今度こそ秘境「松山湿原」に登頂してきた。過酷な環境で生きる不思議な植物たちの世界

5月に登頂できなかった、道北の美深町の秘境、松山湿原に再挑戦してきました。

今回は、数名で連れだって、公認のガイドさんの方にお願いしての登山。植物の名前や見所をたくさん教えてもらったり、キノコ狩りもできたりして、充実した行程になりました。

ほとんどの花は春から夏に咲くので、この9月には花はそんなに多くありませんでした。

それでも、エゾリンドウが満開でしたし、さまざまな色づいた実を味見できたりして、秋らしい自然をたっぷり味わえました。

何より、前回は雪で引き返しましたが、今回は頂上の湿原まで到達できて、厳しい自然が作りだした希有な風景を楽しめました。

ついでに、近くの轟々と流れる女神の滝や、森の中を疾走するトロッコ王国にも行けました。その体験を写真とともに、記事に残しておこうと思います。


もう一度、松山湿原へ

朝早く起きて、車で美深町の松山湿原へ。前に行ったときはキツネにたくさん出くわした山道でしたが、今回は何もいない。

…と思いきや、道のど真ん中に大きなシカが立ち止まっていて慌てて止まったり。さすがに写真を撮る余裕はなかったですが。道北の山道はにぎやかです。

到着したのは朝の8時半ごろ。天気予報では一週間前からずっと雨の予報。どうなることかと見守っていたら、前日に予報が変わり、幸いにも雨は午後遅くからに遅れました。

ここのところ道北はすでに寒くなっているので、服は重装備。いつものマダニを防ぐためのレインウェアやスパッツのほか、頭にかぶる虫除けネット、熊よけの鈴なども。

しかし、この日は本州に接近していた台風15号のせいか暑かった。2日後の日曜日には季節外れの30℃超えで、この夏一番の暑さになったほど。

でも虫除けネットが必要なほど虫は多くなく、熊よけの鈴もガイドさんのおかげで必要ありませんでした。

ガイドさんは4つも鈴をつけて鳴らしていて、熊撃退スプレーも装備していました。道中ではクマの足跡や爪跡を教えてくれました。

今回は大勢で登ったので安心でしたが、やっぱりヒグマはそこそこ出るとのこと。

今の時期は、農家のデントコーンをあさりに山を下りているのでこのあたりにはいないだろう、とのことでしたが。

前回はまだ雪が残る5月。春の山菜もあちこちに残っていましたが、今回は真っ盛りの夏を越えた初秋。

登山道はしっかり整備され、草刈りもされていましたが、山肌はジャングルのように生い茂っていました。

先回、タマゴケを見つけて喜んだ場所などは、もうすっかり名前もわからないツタと葉にうっそうと覆われていて、のぞきこめないほど。

それでも、登山道から見る景色は美しく、ちょっと色づいてきたイタドリの葉が、前回とは違った晩夏の味わいを感じさせてくれました。

遠くには美深の最高峰の函岳も見えているらしいけど、わたしはどの山かちょっとわかりませんでした。だけど、満天の星がすばらしいと言われる函岳。いつか登ってみたいものです。

登山道の植物たち。いろいろな実を味わった

案内してくれたガイドさんは、松山湿原に年に30回は登るというプロの方。植物だけでなく、菌類のキノコや虫についても詳しく、とても勉強になりました。

今の時期はもう秋なので、花はほとんど何も咲いていませんでしたが、そのぶん花が落ちた後の実が豊富でした。博識のガイドさんのおかげで、味見しながら登山。

まずはかの有名なコクワ(サルナシ)の実。もしかしたらマタタビかも。ガイドさんが両方解説してくれたのですが、どちらを撮ったのかあいまいです。

サルナシもマタタビも同じマタタビ科で、キウイフルーツの仲間なので、見た目はとてもよく似ているんですよね。味もほとんど同じだし。

サルナシがキウイの原種だと書かれていることもありますが、これは間違いで、近縁である、というのが正しいそうです。キウイの原種は中国原産のオニマタタビだとか。

マタタビは先っぽの葉っぱが白くなっていると見分けやすいんですが、この写真ではわからないですね。

葉っぱの質感でも判断できるらしいですが、現地で触ったならともかく、撮った写真を後から見るだけではわからないですね。ガイドさんが言うには、ここでは両方が絡み合っていたみたいだし。

