「血中の自己抗体が脳内に侵入して神経伝達機能を低下させる-免疫系の異常が慢性疲労症候群を発症させるメカニズムの一端をPET検査で解明-」という研究が掲載されました。
これまでの研究で慢性疲労症候群の約50%の患者の血中に、mAChR自己抗体という自己抗体が見られることが分かっていましたが、その自己抗体が脳に侵入し神経伝達機能を低下させているメカニズムがPET(陽電子放射断層撮影)検査によって明らかにされたそうです。
血中の自己抗体が脳内に侵入して神経伝達機能を低下させる:報道発表資料|2012年 プレスリリース|理化学研究所
自己抗体が血液脳関門を突破している
CFS患者にはこれまで、数多くの異常の一部として、(1)血液中に自己抗体が見られる、(2)記憶力や思考力など、脳の認知機能が低下している というデータがありました。しかしこの二つは基本的には別個のものであり、関連性があるかどうかは不明でした。
(1)自己抗体
自己抗体とは、本来、異物を攻撃する免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織にまで過剰に反応して攻撃するためにつくられるものです。
慢性疲労症候群の患者の血液には、約50%の割合で、通常の血液検査では見つからない特殊なタンパク質、mAChR自己抗体が見つかっています。mAChRとはムスカリン性アセチルコリン受容体のことです。
しかし自己抗体が存在しても、これまでは“血液脳関門”と呼ばれる脳の入り口を通過しないと考えられていて、脳機能に影響があるかどうかは未知数でした。
(2)認知機能の低下
慢性疲労症候群(CFS)の患者では認知機能が低下していますが、その原因は、脳内のコリン作動性神経伝達経路にあると考えられていました。大人の慢性疲労症候群(CFS)でも子どもの慢性疲労症候群(CCFS)でもコリンの異常が報告されています。
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さくほど出てきたmAChRは、じつはそのコリン作動性神経伝達経路の一部です。アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、統合失調症などの脳機能障害にも関わっています。血液に見られたmAChR自己抗体は、もし脳に入るとすれば、mAChRを攻撃する可能性がありました。
それで、もしかすると、自己抗体が血液脳関門を突破して脳に侵入し、認知機能を低下させているのではないか、という仮説が立てられたようです。
はたしてどうだったのでしょうか
血中の抗体が脳内に侵入して受容体を攻撃
PETを用いた検査により、「ウイルスや細菌が感染すると、免疫系が破たんして自己抗体が出現したり、炎症反応で血液脳関門が機能しなくなったり」することがわかりました。その結果「血中の抗体が脳内に侵入して受容体を攻撃」していたのです。
つまりCFS患者の免疫の異常と脳機能の低下は関連していることになります。免疫系統の破綻により、本来存在しない自己抗体が出現し、脳に影響を及ぼしていたのです。
浜松ホトニクスの塚田秀夫PETセンター長は「解明したのは病態の一端だが、CFSの症状の一部である認知機能低下の治療法確立につながる」と述べています。
「全ての慢性疲労症候群患者で自己抗体を検出するわけではありません」とされていますが、CFSの一部は自己免疫性疲労症候群(AIFS)に当てはまるので、このようなメカニズムが関係しているのかもしれません。
この研究は多くの新聞・ニュースサイトで取り上げられました。用語の解説もある日経プレスリリースがおすすめです。
慢性疲労症候群の発症機構をPETで解明 – 医療介護CBニュース ? キャリアブレイン
理化学研究所など、免疫系異常による慢性疲労症候群発症メカニズムの一端をPETで解明|日経プレスリリース
慢性疲労症候群のメカニズム解明…浜松医大など : ニュース : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
「慢性疲労症候群」患者の半数で脳の神経伝達機能が低下 – 理研など | 開発・SE | マイナビニュース
浜松ホトニクス、浜松医大が研究に関わっていたことから、静岡新聞でも簡潔に報道されています。また理研の所在地として神戸新聞でも報道されました。
[開発情報] 免疫系異常による慢性疲労症候群発症メカニズムの一端をPETで解明 | 浜松ホトニクス | JPubb
原因不明の慢性疲労、病態の一端解明 浜ホトなど | 静岡新聞(リンク切れ)