判断できます。

また、イッポンシメジ属のキノコのうち、毒キノコ御三家の一つであるクサウラベニタケには、ひだに細かい鋸歯が見られることが多い、とされています。

念のため、採取したハタケシメジのヒダをルーペで拡大してみましたが、ヒダのふちはギザギザになっておらず、整然とした印象でした。

この特徴も、確実な手がかりではありませんが、こうした複数の特徴をひとつずつ確認していけば、複合的にハタケシメジかどうか判断できます。

(4)柄は傘と同じ色。ヒダのように白くない
柄の色も毒キノコと見分ける際の重要なポイントです。

ハタケシメジの柄は、傘と同じ淡い褐色を帯びています。

ハタケシメジのヒダの色は白いので、下から見てみると、必ず柄の色はヒダの色より少し濃いはずです。

また、ここのサイトによると、ハタケシメジの柄は、傘との境目が白くなっているそうです。上の写真でもその特徴が観察できます。

一方、毒キノコであるネズミシメジの柄は白色です。カキシメジは、柄の上部は白で、下部にいくにつれ傘と同じ赤褐色を帯びます。

やはり毒キノコである、イッポンシメジ属のクサウラベニタケやイッポンシメジの柄は白色で、光沢があります。

下の写真はイッポンシメジ属の毒キノコだろうと思ったものですが、ヒダがピンク色を帯びているだけでなく、柄が白っぽく光沢があるのがわかります。

しかし、イッポンシメジ属のクサウラベニタケも、柄に傘と同じ色がついている個体もあり、柄と傘の境目が白い特徴が見られるような写真があるので、柄の色もまた、あくまで多くの手がかりの一つにすぎないと考えるのが無難です。

(5)柄は中実
柄は中実、つまり、しっかり中身が詰まっています。下の写真は採取したハタケシメジの柄を切ってみた断面です。まったく空洞は見られません。

次の写真は、ハタケシメジの全体を縦に割いた断面です。柄の中身が詰まっていることがわかります。肉は白色で、割いても変色しません。

これに対して、柄が中空~髄状であれば、イッポンシメジ属の毒キノコであるクサウラベニタケやコクサウラベニタケの可能性があります。

下の写真は、コクサウラベニタケの柄の断面で、ちくわのように中心が空洞でした。

また、次の写真はクサウラベニタケですが、縦に割いてみると、やはり柄の中心に空洞があることがわかりました。

以上のように、ハタケシメジを見分ける手がかりはたくさんあります。一つ一つの特徴だけでは確実とはいえませんが、複数の特徴をしっかり確認すれば、ハタケシメジを毒キノコと区別することができます。

ハタケシメジの見分け方はこのサイトのイラストもわかりやすかったのでおすすめです。

採取したハタケシメジは、香りも確かめましたが、シメジ特有の香りというのがわからないので、判断材料にはならず。普通に美味しそうな菌臭でした。

その後、塩水に漬けて虫出ししてから調理しました。ちょうど畑で白菜が採れ始めた頃だったので、ハナイグチ、ムキタケなどと一緒に煮込み、美味しいキノコ鍋になりました。

肝心のハタケシメジの味は、美味しいことは美味しいけれど、普通にスーパーで売っているキノコだな、という印象でした。現代人の贅沢な食生活のせいで、感動は薄かったかもしれません。

でも、ハタケシメジは道端や公園、畑などにも生え、普段の生活圏内で見かける機会が十分にあるキノコなので、見分け方を習得できてよかったです。

ハチノスタケ

見分けるポイント

・初夏にヤマグワなどの広葉樹や、トドマツの枯れた幹や太い落枝に生える
・傘は橙色~淡い橙色
・傘の表面に平らな鱗片がある
・傘の裏側は白い管孔で、蜂の巣のような幾何学模様
・柄はとても短い

初夏の6~7月に森の中を歩いていると、地面に落ちている太い枝や、枯れた幹などに、柄のない橙色のキノコが側生しているのを時々見かけます。

落枝だと木の種類はわからないことも多いですが、ヤマグワなどの広葉樹や、トドマツに生えるそうです。

キノコのサイズは直径1~4cmほどと小さく、傘の表面をよく見ると、平らなささくれのような鱗片が並んでいます。キノコの正体をはっきりさせるには、裏返してみる必要があります。もし裏側がヒダではなくスポンジ状(管孔)で、蜂の巣を思わせるような美しい幾何学模様の白い穴が並んでいるなら、それはハチノスタケです。

傘の色は必ずしも橙色ではなく、もっと薄く、ほんのりとオレンジ色を帯びているだけのこともあります。

それでも、裏側が白い管孔で、蜂の巣のような幾何学模様であることから、ハチノスタケだと見分けることができます。柄がとても短いか、ほぼ無いのも特徴のひとつです。

ハチノスタケは食べられないキノコですが、同じ多孔菌科のアシグロタケと同じく、良いダシが採れるとされています。小さいキノコなので、そこそこの量が費用ですが、乾燥させればスープの素の出来上がりです。

[ハツタケ]

見分けるポイント

・おもに二針葉マツのアカマツ・クロマツなどの林に生える
・傘は淡い褐色。赤みが強い場合はアカハツで、同じように可食
・ヒダが傷つくと滲む乳液は最初ワイン色で、やがて青緑色に変色
・最初から傷ついて、ところどころに青緑色の染みができていることが多い

公園のアカマツ林のあたりを歩いていると、普段見かけないキノコを見つけることがあります。二針葉マツであるアカマツは、本来、北海道には自生しておらず、その共生キノコはめったに見られないからです。

別項で紹介したヌメリイグチはその一つ。そしてそのヌメリイグチのそばに、もう一つ見慣れない面白いキノコが出ていました。日本で古来より親しまれてきたハツタケというキノコでした。

図鑑によれば、ハツタケは、本州にしかない二針葉マツの他にも、北海道に分布するトドマツやトウヒ類(エゾマツやアカエゾマツ)の林にも出るとあります。しかし、植栽されたアカマツ林以外で見たことはありません。

一見したところ、傘が不思議な色合いをしていて、赤、青、黄すべての色みを含んでいるようでした。触ってみると、表面は固く乾いていましたが、チチタケの仲間っぽい形だと気づきました。

驚いたのは、ひっくり返してみたときです。今まで様々なキノコを見てきましたが、これほどハッと息を呑んだことはありません。なんと、ヒダが宝石のラピスラズリのように輝いていたのです。

この鮮やかな青色はいったいどういうことでしょう!? 見る角度によって色が変わる構造色(イリデッセンス)を思わせる魅惑的な輝きです。自然界のものとは思えないくらい鮮やかなラメっぽい色だとも感じました。

横から見てみると。ヒダだけ青く染まっています。傘はクリーム色っぽく、柄はほんのりと赤いです。横から見ても三色すべてを含んでいます。

傘の色を真上から見てみると、ほんのりと薄い赤色のように見えます。角度によっては、青く染まったり、黄色っぽく見えたりしていましたが、基本の色は柄と同じ、薄く赤みを帯びた淡褐色であるようでした。

改めて真下から撮ってみると、柄が中空なのがわかります。また、目が覚めるようなヒダの青みとのコントラストのせいか、傘と柄の表面が、思ったより赤みが強いこともわかりました。見る角度によって色みが変わる不思議なキノコです。

ヒダの外周部は青みを帯びておらず、傘と同じく赤いままなのも特徴です。傘の色がヒダの外周部にのではみ出しているアイシメジやヤブレベニタケの特徴とも似ているなと感じました。

チチタケの仲間と思われることから、乳液が出るだろうと思ってヒダを裂いてみました。ところが、何も乳液が出ずねカラカラに乾いていました。

縦に裂けにくいキノコでしたが、断面も調べてみました。ヒダの幅は狭く、青いのはヒダのみだということがわかります。中の肉は白で、特に色はついていませんでした。

柄には小さなクレーターがあり、ところどころ青い染みがありました。

ということは、傷つけたら青く変色するのかも?と思って爪を立ててみましたが、全く変色せず、影になって赤みが強調されただけでした。

これほどヒダが鮮やかなキノコなら、すぐ種類がわかるだろう、と思いましたが、意外にも難航しました。ヒダが青いチチタケ属を調べると、ルリハツタケという種類が出てきましたが、日本では稀な上、傘や柄も青色なので違いました。

さらに調べたところ、なんとごく普通のハツタケらしいとわかりました。別段珍しい種類ではなく、名の知られた食用キノコであるハツタケの成れの果ての姿だったのです。

ハツタケは、ワイン色の乳液を出し、乳液はやがて青緑色に変色するそうです。だから、乳液を含むヒダと、傷ついた傘や柄の一部が変色していたのでしょう。後から裂いても乳液が出ず、柄を傷つけても変色しなかったのは、乳液が全て乾燥してしまった後だからだと思われます。

あるいは、類似種のアカハツの可能性もありました。アカハツは名前のとおり、赤っぽいハツタケで、外見はアカモミタケのそっくりさんです。(「アカモミタケ」の項も参照)

アカハツの乳液の色は、滲み出てすぐはアカモミタケと同じオレンジ色ですが、こちらもハツタケ同様、青緑色に変色します。

しかし、ハツタケの傘の色合いは、もっと赤みが強く、アカモミタケのようなサーモンピンクに近い色です。それで今回のキノコは、アカハツではなく普通のハツタケだと判断しました。

ハツタケとアカハツは、共にアカマツなど二針葉マツ林によく生えるキノコで、同じように扱われて食用にされているそうです。もし間違えたとしても別に害はありません。

それにしても、ここまできれいにムラなく変色したハツタケやアカハツの写真はネット上でもなかなかありません。Google Lensで関連画像を探せば、たまに海外のサイトで似たような写真が引っかかるくらいです。

どこか傷ついて乳液が出てしまうとムラになってしまうはずなので、よほど平穏な一生を送ったのでしょう。写真からわかるとおり、ヒダは全然やぶれていません。

このキノコは、アカマツ林のわきの、誰も歩かない場所にひっそりと生えていました。全体にまんべんなく乳液が残ったまま、ほとんど傷つかずに老菌になり、乾燥して萎縮する中で均等に変色したのではないでしょうか。

今回発見したものは、もう硬くなっていたため、食べるには遅すぎました。わたしが発見したのは10月中旬でしたが、本来、北海道では8月下旬から9月下旬に出るキノコだそうです。