ガイドさんに勧められて、サルナシとマタタビを両方食べてみましたが、どちらも甘くておいしかったです。手で触ってみて、ぷにぷにと柔らかくなっている実を採るといいですね。

じつはずっと、サルナシ(コクワ)の実がどんなのか見てみたい、食べてみたいと思っていたので、体験できて嬉しかったで。

というのも、クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)を読んでいたとき、ヒグマが一番好きなのが、コクワの実だと書いてあったからです。

コクワの実を食べるためなら、ヒグマは多少険しい場所でも歩いていくし、木にだって登ると書いてあって、どんなにおいしいものかと気になっていました。

実際に食べてみると、確かにこれはクマも食べたくなるな、と思いました。自然界の実といえば酸っぱいのが多い中、コクワは甘くでおやつにはぴったりです。若芽や若葉も、天ぷらや和え物にして食べることができるそうです。

本によると千歳のあたりでは、営林署が木を伐採して、針葉樹ばかり植樹したせいで森が死に、コクワもなくなってしまってクマが住めなくなったとありました。

一度自然破壊した場所では、森が回復して、コクワが生えるようになっても、なぜか実がならないと書いてありました。(p309-313)

そんなことがあるんだろうか、と思っていましたが、今読んでいる生物学者の本、ミクロの森: 1m2の原生林が語る生命・進化・地球にも同じような話があり、考えさせられました。

皆伐されたところが幸運にも成熟した森に囲まれていれば、そしてその後数十年間伐採されなければ、サラマンダーはゆっくり戻ってくるだろう。

だが戻ってきても以前ほど餌は豊富ではない。それがなぜなのか誰にもわからないが、もしかすると大規模な皆伐は、そこに棲む生き物の、微妙に調整された遺伝子を奪ってしまうのかもしれない。(p65)

個人的には、これは微生物レベルの問題ではないかと思います。ヒトマイクロバイオームを抗生物質で洗い流した後、決して元の多様性も健康状態も復活しないのと同じことが皆伐された森に起こっているのではないかと。

それに比べて、道南、道東、そしてここ道北のほうは、まだこんなにコクワやマタタビが残っているんだから、健全な生態系が残されていて、ヒグマも住みやすいんでしょうね。

次に食べさせてもらったのが、ゴゼンタチバナの実。

春頃に来たときは葉っぱだけで今は赤い実。花が咲いている時期を見逃してしまいました。アジサイの装飾花を一つだけ持ってきたみたいな可憐な白い花を咲かせるみたい。

ゴゼンタチバナの実は…とにかく酸っぱい! ビタミンC豊富すぎてクエン酸を食べているみたいでした。あえて食べるほどおいしくないと言われるけれど、ほんとにそう(笑)

次に味見させてもらったのは、ゴゼンタチバナの実とよく似た、イワツツジの実。イワツツジというだけあって、登山道の壁に絡みつくように生えていました。

こちらも花は見逃してしまいましたが、ピンク色のいかにもツツジらしい花のようですね。

イワツツジの実の味は…さっきのゴゼンタチバナの実よりはずっとおいしい。表現しにくい複雑な味で、酸っぱくもあり、甘くもあり。ガイドさんいわく「七色の味」。

でも、やっぱり個人的には、コクワとマタタビが一番おいしいな、と思ってしまいました。キウイは苦手なのだけど(笑) 結局ヒグマは一番おいしいのを知っているということ。

そのほかに見かけたのはオオカメノキの朱色の実。自然観察日記のほうでも書きましたが、ガクアジサイみたいな花の咲く木ですね。ただしアジサイは装飾花4枚、オオカメノキなどガマズミ属は5枚。

