慢性疲労症候群とレトロウイルスXMRVをめぐる議論の帰結

9/19付のウォール・ストリート・ジャーナル日本版に、慢性疲労症候群の原因がウイルスという説に反証という記事が掲載されました。

2009年に慢性疲労症候群(CFS)の原因は、XMRVという異種指向性マウス白血病ウイルスにあるのではないかという研究が発表されました。その発表は、大規模な患者運動や輸血に関する騒動を引き起こし、日本でもニュースに取り上げられました。

しかし、このたびの反証の発表をもって、2009年の衝撃的な発表は誤りであったことが公に認められ、一連の議論は終息に至ったようです。

慢性疲労症候群の原因がウイルスという説に反証=研究 – WSJ日本版 – jp.WSJ.com

Columbia大学、CDCなど、慢性疲労症候群とマウスのレトロウイルスとの関係を否定:日経バイオテクONLINE

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ウイルス説に寄せられた期待

記事によると、慢性疲労症候群(CFS)のウイルス説は広範囲に余波を引き起こしました。その中には、患者を取り巻く環境が向上するのでは、という切なる期待もありました。

09年に発表された論文を受けて、この研究結果がCFSの治療につながるのではないかという期待が巻き起こった。

CFSの患者は、医者に症状を真剣に取り合ってもらえないことが多いと主張しており、ウイルスが原因だと示唆するこの研究がCFSの立証に役立つことを期待した。

しかし、CFSとウイルス説が結びつけられるようになって、戸惑いを覚える患者もいました。従来の研究によると、CFSの原因はさまざまで、ウイルス感染だけでなく、化学物質や紫外線、細菌、遺伝的背景、心身のストレスによって発症した人も多いからです。

もしCFSの原因がただウイルスのみであると広く認知されるなら、大勢の患者が切り捨てられる可能性がありました。

XMRVが否定される

XMRVについては、日本の医療機関でも検証が行われましたが、その結果、感染は確認されませんでした。

最近の研究によって慢性疲労症候群(CFS)について分かった8つのこと
2011年の疲労学会で発表された研究成果をもとに、慢性疲労症候群(CFS)について分かったことを、8つのポイントに分けて紹介しています。

今回のウォール・ストリート・ジャーナルの記事でも、こう書かれています。

昨年12月にサイエンス誌は論議を呼んだ09年の論文を撤回し、多くの実験室で同じ結果は得られなかったと指摘した。

 当時の研究に参加した患者のサンプルに、おそらくマウスDNAが実験室で混入したことが原因だったというのが、現在の科学的なコンセンサスだ。

残念ながら、慢性疲労症候群(CFS)の単一の原因は、今回も見つかりませんでした。

CFSの研究に期待を寄せて

残念ながらXMRVというウイルスは、慢性疲労症候群(CFS)の原因ではありませんでしたが、慢性疲労症候群の原因と発症メカニズムについてはかなりのことがわかっています。

また危惧されていた、一部の患者が切り捨てられるという可能性もなくなりました。今後の研究では、さまざまな病因を明らかにして対処するという指針が発表されています。

慢性疲労症候群(CFS)について、関係する事実すべてが明らかになることはまだ先のことでしょう。慢性疲労症候群(CFS)をはじめ、医学的に未開拓だったさまざまな不定愁訴についての研究は、今ようやく始まったばかりです。

わたしたちは、疲労や痛みといった、これまでの医学で十分に解明されていなかった人体のメカニズムが、ようやく研究され始めた時代に生きています。その中には、長らく心の問題として片づけられていたさまざまな病態が含まれます。

まったく新しい研究分野であるために、今回のような間違いや意見の対立は頻繁に起こるかもしれません。しかしそれは、天文学や生物学などの新しい研究においてもつきものです。

何十年も経ってから今を振り返ると、じつは医学の進展における重要なターニングポイントにいたことに気づくかもしれません。それが今の時代の状況です。

患者にとってはもどかしい状況ですが、病名すらない時代よりは確実に良い医療事情となっているのは確かです。今回のニュースについても意気消沈するのではなく、長いスパンでわくわくしながら見守りたいと思います。