調べてみると、すでに江戸時代には全国的に知られていたようで、室町時代以降のさまざまな文献に記載が残っているそうです。香りはマツタケには及ばないものの、ほのかに甘みがあって美味とされています。

他のチチタケの仲間のキノコと同じく、よい出汁がとれるそうで、吸い物、麺類の具、煮物などに向いているそうです。

ハナイグチ/シロヌメリイグチ

見分けるポイント
ハナイグチ
・カラマツ林に生える
・傘はどら焼きのよう。鮮やかなオレンジ色、焦げ茶色、黄色の3タイプがある
・傘の裏はスポンジ状の管孔で、鮮やかなレモンイエロー
・幼菌には、柄にはっきりしたツバがある。成長しても痕跡は残っている場合がある
・柄のツバより下には、茶色い繊維状の模様がある
・管孔は幼菌の時はきめ細やかで、成長すると穴が開く

シロヌメリイグチ
・カラマツ林に生える
・傘の色は成長とともに黒っぽい色(焦げ茶)→白っぽい色(灰褐色)に変わる。つまり成長と共に傘の色は薄くなる
・管孔の色は成長とともに白っぽい色→黒っぽい色に変わる。つまり成長と共に管孔の色は濃くなる。傘とは逆の変化
・幼菌には、柄にはっきりしたツバがある。成長しても痕跡は残っている場合がある
・管孔は幼菌の時から網目の穴が大きい
・若い時に柄の下部を傷つけると青く変色する

ハナイグチはラクヨウとも呼ばれ、カラマツ(ラクヨウマツ)の林に出る、とても人気のあるキノコです。おそらく、一番最初に教えてもらった食用キノコもハナイグチだったように思います。

ハナイグチという正式名称は知らなくても、ラクヨウキノコという俗称なら知っている地元の人は大勢います。キノコのことは全然知らないがラクヨウなら見分けられる、という人もいます。それくらい身近なキノコです。

ハナイグチは、まるで地面に落ちているどら焼きのような見た目で、見つけるのがとても簡単です。秋のキノコシーズンにカラマツ林に行けば、高確率で発見でき、たくさん採れ、似ている毒キノコはない、と良いことずくめです。

ハナイグチを含む、イグチ科に属するキノコは、傘の裏面が通常のキノコのようなヒダではなく、管孔と呼ばれるスポンジ状の構造になっています。

ハナイグチが出る期間は8から10月で、他のキノコ類同様、最低気温が15℃を下回ったころに出始め、雨上がりに多いとのこと。その時期に雨上がりのカラマツ林を見に行けば、大量発生している日もあります。

若いハナイグチの管孔は、下の写真のように、きれいなレモンイエローで、ケーキのスポンジのように締まっています。

老菌になってくると網目状に穴が広がって、汚くなっていくので、できるだけ出てすぐの若いキノコを採ると美味しいです。

裏面がスポンジ状のイグチの仲間は、食用キノコが多く、かつては「イグチに毒なし」とまで言われていました。

現在では、ドクヤマドリ、ニガイグチ、バライロウラベニイロガワリ、ミカワクロアミアシイグチなど危険な毒キノコも発見されていますが、どれもハナイグチには外見が似ても似つかないので間違う危険はありません。

ほかにもイグチ科には、ハナイグチと外見が似たキノコ、つまり傘が褐色で管孔が黄色いキノコもいくつかありますが、いずれも発生環境が違っています。

たとえばハンノキイグチは広葉樹林に、チチアワタケはアカマツ・クロマツなど本州に多い二針葉マツ林に、ヌメリイグチは二針葉マツ林やカラマツ以外のマツ林に、といった具合です。

これらはすべて食用にされますが、チチアワタケのみ、体質によってはお腹を壊すことがあるそうです。後述のように、チチアワタケはツバがないので容易に区別できます。

今のところ、森の中のカラマツ林では、ハナイグチに似ているような紛らわしいキノコは見たことがありません

したがって、まずカラマツの木を見分けられるようになれば、安心してハナイグチ採りを楽しめるようになります。幸い、北海道には植林されたカラマツ単林や、カラマツ・トドマツ混生林などが各地にたくさんあります。

もしヌメリイグチやチチアワタケなど、ハナイグチ類似のイグチ科のキノコを見かけることがあっても、ハナイグチの特徴をしっかり知っておけば見分けるのは簡単です。

ハナイグチは、柄が特徴的で、柄の上のほうには、管孔を覆っていた被膜の名残であるツバがあります。成長すると目立たなくなりますが、下の写真くらいの幼菌なら一目瞭然です。

また、柄のツバより下の部分は茶色い繊維状の模様に覆われています。まるで柄に靴下を履いているような見た目です。

一方、別項で紹介しているヌメリイグチやチチアワタケにはこの特徴はありません。ヌメリイグチは柄が白いですし、軽い中毒症状を起こす危険のあるチチアワタケは柄が白い上にツバもありません。

ですから、黄色いスポンジ状の管孔を持っているだけでなく、柄にツバ(もしくはツバの痕跡)があって、茶色い繊維状の模様で覆われていれば、ハナイグチだと見分けることができます。

森の中でハナイグチを探す時は、カラマツ林の地面に落ちているどら焼きのような見た目の傘を探すことになります。

しかし、意外にも、ハナイグチは傘の色に個体差があり、焦げ茶色タイプ、茶色タイプ、黄色タイプがあります。

焦げ茶色の傘のハナイグチ。

茶色い傘のハナイグチ。

黄色い傘のハナイグチ。

上から見下ろすと、全然別のキノコに見えることもあるので面食らいますが、抜いてみると、全部同じハナイグチです。基本的にはどら焼きのような色が多いとはいえ、ちょっと色が濃かったり、黄色っぽかったりしても、かがみ込んで確認してみるとよいでしょう。

大きな傘のハナイグチのほうが目立つので見つけやすいですが、管孔が汚くなったり、虫に食われたりしているかもしれません。まだ傘が小さく、管孔がきっちり締まった幼菌のほうが、新鮮で食べやすいことが多いです。

ところで、カラマツ林では、ハナイグチのほかに、もう一つ、別の美味しいイグチ科のキノコが採れます。名をシロヌメリイグチといい、ハナイグチと同じ時期に生えています。

ハナイグチは俗称「女キノコ」、シロヌメリイグチは俗称「男キノコ」と呼ばれ、どちらも同じように食べることができます。ハナイグチに比べると知名度が低いためか、誰かが先にハナイグチを採ってしまっても、シロヌメリイグチは残っていることが多いです。

傘の色、および管孔の色が、成長段階によってガラリと変わることが特徴で、はじめのうちは同じキノコと思えず面食らいました。

傘の色は、幼菌の時は焦げ茶(黒っぽい色)で、成長するとグレーがかった灰褐色(白っぽい色)に変化します。

管孔の色は、幼菌の時は真っ白で、成長すると汚れたような黒っぽい色になります。

つまり、傘は黒→白、管孔は白→黒と正反対の色あいに変化します。

下の写真はシロヌメリイグチの幼菌です。傘は黒っぽく、なんとなくマツタケのようにも見える容姿です。

幼菌の時は、管孔は内被膜で覆われています。この内被膜が破れて、ツバとなって残ります。内被膜の内側にある管孔は、乳白色です。

それに対し、次の写真は傘が大きく成長した成菌です。傘は白っぽくなって、まるで別のキノコのようです。

管孔も目が広がって、茶色っぽく変色してしまって汚れています。

これが同じキノコだというのはちょっと意外ですが、いずれの成長段階でも、ハナイグチのような鮮やかなオレンジ色や黄色を帯びることはなく、地味な灰褐色系統(ちょっと色味のあるグレー)の色であることは変わりありません。

カラマツ林には、ハナイグチとシロヌメリイグチ以外のイグチ科のキノコはめったに生えず、似ているキノコも特にないため、慣れると簡単に見分けられるようになります。

ほかにシロヌメリイグチを見分けるのに役立つ特徴として、ハナイグチと同じく、幼菌の柄にはツバがあり、成長しても痕跡が見られるという点があります。

また、シロヌメリイグチの管孔は、かなり若い時点から、すでに穴が大きく、肉眼でも網目状に見えます

これはハナイグチとは異なる特徴です。ハナイグチの管孔は、成長すると穴が大きくなりますが、幼菌の時はきめ細やかで穴が目視できませんでした。

この特徴は、シロヌメリイグチを見分ける時に役立ちます。例えば、食べると非常に苦いとされるニガイグチは、傘や管孔の色はシロヌメリイグチに似て見えますが、管孔がきめ細やかで穴が目視できません。

ハナイグチと同様、シロヌメリイグチも傷みやすく、すぐに大きなブヨブヨした傘になってしまうので、基本的には幼菌か若い菌を採るのがよいでしょう。

また、シロヌメリイグチ特有の興味深い特徴の一つに、「若い時に柄の下部の部分に傷がつくと、うっすらと青緑色に変色」するという性質があります。

例えば調理する前に柄の下部の汚れた部分を切ってみると、断面が青くなることがあります。

個人的な経験からすると、必ずしもすべての個体でみられる特徴ではないようですが、頭の片隅に入れておけば、同定する手がかりになるかもしれません。

ハナイグチとシロヌメリイグチは、どちらも同じように調理でき、味噌汁などの具材によく合います。下の写真はきつねうどんに入れてみた時のものです。

傘は巨大ななめこのよう、管孔部分は味の染みた麩のようで、ぬめりがあり、ボリューミーでとても美味しいです。たくさん採取できるので、シーズン中は毎日食卓を彩って、秋の味覚を楽しませてくれる、たいへん優秀なキノコです。

なお、ハナイグチやシロヌメリイグチは、管孔部分の消化が悪いとされ、調理の際に取り除くことを推奨する文献もあります。わたしはそのまま全部食べていますが、体質によっては考慮すべきかもしれません。

[ハラタケ]

見分けるポイント
・アガリクスの仲間でマッシュルーム(ツクリタケ)の近縁。幼菌時はマッシュルームにそっくり
・傘は白く、のちに薄く褐色を帯びる。やや鱗片がつくことも
・ヒダはやや灰色→ピンク色→薄茶色に変化。白くないことが重要
・柄にツバがある。最初は中実、のちに中空。根元は球根のように膨らむ
・傷つくとやや赤く変色する。黄色く変色するタイプは有毒かもしれないので注意

