慢性疲労症候群(CFS)を詳しく説明した日本語の書籍は世の中にそれほど多くありません。雑誌や専門誌を除けば、このブログの慢性疲労症候群と関連疾患のストア?に紹介しているものがほぼすべてです。
しかし、題名と知名度の低さからあまり読まれていないものの、とても秀逸なCFSの関連書籍があります。そのうちの一冊は、そのツラさは、病気ですという書籍です。
このブログでもときどき引用してきたのでご存じの方も多いと思いますが、この本の優れた特色をご紹介したいと思います。
そのツラさは、病気です
「自分がかかっている病気を周囲に理解してもらえない、あるいは病気を言い訳にして怠けているのではないかと誤解される―」 (p6)
そのツラさは、病気ですの著者は、NHKの月刊誌「きょうの健康」で、連載記事を書いていた西所正道さんです。連載で取り上げた72の病気の中のうち、「理解されにくい」という声が多く上がった9つの病気についてまとめています。
慢性疲労症候群(CFS)の患者ならだれしも、家族や同僚に「そんな病気があるのか」と言われたり、診断できない医師から「気のせいだ」などと言われて落ち込んだ経験があるでしょう。(p6-7)
この書籍に取り上げられている9つの病気のうち、第二章の主題が『泥のように思い疲労感―慢性疲労症候群」となっているのは、至極もっともなことです。
CFS患者の“ツラさ”を代弁する本
慢性疲労症候群(CFS)の解説書としては危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)が有名ですが、このそのツラさは、病気ですは、別の点で際立っています。それは、CFS患者が感じるつらい“ツラさ”をあますところなく記している、という点です。
この本は各専門医だけでなく、病気の当事者にも耳を傾けて、「いちばん苦しい症状は何か、どのような悩みが多いのか。あるいは身近にいる人にはどう接して欲しいのか、言われると嫌な気持ちになる言葉や態度は何か…」取材して書かれたものです。 (p8)
たとえば慢性疲労症候群(CFS)の場合は、p41-74の34ページにわたり、40歳の三谷俊介さん、26歳の矢島久子さん(両者とも仮名)の経験談を主軸にしつつ、病気の概要や治療法、倉恒先生のコメントなどがまとめられています。
このお二人の経験談は、きっとCFSと闘病してこられた方なら、「まさに自分のようだ」と感じることでしょう。発症したときの当惑や、家族や医師からの突き刺すような言葉、診断されたときの安堵感などが切々とつづられています。
たとえば、このような経験が書かれています。
父親は口をきいてくれなくなりました。口を開いても、『現実逃避をしていてどうする。もっと大人になれ』ばかり。母親も父と同じ意見でしたし、僕の病気のことが親戚にも伝わって、白い目で見られるようになりました。
いちばんひどかったのは、『そんな奴は、家からほっぽり出してしまえ』って親戚に言われたこと。あれはきつかったです。弟もこんな兄貴を持って肩身が狭いのか、『しっかりしてもらわないと困るんだよ』って。
その頃は、どこにも居場所がなかったですね。僕を理解してくれる人が一人もいないわけですから、世界で自分だけが取り残されたという感じ。振り返っても、一番辛い時期です。 (p52)
その後、この方は倉恒先生たちによってCFSと診断されて、味方を得るわけですが、闘病生活は続きます。診断される前と診断されたあとの“ツラさ”が克明に記されている点で、この書籍は多くのCFS患者の共感を誘う名著です。
どんな病気かも網羅
患者本人の気持ちが代弁されているという特徴に注目しましたが、この本のすばらしい点はそれだけではありません。
慢性疲労症候群(CFS)の基礎的な知識や治療法が、ほとんど網羅されており、たった34ページ読むだけで、この病気のことがあらかた分かるのです。そしてその知識は執筆後7年経った2012年現在でも、最新の理解におさおさ劣るものではありません。
たとえば、1984年にアメリカネバダ州で集団発生した歴史にはじまり、CDC(米国疾病対策センター)と日本の診断基準の内容、ウイルスの再活性化から引き起こされる脳機能異常のメカニズムなどが、初めて読む人にもわかりやすく説明されています。
また、治療法として定番の補中益気湯やビタミン剤の紹介に加え、最近話題になっているコエンザイムQ10や認知行動療法、L-カルニチンについても触れられています。
【10/31 マイナビ】還元型コエンザイムQ10が慢性疲労症候群(CFS)に効果的!
さらに、治りかけのときに陥りがちな落とし穴や、日記をつけることの益、「病気と付き合ってきたた苦しみから得られるものもあるはずだ」という人生観の確立に至るまで網羅しているという徹底ぶりです。 (p62)
このあたりの“病気と付き合うコツ”は、たいていのCFS関連書籍ではほとんど説明されておらず、自分の経験から見つけるか、仲間の患者と話し合って会得するほかないのです。
これだけの情報を経験談に絡めて違和感なくまとめあげた西所さんの文筆には恐れ入ります。
似ている病気とも区別
この書籍で取り上げられている残りの8つの病気はそれぞれうつ病、過敏性腸症候群、パニック障害、睡眠時無呼吸症候群、慢性頭痛、関節リウマチ、更年期障害、アルツハイマー病です。
これら8つの病気も、慢性疲労症候群の章と同様に、患者の気持ちを代弁して簡潔かつ網羅的にまとめられているのですから、情報量は相当なものです。
特に第一章に抜擢されているうつ病の項は勉強になるかもしれません。ときどき慢性疲労症候群(CFS)とうつ病の区別がつかない人を見かけますが、そのような人は、慢性疲労症候群(CFS)どころかうつ病のことも理解していません。
このブログでも以前慢性疲労症候群(CFS)とうつ病の違いを取り上げましたが、この書籍を読めば、両者はまったく違う深刻な病気であることがよく分かるでしょう。うつ病の項には「うつ病」と「うつ症状」の7つの違いも書かれています。 (p18)
慢性疲労症候群とうつ病の違い(上)―まず知っておくべき類似点3つ
「教えるとは…互いにどう異なるかを示すことにほかならない」と述べた教育者がいますが、他の病気についても記されているこの本は、慢性疲労症候群(CFS)単独について述べた解説書よりも、慢性疲労症候群とは何かをわかりやすく説明しているといえます。
ぜひおすすめしたいCFSの本
個人的な感想として、危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)は要点がはっきりせず冗漫なので、読みにくい人も多いかと思います。新書版といえども、200ページもの本を読むことは、CFS患者にとって簡単ではありません。
そのような場合、そのツラさは、病気ですを手にとって、まずは慢性疲労症候群の章だけを読んでみるのもいいかもしれません。
そのツラさは、病気ですは、他の人に理解されない不調のもとで苦しんでいる人にとって、優れた処方箋となりうる名著です。とりわけCFSと闘う人やその家族にとっては、必携の一冊といってもよいのではないでしょうか。