CFSと似ている外見では分からない難病 多発性硬化症(MS)

発性硬化症(MS)の片渕典子さんが、闘病生活について語っておられる記事が掲載されました。多発性硬化症(MS)はおもに海外で、慢性疲労症候群(CFS)と比較されることの多い病気です。

難病カルテ:患者たちのいま/65 多発性硬化症(MS) /佐賀- 毎日jp(毎日新聞)

日本ではあまりCFSと比較されないので、このブログでは、特にMSについて書いていません。今後も取り上げる予定はありませんが、ニュースはずっと追ってきたので、一度簡単にまとめておきたいと思います。

外見では症状が分からない

今回のニュースでは、患者の片渕典子さんがご自身の経験を話しておられます。

最初にあらわれた症状は、歩くだけでくらくらするよろめくようなめまいで、車を運転できず、仕事にも通えなくなり、入院することになったそうです。その後、1年に1回の頻度で再発と寛解を繰り返し、痛み、しびれ、むくみの症状が左足に出やすいといいます。

「またあの人、入院しているの」、「手術も治療もしないで、あなたはどこが悪いの」、「あなたはいいよね、仕事をしなくていいんだから」と周りに言われて、『病気を説明しても外見では症状が分からないことから、「どうせ伝わらない」と話すのをちゅうちょしてしまう』と書いておられたのが印象的でした。

多発性硬化症(MS)とは

多発性硬化症は、視神経や脊髄の神経線維を覆うカバーであるミエリンが炎症で壊れ、電気信号がもれることで生じる病気で、自己免疫疾患の一種ではないかと考えられています。日本では難病指定されており、20代から30代の若い人によく発症します。

症状

症状はいろいろあります。

たとえば、極度の疲労感や、患者によって症状や程度が違うこと、目に見えない症状も多いことから、説明が難しかったり、周囲の誤解を招いたりすることが多いそうです。この点はニュース記事にも書かれていたとおりで、慢性疲労症候群(CFS)と似ています。

しかし、中枢神経系が侵される部位によって、さらに運動障害・視力障害・感覚障害などの症状が出現することがあります。

特にアジアでは視力障害が生じることが多いそうです。わたしは一度だけMSの方と話したことがあるのですが、その方も視力障害がありました。 このような特徴のため、日本ではあまり慢性疲労症候群(CFS)と比較されないのかもしれません。

脳と疲労 ―慢性疲労とそのメカニズムのp4には、海外では多発性硬化症が日本より多いので、多発性硬化症と全身倦怠感の研究、そして癌と抗癌剤による全身倦怠感の研究が盛んであると書かれています。

原因

遺伝や自己免疫、ウイルス、環境などが複合していると言われています。最近のニュースでは、特に環境に焦点を当てているものが目立ちました。

10代の夜勤で多発性硬化症リスク増大、スウェーデン研究 国際ニュース : AFPBB News

研究チームが驚いているのは、MSの発症と何らかの関連性があると見られるのが「20歳未満での夜勤」だけだったことだ。研究を率いたAnna Hedstroem氏によると、「若い時の肥満のみがMSリスクを増大させ、大人になってからの肥満は影響しない」ことを示した研究もあるという。

難病の多発性硬化症が増加、背景に“都会化” | あなたの健康百科 by メディカルトリビューン

その背景に都会化による環境要因が関係している可能性がある 。

…特に都市部に住む女性と若年期に地方から都市部に移住した女性が影響を受けていた。



長期の孤立状態で脳に変化が | MediEigo(メディエイゴ)|Weekly Topic

長期間孤立させて「うつ状態」にしたマウスでは,情動行動や認知行動に関与する脳の領域でのミエリンの産生が低下することが分かった。

治療

治療についてはいくつか選択肢があるようですが、最近ニュースになったのは、2011年に、国内初の経口多発性硬化症治療薬として承認されたイムセラ/ジレニアです。「多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制」に効果があるそうです。

初の経口多発性硬化症治療薬の承認を了承|医療介護CBニュース – キャリアブレイン

また、形になるのはまだまだ先でしょうが、傷ついた神経を回復させる根本的な治療法の開発も進んでいるようです。

阪大など、「多発性硬化症」で傷ついた神経が自然再生する仕組みを解明 | 開発・SE | マイナビニュース

血管には神経の再生力を高める働きがあり、そのメカニズムを増強することで症状の改善が早まる



iPS細胞から完全な神経 慶応大、試験管で培養 :日本経済新聞

iPS細胞を試験管の中で完全な神経に育てる実験に成功した。体の外で作った神経としては極めて複雑な構造をしており、体内にある本物の神経網に近づいた。試験管で神経を培養できる利点は大きい。神経が壊れる難病の仕組みを間近で解明し、画期的な新薬の開発が進む。



糖尿病治療薬が多発性硬化症の神経細胞死を遅らせる – QLifePro医療ニュース

糖尿病治療薬に承認されているグリベンクラミドで、神経細胞死を遅らせることに成功した。

慢性疲労症候群(CFS)との関係

慢性疲労症候群(CFS)の診断基準では、多発性硬化症(MS)は、除外すべき病気として挙げられています。MRI脳脊髄液の検査によって判断できるようです。

1997年には、Vercoulenらが両者を比較調査しています。慢性疲労症候群(CFS)と多発性硬化症(MS)はともに強い疲労感を特徴としていて、健康な人より活動量が明らかに低下しています。しかしCFSのほうが疲労感と活動量の低下との関係が大きかったそうです。

書籍疲れる理由―現代人のための処方せんによると、MS患者の94%とうつ病患者の82%が仕事を行えていたのに対し、CFS患者は45%しか働けていませんでした。(p90)

また52人の慢性疲労症候群(CFS)患者の脳を検査したところ、うち9人に小さな異常があり、少なくとも2人は多発性硬化症(MS)と診断されました。(p51)。

ほかに、わたしが最近読んだ中では、両者ともHHV-6というヒトヘルペスウイルスが関与している可能性があったり、脳の血流低下があったりするという点が書かれていました。

脳脊髄液減少症や化学物質過敏症ほど慢性疲労症候群(CFS)と酷似しているわけではなく、比較的除外診断もしやすいため、このブログではあまり扱いませんが、類似疾患のひとつとして念頭に置いておく必要がありそうです。