キノコについて調べるときには、その容姿から、もしかすると〇〇科や〇〇属ではないか、とあたりをつけることがよくあります。すると、おのずと科や属の名前について知ることになります。

中でも、よく目にする分類名には、1000以上のキノコが含まれるとされるハラタケ科があります。しかも、その上位の分類名もハラタケ目です。

しかし、肝心の「ハラタケ」を見たことがなかったので、いったいどんなキノコなのだろう?という、もやもやした気持ちがありました。

やがて、思いがけぬところでハラタケと初対面を果たしました。ごく普通の公園の芝生です。

ハラタケの学名“Agaricus campestris”は「野原のアガリクス」の意味で、おそらく和名もそこから来ているのでしょう。(Agaricusの部分は古代の地名に由来しているようです)

森の中のような奥まったところではなく、ごく普通のありふれた場所に生えるからこそ、多くのキノコの代表格として名前が用いられているのかもしれません。

学名からわかるとおり、健康食品として良くも悪くも有名なアガリクス(カワリハラタケ)と近縁であり、さらにはあのマッシュルーム(ツクリタケ)とも近縁です。

公園の芝生に生えていたハラタケは、背の低い丸いキノコでした。一見すると真っ白でしたが、よく見ると、傘がひび割れのような鱗片がついていて、放射状に広がる菊の花のようです。ただし、鱗片は必ずあるとは限らないそうです。

抜いて裏側を見てみると、形はマッシュルームにそっくりです。傘のふちと柄のツバに破れた被膜の名残りがあり、もともとは全体が白くラッピングされていたことがうかがえます。

そして、ヒダの色が薄茶色なのが最大の特徴。若い時はグレーを帯びた白ですが、その後、胞子が成熟するにつれ、ピンク色、そして薄茶色へと変わっていきます。柄が茶色っぽいのは、おそらく降ってきた胞子をかぶったからでしょう。

近くに同じハラタケだと思われる、傘が平らに開ききった老菌もありました。こちらは傘が茶色っぽく変色しています。ハラタケの傘は、初めは白色で、成熟するにつれて薄く褐色を帯びるという性質があるそうです。

そのほかの特徴である、傘に放射状の鱗片がある、柄が白いツバがある、そしてヒダが薄茶色である、といった点は共通していました。

ヒダの付き方は離生~隔生。また柄の根元が球根のように膨らんでいるのも確認できました。

ハラタケは、近縁のアガリクスやマッシュルームと同じく食用とされるキノコです。海外では、普通に採取され、さまざまな料理に使われているといいます。

ピーターラビットの野帳(フィールドノート) によると、ビアトリクス・ポターもハラタケのスケッチのを残しているだけでなく、「いやな匂いがするが、風味はよい」と述べています。(p140)

傘が開く前はマッシュルームにそっくりな姿形で、白い傘や柄と薄茶色のヒダ、というかなり見分けやすいキノコなので、キノコにあまり詳しくない人でもきっと採取しやすいのでしょう。

注意すべき似ている毒キノコには、まずハラタケモドキがあります。しかし、ハラタケモドキは傘の色がもっと褐色を帯びていて、成熟するとひび割れます。ハラタケよりもナカグロモリノカサという別のキノコのほうに似ているそうです。

シロオオハラタケも似ていますが、8~20cmとはるかに大型です。ハラタケは5~10cmくらいなので、倍の大きさです。

またシロオオハラタケは、傘や柄を触ると、弱く黄色に変色する性質があるそうです。これに対し、普通のハラタケは傷つくと弱く赤みを帯びることで区別できます。

しかし、ハラタケでも同じように、傷つくと弱く黄色に変色する性質を持つタイプがあるそうで、毒性があると考えられています。猛毒ではないとはいえ、変色性のあるものは採らないほうがいいでしょう。

注意点として、ハラタケの仲間は、発がん性物質であるアガリチンやフェニルヒドラジンが含まれており、実はマッシュルームも例外ではないそうです。加熱すれば減るようですが、野生キノコを採取してまで積極的に食べるようなものではないのかもしれません。

また、ハラタケに似た容姿であるにも関わらず、ヒダも真っ白なキノコは、「白いアガリクス」ことシロカラカサタケです。これも、近所の公園や、広葉樹林メインの雑木林で見たことがあります。

傘を上から見ただけだとハラタケに似ていますが、裏側を見ると、ヒダの色が真っ白なので、ハラタケではないことがわかります。

図鑑によると傘の色は、やや黄色を帯びることもあります。またヒダも、成熟するとややピンクを帯びるそうですが、ハラタケのような茶色にはなりません。

ヒダは密で、柄に対して上生~離生します。

柄についているツバはリング状で、カラカサタケの仲間らしく、手でつまめば上下に動かせる可動性があります。

柄はハラタケと同様に、最初は中実で、やがて中に空洞ができて中空になるそうです。

抜いてみると、根元が棍棒状に膨らんでいるのも、シロカラカサタケの特徴です。

シロカラカサタケは一応、可食キノコとされてはいます。しかし、上の写真のように、成長して柄が長くなり、傘が平らに開くと、テングタケ科の猛毒キノコと見た目が似てくるため、危険度が増します。

シロツルタケなら傘のふちに条線があり、猛毒ドクツルタケなら柄にささくれがあり、猛毒シロタマゴテングタケならば、根元に袋状のツボがあるといった違いがあります。南方系の毒キノコオオシロカラカサタケは北海道には分布していません。

注意深く観察すれば区別できるとはいえ、リスクを冒してまで食べるようなものではなく、味もさほど美味しくないようです。

フキサクラシメジ

見分けるポイント
・おもに晩秋のアカエゾマツやトドマツ林に生える
・全体が桜色
・傘に粘性がある
・かなり成長するまで、傘のふちは内側に巻いている
・ヒダは疎で、直生~やや垂生
・柄はしっかりしていて中実
・柄の頂部に細かいささくれがあることが多い
・柄の基部が黄色い。水に漬けると濃くなる
・生臭い匂い。匂いが薄い場合は半分に切って断面に匂いを嗅ぐと強く感じる
・縦にきれいに裂ける

9~10月にかけての晩秋に、アカエゾマツやトドマツ林に出る桜色のキノコ、フキサクラシメジ。森の黄葉が進み、他のキノコが少なくなったころに生えてくるので、かなり目立ちます。

食用キノコが多いヌメリガサ科に属するキノコで、近縁種には、シロヌメリガサ、キヌメリガサ、オトメノカサ、ハダイロガサ、ウコンガサなど色々ありますが、どれも優秀な食用キノコです。

ヌメリガサ科のキノコはおおむね共通する特徴があり、見慣れるとなんとなく見当がつくようになります。

まず傘にぬめりがあり、ふちが内側に巻いているという特徴があります。傘の色は同じヌメリガサ科でも様々で、薄い桜色なのはフキサクラシメジです。

また、ヌメリガサ科のヒダは、明らかに疎であることが多いです。つまり、ヒダ同士の間隔が広くスカスカに見えるということです。

ヒダの付き方は、直生~やや垂生、つまり柄にほぼ垂直に付いているものがほとんどです。上生や離生(ヒダが上向きに傘のほうにカーブする)ではありません。

また柄がしっかりしていて、曲がりくねっていて中実であることも、ヌメリガサ科らしい特徴です。

ヌメリガサ科のキノコの柄は繊維質で縦に裂けやすく、柄の頂部には、細かいささくれが付着していることが多いです。

さらに、フキサクラシメジの場合は、同定に役立つユニークな特徴があります。

まず一つ目は、柄の基部が黄色いことです。採取した段階でもやや黄色っぽい傾向がありますが、塩水で虫出ししていると、もっと濃くなりました。

2つ目のユニークな特徴は匂いです。フキサクラシメジは独特の不快臭があるとされています。匂いの強さには地域差があるらしく、そのままヒダあたりを匂ってみても、特にわかりませんでした。

しかし半分に切って断面の匂いを嗅ぐと、ものすごく生臭い…! 生魚に似た不快臭があり、同定の強力な根拠となりました。

同じヌメリガサ科には、やはり桜色の傘が特徴の近縁種として、サクラシメジ、アケボノサクラシメジ、サクラシメジモドキなどがあります。しかし、根元の黄色みや、不快臭といった特徴があるのは、フキサクラシメジだけです。

フキサクラシメジは、どの資料でも食用キノコとされていますが、その不快臭のために敬遠されがちです。一度は味見しておかねばと思い、茹でて食べてみましたが…。

多少は匂いがありますが、ネットで書かれているほど強くはありませんでした。やはり地域差があるようで。わたしの住んでいるあたりのものは匂いがマイルドなのかもしれません。

しかし、食べてから少し経つと、なんだか嫌な生臭い後味が。確かにこれは積極的に食べたいとは思わないキノコです。

しかし、もしかすると生魚に似ているということは寿司にすれば美味しいのではないでしょうか。わさび醤油でご飯と一緒に食べてみたら案外いけるかもしれません。問題は、わたしが寿司好きでないことです。

非常に癖が強いキノコですが、ユニークな特徴が多く、見分けるのは容易なので、毒キノコと間違う可能性はまずありません。生臭いのも個性なので、植物のオイスターリーフのように、料理の仕方によっては化けるかもしれません。

ブナハリタケ

見分けるポイント
・ブナのほか、イタヤカエデやミズナラなど広葉樹り枯れ木に生える
・傘は白~肌色
・傘の表面は毛がなく滑らか
・傘のふちは波打つ
・傘の裏面は柔らかい房のような針状
・甘ったるい強い香りがある

東北地方ではブナカノカと呼ばれて人気を集めるキノコ、ブナハリタケ。おもにブナの幹に出る、白~肌色のキノコで、大量発生することも多く、甘い香りがするのが特徴です。

わたしが住んでいる道北ではブナが分布していないため、大量発生しているブナハリタケを見たことはありません。

しかし、9月ごろ、ミズナラやイタヤカエデなど、他の広葉樹の枯れ木や倒木に、たまに少量が発生しているのは目にします。

ブナハリタケの最大の特徴は、「ハリタケ」という名のとおり、傘の裏側が針状になっていることです。

一度、幼菌の段階から観察しましたが、発生してすぐのブナハリタケは練り切り飴の塊のようで、針はまだ伸びていません。

しかしよく観察すると、微細なイボのような突起が並んでいて、ここから針が伸び始めることがわかります。

数日後見に行くと、しっかりとした針が形成されていました。針といっても硬く尖っているわけではなく、触ると房のようで柔らかい感触です。

さらに、発見から10日後には、針がかなり伸びてふさふさの毛のように成長し、ブナハリタケの本来の姿になりました。

匂いを嗅いでみると、甘ったるいスイーツのような香りがします。他のキノコでは感じたことがないような強い香りで、化粧品や甘すぎるお菓子の香料を連想してしまって苦手に感じる人もいるかもしれません。

