長期記憶(エピソード記憶)は、将来を計画するプランニング能力と関係しているという研究結果が報じられていました。
記憶の新たな力 「精神上のタイムトラベル」可能に – WSJ.com
将来のプランニングができない統合失調症の症状や、他の人の気持ちに感情移入できない自閉症の症状、そして「若者の計画能力や社交能力にも関係する」そうです。
不登校の子どもや慢性疲労症候群の人が社会生活のスキルに乏しくなってしまうこととも関係しているように思います。
記憶は計画やコミュニケーションの能力と関係している
英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)と米ハーバード大学の研究者チームは、過去のできごとを思い出す能力が、将来を計画したり、他の人とコミュニケーションしたりする能力と関係していることを明らかにしました。
ハーバード大学の心理学者ダニエル・シャクターによると、次のような研究結果があるそうです。
■ 5人の記憶喪失の患者は、想像する能力と将来の出来事を思い描く能力がいずれも悪化した。
■ 70歳代の人々に過去や将来について尋ねると、できごとの詳細を語らず、意見や反省が多かった。逆に若い人々は、誰がいたか、その場所はどんな様子だったかを話した。
■ 記憶が劣化した高齢者や、記憶の呼び戻しに問題があることで知られる統合失調症患者は、将来を想像することが難しい。
■ 脳イメージングによると、過去の経験を思い起こすのと、将来を想像するのとでは脳の同じ領域(海馬と内側前頭前皮質)が活性化する。
以上から、過去の記憶と、将来の想像は脳の同じ領域を使っていて、過去の記憶が損なわれると、将来について考えられなくなる、ということがわかります。
この研究には次のような意義があると書かれています。
この研究結果は、高齢者など記憶喪失に悩む人々だけでなく、若者の計画能力や社交能力にも関係する可能性がある。
…記憶はまた、誰か他の人が感じているかもしれないことを想像するのに一役買っている。これは「心の理論(他者の心理を行動から想像や理解する能力)」として知られるもので、未知の社会状況の中でどう行動するか決定するのに役立つ。
…社会的スキルに乏しいことが特色の一つである自閉症患者は、「エピソード的な記憶」に乏しく、他者の反応ないし感情を予期する能力にも乏しい傾向がある。
記憶術は闘病に役立つ
これらの研究に関わっている記憶とは、短期記憶(ワーキングメモリ)ではなく、長期記憶(エピソード記憶)だそうです。 (ワーキングメモリの訓練が疲労の軽減に役立つという研究もあります。)
このブログでは、ワーキングメモリではなく長期記憶に関連したテクニックを紹介してきました。それには、古来からの記憶術である場所法や、それを応用したマインドマップが含まれます。 簡便ながら、日記やブログを書くことも優れた記憶術です。
わたしは不登校になり、慢性疲労症候群を発症した当時、記憶がほとんど失われてしまったかのように感じました。将来について考え、プランニングすることもほとんどできなくなりました。
しかし、治療によって体調が改善し、記憶の補助としてマインドマップを使い始め、ブログを書くことで自分の経験を練り直すようになると、他の人とコミュニケーションする能力や、将来を計画する力も戻ってきました。
今回のニュースでは、自閉症や統合失調症の場合、長期記憶が損なわれるため、プランニング能力やコミュニケーション能力が失われると書かれています。
慢性疲労症候群(CFS)の場合も例外ではなく、慢性疲労症候群日記には、この病気の健忘症状は、ほとんど記憶喪失に近いレベルであると書かれていました。これにはわたしも同意します。
わたしが、闘病において記憶術の必要を感じたのは、意図していなかったとはいえ、必然的なものだったようです。記憶について学ぶことは、慢性疲労症候群の症状の一部である、プランニング能力やコミュニケーション能力の欠如に対処する有効な手段といえそうです。