ガイドさんは、この実は食べられないよ、と言っていました。一応、ガマズミやカンボクは食べれないこともないようなので、まずいという意味かな。

何よりの見頃は、マイヅルソウの実。

うちの地元のマイヅルソウより葉がかなり小ぶりだったのでヒメマイヅルソウかな? 後で調べたら、ヒメマイヅルソウは葉の裏に毛があるとのことだったけど確認していない。

まず白っぽい実ができて、徐々に、赤い斑点が入ってくる。

やがて赤い斑点が大きくなってきて、全体を覆いはじめ…

こんな感じに、真っ赤な宝石のように熟していくらしい。

登山道のマイヅルソウは、さまざまな段階のものがあって、変化がよくわかりました。

ガイドさんのお気に入りの実のようで、なんでこんな美しい実が自然界に存在するんだろうね、としきりに言っていました。

真っ赤なルビーのような状態も美しいけど、その前のまだらな状態も縞瑪瑙みたいですよね。

そしてその近くには…

こちらは青い宝石、ラピスラズリのようなツバメオモトの実。どちらも地元でもよく見る実ですが、赤と青の宝石に彩られた初秋の登山道はとても豪華です。

そのほかに面白かったのは、ツルニンジンの実。UFOズッキーニを思わせるような、不思議な形。手で触ってみると硬い。

ツルニンジンという名は、ツリガネニンジンと同様、根っこが人参に似ているからみたいですね。さすがに実は食べたりしなさそう。

茎を折ると乳液のようなものが出るので、中国では羊乳と呼ばれているとか。アイヌもこの根を食用にしていました。

こうして自然観察しているうちに、いつの間にか前回雪で阻まれた地点を通過し、頂上まで200m。

そして、9合目。頂上まで100m。

頂上を教えてくれる大岩がそびえ立っていて、いよいよ、目的地が近いことを思わせます。

過酷な環境を生き抜く植物たちが織りなす絶景

大岩のところを曲がり、頂上に登る道へ進むと、道の両側に見慣れない青い花が咲き始めました。

ずっと見たかったエゾリンドウの花!

ほとんどの花がつぼみ状。5枚の花びらが、カメラのシャッターのようにねじれて口をすぼめています。

もう花期が終わりかけているせいでつぼみ状なのかと思ったらそうでもなく、すぼんだ状態がデフォルトの花みたいですね。

それでも、中には花びらがきちんと開いていて、内側が見える花がいくつかあったので、その写真をたくさん撮りました。

正確にはエゾリンドウの仲間のエゾオヤマリンドウとのこと。でもまあほとんど同じです。透き通るような青がガラス細工のようで美しい。

たまにある開いている花は、花びらのねじれが入れ子になっていて、繊細な手作り工芸品のようなおもむきがあります。

市販されているリンドウの生花は、ほとんどがこのエゾリンドウなのだとか。しかも二段以上花がついてないと商品にならないのだそう。

花はこうやって、現地に足を運んで情景込みで味わってこそ美しいのに、無粋なことをするものです。いくらエゾリンドウが美しくても、花屋で見たら情緒も何もない。

エゾリンドウが両端に群生するウェルカムロードを登ると…

そこには、見たこともない不思議な景色が広がっていました。

これこそ松山湿原。前回到達できなかった。標高797mの秘境です。

幸いにも、雨は振らず青空、下界は暑かったですが、ここまで登ってくると風が気持ちよくて、ちょうどいい爽やかさ。本当にいいときに訪れることができました。

松山湿原に立ち並ぶのは、原生のアカエゾマツとハイマツです。ハイマツは寒冷地にしか生えないマツで、氷河時代からの生き残りらしい。

このアカエゾマツの特徴は、なんといっても、普段絶対に目にすることのない、その奇妙奇天烈な樹形。

北海道の山で見かけるマツとは明らかに容姿が違います。

ちんちくりんに刈り込まれたような上のほうの枝葉。それに対して、下のほうでは斜め下を向いた枝が伸び、スカート状に葉っぱが生い茂っています。

典型的なのが下の写真。

同じ一本の木なのに、上のほうの枝と、下のほうの枝がまったく違うのがわかりますね。上のほうはまばらに、下のほうはスカート状に。

これはいったいどういうことか、というと、松山湿原のマツが生きる、超過酷な環境を物語っているわけです。

松山湿原とは関係ないけれど、最近読んでいた失われた、自然を読む力の説明が参考になります。

海岸の近くや、高所でよくあるように風が過酷なら、木の片側で枝が全滅することがある。

これはふたつの理由で起きる。

第一に、不快な塩や氷を多く含んだ風には、木の枝が耐えられる限度があり、風上側はこの影響を絶えず受けること。

第二に、上向きの圧力より下向きの圧力に対処するほうがずっと得意であるように枝が育ち、木の構造がそのようになっていること。

…このふたつの理由によって、“旗を掲げられた”(すなわち、風上側の枝を取り除かれた)が、風下側で多くの枝が残っている木に、過酷な環境で出くわすことになる。(p62)