注意を要する似たキノコは特にありません。樹木から生えていて、裏が毛のような針状という特徴だけで、毒キノコは除外できます。

木から生えるキノコで、裏側が針状で、見た目も似ているのは、近縁種のエゾハリタケ、アセハリタケ、フサハリタケ、ヤマブシタケ、サンゴハリタケです。

このうち、ヤマブシタケ、サンゴハリタケは傘にあたる部分を作らないことで見分けられます。もし発見できたら、どちらも美味しく食べられるキノコです。

アセハリタケフサハリタケは、ブナハリタケによく似た近縁種です。アセハリタケは針が短く香りが薄いこと、フサハリタケは傘の表面に毛が生えていることで見分けられます。どちらもおそらく食用でしょうが、そもそも珍しいので見る機会がありません。

残るエゾハリタケは、肉質が強靭で、食べるには工夫が要るキノコです。幼菌の時はブナハリタケ同様に食べられますが、成長すると硬くなるので、老菌になるのを待って塩漬けにしたり地中に埋めたりして柔らかくするそうです。

ブナハリタケは傘のふちが波打っていて、いかにも柔らかそうなのに対し、エゾハリタケは、傘が規則正しく積み重なるように生え、整然とした見た目から、いかにも硬そうな印象を受けます。積み重なった傘はすべて基部でつながっているのも特徴です。

またエゾハリタケは傘の表面に微毛が生えているのに対し、ブナハリタケの表面は無毛で滑らかという違いもあります。

採取する時は、木の幹を傷めないようナイフで切り取ります。細かい虫がたくさん付きやすいキノコなので、採取したキノコを振ったり息を吹きかけたりして、できるだけ虫を落としておきます。

それでも小さな虫がいるかもしれないので、しばらく塩水に浸けて虫出しします。それからゴミを落として、小さく切って調理します。

ネットで調べると、最もお勧めされていたのは炒めご飯でした。他にも様々なレシピが出ている有名なキノコなので、さまざまな料理に使えます。

少量しか採れませんでしたが、炒めご飯に入れると、かなり独特の甘い香りが感じられました。たくさん採れた場合や、香りが苦手な人は茹でこぼすと薄まるそうです。少量なら良いアクセントになると思います。

食感はキノコらしい弾力性があり、特に針の部分は、むかし栽培品で買った近縁のヤマブシタケを思い出すような噛みごたえで、よく味も染みていて美味でした。見分けが簡単なこともあり、見つけたらぜひ採取したいキノコです。

ホコリタケ(キツネノチャブクロ/タヌキノチャブクロ)

見分けるポイント
・丸い団子のような形だが、柄がある。ピンに載せたゴルフボールのよう
・地面から生えるのはキツネノチャブクロ、木から生えるのはタヌキノチャブクロ
・キツネノチャブクロは傘に小さなトゲトゲがある
・触ってみて弾力性があり、半分に切ってみて内部が白ければ食べることができる
・成熟すると紙袋のようになり、つぶすと胞子が埃のように飛ぶ

中に埃が詰まった紙袋のようなホコリタケ。踏みつけると胞子が煙のように舞い上がるので、子供が「忍者キノコ」と呼んで遊び道具にすることもあります。

ピーターラビットの野帳(フィールドノート)

によると、ビアトリクス・ポターもホコリタケの仲間に関心をもっていて、スケッチも残しています。(p73,174)

まれにまだ幼菌のころに見つけると、中身が詰まったゴマ団子のようで、触っても弾力性があり、胞子は飛び散りません。

幼菌を半分に切ってみて、内部がマッシュルームのように白ければ、食用にすることができます。しかし、少しでも変色していれば食べられません。

おもに地上に生えるのがキツネノチャブクロ、木から生えるのがタヌキノチャブクロで、どちらも食用にできます。キツネは木に登らないと覚えるそうです。(タヌキはイヌ科にしては珍しく木登りできる動物です)

キツネノチャブクロは上の写真のように、表面に細かい針のようなトゲがあるのも特徴です。ゴマ団子に似ている気もします。

しかし、ホコリタケは団子のような球体ではなく、球体の下に、ゴルフボールを載せるピンのように柄がついています。

一方、タヌキノチャブクロは、地面ではなく木から生えます。見た目の違いは、表面のトゲトゲがおとなしいことです。

こちらも、一見すると球体のようですが、採取してみると柄がついているのがわかります。

タヌキノチャブクロもキツネノチャブクロと同様に、半分に切ってみて内部が固く、変色していなければ食べることができます

見分ける必要のある似ているキノコとして、まずヒメホコリタケがあります。

ヒメホコリタケは、森の中ではなく草地に生えるキノコで、下の写真は公園の芝生で見つけたものです。

通常のホコリタケとは発生場所で見分けられるほか、より小型で、表面が粉状で、柄が短いことでも区別できます。表面は針状の場合もあるようですが、他の特徴から難なく区別できるでしょう。

半分に割いてみると、幼菌の場合は内部は白く、いかにもホコリタケと同様に食べることができそうな印象を受けます。しかし、小さすぎてボリュームがないですし、食毒不明扱いなので、食べないほうがよいでしょう。

他にもクロホコリタケをはじめ、◯◯ホコリタケと名付けられた近縁種がたくさんあります。しかし、いずれも見る機会はめったになく、食毒不明も不明です。食べて見るなら、頻繁に見かける普通のホコリタケだけにするのが無難です。

また、ショウロと呼ばれる丸いキノコや、それとよく似ているニセショウロは、わたしは見つけたことがありませんが、形状的には似てみえるかもしれません。ニセショウロは毒なので注意が必要です。

しかし、ショウロの類は、いずれも柄がないかごく短いのが特徴です。ホコリタケは、ピンに載ったゴルフボールのような形をしていることを覚えていれば間違えません。表面のトゲも見分けるのに役立ちます。

ホコリタケの幼菌を食べるときは、中が白いか確認してから、柄を切り離し、茹でて傘の皮を剥きます。すると、魚のはんぺんのような見た目になります。

北海道キノコ図鑑によると、キツネノチャブクロは、「表皮をむきフライ、串焼き、煮物、汁物にするとよい」とあるのに対し、タヌキノチャブクロは「フライや天ぷらにしたり、パスタのソースに刻んで入れ、煮込むとよい」「香りもよいので吸い物にも合う」とありました。

食感は、弾力性も味も特にない魚のすり身、といった感じ。おそらく腕のいい料理人が調理すれば化ける食材なんだろうな、と思いつつ、わたしではうまく活かせませんでした。

ホテイシメジ

見分けるポイント
・カラマツ林に生える
・傘や柄は、グレーがかった褐色(灰褐色)。黄色や褐色(オレンジ色)ではない
・根元が球根状に膨らんでいることが多い。ただし、成長した後は、あまり膨らみが目立たないこともある
・傘は漏斗型だが、中央部はあまり凹まない。杯というより逆さにした円錐のような形と表現するほうが近い
・傘の中央付近の色が濃く黒っぽい。
・ヒダは白く、やや疎
・柄の内部は中実または髄状(スポンジ状)

お酒を飲むチョコ(猪口)のような形だと表現されるホテイシメジ。しかしお酒と一緒に食べると悪酔いする成分が含まれているため、酒好きの人は食べられないキノコとして有名です。

でも、わたしはお酒をまったく飲まず、そもそも飲んだこともないので、安心してホテイシメジを食べられます。キノコとは思えないような濃い味が特徴で、乾燥保存しておくと、出汁のもとにもなります。

ホテイシメジは、9月のカラマツ林によく生えます。ハナイグチやシロヌメリイグチといったカラマツ林の食用キノコが大量に採れる時期と重なっているため、ついでに採取できて効率的です。

杯や漏斗のような形の傘、布袋尊のお腹のように膨らむ柄という、とても特徴的な容姿なので、よく目立ちます。

しかし、大多数のキノコとは区別しやすいのに、微毒があるカヤタケ、および猛毒のドクササコと姿が似ているせいで、少しとっつきにくく感じます。

幸い、猛毒のドクササコは、今のところ北海道では確認されていません。

また、カヤタケは微毒があるとされるだけで、普通に食用キノコとされてきました。他の似ているカヤタケの仲間のキノコ(オオイヌシメジやコブミノカヤタケなど)も、ほとんどが食用になるとされています。

しかし、ドクササコが絶対に分布していないとは言い切れませんし、100%確実に見分けられるキノコしか食べないという意味では、カヤタケなど似たキノコとも、しっかり見分けられるに越したことはありません。

違いを詳しく解説してくれているサイトがないので、少し手間取りましたが、さまざまな情報を寄せ集めれば、見分けるポイントがわかってきました。

(1)カラマツ林に出やすい
ホテイシメジがカラマツ林に出やすいことはすでに書きましたが、他の似ているキノコとは、出やすい場所の傾向が違います。

ホテイシメジ…カラマツ林
カヤタケ…エゾマツ・トドマツ・ダケカンバ・ミズナラなどの混交林
ドクササコ…タケ・ササ・スギ林

生え出る時期は、カヤタケは少し早めの7月ごろから出ることがあり、ドクササコは少し遅めの10月にも出るようです。しかし、いずれも9月に出やすい点で共通しています。

わたしがホテイシメジを採った場所は、今のところ全部カラマツ直下でした。しかし、カラマツ林なら、カヤタケやドクササコが出ないというわけでもないようなので、あくまで参考程度に考えるべきです。

カラマツ林に出るホテイシメジは別種で毒性が弱いとの説もあるそうですが、詳しくはわかりません。

見た目はホテイシメジなのに、お酒を飲んでも悪酔いしないタイプは、ホテイダマシと呼ばれるそうです。しかし、見た目からはホテイシメジなのかホテイダマシなのか判断できないので、食べるなら禁酒すべきでしょう。

