ビル・ゲイツなど先見の明がある少数の思考家は「情報の時代」が終わったことを認識している。情報自体は「万能薬」や解決策ではなく、混乱とストレスを招く情報の津波を引き起こしたことを知っているからだ。
今私たちが生きているのは「情報の時代」から生まれた「知性の時代」である。(p11)
今年3月、Googleリーダーが消滅するというニュースが全世界を駆け巡りました。ある人たちにとっては寝耳に水でしたが、時代の意味を認識している人たちにとっては、予想していたできごとだったそうです。
今やRSSによって個人が情報収集するストレスの多い時代は終わりつつあります。その代わりに勢いを増しているのが、必要な情報を選別して届けてくれるキュレーションサービスです。
これからの時代、いえ今まさにこの時代に求められるのは、情報の収集ではなく、創造性である。そんな現実を垣間見させてくれるのが、ザ・マインドマップR [ビジネス編]です。
これはどんな本?
ザ・マインドマップのトニー・ブザンといえば、同じ情報をいろいろと異なる味付けで提供すると皮肉られていますが、本書も確かにその一冊です。しかし、マインドマップの使いどころがとても幅広く提案されていて、これまでの類書とは「一味違った」本でもあります。
本書の特徴は
(1)全ページフルカラー
(2)手書きのマインドマップだけではなく、iMindMapの活用方法も解説
(3)マインドマップを仕事に使った、国内外の豊富な事例集
ということができるでしょう。
本書にはマインドマップ計画術、マインドマップ交渉術、マインドマップ・プレゼン術、マインドマップ営業術などと名づけられた章があり、興味をそそられるストーリーが紹介されています。またマインドマップを目標管理や創造的思考に役立てるテンプレートもたくさんあります。
わたしたちはどこにいるのか
なぜ今マインドマップが必要なのでしょうか。それを理解するには、冒頭で触れたように、わたしたちが歴史上どの時代にいるのか、ということを認識しなければなりません。
マインドマップはその名のとおりわたしたちの「場所」の感覚を研ぎ澄ますツールですが、もし現代は「情報」の、あるいは「テクノロジー」の時代だと思っている人がいるなら、自分の居場所を感じる感覚が鈍っているのかもしれません。本書には次のような表があります。
1750年まで:農業の時代(10000年)
1950年まで:工業の時代(200年)
2000年まで:情報と知識の時代(50年)
今:知性の時代・脳の世紀
わたしたちは情報の時代にいるのではありません。
論文を集めたサイトと、ライフハック系のブログとでは、どちらがより読まれているでしょうか。当然後者です。情報だけであれば、論文のほうが詳しいはずですが、多くの人は情報の質より、実用性や読みやすさを求めています。
工業においても、開発者がこれでもか、と機能を詰め込んだ製品は売れなくなっています。むしろ、今はスマートフォンに代表されるように、ユーザーがアプリやコンテンツを創りだし、自分だけのアイテムを持ち歩く時代です。
興味深いことに、上記の表の「情報の時代」は、日本で不登校が問題になった時期と一致しています。不登校に関する医学的な研究によると、不登校の原因はストレスをもたらす情報の洪水によって、創造的な子どもが疲弊し、睡眠が削られることにありました。
その理解が正しいのであれば、日本の子どもの慢性疲労症候群は、「情報の時代」の被害者であり、ここ5,60年ほどに発生した時代の病であるのかもしれません。
その対策として、日本でも「脳科学と教育」プロジェクトが研究されましたが、もし社会が「情報の時代」を引きずらず、「脳の時代」「知性の時代」にシフトできれば、この種の不登校は減っていくかもしれません。
ビル・ゲイツは時代の流れについてこう述べました。
今、ほとんどの人が「情報民主主義」の中で生きている。…ただ、情報の利用法を最適化するという点では大きく進歩したものの、知識の利用についてはまだこれからだ。
…アイディアやデータを結びつけてまとめ上げるには、「マインドマップ」作成ソフトもデジタル版の白紙として使える。
そして最終的には新しい知識を生み出し…そのすべての情報の価値を掘り出して評価するためのメンタル・モデルを作り出す。
―ビル・ゲイツ (p10)
わたしたちが個人として、「情報の時代」を抜け出し、「知性の時代」に足を踏み入れる手段のひとつがマインドマップなのです。
マインドマップをどこで使うか
前述したようにマインドマップは場所の感覚を研ぎ澄ますツールです。マインドマップを使い始めれば、次第に、マインドマップをどこで使うかは見えてくるものです。本書には豊富なヒントが書かれています。
ここに引用するのは文章だけですが、この本には、それぞれの事例で作られた実際のマインドマップが、フルカラーで掲載されています。
デジタルで使う
トニーとは長年の知り合いで、妻は早いうちからマインドマップをかいていたのだが、私は最近まで使わなかった。美しくかけないので一度諦めたからだ。
…しかし、最近はソフトウェアを使えば、線や絵をかわりにかいてくれる。マインドマップのよさがわかった今は、すぐに諦めずにもっと早くから仕事に生かせばよかったとつくづく思う。
―ニッキー・オッペンハイマー デビアス会長 (p9)
第三章「パソコンでかくマインドマップ」以降では、クリス・グリフィスが実現した本物のマインドマップソフト「iMindMap」の使い方と18のメリットが紹介されています。この本の作例の半分以上はiMindMap製です。
ThinkBuzan – Official Mind Mapping software by Tony Buzan
わたしは割りと絵をかくほうですが、それでもマインドマップを始めるときは、手書きには躊躇して、iMindMapから始めました。iMindMapの性能はめざましく進化しているので、手書きではなくデジタルから始めても、十分マインドマップに親しめます。