ちょうどさっきの写真の木が「旗を掲げられた」形になっていますね。

松山湿原は海岸の近くではありませんが、高所の過酷な環境です。

こんな奇妙な形に育つのは、わたしたちが普段生きるのとは、あまりに違う環境に生きているからです。深海魚と同じ。

このマツたちは、樹齢は200年以上とも言われています。相当長く過酷な環境を耐え忍んできた老木なのです。

ここ道北は、平地でも真冬は気温がマイナス30℃になりますが、松山湿原は高所でさえぎるものもない。たぶんブリザードみたいな風が吹くんでしょう。

すると、風上側の木の枝は氷に打ち付けられ、ほとんどすべて枯れてしまう。

だから、さっきの写真みたいな旗を掲げられたような形になります。このあたりは西風なので、たぶん枝のないほうが西かな。

そして、下のほうの枝は、風で下向きに押しつぶされると同時に、冬場には何メートルもの雪に埋もれます。

しかし、雪に守られるおかげで、風や寒さで枯れることはなく、スカート状に生い茂るんでしょう。

この場所が湿原になっているのも、その過酷な環境のため。松山湿原は「高層湿原」と呼ばれるタイプの湿原らしい。

高所で寒冷なため、枯れた植物が微生物によって分解されにくく、徐々に積み重なって泥として堆積し、そこに雪解け水が満たされて湿原になっているそうです。

栄養素の少ない過酷な環境なので、食虫植物のモウセンゴケもあたり一面に生えています。

あのダーウィンが研究したことでも有名なモウセンゴケ。栄養価の少ない土地では、虫も貴重な栄養源です。ちなみにモウセンゴケは天ぷらとかで食べれるといううわさが。

でもどうせ食べるなら、ツルコケモモ(クランベリー)のほうがいいか。松山湿原にはクランベリーが群生しています。

なんでこんな場所にクランベリーが群生しているんだろう…。

クランベリーというと、北欧やロシアのイメージですよね。調べてみたら、日本では高層湿原でミズゴケの間に分布しているそうです。確かにあたり一面ミズゴケの沼。

ミズゴケと湿原の関係については、コケの自然誌に詳しく書かれていました。一言で言えば、ミズゴケこそが湿原の王者であり管理人なのだそうです。

ミズゴケの生えた湿原ほどコケの存在が目立つ生態系は他にない。

…ミズゴケやピートモスは、湿原で大いに繁茂するばかりか、湿原を生成するのが彼らなのだ。

酸性で、水浸し状態の環境は、ほとんどの高等植物には適さない。

ミズゴケのように、その驚くべき性質を利用して周囲の物理的環境を徹底的に操作する能力を持つ植物を、サイズの大小にかかわらず、私は他に知らない。(p175)

ミズゴケが環境を徹底的にコントロールしているとは、いったいどういうことなのか。

ミズゴケの驚くべき点は、「そのほとんどが死んでいる」こと。生きた細胞は20個に1個だけだそうです。死んだ細胞は、水の入れ物になります。

死んだ細胞を水で満たすことで、ミズゴケは、重さにして自分の体重の20倍もの水を吸い上げることができる。(p177)

こうしてミズゴケが水を大量に含んだまま地面を覆うことで、雪解け水がずっと残ったままになり、湿原が誕生します。

水が全然引かないので、大きな木はほとんど成長できなくなり、うっそうとした森になる代わりに、広々と開けた日当たりのいい湿原になります。

地面を覆ったミズゴケは通常なら空気が入り込むはずの土の中を水で満たしてしまいます。酸素がなくなり、pHは酸性に傾き、バクテリアが呼吸できなくなります。

すると、微生物が死骸を分解できなくなるので、死んだミズゴケもそのまま残ります。地面は水を含んだミズゴケの死体で覆われたままになります。

つまり、湿原とは、死んで水を含んだミズゴケが延々と堆積してできた土地のことです。

湿原で腐敗が進まないのは、単に冷涼な気候だからではなく、ミズゴケが土壌をコントロールしているせいなのです。

おかげで、湿地帯に沈んだものは腐ることがなく、腐らないがために栄養分が不足してしまい、極端に栄養分の貧しい環境になります。

だから、この本によれば、「湿原は、モウセンゴケ、ウツボカズラ、それにハエトリグサなどの食虫植物が生える唯一の環境」です。(p179)