(2)傘は漏斗型だが、中央は大きく凹まない
ホテイシメジと、カヤタケや猛毒のドクササコが似ているとされるのは、傘が杯を思わせる漏斗のような形になるからです。

しかし、重要なポイントとして、中央部がどれほどくぼむかには違いがあります。

資料を色々見比べると、カヤタケやドクササコは「漏斗状にくぼむ」とあるのに対し、ホテイシメジは「開くとほぼ平らになる」とありました。

くらべてわかるきのこ 原寸大 (くらべてわかる図鑑)には、その点がはっきり写真付きで比較されており、ドクササコは「傘の中央部は深くくぼむ」、ホテイシメジは「傘はドクササコほどくぼまない」とありました。(p34)

わたしも、ホテイシメジとカヤタケを採取できたので、くぼみ具合を比較してみました。まず、次の写真は採取した様々な大きさのホテイシメジを並べたものです。

傘が一番大きなホテイシメジは、多少、中心がくぼんではいます。でも杯や漏斗と呼べるほど深くくぼんではいません。

傘の小さなホテイシメジは、傘がほとんど平らに開いていて、全くくぼんでいません。もしホテイシメジの傘に水を注いでも、杯のように水を貯めることはできません。

一方、次の写真はカヤタケの断面です。明らかに、傘の中心が深くくぼんでいます。もしカヤタケの傘に水を注いだら、杯のようにくぼみに水がたまることでしょう。

それで、傘の形について言えば、確かにカヤタケは「杯のような漏斗型」です。しかし、ホテイシメジは、正確に言えば「杯のような漏斗型」ではなく「逆さにした円錐型」である、といえます。

ネット上では、白っぽい色でも、中央部がもっと漏斗型にくぼんでいるなら、ホテイダマシかカヤタケではないか、と書いている人もいました。中央が平らかどうかが、ホテイシメジを見分ける大事なポイントである、ということです。

カヤタケの仲間のオオイヌシメジ(別名オオカヤタケ)は、ホテイシメジと似て円錐形に近い形に開くようです。わたしも一度、オオイヌシメジらしいキノコを見かけましたが、傘はかなり平らに開いていました。

次の写真はオオイヌシメジの断面です。カヤタケと比べるとくぼみ度合いがかなり浅めです。

しかし、傘の色が明らかにホテイシメジより濃い褐色ですし、サイズもホテイシメジよりかなり大型であることから簡単に区別できました。なお、オオイヌシメジは、食べても大丈夫なキノコだそうです。

また、わたしは見たことがなく、北海道にも分布していないようですが、やはりカヤタケの仲間であるコカブイヌシメジも、写真で見る限り、ホテイシメジに似ています。

中央があまり凹まず、色合いも白っぽいので、ホテイシメジに最も似ているかもしれません。たとえば、このサイトではホテイシメジに似たキノコとして、コカブイヌシメジのみを挙げています。

しかし、湿っていると傘のふちに条線が出る、柄が中空で基部は膨らまない、など他の多くの点で異なっているので、注意すれば見分けることは可能だと思います。

コカブイヌシメジは元々は食用キノコ扱いで、ムスカリンを含んでいることがわかってから毒菌扱いになりました。間違えても致命的な害はないはずですが、見分けられるに越したことはありません。

(3)柄の根元が膨らむことが多い
ホテイシメジの「ホテイ」という名前は、柄の根元が布袋尊のお腹のように膨らんでいることから名付けられています。この特徴は幼菌では顕著で、見事な膨らみ具合が観察できます。

漏斗のような形の傘が平らに開いていて、しかも根元にこの膨らみが見られたら、それだけでホテイシメジだと同定してもよいと思います。それくらいわかりやすい特徴です。

しかし、成長して大きくなったホテイシメジでは、柄の根元の膨らみが弱く、わかりにくいことがあります。同じキノコとは思えないくらいスリムになってしまっています。

このような成長したホテイシメジを見分ける際は、近くに生えているだろう幼菌と並べて比較してみることが役立ちます。成長して体型は変化しても、傘の色や、柄の表面の微細な模様などは変わっていないからです。

わたしも最初のころ、ホテイシメジの特徴がよくわからないときは、下の写真のように、それらしいキノコを並べてみました。

写真のうち、一番右の置いてあるホテイシメジの幼菌は、傘が平らで、根元も膨らんでいて、非常に特徴がはっきりしているので、ホテイシメジだと断定できました。

それをベースに、他の大きなキノコと比較してみると、いずれも傘の色は灰褐色、ひだは白、柄は傘より薄めの灰褐色。また柄の表面に縦にしわしわの線が入っているといった細かい特徴が一致していたので、成長して間延びしてはいても、同じ種だという確信が持てました。

また、ホテイシメジの柄については、ネット上の資料では、一般に中実だとしているものが多いです。しかし、図鑑をみると、中実とも中空とも記載されていない例が多くありました。

くらべてわかるきのこ 原寸大 (くらべてわかる図鑑)では、ホテイシメジとカヤタケは中実で、ドクササコは中空だと書かれていました。(p34,47)

DVD付 きのこ[改訂版] (小学館の図鑑 NEO)には、カヤタケについて、「ドクササコに似ていますが、柄の中には肉がつまっています」とありました。ホテイシメジについては特に記載がありませんでした。

新装改版 北海道きのこ図鑑 (ALICE Field Library)によると、ホテイシメジの柄については記載がなく、カヤタケは「中実、強靭」とありました。

自分でホテイシメジの柄をさわってみたところ、指でつまんだ限りでは、内部が中空でもおかしくない硬さでした。しかし割いてみると、空洞はなく中実でした。

こちらのサイトでも、ホテイシメジは「内部は充実しているが,指でつまんでみるとマシュマロのような弾力がある」として、髄状または中実とされています。

それで、この3種の柄の特徴については、暫定的に次のように考えています。

・カヤタケの柄は中実でがっしりしている
・ホテイシメジは中実または髄状(スポンジ状)
・ドクササコは内部に空洞があり中空

(4)色はグレーがかった褐色(灰褐色)
ホテイシメジの傘の色は、グレーがかった褐色(灰褐色)です。

ヒダは白く、柄は傘と同じ色です。白いヒダと色のついた柄との境界が明確です。

それに対し、次の写真はカヤタケと思われるキノコですが、ホテイシメジよりもはっきりした鮮やかな褐色です。

ホテイシメジと同じく、ヒダは白色で、柄には色がついていて、ヒダと柄の色の境目ははっきりしています。しかし柄の色は傘と同色なため、やはりホテイシメジよりもずっと鮮やかです。

ネット上の写真では、もう少し色の薄いカヤタケも存在するようで、その場合はホテイシメジと多少似て見えるかもしれません。確実に見分けるためには色以外の特徴も見る必要があります。

ドクササコは見たことがありませんが、写真で見る限り、カヤタケと同じかそれ以上に鮮やかな黄色や赤色がかった褐色です。ホテイシメジは幾分白っぽい褐色なので、そうそう見間違えるとは思えません。

また、ホテイシメジは、白っぽいとは言っても、あくまでもグレーがかった「褐色」なので、薄い茶色っぽさはあります。

もし、形がホテイシメジやカヤタケに似た漏斗型でも、あからさまに白い場合は、シロノハイイロシメジ、コシロイヌシメジなど、カヤタケの仲間の別のキノコを疑う必要があるかもしれません。特に、毒キノコであるシロヒメカヤタケには要注意です。

(5)傘の中央の色が濃い
こちらのサイトによると、「ホテイシメジはグレーに近い茶色で、カサの中央の色が濃くなっている」という特徴があります。

採ってきたホテイシメジを確認すると、ほとんどの個体で傘の中央が黒っぽくなっているのを確認できました。大きく傘が開いて成長しきった個体では、ほとんど黒さはありませんでしたが、見分ける手がかりになると思われます。

ネット上の写真で見る限り、ドクササコには傘の中心が黒いといった特徴はなさそうに見えます。

カヤタケは、自分で観察したとき、傘の真ん中に濃い茶褐色の部分があり、ネット上の写真でもそのような傾向がみられました

それで、必ずしも他のキノコと確実に区別する決め手にはなりませんが、ホテイシメジを見分ける多くの手がかりの一つとして覚えておくとよさそうです。

(6)ひだの密度はやや疎
ドクササコとカヤタケのヒダは、はっきり「密」であると書かれていることが多いです。

写真で見る限り、ドクササコやカヤタケは、びっちりきめ細やかに詰まったひだに見えます。わたしが見つけたカヤタケも、ヒダがかなり密に並んでいました。

一方、ホテイシメジは「やや疎」とされていることが多く、たまに「やや密」との記述もありますが、少なくとも「密」ではありません。実物を見ても、普通のキノコのよくある密度のひだです。

また、英語のwikiを読んでいたら、通常のひだの間に小さなひだがあり、ひだは柄の近くで時々分岐するという特徴も書かれていました。

以上のような特徴を観察すれば、ホテイシメジをはっきり見分けることができます。特に幼菌は特徴がはっきりしていて間違えようがないので、まずはカラマツ林で幼菌を見つけ、それを足がかりに様々な成長段階を見分けられるようになればいいと思います。

食べるときは、茹でて味噌汁や鍋物の具にしたり、バター炒めにしたりします。下の写真はバター炒めにした時のものですが、ほんのちょっと食べただけなのに、キノコらしからぬ味わいに驚きました。

弾力性のある触感と、びっくりするほど濃厚な風味があり、まるでカレイの肉を食べているかのようで驚きました。

図鑑によると、「癖がなく風味があり」とのことでしたが、相当強い風味です。ネット上の体験記では、味が濃いとかエリンギのような食感だという感想がありましたが、まさにそんな印象でした。

たくさん採れるので、乾燥させて保存しておき、さまざまな料理の味付けとして投入するという使い方もしました。見た目には、どこに入っているかわからなくなってしまうので、料理写真は載せませんが、しっかり味が出るので美味しいです。

美味なキノコですが、最初に書いたとおり、お酒との併用は禁忌です。コプリンという成分が、アルデヒド脱水素酵素を働かなくしてしまうため、アルコール耐性がまったくなくなってしまうからです。

