大勢の旅行者が行き交い、ひっきりなしにアナウンスが響いている、成田国際空港の到着ロビー。さまざまな国の言葉が飛び交う中、どこかそわそわした雰囲気の少女が、待合椅子に腰かけていた。
「そろそろ、だよね…」
少女はそうつぶやいて、手に持ったスマートフォンの画面にちらっと目を落とす。時刻は15:00を過ぎたところだ。
デジタル時計の背景になっている写真には、異国の城の上から夕焼け空を眺めている、二人の少女の姿が写っていた。見たところ10代半ばの、まだあどけなさを残した笑顔が赤い夕日に映えている。
「あれから、三年か…」
写真を見ながら少女はくすりとほほえむ。
「わたしはそんなに変わってないよね」。
そう言って、しばし心を過去に馳せ、写真に映る二人の姿をじっと見つめた。手前に写っているのは3年前の自分。そして奥で凛々しく空を見上げているのは、親友だった。
「まさかアメリカに留学しちゃうなんてね…。もちろん、わたしは嬉しかったけど…すごく応援してたけど…」
少女は、写真の中の凛々しい親友に優しく語りかける。
「…でも、すごく、寂しかったんだからね…」
目 を閉じると、さまざまな思いが心を駆け巡る。親友から留学を告げられた日、この同じ国際空港で出発を見送ったあの朝、そして心にぽっかり穴が空いた虚ろな 毎日、遠く離れてからも、たびたび連絡を取ってはいたけれど、大事なピースが欠けたまま額縁に飾ったパズルのような違和感をぬぐえない年月…。
目から熱いものがこぼれそうになるのを、少女はぐっとこらえた。
そのとき、ロビーにアナウンスが響き渡る。国際線の到着を告げる声に、少女はハッと我に返り、立ち上がってあたりを見回した。にわかに活気づくロビー。少女は人混みをかき分けて、ゲートに近づき、背伸びをして目を凝らし、出てくる旅行客を待ちわびた。
どれくらいの時間が経ったろう。大勢の渡航者が降り立つ雑踏の向こうに、少女は懐かしい面影を見つけた。艶やかな長い黒髪を翻し、見慣れたトレンチコートをはためかせ、軽やかな身のこなしで旅行かばんを引いて歩いてくるその姿。間違いない。
少女は嬉しさのあまり、大きく跳びはねるようにして手を振る。目ざとい親友は、すぐに気づいて顔を上げ、長旅で疲れ気味の表情がパッと笑顔になる。その瞬間、少女は…由梨菜は、満面の笑顔で駆け出し、ゲートを抜けたばかりの親友をぎゅっと抱きしめた。
「瑠香! 久しぶり!」
黒髪の親友…瑠香は嬉しそうに優しく微笑む。
「久しぶり、由梨菜」
こみ上げる感情が堰を切ったようにあふれだして、由梨菜の頬を涙が伝った。
To be continued…