バクテリアがほとんど活動できない湿地帯の下は温度が低く、天然の冷蔵庫として使えるのだとか。腐敗が進まないから、死体が沈んでも腐らないまま残っていることもあるらしい…。

湿原を覆うミズゴケのうち、生きているのは表面だけだそうです。下のほうのミズゴケは、死んだまま腐らずに、数メートルもクッションみたいに堆積している。

かなり下のほうで、ようやく腐敗してピート(泥炭)になっているらしい。

だから、さっきの写真のように、松山湿原などの湿原には、ちゃんと歩くための桟橋が用意されているんでしょう。

下手すると場所によってはミズゴケの中にズブズブ沈むから。もちろん、踏み荒らされないよう自然保護という理由もあるでしょうが。

そのミズゴケの沼の中には、クランベリーのほかに、タチマンネンスギも。杉に似ているけれど、木ではなく、あとで出てくるヒカゲカズラの仲間のシダ植物です。

一年中青々としていて、杉のミニチュアみたいな形なので、大阪とかの料亭の料理に添えるため、これ一本が数千円で取り引きされていたころがあるのだとか…。

ほかにもギボウシの種があったり。これはショウジョウバカマのロゼットかな? 

ショウジョウバカマのピンク色の花は、5月に来たときの記事に写真に撮って載せましたね。たぶんこのロゼット状の葉のまま、雪の下で越冬して、春に花を咲かせるんでしょう。

湿原には小さな池も数箇所にありました。青空やマツ林が映り込んで、とても色鮮やか。

水草のホソバウキミクリが、糸状に水面でなびいていました。これも高山の池や高層湿原ならではの植物らしい。

ちょっと前に来たら、白いイガイガみたいな形の花を咲かせていたのかな。ゆらゆらと水面を泳ぐように漂っている様子が、いかにも気持ち良さげです。

ちょうど池にトンボが産卵していました。シオカラトンボとかオニヤンマだろうか。青々と鏡のように空を映す水面が幻想的。

松山湿原は、歩いて一周するとそこそこ距離があって、20分くらいかかったでしょうか。道北の秘境と呼ぶにふさわしい、ユニークな景色は飽きませんでした。

季節によっては、トキソウやエゾイソツツジの花など、また違う植物がみられるようです。またぜひ、違う季節にも来てみたいですね。

さっきの本によると、夏の湿原では、ミズゴケの壷のような形の鞘が弾ける、ポンッという音が聞こえるのだとか。

ミズゴケの楽園である湿原に響くかすかなウォータードラムを、わたしも聞いてみたいものです。

最後は池のところでちょっと休憩して下山。

水しぶきと轟音の女神の滝へ

今回ガイドしてくださった方は、キノコにもとても詳しいので、下山がてら、きのこ狩りを楽しみました。

注目はナラタケ(ボリボリ)。今がちょうど旬なのだそう。キノコは地上に出たら数日で腐ってしまうので、食べれるうちに遠慮せず採ってしまっていいとのこと。

わたしたちは、キノコの見分けなんて全然できない素人集団でしたが、専門家がいてくれるおかげで心強かった。やっぱり毒キノコとか怖いですから。

一度覚えると、その種類だけは、けっこう簡単に見分けられるようになるものです。みんなでたくさん採ることができました。

帰宅後、水に漬けて虫を取って、ゆがいて食べましたが、これは美味しい! 山菜と同じく、きのこ狩りに夢中になってしまう人がいるのもわかります。この触感と味は栽培物では出せない。

思わぬ戦利品とともに下山して、そのまま、松山湿原のふもとの女神の滝へ向かいます。自動車で林道を10分ほど進み、そこからは徒歩で。

山登りだった松山湿原と違って、緑あふれる川沿いの涼しげな森。そこにはまた、一風変わった植物が見られました。

まず、さっき湿原にあったタチマンネンスギの仲間の、ヒカゲカズラ。言われてみればよく似ていますね。

ちょうど花(正確にはツクシと同じ胞子嚢穂と呼ばれるもの。裸子植物版の花)が咲いていました。

ヒカゲカズラは、春に来た時にも見かけて、この地面を張っているスギゴケの親玉みたいなのはいったいなんだろう?と不思議に思っていたのでした。名前がわかってよかったです。