普段からお酒を飲む人はホテイシメジを食べてはいけませんし、少なくとも食べる前日と、食べた後一週間くらいは禁酒が必要なようです。

わたしはアルコールをまったく飲まないので関係ない、と言いたいところですが、料理用のみりんでも良くない、ということが書いてあるサイトを見つけて、少しためらいが生じました。

しかし、実際にさまざまな料理に入れて食べましたが、料理用のみりん程度で気分が悪くなることはありませんでした。たくさん採れる上に味もよく、お酒を飲まない人には、かなりおすすめできるキノコです。

ムキタケ

見分けるポイント
・広葉樹の倒木や枯れ木に発生
・傘に鱗片はなく、微細な毛がある
・ひだは密。似ているツキヨタケはやや疎
・ツバはない。似ているツキヨタケはリング状のつばがある
・表皮がつるりと剥ける
・肉の断面は白い。似ているツキヨタケは柄の內部に黒い染みがある

2年目の秋、森を散歩していて、倒木にオレンジ色っぽいキノコが出ているのを見かけました。当時はまだキノコの種類の多さに圧倒されていて、特に樹木から生えるキノコに対しては苦手意識がありました。

軽く調べただけで、これは有名なツキヨタケかもしれない、と考え、夜にもし見に来ることができたら光っているのだろうか、などと想像しました。

3年目にも同じキノコを見つけ、改めて限られた知識から、ヒラタケだろうか、ツキヨタケだろうか、と考えました。この頃には、ツキヨタケはリング状のツバがあり、柄を裂くと黒い染みがある、といった知識はありました。

改めてよく調べてみたところ、全然ヒラタケの色とは違っていて、ツキヨタケの特徴もありませんでした。

このキノコの正体は、ムキタケでした。名高い食用キノコとして名前は聞いたことがありましたが、実物を認識するのは初めてでした。

ムキタケはとても美味しいキノコですが、毒キノコ御三家てあるツキヨタケと間違えやすいことが知られています。しかし、ツキヨタケ以外には似ているキノコはないので、特徴を覚えさえすれば、採取しやすいキノコといえます。

道北の名寄市北国博物館のキノコ図鑑によると、この近辺ではムキタケやヒラタケは発生しますが、ツキヨタケはまだ見つかっていないそうです。

一般的にはツキヨタケの分布は北海道南部以南とされていて、ツキヨタケがおもに発生するブナの北限と一致します。

ただし、ツキヨタケはイタヤカエデにも出ることがある、とされていますし、近年は温暖化していることを思えば、必ずしも安心はできません。しっかり見分け方を覚えておくのは大切です。

(1)広葉樹に生え、柄がとても短い
ムキタケは秋の中頃から晩秋にかけて、広葉樹の枯れ木や倒木に生えます。ミズナラやシナノキの仲間によく生えるようですが、わたしの地域ではエゾヤマザクラの倒木に生えているのもしばしば見かけます。

つややかなゼラチン質の傘で、柄がとても短い、というよりほぼ無いのが特徴で、慣れればすぐに見分けられます。

わたしの地域ではツキヨタケは生えないため、広葉樹につややかなオレンジ色の傘のキノコが生えていたら、柄がほとんどないムキタケか、黒い柄があるエノキタケの場合がほとんどです。

採取する時は、手でもぎとると、せっかく生えている木を痛めてしまうので、ナイフで根元から切り取るようにします。

(2)傘はゼラチン質で、微細な毛がある。鱗片はない
ムキタケの傘は表面がゼラチン質でぷるんぷるんです。ツキヨタケは、表面に黒っぽいささくれだった鱗片があるとされますが、ムキタケの傘には鱗片はなく、つるりとしています。

しかし、ムキタケは一見つるりとしているようでも、拡大すれば微細な毛があるとされています。ルーペで拡大してみましたが、20倍でも倍率が足りないようで、これが毛なのかどうか、よくわかりませんでした。

しかし、ムキタケの傘のうち、木に付着している柄のあたりを見ると、肉眼でも白い毛が密生しているのがわかります。

この部分をルーペで拡大してみると、確かにうぶ毛のようなものが生えていることが確認できました。この特徴を覚えているだけでも、ムキタケを見分けるのがとても楽になると思います。

ムキタケの傘の色は、複数のタイプがあり、典型的なオレンジ色の褐色タイプの他に、紫色タイプ緑色タイプがあるとされています。

このうち、緑色タイプはオソムキタケという別の種類であることが判明したそうです。といっても色が違うだけで、どれも同じように食べることができます。

わたしが見たムキタケは、幼菌の時は、かなり濃い紫色や茶色だったので、別のキノコかと思っていましたが、成長すると褐色になりました。

晩秋に発生したものは、下の写真のように、若干緑色を帯びていたので、これがオソムキタケだったのかもしれません。

(3)ムキタケはヒダが密。ツキヨタケはやや疎
ムキタケとツキヨタケの大きな違いは、ヒダの密度です。ムキタケは密、ツキヨタケはやや疎とされています。

ムキタケのヒダを見てみると、かなりびっしりと詰まった細かいヒダなので、密であることがひと目でわかります。一方、ネットの写真でツキヨタケのヒダを調べてみると、もっと隙間が空いているので、全然印象が違います。

特にムキタケ幼菌のヒダの密度はすさまじく、肉眼ではヒダなのかどうかわからず、サルノコシカケの仲間のような管孔なのではないかと思ったほどでした。

これをルーペで拡大してみて初めて、ぎっしり詰まった立派なヒダであることがわかりました。

(4)ムキタケはツバがない。ツキヨタケはリング状のつばがある
ムキタケとツキヨタケを区別する重要なポイントとして、しばしば挙げられるのはツバの有無です。

ムキタケもツキヨタケも、木から生えるキノコで、一見すると柄がないかのように見えます。しかし、よく確認すると、とても短い柄で木とつながっているのがわかります。

ムキタケの場合、ヒダと柄の境目にツバはありません。一方、ツキヨタケはヒダと柄の境目に指輪をはめたかのように盛り上がったツバがあることが知られています。

わたしはツキヨタケを見たことはないので、その写真は持っていませんが、ネットで調べれば、ツキヨタケのリング状のツバの写真はたくさん出てきます。

ムキタケの場合は、下の写真のように、傘と同色のオレンジ色の短い柄で木とつながっています。白いヒダとの境目には、特に盛り上がっているツバのような構造はありません。その代わり、柄の周囲に(1)で確認したような微細な白い毛が生えています。

幼菌の場合は、ヒダに比べて柄が大きいので、柄がぷっくりと膨らんで見えます。それでも、リング状に盛り上がっている構造はありません。

これはツキヨタケとムキタケを見分ける大事なポイントなので、ムキタケを採取する際は、しっかり柄が残るように切り取る必要があります。

手でもぎとると形が崩れて柄もちぎれてしまうので、前述のとおり、ナイフなどを使って丁寧に採取するとよいでしょう。

(5)ツキヨタケの柄の断面には黒い染みがある
柄のツバと並んで、もう一つツキヨタケを見分ける重要な特徴とされるのは、ツキヨタケの柄の内部には黒い染みがある、という点です。

これもわたしは確認したことはありませんが、ネットで調べればたくさん画像が見つかります。

一方、ムキタケの柄の断面はいずれも真っ白で、染みはまったくありません。

わたしは念には念を入れて、採取したムキタケは、調理する前にすべて柄に縦に包丁を入れて、断面を確認するようにしています。

もし柄の内部に黒い染みがあれば、ツキヨタケだとはっきりわかりますが、小さい個体など染みが目立たないものもあるとされます。それで、柄の断面を確認すのは大切ですが、他の特徴もしっかり確認して、総合的に判断するのが良いでしょう。

(6)ムキタケの皮はつるりと剥ける?
ムキタケはその名のとおり、表皮がつるりと剥けるとされています。やってみたところ、確かに剥けることは剥けるのですが、うまく剥ける時と剥きにくい時があり、一概に簡単に剥けるとはいえませんでした。

Wikipediaだとツキヨタケは剥けないことで区別できると書かれていますが、両方とも剥いてみせている人がいるので信憑性に欠けます。剥きやすさに差があるのかもしれませんが、ツキヨタケの実物を触ったことがないので分かりません。

ムキタケは一般に、皮を剥いて料理すると説明されますが、意外なことに剥かないで食べる人のほうが多いという話もありました。

別に皮に毒があるわけではなく、皮がついていると多少苦味があるというだけなので、めんどくさく感じる人は、そのまま食べても大丈夫そうです。

塩水に漬けて虫出しし、皮を剥いたムキタケは、当初の見た目とは随分変わってしまってお餅みたいに見えます。

ラーメンの具に入れて食べてみると、味は特にありませんでしたが、食感が面白く、擬音で表現すれば、モキュモキュといった感触でした。ハナイグチよりも弾力性があり、見た目も食感も餅っぽいです。今まで食べたヌメリ系のキノコとはまた違う、初めての体験です。

フカヒレに似ている、と表現されることがありますが、本物のフカヒレは食べたことがないのでわかりません。似ているのなら、サメをむやみに殺したりせずに、ムキタケを栽培すればいいのにと思います。キノコは食感も旨味も肉や魚にそっくりなのが多いので、工夫すれば十分代用になると思います。

ホットプレートで焼いて味付けして食べると、醤油だけだとわずかに臭みがありましたが、コショウを振ると問題なくなりました。もちもちした食感が最高です。

確かに森のフカヒレと呼ばれるのも納得の食感です。フカヒレは食べたことがありませんが、スープにされることは知っているので、焼いたムキタケを卵スープに入れてみました。

くにゅくにゅっとしたゼラチン質の食感がすばらしいです。今のところムキタケの食感は、他のキノコでは代用できないオンリーワンだと感じます。

ヤマイグチ/キンチャヤマイグチ

見分けるポイント
・ヤマイグチの傘はグレーっぽいくすんだ褐色、キンチャヤマイグチはもっと鮮やか
・傘の大きさにはさまざまなサイズがある
・キンチャヤマイグチの傘はひさしのように管孔より先にはみ出す
・管孔はほぼ白→やや褐色。触れると弱いオリーブ色に変色
・管孔は離生
・柄が黒い鱗片で覆われる(最も重要な特徴)
・キンチャヤマイグチのほうが柄は太い
・柄の根元はやや青みを帯びることがある
・半分に切断した時の変色性は、ヤマイグチは変色しない。近縁のアオネノヤマイグチは柄はワイン色に、根元は青く変わる。キンチャヤマイグチはワイン色に変色し、時間が経つと青黒くなる

