慢性疲労症候群のこれからー「メディカル朝日」2012年11月号

はてなブックマーク - 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班 | 疲労に関する情報ディカル朝日2012年11月号、「慢性疲労症候群の新しい診断基準 国内外の現状と課題 日常臨床でどう対処する」という4ページにわたる特集が組まれました。大阪市立大学医学部 疲労クリニカルセンター客員教授の倉恒弘彦先生が執筆しておられます。

内容を要約すると、以下の三点にまとめられます。

◆なぜ新しい診断基準が待ち望まれていたか
◆どんな検査によって、CFSを診断できるか
◆筋痛性脳脊髄炎(ME)に病名変更することはあるか

CFS研究班の説明に載せられている文章とほぼ同じですが、簡潔にまとめておきたいと思います。

なぜ新しい診断基準が待ち望まれていたか

序文にはこうあります。

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Stndrome;CFS)とは、健康に生活していた人が感染症に罹患したことなどをきっかけに激しい全身倦怠感に襲われ、その後疲労とともに微熱、頭痛、筋肉痛、脱力、思考力障害、抑うつ等の症状が長期に続くため、健全な日常生活が送れなくなる疾患である。

ただ世界中で用いられている診断基準は患者の臨床症状を基にした操作的診断法と除外診断の組み合わせで客観性に乏しいため、CFSに懐疑的な意見も出ていた。

しかし、最近の研究で疲労を客観的に評価できるマーカーも明らかになり、2012年3月に筆者が研究代表者を務める厚生労働省研究班が、客観的な疲労評価法を用いた新たなCFS臨床診断基準を発表した。(p41)

これまでの診断基準で問題となっていたのは以下のような点です。

◆症状による診断
一般の検査で異常がでないため、内科医から精神疾患とみなされてしまう

◆精神神経疾患との区別があいまい
精神科医からすると、身体表現性障害や適応障害で説明できるように思える

◆疲労の程度を客観的に捉えていない。
本当に病気が存在するのかどうか、周囲に明らかでない

どんな検査によってCFSを診断できるか

これに対し、新たなCFS診断基準は、「CFS臨床診断基準」「補助的検査レベル評価」の2つからなります。

「CFS臨床診断基準」は世界で使われている臨床診断基準とほぼ一致させてあり、一般の医療機関でも診断できるように、検査項目や手順を分かりやすく記しています。

「補助的検査レベル評価」は客観的な5つの疲労診断検査により、CFSの症状を数値化し、0-4の5段階のレベルによって程度を測ることができます。

この客観的な検査は以下のようなデータがもとになっています。

CFSの患者は…

◆日中の活動量が低下して横になっている時間が長い
睡眠効率が低下して、中途覚醒が増えている
副交感神経の活動が低下して、相対的に交感神経の緊張が高まっている
記銘力や思考力が低下していて、単純な計算に対する反応が遅くなり、回答時間にばらつきがある
酸化ストレス(d-ROM)が増加し、抗酸化力(BAP)が低下している

詳しくは以下のエントリをご覧ください。

検査でわかるようになる? 研究でわかった慢性疲労症候群(CFS)の10の異常
平成23年度の最新の慢性疲労症候群(CFS)の研究について紹介するエントリです。CFSは、これまで検査では異常が出ないとされていましたが、客観的な10の検査法が確立されつつあります

さらに、今回の新しい診断基準には反映されていないものの、CFSの患者に見つかった異常についてこう書かれています。

CFSでは易疲労性が特徴の一つであるが、CFS患者20例、健常人20例の血漿を対象にCREST研究と共同でメタボローム解析を実施したところ(片岡洋祐:理化学研究所)、CFS患者ではTCAサイクルにおけるクエン酸からイソクエン酸へのエネルギー代謝に異常があることが判明した。(p42)

CFSでも疲労症状を表す重症度(PS値)が進んでいる患者の場合は、脳の萎縮や炎症が確認されており、通常の治療に対する予後も悪いことが分かってきている。(p43)

詳しくはCFS研究班のページ5. 特殊検査によるCFS診断についての検討をご覧ください。

筋痛性脳脊髄炎(ME)に病名変更することはあるか

近年、NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)の皆さんによって、病名変更のための活動が行われています。ネット上の反応を見てみると、すべての患者がそれを希望しているわけではないようです。

公平を期すために記しておきますが、NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)の皆さんは、必ずしもMEという病名にこだわっておられるわけではないようです。慢性疲労症候群(CFS)に代わる別のふさわしい病名への変更を求めて活動しておられます。

わたし自身は閲覧される方へ―このブログのポリシーに書いているように、かねてからこの問題については中立の立場でいます。病名の変更はある程度必要だと思いますが、病名を変更したからといって、誤解や偏見がなくなるわけではないと考えているからです。

この問題についての倉恒先生のコメントは、CFS研究班のページ7 筋痛性脳脊髄炎(myalgic encephalomyelitis: ME)とまったく同じ文章です。よって関連箇所をごく簡単に抜き出すにとどめます。

[慢性疲労症候群(CFS)は]現在は原因不明の慢性疲労として一つの症候群にまとめられているが、今後は個々の病態により個別に対応する必要があるかもしれない。

…なお、抑うつ症状などがなく、MEとしての客観的な診断根拠がみつかった患者についてはCFSという病名から卒業してもらうことに問題はない。今後、少しでも早く保険診療の中で病因に基づいた診断根拠を明らかにして、病名を変更していくことが望まれる。(p44)

この記述を読む限り、慢性疲労症候群(CFS)という病名をすぐに変えることはないものの、症状ごとに、よりふさわしい病名を与えて区別したいと考えておられるようです。

書籍「画像でわかる脳脊髄液減少症」の書評に書いたように、CFSと同じような症状をもつ脳脊髄液減少症の分野で、これと似た状況がすでに生じています。

画像診断で区別できる患者だけが、“脳脊髄液漏出症”という病名に変更され、先進医療の適用も受けられるようになったことから、取り残された患者に波紋が広がっているようです。

この変化は、良い意味にも悪い意味にもとれるのですが、慢性疲労症候群(CFS)の一部の患者の病名を変更することが決まったなら、似たような困惑が生じる可能性があります。

このブログでは、病名変更がされるかどうかにかかわりなく、わたしたち一人ひとりがすぐに取り組める病気への対処法を、これからも探していきたいと思います。