近くには、森の奥で見かけるおなじみの植物、ヤマブキショウマが。

いや、もしかするとトリアシショウマかもしれない…。まだ見分けがつきません。

ヤマブキショウマはバラ科、トリアシショウマはユキノシタ科なので、似てるからどっちでもいいや、というわけにもいかず。ちゃんと違いを覚えないと…。

そしてこちらはヨブスマソウの花。(背景がごっちゃになってしまっているけど、左下から右上に伸びている茎)

最近やっと、家の近くの自然観察でヨブスマソウを発見しましたが、今回は花も見ることができて大満足です。

珍しい植物ではなく、アイヌ時代から有名ですが、そこそこ森の中にいかないと見られない。

…と思っていましたが、あまり車が通らない地方なら、町と町の間の道路脇にもたくさん生えていることに最近気づきました。

ヨブスマソウはアイヌ語ではワッカクッタルといい、「水・飲む・筒」の意味。茎が中空でストローになるそうです。

三角形の葉っぱという特徴的な見た目ではなく、用途を名前にするあたりがいかにもアイヌらしい。

そのほかにも、ガイドさんが道端にある種を指して、ズダヤクシュだと教えてくれる。

春ごろ群生していたズダヤクシュ。確かに葉っぱを見ると、ユキノシタ科っぽいのでズダヤクシュだとわかりますが、花が散って種になると、こんな見た目になるのか。季節によってずいぶん雰囲気が変わります。

この小さな花はシラオイハコベ。

花びらが二枚ずつセットになって隙間から裏の萼が見えているという、小さいながら美しい不思議な形をしています。

次の写真は珍しいラン科の腐生植物ヌスビトノアシ(別名オニノヤガラ)…と教えてもらいましたが、もう枯れちゃってますね。

根の形が、抜き足差し足忍び足で歩いた、盗人の足のような形をしているのだとかなんとか。あるいは、同じ場所に生えず、盗人のように転々と場所を変えるからだとも。

同じような名前の植物にヌスビトハギがあるけれど、あちらも果実がそんな形をしているらしい。

枯れてしまった今となっては、地面に刺さったオニノヤガラ(鬼の矢柄)という名前のほうがしっくりくるか。

松浦武四郎の「石狩日誌」ではアイヌのさつまいもと呼ばれていて、焼いたり味噌汁の具にしたりするらしい。

ナラタケの菌糸を取り込んで養分にするとのことで、今回ナラタケが大量に採れる時期だったから見れたのかも。

道端には、この時期に森の中でよく見かけるキツリフネも。もうすっかり顔なじみです(笑)

歩いているうちに、森の中に女神の滝が見えてくる。轟々と流れる水量豊かな滝の音が心地よい。

滝の手前には、いかにも自然林の森らしき、気持ちよさそうな緑いっぱいの風景が広がっている。

手前には、すっかりコケむした倒木と、その上に萌え出た小さな苗が。倒木更新のお手本みたいな風景。(倒木更新については前回の松山湿原の記事参照)

こんなコケだらけになるまで倒木がちゃんと残っていて、他の植物が育つ養分になっているのは、手つかずの自然が残された森の証拠です。

森の木漏れ日の中、川床にコケむした岩が点在している風景は本当に美しい。この自然が作り出した有機的な造形の景色は芸術ですね。

人間がコケや地衣類の美しさを理解しなくなって、除去対象の汚れや病気だと思うようになってしまったのは、いったいいつからなのでしょうか…。悲しいことです。

滝から流れる川のそばの岩壁を眺めていると、前にも見たことのあるあの花が、岩に根を張っているのを発見。

岩肌の植物に近づいて拡大してみると…

 

そう、ウェンシリ岳に行ったときにも見かけたダイモンジソウです。あのときと同じような切り立った岩肌の隙間に根を張ってたくましく生きています。

白い「大」の字が、涼しい川のほとりで気持ちよさそうに踊っていました。旧友に出会った気分。

女神の滝の岸の地面の岩肌は、まるで人工的な階段のような段々の形になっていました。

見た感じ人の手で削られたかのような形ですが、これは自然が作り出した造形だとのこと。前に見に行った畳を並べたような形の千畳岩を思い出させます。あれも不思議な形でした。

確かなことはわかりませんが、たぶん雪解け水が豊富なときは、このあたりも川床になって、流水によって削られるのかな?