個人的にかなり謎の多いキノコ、ヤマイグチ。名前のとおりイグチの仲間であり、ヒダではなくスポンジ状の管孔を持つタイプのキノコです。

柄に黒い鱗片がびっしりついているという共通点で見分けやすいのですが、変種が多くて混乱させられがちです。

ヤマイグチや、その近縁のキンチャヤマイグチは、シラカバなどのカンバ類と共生しているキノコです。普段歩く森は針葉樹が多いのであまり見かけませんが、公園のシラカバ林を歩くと、10月上旬ごろによく生えています。

フィンランドでは、近縁種がマツやポプラと共生することも知られています。日本でもアカマツ林などで見つかる場合があるそうです。ここに載せている写真の一部も、公園のアカマツ林で見つけたものでした。

また、ポプラ(セイヨウハコヤナギ)の仲間である在来種のヤマナラシ(ハコヤナギ)やその近縁のドロノキ(ドロヤナギ)と共生するタイプもあり、アカツブキンチャヤマイグチヤマナラシノアオネノヤマイグチなどが知られているそうです。

ほかに、アカシデ、イヌシダなどシデ類の木と共生しているスミゾメヤマイグチという種類もあるそうです。よって、詳しい種類の同定のためには、近くに生えている木の種類を調べることが重要です。

ヤマイグチの仲間は、日本ではあまり食用にされないようですが、ヨーロッパでは普通に食べられているキノコです。ピーターラビットの野帳(フィールドノート) にもビアトリクス・ポターが描いたヤマイグチの絵がたびたび出てきます。(p76,113,178)

多数の変種があれど、すべて柄に黒い鱗片がびっしり付いているというユニークな特徴は共通していて、紛らわしい毒キノコもありません。

そのため、キノコ狩り初心者にも優しいキノコですが、虫が入りやすいのか、あまりきれいな状態のものを見つけたことがありません。

さまざまな種類がありますが、まずは普通のヤマイグチの特徴を考えます

(1)傘の色はグレーっぽくくすむ
ヤマイグチの傘は灰褐色~暗褐色とされており、要するにグレーがかった傘の色です。若干の個体差があり、下の写真のように無彩色っぽい暗褐色のものもあれば、

次の写真のように、有彩色っぽさが増した傘の個体あります。でも、どちらにせよ、くすんだ色合いというのは同じです。もっと鮮やかなオレンジ色の場合は、後で取り上げるキンチャヤマイグチという近縁種を疑います。

傘は湿っている時は多少のぬめりがありますが、基本的には乾燥していて光沢はありません。乾燥して少しひび割れていることもあります。

しかし、あまりに激しくひび割れている場合は、後述するスミゾメヤマイグチやイロガワリヤマイグチなど他の近縁種の可能性を疑います。

(2)管孔はほぼ白色→やや褐色。膨らんでせり出す
傘は最初は半球形ですが、成長すると、次の写真のように管孔のスポンジ部分がせり出してきて膨らみます。厚みのあるホットケーキ形と表現しているサイトもありました。

管孔の色合いは、初めはほぼ白色ですが、成長して管孔がせり出すにつれ、やや褐色みを帯びてきます。

次の写真のヤマイグチも、やはり傘の下のスポンジ状の部分が膨らんでせり出しています。

柄が妙に細くて弱々しいですが、最大の特徴である黒い鱗片が柄にびっしり付いていることからヤマイグチだとわかります。ヤマイグチの姿にはかなりバリエーションがあるので個体差のうちだと思います。

ここまで管孔がせり出して膨らんでいると、もう虫がたくさん入って、内部が食い荒らされているので、到底食べることはできません。

(3)大きさには個体差がある
次の写真のヤマイグチはかなり巨大で、一見別のキノコかと思いました。しかし、図鑑によると、ヤマイグチの傘は5~20cmとされており、外見は小さいものから巨大なものまで、幅広い個体差があります。

このヤマイグチも巨大であるとはいえ、傘の色や管孔のせり出し方は、他の写真のヤマイグチとよく似ています。

管孔は最終的に柄に対して離生するので、柄のまわりにはぐるりと谷間ができることになります。

(4)柄に微細な黒い鱗片がある。柄の根元は青みを帯びることも
以上のヤマイグチはどれも姿形はかなり異なっています。しかし、柄を見ればヤマイグチの仲間だと判別できます。最初に書いたように、柄に黒い鱗片が密生するという唯一無二の特色があるからです。

この鱗片は、粒やささくれのように柄をびっしり覆っています。まれに柄の上部のほうで、鱗片が不完全な網目状になっているものもありますが、他の網目模様が目立つイグチほど明瞭ではありません。

中には、鱗片の色が薄めで褐色に近いものもあるようです。鱗片の色が白ければ、近縁種のシロヤマイグチを疑いますが、どちらとも分類できないような中間的な種類もあるらしく、同定は簡単ではありません。

少なくとも食用にする目的で採取する場合は、黒い鱗片がびっしり付いているのがヤマイグチ、と覚えておけば間違いないと思います。

また、普通のヤマイグチでも、柄の根元は、しばしば弱い青みを帯びていることがあります。

(5)肉は白く変色性はない。アオネノヤマイグチは変色性がある
ヤマイグチの肉に変色性はなく白色です。傘から柄まで半分に切断して断面を見ても、色が変わることはありません。

一方、後述する近縁のキンチャヤマイグチは、半分に切ると断面が黒く変色します。そして、近縁種のアオネノヤマイグチは半分に切断すると、傘と柄の上部が淡い赤色(ワイン色)に、柄の根元は青色に変色ます。

次の写真は、一見すると普通のヤマイグチでしたが…、

半分に切断すると、肉はワイン色に、根元は青く変色したので、アオネノヤマイグチだと判明しました。状態が良かったので、普通に食べることもでき、美味しかったです。

さらに、リンク先に載っていますが、ヤマナラシノアオネノヤマイグチも、やはり根元を傷つけると変色するそうです。

以上がヤマイグチを見分けるのに役立つ特徴です。

続いて、ヤマイグチの近縁種であるキンチャヤマイグチについてです。キンチャヤマイグチもヤマイグチと同じくシラカバ林などに生えます。ヤマイグチとよく似ていますが、参考サイトによると、少し異なる特徴もあります。

(1)名前のとおり傘の色がより鮮やかな金茶色
次の写真はキンチャヤマイグチの一種で、傘の色がより鮮やかで、名前のとおり金茶色です。最初はもっと鮮やかなオレンジ色で、やがて黄土色に色あせてくるそうです。

ヤマイグチでも、傘の色が明るい赤茶色の個体はありますが、それよりも黄色がかって見えます。

とはいえ、やはりヤマイグチと同じく、見た目には個体差があり、一様ではありません。キンチャヤマイグチであることを見分けるには、傘の色だけでなく他の特徴も見たほうが確実です。

(2)傘のふちがひさしのようにはみ出る
図鑑などの資料によると、傘のふちが膜状になって管孔より突出する特徴があるとされています。

言葉だと意味がわかりにくいですが、下からのぞいてみると、傘のふちが建物のひさしのように、管孔より先まではみ出していることがわかります。

普通のヤマイグチでも、キンチャヤマイグチに近い色の傘をし個体がありますが、この特徴の有無でキンチャヤマイグチかどうか見分けられることがあります。

(3)柄が太めで、黒い鱗片で覆われる
柄はヤマイグチより太めで、次の写真のように明らかに太ましく感じられるものもあります。

柄には、ヤマイグチの特徴である黒い鱗片がやはり見られますが、先程の普通のヤマイグチより、はるかに濃く密生しているように見えます。

しかし、キンチャヤマイグチも細かく分類すれば複数のタイプがあるため、一概にこれが特徴だとは言えず、個体差があるようです。

(4)管孔の色は白→褐色
管孔の色は、ヤマイグチと同じく、成長段階によって変色していきます。

すなわち、ほぼ白→やや褐色に変化し、触れるとややオリーブ色に変色します。

たとえ変色しているようでも、管孔が膨らんだり、穴だらけになったりしていなければ、虫が入っていない新鮮な状態なので、食べることができます。

(5)柄を切断すると時間経過とともにワイン色→黒色に変色する
上の写真では、柄の一部が青く変色しているのがわかります。

ヤマイグチでも根元が青みを帯びることがありましたが、キンチャヤマイグチでは、もっとはっきりした変色性があり、傷ついた部分は淡いワイン色→青黒い色に変化します。

半分に切断して断面を見てみると、最初はこのとおりヤマイグチと変わらない白い肉でしたが、

しだいに青黒く変色しました。変色したのは肉の部分だけで、管孔の色は変化しませんでした。

これらの特徴は、非常にわかりやすいため、「きのこ狩り初心者でもまず安心」なキノコだとされています。普通のヤマイグチよりも味がよいともされるのも嬉しい点です。

以上がキンチャヤマイグチの特徴ですが、ヤマイグチの仲間には他にも様々な変種や近縁種があるようです。

たとえば、10月後半に複数の場所で見つけた、こんなヤマイグチがありました。

傘が激しくひび割れていて、ヤマイグチやキンチャヤマイグチの一般的な写真とは一致しません。また柄に傘とつながっていたと思われるツバの痕跡のようなものがありました。

群生している同じ種類のキノコすべてがこのような傘をしていたので、たまたまひび割れていたとは思えません。

傘が激しくひび割れるイグチ科のキノコには、キッコウアワタケ、キクバナイグチなどがありますが、いずれも柄の特徴が違います。このキノコは、柄に黒い鱗片が密生していたので、ヤマイグチの近縁種であろうことが推測できました。

ヤマイグチの仲間には、シワチャヤマイグチという傘に脳のようなシワとくぼみがある種類が図鑑に載せられていましたが、傘がひび割れるものは載っていませんでした。

類似画像を調べてみると、WikipediaのKozák habrovýという項目に載せられているこの写真がよく似ていました。これはLeccinum carpiniというキノコを指しているようで、Leccinum griseum(スミゾメヤマイグチ)と同一のようでした。

