このブログで紹介してきた数百冊の本の中で、特におすすめする本、お気に入りの本をリストアップしました。あくまで個人的な基準によるものですが、参考になれば幸いです。
おすすめする本
原因不明の身体症状に悩んでいる人は、特定の病名についての本を読むだけでなく、以下の数冊を読むと、いずれも分厚い本ながら、より広い観点から自分の体に何が起こっているのか理解が深まるのでおすすめです。
■脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線
脳は大人になっても変化しつづける可塑性をもっており、その可塑性を刺激する治療によって、これまで治らないとされてきた様々な疾患にアプローチできる事例を集めた本。内容は少し難しめです。
薬や手術で無理やりからだを変えるのではなく、視覚や聴覚、触覚を通して脳に刺激を送るボトムアップの方法が研究されています。
扱われている病気は、慢性疼痛、自己免疫疾患、交通事故後の外傷性脳損傷、パーキンソン病などの神経疾患、発達障害など多岐にわたります。
同著者の以前の本脳は奇跡を起こす も、解離と記憶についての章があるなどおすすめです。
■小児期トラウマがもたらす病 ACEの実態と対策 (フェニックスシリーズ)
子ども時代の逆境的体験が、成人後の自己免疫疾患や慢性疲労症候群、線維筋痛症などの難病の罹患リスクを上げるメカニズムについて様々な研究をまとめた本。
このブログの話題をほとんど網羅しており、一般読者にも読みやすい書き方なので、とてもおすすめできます。
■身体が「ノー」と言うとき―抑圧された感情の代価
慢性疲労、慢性疼痛、自己免疫疾患など、さまざまなからだの病気を抱える人たちが、自分でも意識していない思い込みや信念のゆえに感情を抑圧する解離傾向を持っており、口でノーと言えないがために身体がノーと言っているという心身の免疫の相関(精神神経免疫学)について研究した本。
この本で書かれている内容を科学的に裏づけたのが上の 小児期トラウマがもたらす病 ACEの実態と対策 (フェニックスシリーズ) です。どちらかというとそちらをお勧めしますが、この本にも思いやりある文体によるこの本なりの魅力があります。
■身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法
トラウマ研究の最初期からの第一人者であり、複雑性PTSDや発達性トラウマ障害を見いだしたヴァン・デア・コークによる最新の研究がこれでもかと詰め込まれた一冊。より専門的な内容を知りたいときにおすすめです。
非常に生々しい内容ながら、知識のない人でも読み進めやすい自然な文体で、こころとからだのつながりのメカニズムや治療法を、豊富な科学的研究と実例を通して丁寧かつ情熱的に解説しています。
前述の本の著者ノーマン・ドイジや後述する本の著者ピーター・ラヴィーンも推薦文を寄せています。また上記の本身体が「ノー」と言うとき が、参考図書として挙げられています。さらに、上記の小児期トラウマがもたらす病 ACEの実態と対策 (フェニックスシリーズ) の中でこの本が引用されています。
■失われてゆく、我々の内なる細菌
感染症の撲滅と逆相関して現代社会で増加しているさまざまな病気、たとえばアレルギー、自己免疫疾患、自閉症、慢性疲労症候群、メタボリック・シンドロームなどの背後に、抗生物質や化学物質の過度な使用に伴う、人体と共生する微生物(マイクロバイオーム)の生態系の崩壊が関わっていることを例証する本。
■NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方
わたしたちがごく当たり前に暮らしている都市での生活が、いかに心身に負担をかけているか、脳科学の研究を通して明らかにしている本。どんな人にも当てはまる内容ですが、とりわけ、HSPやADHD、ASDのような感覚過敏を抱えている人にはおすすめです。
ADHDの子どもや、重いうつ病の患者たち、PTSDの退役軍人たちにとって、自然との触れ合いがどう助けになるかも、具体的に書かれていて、すぐにでもアドバイスを実践したいと思える良書です。
■ファスト&スロー
行動経済学者ダニエル・カーネマンによる認知バイアスについての本。おすすめするというより、ものを考える人はまずこれを読んでおかないと、次のステップに進むことさえできません。
お気に入りの本
万人にお勧めするわけではないものの、わたしが何百冊も本を読む中で、強く影響を受けたお気に入りの本はこちら。
■学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)
不登校を科学的、医学的に観察・研究し、不登校とは単なるこころの問題ではなく、小児慢性疲労症候群(CCFS)と呼ぶべき深刻な生体リズム障害である、という事実を多角的な証拠とともに情熱的に考察した本。
著者の他の本は医学的な視点に終始しているものが多いですが、この本は医学の枠組みを越えた考察や人間味あふれる感情移入が光ります。
■ひといちばい敏感な子
発達障害とはまた異なるHSP(ひといちばい敏感な子)という先天的な性質に注目し、HSPの子どもの特徴や育て方などを、研究成果と実例を通して具体的に解説した本。
著者の他の本もHSPの本としてたいへんおすすめですが、一番読みやすくまとまっているのはこの本だと思います。近年、明らかになってきた科学的根拠について、巻末に追記されているのも参考になる部分です。
■左足をとりもどすまで (サックス・コレクション)
わたしのお気に入りの作家であるオリヴァー・サックスはすばらしい本をたくさん書いていますが、とりわけこの本は、医療に関わる人や、理解されない症状を抱えている当事者双方に是が非でも読んでほしい一冊です。
洞察力の鋭い医師であるサックスが、理解されない症状の当事者となったことで、医師と患者両方の視点がなければ、医学も科学も決して成り立たないのだ、と気づいた いきさつが書かれています。
■ぼくが消えないうちに (ポプラせかいの文学)
子どもにしか見えない不思議な空想の友だちという現実に存在する現象をもとにつむがれる夢の現実のはざまの児童文学。心理学で実証されている知識を土台に、感受性豊かな子どもの視点を忠実に再現している、事実に根ざした良質のファンタジー。
■私の中のすべての色たち: 解離について最初に出会う本
「解離」という一見難しそうに思える概念を、わかりやすい言葉と絵にまとめた絵本。
解離についてネットで検索すると、医学の専門家による特殊な例の解説ばかり出てきます。しかし、実際の臨床では、そうした極端な例は少なく、診断のほとんどが、特定不能の解離性障害(DDNOS)になると言われています。この絵本は、もっと多彩で変化に富む解離の兆候を学ぶ助けになります。
セラピスト向けの絵本であり、一般の読者には説明不足なところがあるので、このブログの解説記事とともに読んでいただければと思います。
■身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア
人の感情を麻痺させ、エネルギーの枯渇に追い込む解離とはいったい何なのか、生物学と神経生理学の観点から分析した本。内容は難しめで予備知識が必要。すでに挙げたおすすめ本の著者であるヴァン・デア・コークとガボール・マテが序文を寄せています。
初めて読む人は、前著心と身体をつなぐトラウマ・セラピー か、続編であるトラウマと記憶: 脳・身体に刻まれた過去からの回復ののほうが翻訳がすっきりして読みやすいのでおすすめ。しかしこの本がそれら三冊の中で一番内容が濃く、理解できれば面白いと思います。