プレゼンで使う
ニュージーランド国防軍(NZDF)は世界の紛争地域に派遣され、平和維持活動に従事している。
…しかし、このやり方には1つ問題があった。それは、検査官全員が確実に、一貫した状況説明のプレゼンテーションを行うことだった。
検査官は慣れない環境の中で視覚教材を使わずに、緊迫した状況下で、野外で小部隊に対して説明しなければならないことが多い。
そこで、検査官を補助するために、…マインドマップが作成された。 (p132)
わたしは学生時代、ディベートが大好きでしたが、病気になってからワーキングメモリが衰退し、ちょっとした会話でも筋道立てて話すことができなくなりました。しばらく、人前で話すことがおっくうになり、話す内容のメモを携帯していても話せないというありさまでした。
しかし病気が改善してくるとともに、再び人前で話す機会も増え、スピーチをする機会もありました。その際に重宝したのがマインドマップによる筋書きです。
本書でも、マインドマップの筋書きを使うなら、たった1枚の紙で、動きまわったり、自由な身振りを交えたりして生き生きと話せると書かれています。マインドマップのほうが、書き言葉の原稿を読むより、脳にとって自然だからです。
わたしは今でも、原稿を読むように言われたら、人前で話すのは難しいかもしれません。しかしマインドマップなら別です。マインドマップはわたしが社会に復帰する上で、これからも重要な役割を果たしてくれると思います。
交渉で使う
いよいよ私も職人として、そして店を継ぐものとして一人前にならないと行けない時期が来ていました。
…しかし父の話はいつもと変わらず私にとっては抽象的すぎたり、質問に答えてくれなかったり、話が飛躍したりと理解が出来るものではありませんでした。
いつもならここで理解できないことへのいらだちや不安が出てくるのですが、マインドマップをかいていることで、聞くことに集中することが出来ました。
…そして2時間が過ぎる頃、急に私の目の前につながりが見えだしたのです。2時間前に話していたことと、全く関係がないと私が思っている今の話がマップの中で見事につながっているではないですか。
―祇園ない藤 五代目 内藤誠治 (p120)
マインドマップを交渉やコミュニケーションに使うと、相手と気持ちを通わせることができます。
わたしはいつもだれかの講義を聞くとき、マインドマップでノートをとるようにしていますが、相手の話がどれほどわかりにくくても集中することができます。
そして内容のない話であっても、マインドマップを取りながら考えるので、自分でさらに解釈を加えて、何かしら学ぶところが得られます。マインドマップは単なるノートのような書き写すだけのメモではなく、思考の過程を写しとるノート術だからです。
また、だれかと話し合うときに一緒にマインドマップをかくことができれば、合意に至りやすくなります。マインドマップは共同作業であり、一般のブレイン・ストーミングのようにだれか一人の意見が重視されることもないからです。
わたしは家族と今後の計画を立てるときにマインドマップを一緒にかきました。旅行の計画を立てるときに友だちとかいたこともあります。
プロジェクト管理
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロによって、ニューヨークのワールド・トレード・センター(WTC)のツイン・タワーが崩壊したときに、そこに設置されていたマンハッタン南端部用の変電所も破壊された。
コン・エジソン(ニューヨークの大手電力会社)は…当時のマインドマップソフト…を使って行動計画を策定し、この大惨事によって生じた膨大な量のデータと書類を管理した。
…マインドマップのブランチは数百ページに及ぶデータが含まれる集計表とドキュメント・ファイルにハイパーリンクされている。このマインドマップが詳細情報をすぐに見つけ、環境、健康、安全面の対応全体を管理するためのロードマップとなった。 (p159)
本書にはコン・エジソン社の巨大な目次マインドマップや米ボーイング社の長さ7.62メートルのマインドマップが載せられています。どちらも圧巻ですが、複雑で量の多い情報を管理するのに、マインドマップが役立つことがわかります。
わたしはたいてい本を読むと、このエントリにも載せているようなマインドマップ(ふだんは手書き)を作っています。本から学んだことをすべてかくのではなく、主要なトピックとページ数を書いて、本全体の個人的な目次として参照しています。
また、プロフィールページのに載せているような、目標のマインドマップをかいて、自己管理に役立てることもあります。大量の情報や人事、目標といった管理しにくいものを扱うとき、マインドマップで整理すると把握しやすくなります。
マインドマップはどこでも使える
この本には、マインドマップを個人で仕事で使うためのさまざまなヒントが書かれています。結局のところ、どこでも使える、というのが正しいので、マインドマップを使いこなしている人にとっては、当たり前のようなことを書いている本かもしれません。
しかし、やることリスト、電話メモ、電子メールの整理、ストレス解消、SMARTによる目標管理、ワーク・ライフ・バランスによる自己管理など、さまざまな場面で使うためのテンプレートや実例が豊富に掲載されているので参考になります。手書きとデジタルの完成度の高い作例を見るだけでも楽しい本です。
マインドマップは確かに今の時代にこそ役立つツールだといえます。ザ・マインドマップR [ビジネス編]の著者のトニー・ブザンとクリス・グリフィスはこう述べています。
この時代に、仕事のやり方と経営手法を改善して成果を上げるには、莫大な量の情報を意味あるものに変える、つまり知性を働かせて情報を処理する必要がある。
…そして、マインドマップはそのためのツールになる。 (p12)