JAXAが発行する「宇宙医学に学ぶ快眠の秘訣」を読んで

no_3眠不足症候群(BIISS)によって成績が急上昇した生徒は、やがて深刻な過眠型睡眠障害に陥り、不登校になる可能性があることは、このブログでお伝えしてきました。

このことは、一個人のみならず、国家レベルでも当てはまるかもしれません。全世界250ほどの国や地域を、地球という学校の生徒として見た場合、日本はまさに、睡眠を犠牲にして頑張り、成績トップに踊りでた生徒です。

しかし今やその勢いは陰りつつあり、日本は“疲労大国”と呼ばれるようになりました。国家として“不登校”になりかねない危険な状況だといえるでしょう。

昨年12月に、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から発行された「宇宙医学に学ぶ快眠の秘訣」という無料のパンフレットは、日本が置かれた状況をわかりやすく説明しています。興味深く感じた点をを8つのポイントにまとめてみました。

 

1.宇宙でも生体リズムは乱れない

宇宙飛行中の睡眠を詳しく解析した報告はあまり多くありませんが、睡眠時の脳波を測定してみると、意外なことに睡眠の構造や生体リズムに大きな変調は認められていません。

ISS滞在中の宇宙飛行士は、日常的に運動を行う他、睡眠時間や作業時間などの生活スケジュールが適正に計画・管理されています。

この規則正しい生活が睡眠や生体リズムを正常に保っていると考えられます。 (p4)

宇宙空間では光の変化や重力の影響がないため一見リズムが乱れそうですが、適正な生活スケジュール管理により、防止できるようです。概日リズム睡眠障害の予防には環境も大切ですが、睡眠不足を慢性化させない規則正しい生活や運動の習慣も大事だと分かります。

2.日本の24時間社会は宇宙から見ても異常!

スペースシャトルから撮影した日本の夜景を眺めると、私たちは「眠らない社会」で生活していることを改めて実感します。

社会が豊かになるために睡眠を犠牲にしてもよいのでしょうか。

睡眠不足、24時間社会、交代勤務、時差飛行、夜型生活などのために、不眠や起床困難、日中の強い眠気、睡眠リズムの異常など様々な睡眠問題を抱える現代人が激増しています。 (p12)

現代の24時間社会が睡眠時間をないがしろにしている異常な社会であることは、専門家によって警告されていますが、宇宙から見下ろせば、それがはっきりと分かるようです。

3.日本人の労働時間は世界第二位

他の国と比べて、わが国は労働時間がかなり長いという特徴があります。週に49時間以上働く人の割合は男性では約40%に達しています。

この値は韓国を除けば、先進国の中でトップとなっています。(p10)

週に49時間以上働く人の割合は男性では約40%に達しています。この値は韓国の50%に次いで多く、実にフィンランドの4倍、アメリカの2倍です。

日本人が睡眠を削ることを勤勉さという名の美徳と取り違えていることが分かるデータです。韓国や台湾といった近隣国の子どもたちの健康も心配です。

4.日本人の睡眠時間は世界最下位

日本人はこの50年間で就床時刻がどんどん遅くなり、睡眠時間は約1時間短縮しました。

主要な欧米諸国と比較すると、日本は韓国と並んで、世界トップクラスの夜更かし国家、短時間睡眠国家といえるでしょう (p14)

冒頭で述べたように、世界の国や地域を、地球という学校の250人ほどの生徒として見た場合、日本は非常に不健康な生徒のひとりです。確かに睡眠を犠牲にして成績は上昇していますが、いつ不登校になってもおかしくない際どい状況にあると言えます。

5.睡眠不足は人生を縮める

日本人の死因トップ10のうち心疾患、脳血管疾患、不慮の事故、自殺の4項目までが睡眠不足との関連が指摘されています。(p14)

現代の日本社会の抱えるさまざまな問題の背後には、睡眠不足が関係していると言われています。日本は不良債権問題を抱えていることで有名ですが、国家としての睡眠負債もばかになりません。

6.睡眠不足は酔っぱらいと同じ

15時間の徹夜は、免停30日の罰則を受けるアルコール濃度に相当し、24時間の徹夜は、日本酒2合に相当する知覚・判断能力、反応性の低下を引き起こす (p15)

一日くらい、と思って徹夜することは誰しも経験がありますが、その短絡的な行動が、飲酒運転と同じほど、周囲の人に危険を及ぼします。

7.睡眠障害に対する日本人の認識

睡眠に問題があった時、スペインやドイツなどでは医師の診断を受ける人が50%近くを占めるのに対し日本では10%未満です。

その代わりアルコールに頼る人の割合が高く、特に男性でその傾向が強いようです。 (p14)

日本人は、睡眠障害を病気と考えていません。不眠型睡眠障害があっても、「温かいミルクでも飲めば眠れるよ」という認識であり、睡眠相後退症候群の患者は「夜更かししているからそうなるんだ」ととがめられます。過眠型睡眠障害は、「怠けている」としか思われません。

睡眠に対する認識の軽視と、気合で頑張れば寝なくても大丈夫、という根性論が浸透した結果、日本は世界一睡眠をないがしろにする国になってしまったのです。

8.睡眠問題への対処12の指針

1.睡眠時間は人それぞれ。
2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
3.眠たくなってから床に就く
4.同じ時刻に毎日起床
5.光の利用でよい睡眠
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
7.昼寝をするなら、15時前の20?30分
8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のピクつき・むずむず感は要注意
10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全 (p13)

わたしも参考にした書籍睡眠障害の対応と治療ガイドラインの裏表紙に載せられていた「12の指針」が転載されています。ぜひ覚えておきたい内容です。引用元にはもう少し詳しい説明があります。

しかし、これらは健康な人に当てはまるものであることには注意が必要です。例えば、DSPSの人が早起きをすると悪化しかねません。睡眠障害を抱えてしまった場合は、10番目にあるとおり、専門家に相談するべきでしょう。生兵法は怪我の元です。

ワーク・スリープ・バランス

労働生活の質を向上させるには、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が大切であると言われます。

同じように、健康で安全に働くためには、「仕事も睡眠も良いものにする」という視点(ワーク・スリープ・バランス)が今後、大切になるでしょう。(p11)

今や睡眠を代償にしてきた日本社会の睡眠負債は破産寸前です。これからは、仕事と睡眠のバランスをとる健康な生活を、個人レベルで見直す必要があるでしょう。

現代社会に生きるわたしたちが、睡眠を犠牲にした経済の恩恵を受けていることは確かです。狭い視野で見れば、睡眠を削ってでもがんばりたい場面はあります

しかし、そのようなときは、宇宙から地球を見下ろす宇宙飛行士のような広い視点をもって、こう考えたいものです。本当に大切なのは単なる目先の利益だろうか、それとも未来の資本になる健康だろうか。

このエントリでは“不登校”寸前といえる日本社会の異常さに焦点を当てましたが、「宇宙医学に学ぶ快眠の秘訣」はその名の通り快眠のためのポイントを解説したパンフレットです。睡眠問題に悩む人にはぜひ一度読んでほしい内容です。