しかし、前述したとおり、スミゾメヤマイグチはシデ類の下に出るキノコで、このあたりではシデは見かけません。しかし、このスミゾメヤマイグチと似ているイロガワリヤマイグチという種類があるそうで、ここのサイトの写真がよく似ていました。

説明によると、イロガワリヤマイグチは傘がひび割れるのが特徴で、乾燥していると褐色や黄色みを帯び、濡れると黒っぽくなるようです。今回発見したのは乾燥した個体ということになります。

また管孔がやや黄色っぽく、傷つくと赤みを帯びることからイロガワリの名がついているそうです。

柄の上部が白く、下部が赤褐色である、という特徴もあるそうで、観察したものと一致しています。

手持ちの北海道のキノコ図鑑2種には記載がありませんが、他に一致するキノコが見当たらないので、今のところイロガワリヤマイグチだと考えています。

このように、ヤマイグチは種類が色々あってとてもややこしく、調べればまだまだ近縁種が出てくると思われます。ここに載せたものも、もしかすると複数の種類を混同している可能性があります。

しかし、柄に黒い鱗片があるイグチであるという最大のポイントを覚えておくだけでも、ヤマイグチの仲間であることは難なく見分けられます。

ヤマイグチの仲間には、マイナーな食毒不明種はあれど、明らかに毒性のあるものは発見されていません。初心者でも見分けやすいキノコなので、安心して採ることができるのは強みです。

また、もっとも美味とされるのはキンチャヤマイグチなので、傘が鮮やかで、柄に黒い鱗片があり、断面が青黒く変色するという特徴から見分けたものだけを採るのも良いかと思います。

採取したキンチャヤマイグチはとてもきれいだったので、食べやすい大きさに切ってバター炒めにしてみました。写真の中の黒いのがキンチャヤマイグチで、他はタマゴタケなど別のキノコです。

正直なところ、肉が硬めであまり味が染みず、他のキノコには見劣りする味でしたが、たまたまこの料理に合ってなかっただけかもしれません。後で、全部パスタに混ぜてみたら、他のキノコとの相乗効果でとても美味しくいただけました。

しっかり火を通さないと中毒することがあるようですが、フライパンで水分を飛ばす、茹でこぼすなど加熱調理すれば問題ないとされています。

ヤマドリタケ

見分けるポイント
ヤマドリタケ
・エゾマツ・トドマツ・ヨーロッパトウヒ等の針葉樹林、およびカンバ林に発生
・傘の色は赤みがかった黄色や薄茶色。ふちは色が淡く白っぽい
・柄の上半分のみに白い網目模様

ヤマドリタケモドキ
・主にカンバ林など広葉樹林に発生
・傘の色は茶色。ビロード状で光沢がない
・柄の全体に白い網目模様

共通点
・柄が太く、ずんぐりむっくりした姿
・柄に白い網目模様がある。毒キノコのドクヤマドリは網目模様がない
・肉は白で、変色性はない。ドクヤマドリの断面は弱く青色に変色する
・管孔はやや黄色みを帯びた白で、変色性はない。ドクヤマドリの管孔は傷つけると青く変色する。ニガイグチの仲間の管孔はややピンク色みを帯びることが多く、種類によっては傷つけると変色性もみられる
・ドクヤマドリでないことを確かめ、その上でニガイグチとの区別に迷う場合は、調理する前にひとかけら噛んでみる。ニガイグチなら毒ではないものの、ひどく苦い
・切って香りを嗅ぐと、生のままでも独特の良い香りがある


キノコ観察を初めてから、ずっと食べてみたいと思っていた憧れのキノコがありました。それは、イタリアで高級食材ポルチーニとして知られているキノコです。

タマゴタケは別名「皇帝のキノコ」ですが、ポルチーニは「キノコの王様」。数あるキノコの中ても最高級の味わいだとされています。

ポルチーニは大型のイグチで、なんと日本にも生えることが知られています。和名はヤマドリタケという名前です。ほかにも、近縁種である、ススケヤマドリタケ、ムラサキヤマドリタケ、ヤマドリタケモドキなどが、広義のポルチーニだとされます。

わたしが普段歩いているトドマツ林には、名前が似ているコガネヤマドリというキノコがよく生えますが、残念ながらこれはポルチーニには含まれません。

しかし、近所の広大な公園の林を歩いていたら、シラカバ林の中に、ポルチーニらしきキノコが生えているのを見つけました。調べてみたところ、本家ヤマドリタケのようでした。

傘の色は赤みがかった薄い茶色。これはまだ幼菌に近いヤマドリタケですが、傘のサイズがすでに5cmあります。成長すると20cm近くになる巨大キノコです。

本家ヤマドリタケ(Boletus edulis)か、それともヤマドリタケモドキ(Boletus reticulatus)か迷いましたが、傘の色からすると本家のほうです。モドキのほうは、図鑑によると、もっと茶色みが強いようです。

一般に、ヤマドリタケはトドマツなど亜寒帯の針葉樹林、ヤマドリタケモドキはカンバ類など広葉樹林に発生するとされますが、このキノコを見つけた場所はカンバ林でした。

ということは、ヤマドリタケモドキのほうではないかと思ったのですが、傘色が違います。悩んでいたら、手持ちの図鑑の一つに、ヤマドリタケは針葉樹林だけでなく、カンバ林でも発生するとありました。

モドキのほうの写真とはあまり似ていませんし、こちらのサイトで本家ヤマドリタケ(ポルチーニ)として載せられている写真ともよく似ていることから、ここではヤマドリタケとして掲載することにしました。

横から見ると、このような姿。ヤマドリタケの仲間はこのような柄が太いずんぐりむっくりした姿をしています。マリオのスーパーキノコのモデルはベニテングタケだと言われますが、形はこちらのほうがずっと近いかもしれません。

最大で20cmくらいになるキノコなので、成長を待ってから採るほうがいいのかもしれませんが、どれくらいが採り頃か知りませんし、一般的にキノコは若いほうが虫食いが少なく美味しいので、試しに採取してみました。

図鑑でしか見たことがありませんでしたが、なんと立派なヤマドリタケなのでしょう。 管孔も膨らんでおらず、虫食いもなく、きめ細やかで芸術作品のようです。

ルーペで見ると、管孔はまだほとんど開いておらず、白い菌糸の膜に覆われた状態でした。

柄はとても太く、じっくり観察してみると、白い網目模様で覆われているのがわかります。この網目模様の有無や、網目模様のある範囲は、ヤマドリタケの仲間の食用キノコを見分ける非常に重要なポイントです。

ポルチーニの仲間は、柄の上半分に網目模様があるのがヤマドリタケで、柄の全体に網目模様があるのがヤマドリタケモドキです。

とはいえ、わたしが採取しているこのキノコは、柄のほぼ全体が網目で覆われていることもあれば、下部の網目が不明瞭なこともあります。

傘の色合いからヤマドリタケだと思っているのですが、モドキの特徴らしい点もあり、確証が得られません。ただ、少なくとも明瞭な網目があるのは事実であり、本家でもモドキでも同じように食べることができます。

見分けに注意を要するキノコは、ドクヤマドリとニガイグチの仲間です。

まず、ドクヤマドリは、ヤマドリタケによく似た毒キノコです。しかし、ドクヤマドリは柄に網目模様がありません。よって網目模様が確認できれば、ドクヤマドリの可能性を除外できます。

また、イグチの仲間には、傷つくと特有の色に変色するキノコがたくさんあります。それで、包丁で半分に切ったり、管孔を傷つけたりして、変色するかどうか時間を置いてみれば、種類を確定する手がかりが得られます。

ヤマドリタケやヤマドリタケモドキは切っても変色しませんが、ドクヤマドリは青っぽく変色する特徴があります。特に管孔の変色性が強く、傘や柄の肉の変色性は弱いようです。

次に、ニガイグチの仲間は毒ではないものの、ひどく苦いことが特徴です。ヤマドリタケの類は見た目の変化がかなり激しく、中にはニガイグチと似たような姿のものもあるそうなので、注意が必要です。

ニガイグチは、柄に網目模様がある種類もある(おもに柄の上部)ため、網目模様があるイグチは食用になると言い伝えは当てになりません。

ニガイグチの種類は多岐にわたるため、確実に見分けられる特徴はないようです。ヤマドリタケやヤマドリタケモドキの特徴のほうをしっかり覚え、図鑑とにらめっこして確かめるしかありません。

たとえば、ニガイグチの中には、管孔がピンクがかっていたり、変色性があったりするものが多いです。

一方、次の写真は、ヤマドリタケをスライスしてみたものです。管孔の断面が黄色みを帯びていることがわかります。また、管孔にも肉にも変色性がないことも確認できます。

よって、ヤマドリタケやヤマドリタケモドキらしいキノコを見つけたら、柄に白い網目模様がある、管孔を傷つけても変色しない、管孔の断面が黄色っぽい、肉が白っぽい、断面が変色しない、といったチェックポイントを確認します。

そうすれば、少なくとも危険な毒キノコは確実に除外できます。その上で、念のため一切れかじってみて、強い苦みがなければ、食べられると判断できます。

また、ヤマドリタケは、スライスしただけで、甘いポルチーニの香りがするという特徴もあるので、断面の匂いを嗅いでみるのもいいでしょう。

スライスしたヤマドリタケはスパゲッティに投入。

塩コショウで味付けしたはずなのですが、今まで経験したことのない深みのある甘い香りと旨味が染み渡っていました。「キノコの王様」という二つ名にたがわぬ力を見せつけられた気がして、衝撃的でした。

今までどのキノコも美味しい美味しいと食べてきましたが、確かにこれは別格です。モドキではない本家ヤマドリタケのほうはさらに美味だそうですが、想像もつきません。

その後もシラカバ林を歩いていると、時々ヤマドリタケを発見できました。しかし、シラカバの落ち葉と色が同化していて、かなり見つけるのが難しかったです。

そこそこ量が採れたので、すぐに食べない分は、干して乾燥させるか冷凍するかして保存しました。食べるときに戻して調理しましたが、味や香りは変わらず絶品でした。

スライスした乾燥ヤマドリタケは調理するとベーコンのようにも見えます。わたしのような、できる限り菜食主義でありたい人にとって、肉の代替品として大変優れています。

ヤマドリタケは、形が独特で、特徴も非常にはっきりしていて、似た毒キノコが少なく、確実に区別する方法もあります。その上、味と香りは最高級という、良いことずくめのキノコです。