【11/19 NHKジャーナル】脳脊髄液減少症のピアニスト 松下佳代子さん

11/19のNHK第1ラジオで、脳脊髄液減少症について、「つらくても、生きて弾く ~ピアニスト 松下佳代子さん~」という特集が組まれていました。

NHK | R1 [ラジオ第1]NHKラジオ第1 NHKジャーナル

要約文は、以下のようになっています。

「脳脊髄液減少症」という全身に痛みが走る難病を抱えるピアニストの松下佳代子さんは、9年前にいったん引退した。

しかし、東日本大震災を経験して、演奏することで被災地の人たちの役に立てるのではないかと、再びピアノの練習を再開し、先日11日に東京・新宿でコンサートを行った。

松下さんの被災地への思いを、コンサートでの演奏を交えてリポートで伝える。

脳脊髄液減少症とは交通事故などの衝撃によって発症し、日常生活が困難になる病気です。このブログでは、慢性疲労症候群(CFS)と似ているために、しばしば取り上げています。詳しくは以下のエントリをご覧ください。

【7/5】「あなたの頭痛 大丈夫?原因不明は“髄液漏れ”か」まとめ
2012年7月5日(木)にFNNで放送された脳脊髄液減少症を紹介した番組「あなたの頭痛 大丈夫? 原因不明は“髄液漏れ”か」のまとめです。脳脊髄液減少症とは何でしょうか、どんな原因

「きみのピアニッシモに光が灯らない

この特集で紹介されているのは、ピアニストの松下佳代子さんです。

松下さんは、シューマンのトロイメライという曲をきっかけにピアニストを目指そうと決意し、高校卒業後、ドイツにわたりました。その後、表現力の豊かさを評価され、30年にわたり、プロのピアニストとして海外で活躍します。

しかし、17年前、パリのコンサートの帰りに交通事故に遭い、脳脊髄液減少症を発症しました。命に別状はありませんでしたが、徐々に症状が悪化します。

それでも、無理をおして演奏活動を続けていましたが、8年後、チェロの奏者である夫トーマス・ベックマンさんから、「気がついてる? きみのピアニッシモに光が灯らない」と率直に言われました。繊細でエネルギーを必要とする演奏ができなくなっていたのです。

松下さんは、自分の中のピアノの蓋を閉じることを決意しました。

「だからこそ喜びが光る

引退後、症状は一段と進みました。翌年には体にまったく力がはいらず、一時寝たきりになりました。そのときのことをこう回想しておられます。

絶望感を味わいましたね、わたしに何が起きたんだと。起き上がれなくて、声も出せないんですよ。トイレにも自分で行けませんですから、ベッドからわざわざ自分で落ちて這っていくしか移動の手段がないんです。

生きる意味を失い、死ぬことを考え、8年にわたり、入退院を繰り返します。

しかし昨年、東日本大震災のニュースが転機になりました。必死に生きようと思っている人たちのことを考え、死にたいと思っていた自分を恥じました。

そして「もしわたしがピアノを弾けたなら」と考え、病気であっても、ピアノを弾いていれば役に立っていただろう、と急に違う見方をするようになりました。症状が少し回復していたこともあって、ピアノの練習を再開し、ピアニッシモも表現できるようになりました。

今年8月には9年ぶりに夫とイタリアでコンサートに参加し、11月11日には新宿で思い入れのあるシューマンのトロイメライを披露しました。

まだコンサートの翌日は痛みがひどくなり、ぐったりするそうですが、「演奏を聞いた誰かが、また少しがんばってみようと思ってくれたら嬉しい。そしていつか被災地で演奏したい」という思いで、ピアノを弾いておられるそうです。

松下佳代子さんは、再び生きる意味を見いだしたご自分の気持ちをこう語っておられました。

生きている、っていうのはつらいことのほうが多いんですよ。だから喜びが光るんですね。それにもう一度気がついたんですね。つらいことのほうが多くて、ときには大変な衝撃をもって起こります。

…それをみんな…少しの笑顔をつくって、みんな毎日だいじになんとか生き抜いている。そこに共感があるわけですよね。その共感を結ぶには、わたしが一番できるのは、やはり音楽なんです。

は失っても取り戻すことができる

慢性疲労症候群(CFS)や線維筋痛症(FMS)、脳脊髄液減少症は、そう簡単に治る病気ではありません。ともすれば、何十年も、病気に対処しながら、生きていかなければならないかもしれません。

しかし、病気のもとで、ひとたび生きる意味を見失っても、再び取り戻すことができる、という大切な教訓を、松下佳代子さんの経験は教えてくれます。光を見いだせるかどうかは、必ずしも病気が治るかどうかにかかっているわけではないのです。

わたしはこれまで、慢性疲労症候群(CFS)のもとでも、力強く生きている人たちを大勢見てきました。また、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のため、目しか動かせなくなっても、生きる意欲をだれよりも強く保っている人も知っています。

松下佳代子さんをはじめ、病気のもとでも光を見いだしている人たちに見倣っていきたいと思います。

▼12/21追記
読売新聞から、トロイメライを弾かれる松下さんの映像ニュースが公開されています。

難病から回復したピアニスト松下佳代子さん : 動画 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

ピアニスト松下佳代子さんは17年前、ベルギーで自動車事故に遭い、脳脊髄液減少症になって、8年前からほぼ寝たきりだった。しかし今年4月、奇跡的に回復し、演奏活動を再開した。

ロベルト・シューマン作曲、子供の情景から、ボン郊外のエンデリッヒの精神病院にいたとき二度目に作られたトロイメライを弾いておられます。