こういう独特な地形をみると、奇妙な風景が過去に氷河によって削られた証拠だと発見したルイ・アガシーとウィリアム・バックランド博士みたいな気分になりますね。

こうして、女神の滝の轟音を味わい、帰りに仁宇布の冷たい天然水も飲みました。今や汚染が広がる時代なのに、自然の水をそのまま飲めるのは、なんて贅沢なのだろう。     

トロッコ王国で走る森林浴

松山湿原からの帰り道は、すぐ近くのトロッコ王国に寄りました。

かつて美深町と北見枝幸を結んでいた美幸線の線路を、トロッコに乗って走れるアトラクションを楽しめます。アクセルとブレーキで走るので運転免許が必要です。

写真のトロッコはカバーがかけてありますが、走るときはオープンカーでした。時速は20km超くらいなので、風がとてもさわやか。

アトラクションといっても、そこは道北の大自然。ディズニーランドみたいに洗練されていないけれど、走る森林浴と呼ばれるほど緑いっぱいのシラカバ木立の中を駆け抜けます。

往復でだいたい40分ほどの距離。自分でアクセルブレーキを踏むので、速度は調節できます。おもに道路沿いを走りますが、それでも、こんな気持ちのいい景色ばかり。

遠くの風景もすばらしいですが、植物好きとしては、つい線路沿いに生えているトクサやハンゴンソウ、ヨブスマソウなどに注目してしまいました(笑)

エンジン音がものすごいうるさくて、振動が腰にひびきますが…意外と? 感覚過敏なわたしでも気にならなかったというか、これはこれで気持ちいいな、という感じでした。やっぱり大自然の中、というのが良かったのかな。

もっと自然を親しく知りたい

今回の松山湿原の旅は、しっかり登頂でき、きのこ狩りや、女神の滝、トロッコ王国まで味わえて、大満足でした。5月に来たときにできなかったことを達成できてよかったです。

何より、自然に本当に詳しい、年季の入ったガイドさんに案内してもらえたことが勉強になりました。ガイドさんの説明を聞き逃さないよう、耳をそばだてていたほど。

前に書きましたが、わたしは自分を元気にしてくれた自然をもっと知って、だれかにガイドしてあげられるようになりたいです。

ネイチャーガイドできるアマチュア博物学者になりたい。
自然界をガイドできるよう、自然科学の博物学的知識を身に着けたい

だけど、これまで道北で出会った自然ガイドの人たちは、ちょっと植物の名前を知っているレベルの人が多かったんですよね。自分が知っているものは解説できても、こっちから質問するとわからないものばかり。

それに比べると、今回のガイドさんはとても詳しくて、道端の花が何なのかいきなり質問しても、ほとんどすべて答えてくれました。見分けの難しいキノコ類にも詳しい。

こんなふうになりたいなと憧れました。

嬉しかったのは、ここ数ヶ月勉強してきた知識が、ちょっとは通用したこと。

出発前は、きっと何もかもわからないことだらけだろうから、今日は勉強の日だ。知らないことだらけでも凹まないようにしよう、と思っていました。

ところが、いざ来てみると、ガイドさんと楽しく会話できる程度には知っていました。

毎日やっている自然観察日記を、これからもコツコツと続けていけば、きっといつかあのガイドさんみたいになれるはずだ、という自信を深めることができました。

また、そこそこ体力がついてきたことも喜びでした。900mもの登山道を上り下りし、松山湿原を一周して、女神の滝まで行き、自動車で道中運転までしましたが、体力は持ちました。

さすがに途中で足が疲れましたが、それでも次の日に筋肉痛を引きずるようなこともありませんでした。都会で慢性疲労症候群だった過去から少しずつ回復しています。

松山湿原を含め、道北の大自然は、四季折々の表情が楽しめる、奥深い場所です。前回は春、今回は秋と訪れましたが、今後も何度も訪れて、たくさんの植物と親しみたいと思いました。

投稿日2019.09.10