体内時計を薬で止めるカギはバソプレシン?

内の体内時計の一部機能を止めて、時差ぼけを解消させることに京都大薬学研究科の岡村均教授と山口賀章助教らのグループがマウスで成功したそうです。

カギはバソプレシンという物質にあったといいます。バソプレシンは発達障害や愛着障害との関わりも指摘されているホルモンです。

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京大、時差ボケの特効薬開発につながる可能性のある体内時計の仕組みを発見 | マイナビニュース

ニュース – 科学&宇宙 – 時差ぼけ解消の鍵を握るホルモンを確認 – ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト(ナショジオ)

京大、時差ボケのメカニズム解明-モデルマウス開発:日刊工業新聞

中日新聞:時差ぼけしないマウス、京大 防止薬開発に期待:社会(CHUNICHI Web)

体内時計の「リセットスイッチ」を京都大学が発見、時差ぼけや生活習慣病の改善へも ? GIGAZINE

京都大学 時差ボケしないマウスを開発 – QLifePro医療ニュース

バソプレシンは明るさの変化から体内リズムを守っている

バソプレシンは脳の底部で全身の体内時計に関わる神経細胞間の伝達物質だと説明されています。

アルギニンバゾプレシン(AVP)神経細胞群の受容体(「V1a」および「V1b」受容体)の機能を遺伝子操作で失わせたマウスでは、すぐに時差に対応することができ、時差ぼけが生じなかったそうです。

正常マウスでは新しい明暗環境に順応するのに10日間程度を要しましたが、時差消失マウスでは、瞬時に順応しました。

このことから、次のように指摘されています。

バソプレシンによる神経回路は、目から入る光に左右されずに体内リズムを守るのに役立っているとみられる。その回路が阻害され、明るさの変化に大きく影響されるようになったらしい。

言い換えれば、正常なマウスでは、体内リズムが強固であったため、時差ぼけが生じましたが、遺伝子ノックアウトマウスでは、ちょっとした明るさで体内リズムが狂ってしまうようになったということです。

体内時計を動かすことのできる最大の力は眼から入る光である。夜でも、満月や山火事や雷鳴など不意の明るさでもって、夜が明けて昼になったと誤認して、すぐ狂ってしまうような脆弱な体内時計では、生存競争を勝ち抜けなかったのだろうと、研究チームは推測する。

…今回、リズムセンターである視交叉上核がなぜ強力なリズムを形成するのか、その秘密の1つに視交叉上核の主要細胞であるAVPニューロン相互の神経間伝達があることが明らかにされた。

この細胞間連絡を阻害すると、環境の明暗周期の変動にきわめて脆弱となり、体内時計が容易に環境の明暗周期に同調することが判明した形だ。

見方を変えれば、一時的に体内時計を働かなくすれば、時差ぼけを解消できるともいえます。実際に投薬によって、マウスの時差ぼけを解消できたそうです。V1aV1bアンタゴニストの適用による時差の軽減は、新しい創薬であると書かれています。

バソプレシンは複雑な働きをするので、薬の開発は容易ではないと書かれていますが、概日リズム睡眠障害の治療薬開発の第一歩が踏み出されたということでしょうか。

バソプレシンと発達障害

ところで、バソプレシンというホルモンは、近年、発達障害や愛着障害との関わりが示唆されています。たとえばCCFSの友田先生のAge2企画の研究にはこう書かれています。

広汎性発達障害(特にアスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラム)におけるオキシトシンおよびバソプレシン受容体の遺伝子多型と社会性との関連に関する研究

従来、オキシトシ(OXT)は出産・授乳を調節するホルモンであり、またバソプレシン(AVP)は利尿作用の低下や血管収縮に作用するホルモンであるとされてきました。

しかし近年、両者は“愛情”や“信頼”など社会性の形成にも関わるホルモンであることが明らかになってきています。

さらに、これらのホルモンが社会的なコミュニケーションに問題を抱える自閉症スペクトラムとも関連があることが分かってきました。

オキシトシンとバソプレシンは共に構造が似ており、二大愛着ホルモンと呼ばれています。前者は女性ホルモンによって働きが強められ、お母さんらしさを作り出し、後者は男性ホルモンによって働きが強められ、父親らしさを作り出すそうです。

さらに、オキシトシン・バソプレシン・システムは、社会性の発達や心の理論にも影響を与えているようです。そのためこのシステムの働きが低下していることが、自閉症スペクトラムの原因のひとつではないかと示唆されています。詳しくは以下の書評をご覧ください。

発達障害と似て非なる「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」
急増する、ADHDや自閉症スペクトラム、境界性パーソナリティ障害などを結びつける鍵は“愛着”である。「愛着崩壊子どもを愛せない大人たち (角川選書)」をもとに、愛着障害とは何か、発

今回の研究では、バソプレシンが体内時計のリズムを守る役割を果たしていることもわかりました。バソプレシンがうまく働かないと、明るさに敏感になり、体内時計がすぐに乱れてしまうということです。

とすると、素人考えに過ぎませんが、発達障害の人がなぜ睡眠の問題を抱えやすいのかが、説明されたように思えます。ちょっとした夜の光やテレビ、ゲームの明るさによって、簡単に睡眠リズムがずれてしまうのです。

以前、DSPSや非24時間型睡眠覚醒症候群の原因のひとつとして、光に対する感受性が強すぎる、あるいは弱すぎることを挙げましたが、バソプレシンが関わっているのかもしれません。

発達障害や愛着障害を併存する慢性疲労症候群の睡眠問題が根深い理由もここにあるのかもしれません。そうであれば、AVPの働きに作用する薬が開発されれば、大きな効果が期待できるのではないか、とも考えられます。

いずれにしても、発達障害と睡眠障害がバソプレシンというキーワードで結ばれたことは確かです。今後もこの系統の研究に注目していきたいと思います。

▼追記(15/3/26)
バソプレシンが体内時計の調節を担っているという研究がありました。

体内時計のペースメーカーの一端をバソプレシンが担っている
バソプレシン産生ニューロンは概日リズムの調整に役だっているそうです。