オックスフォード大学睡眠概日神経科学研究所のポール・ケリー名誉臨床研究フェローが科学フェスティバルで、若者の早起きの問題について述べたことがニュースになっていました。
要約すると、10歳から55歳の大半の人の体内時計は早起きに不適切なので、学校や職場の始業時間を遅らせるべき、というものだそうです。
9時始業は「拷問のようなもの」 英睡眠専門家の提言が話題 (J-CASTニュース) – Yahoo!ニュース
「早起き」すると寿命が縮む? オックスフォード大学の研究で判明 – ライブドアニュース
午前10時前の就業開始は拷問に等しく、従業員を病気にする(英研究) : カラパイア
朝早い授業は睡眠不足を引き起こすだけ。米医師会が中高生の始業時間を8時半以降に設定するように勧告 : カラパイア
学校も会社も朝は10時から!? 早すぎると心身に悪影響の可能性 | Bi-Daily Sun New York
Sleep Expert Paul Kelly Says Work And School Days Should Start At 10 A.M. : LIFE : Tech Times
Work shouldn’t start until 10am and school even later, says sleep expert ? ScienceAlert
Starting work before 10 a.m. is tantamount to torture and is making staff sick and stressed: researcher | National Post
睡眠を奪うことは拷問
記事によると、ポール・ケリー博士はこう述べたそうです。
目覚まし時計をセットするのは、起きて仕事に行く時間に自然に目覚めないから。
大きな意味では、刑務所や病院にも当てはまる。こういった場所では、人々(受刑者や入院患者)を起こして食べたくもない食事をさせる。まだ目が覚めていないので従順に従うだろうが、睡眠を奪うことは拷問だ。
現代の「睡眠を奪われた社会」が、注意力や記憶力などのさまざまな問題を生じさせていて、特に若者たちに悪影響を及ぼしている、とされています。
実際に始業時間を10時にまで遅くした学校では、全国統一試験(GCSE)で高得点を取った生徒の割合が34%から50%に上昇したとのこと。今後大規模調査も行われ、2018年に結果を発表するそうです。
ケリーは、「これは大きな社会的問題である」として、アルツハイマー病などの睡眠不足が関係するとされる重篤な疾患を含む、体や心への有害な影響に警鐘を鳴らし、10時の始業を推奨しています。
“This is a huge society issue. Staff should start at 10 a.m. You don’t get back to [the 9 a.m.] starting point until [age] 55,”
Kelly said.
“‘Staff are usually sleep deprived. We’ve got a sleep-deprived society. It is hugely damaging on the body’s systems because you are affecting physical emotional and performance systems in the body.”
それぞれの概日リズムに適した社会を
この話題については、このブログでも、以前から繰り返し取り上げてきました。
学校の始業時間を遅くすべきである、というのは、時間生物学の権威ラッセル・フォスターをはじめ、さまざまな専門家が主張しているところです。
「早寝早起きが健康にいい」はウソ! 睡眠のプロが語った、眠りにまつわる4つの迷信 – ログミー
一部の専門家だけでなく、米国胸部学会(ATS)や米国小児科学会といった学会も、すでに、「思春期は人生で最も体内時計が夜型化する年代なので、学校の始業時間を送らせるように」という声明を発表しています。
思春期は、概日リズムが自然に夜型化するため、10代の若者に早起きを強制することは、さまざまな健康問題を引き起こすきっかけになりかねず、子ども慢性疲労症候群(CCFS)などの原因ともされています。
実際には、個々の人の概日リズムにはバラつきがあるので、早寝早起きの学校生活にすんなり適応できる人もいれば、苦労しながらなんとかやっていける人もいます。
しかし一部にはどうしても適応できない子どももおり、無理やり早起きさせることで慢性的な睡眠不足が生じ、学力低下や、大きな健康問題につながることがあります。
睡眠不足でIQテストの成績が低下
最近の別のニュースでは、睡眠不足でIQが下がるという報告もありました。
徹夜するとIQが1下がる? 4時間睡眠で平気なのは全人口の1~2%か – ライブドアニュース
この点は不登校外来―眠育から不登校病態を理解するの中でも、概日リズム睡眠障害のため不登校状態になった子どもは、IQテストの結果、発達障害と診断されるような状態になるものの、睡眠障害が回復するとIQも元に戻るという所見が書かれていました。
早起きして睡眠不足になることが作業能率を低下させることについては、最初のケリー博士のニュースにもこう書かれています。
博士らの研究の正しさは、ビジネスエリートたちも証明している。
世界最大のIT企業、グーグルはとりわけ社員の能力と睡眠の関係性を重要視している企業の一つだ。フレックスタイムを導入しているグーグルは、社員が自由に出社時間と退社時間を決められるようにしている。
そのため、午前中のオフィスは人もまばらで、昼過ぎになってようやく社員たちが姿を見せ始めるという。
睡眠不足で免疫が弱くなり風邪のリスクが4.5倍に
また、睡眠不足になると風邪にかかりやすくなる、つまり免疫力が低下するという米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアリック・プレイザーらの研究のニユースもありました。
一週間5時間睡眠が続くと、7時間を越える睡眠を取っていた人に比べて、風邪のかかりやすさは4.5倍にもなるそうです。
睡眠不足の人ほど風邪にかかりやすい、米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
「被験者の年齢、ストレスレベル、人種、教育、所得などとの関係性は認められなかった。喫煙者かどうかも関係なかった。これらの因子すべてを考慮しても、やはり睡眠が最も統計的に重要だった」
最初のケリー博士のニュースでも、早起きと病気のなりやすさの関係について、こう書かれていました。
わたしのいるオックスフォード大学だけでなく、米国のハーバード大学やネバダ大学などの研究機関で、早起きが病気のリスクを高めることに関する実証研究がすすめられています。
現時点でもすでにメタボリック・シンドロームや糖尿病、高血圧、より重篤な病気であれば、心筋梗塞や脳卒中、心不全などの循環器疾患やHPA(視床下部-脳下垂体-副腎皮質)機能不全によるうつ病などが判明しています
現代の24時間社会、そして、朝型中心の社会において、学校やオフィスの始業時間を遅らせることは、さまざまな不都合をもたらすという指摘も理解できますが、最新の生物時計の研究に沿って社会の枠組みを変化させるときが来ているのではないかと思います。
それがある種の「不都合な真実」であるにしても、改善するための努力を後回しにすればするほど、有害な影響が社会に染み渡るのではないでしょうか。
フリースクールや通信制などの選択肢が増え、不登校の子どもの生活リズムに合わせた学校なども出てきていますが、朝型の人も夜型の人も、自分の体内時計に合わせた無理のない生活が送れるような社会になってほしいと思います。