睡眠研究の専門家三島和夫先生へのインタビュー第二弾まとめ

ショナルジオグラフィック日本語版で連載されていた国立精神・神経センターの三島和夫先生へのインタビュー記事の第二弾がどうやら今日で終了したようなので、まとめておきたいと思います。

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第二弾は、社会の問題や、概日リズム睡眠障害について書かれています。第一弾に比べ、このブログの内容と非常に近いものを感じました。内容そのものは真新しいわけではないので、大切な点を箇条書きにしておきます。

現代社会は女性と子どもに睡眠不足を強いている

働く女性の睡眠時間が減っている: 日本の有職女性は、有職男性よりも睡眠時間が20分近く短い。調査した10カ国中最低であり、一番よく寝ているフランスの8時間38分に対して、7時間33分と1時間以上短い。

そして女性の方が睡眠時間が短いのは、日本だけである。女性に家事負担がかかっていて、夕食の時間などがずれ込んでいると考えられている。(第七回)

お父さんが家事や子育てをお母さんに丸投げ→お母さんの心身の負担が増す→敏感な子どもに破壊的な影響が及ぶ、という悪循環については、最近このブログで紹介した本愛情遮断症候群でも懸念されていました。

お母さんが子育てに疲れて愚痴のひと言も言いたいときや、相談したいと思っているときに、[お父さんが]「疲れてるから」とか「子育ては任せたんだから」というのでは、お母さん一人に子育ての負担がかかり、そのしわ寄せが結局は子供にいくという構図になってしまいます。(p217)

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子どもの睡眠時間は世界最低: 15歳時点で、日本の子が7時間25分とか7時間14分ほどしか眠っていないのに対して、オーストラリアの子は9時間15分から30分は眠っている。 (第九回)

睡眠不足の子どもは注意欠陥多動性障害(ADHD)に似る: 小学生は、自分の眠気をうまく表現できないので、むしろ情緒的な反応を示す。中高生になると、キレやすくなる。大人になってくると、感情面のほうが抑制がきいて、パフォーマンスの低下が問題になる。(第八回)
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睡眠不足の原因は社会にある: 明らかに睡眠不足なのに、真顔で過眠症の相談に来る家族がいた。そのくらい頑張って当たり前だと思っていて、睡眠不足という概念がない。「こんなことも、たしかにあるのだろうと妙に納得できてしまうのが、我々の社会だ」。 (第九回)
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現代社会が子どもの睡眠を削り続けた終着点が、究極の疲労状態である小児慢性疲労症候群(CCFS)だと考えられています。その点は、それは体罰の問題ではないー背後にある「壮大な人体実験」とは何かなどのエントリに書いています。
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◆第七回から第九回の要点

女性と子どもの睡眠の問題は、社会の問題。

そして、それは非常に根が深く、働く女性自身の生きづらさ、子育てのやりづらさ(それは、直接的に少子化にもつながりかねない)から、子どもの情動や学習面での問題にもつながっていくものであり、とても大きな問題でもある。 (第七回)

概日リズム睡眠障害について

宵っ張り=「夜型」ではない: 普通の人は、夜の仕事についても、昼間中心の生活に戻せと言われたら、すんなり戻ることができる。一方、本当の真の夜型の人は、必要が生じても、一般的な生活のスケジュールに睡眠習慣を矯正できない。

ピッツバーグ睡眠質問票はてなブックマーク - ピッツバーグ睡眠質問票でおおよその傾向は分かる。(第十回)

これはシフトワーカーと睡眠相後退症候群(DSPS)の違いを説明していると思われます。このブログでも同様の点を夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(3)原因と予防に書いています。

生体リズムは平均24時間10分: 25時間は間違い。1960年代は、人間の体内時計は非常に周囲の影響を受けにくいと思われていて、人工的な照明や食事の影響が考慮されていなかった。(第二回、第十一回)

遺伝的な長周期の影響: 体内時計が平均よりきわめて長い(24時間30分くらい)人は、眠くなる時間が毎日毎日遅れていくのを微調整するのが大変で、早寝早起きのほうにずらすことがほとんどできない。(第十一回)

この記述は、以下の研究で報告されている非同調型(非24時間型睡眠覚醒症候群:non-24、自由継続型)に関するものです。non-24はDSPSよりさらに遺伝的要素が強く、治療しにくいと言われています。

睡眠リズム異常の原因を解明- 新たな診断法の開発に期待 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センターはてなブックマーク - プレスリリース詳細 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

良い睡眠を取り戻すには: 必要な睡眠時間は年齢によって違い、また、同じ年齢でも個々人によって違う。特殊な薬(バソプレシンなど)を用いて高齢者に深い眠り(徐波睡眠・一番深いノンレム睡眠)を増やしても、眠った感じは得られなかった。深い眠りを取り過ぎるとうつ状態になる。断眠も惰眠もよくないのは確かだが、良い睡眠を取り戻す方法はほとんど分かっていない。(第十二回)

◆第十回から第十二回の要点

それが実は、わからないんです。それがわかったら、大騒ぎになるくらい。結局『いい睡眠』って何だっていう定義の話になるんですけども (第十二回)

DSPSやnon-24は代表的な概日リズム睡眠障害です。DSPSは、極端な「宵っ張りの朝寝坊」であり、non-24は生活リズムが毎日少しずつずれていきます。どちらも体内時計の遺伝的な長周期が関係しているようです。詳しくは以下をご覧ください。

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だれも聞きたくない

この一連の特集を読んで不思議に思ったのは、もう10年以上前から言われている内容が新しい常識として紹介されていることです。これは疲労の研究の現状と似ています。

インタビュアーの川端裕人さんが「国内での受容がまだまだなのは、ちょっと問題なのだが」と述べている通り、日本の社会の根性論や睡眠不足を美徳とする文化が根強く、睡眠不足という概念さえ乏しいことを物語っているのかもしれません。

睡眠不足についての警告が、人々の聞きたくない内容であることは否めません。「ショートスリーパーになれる!」という耳をくすぐる話は歓迎しても、「もっと睡眠を取りなさい」という不都合な話は、確証バイアスによりシャットアウトされている、ということでしょうか。

疲労の研究と同様、睡眠の研究も社会の注目度が低く、ようやく始まったばかりといえるのかもしれません。この特集は「本当に悩ましい」というひと言で締められています。