[推理小説] 画家は夕焼けの古城の絵を描いた―翠河瑠香の葛藤

あとがき

1年半ぶりに、今回もまさかの新作を書いてしまいました。小説を書くのは、かなり労力がかかるので、絵に比べると、なかなか気軽にはいきません。去年まさかの新作を書いたとき、さすがに次回作はないだろう、と思っていましたが、こうしてまた書くことができ、本当に嬉しいです。二度あることは三度ある、とは言われますが、果たしてまたこんな機会があるのかどうか…。

また二人に会いたくなった

実は、去年の新作を書いたとき、ちょっとやる気が出たので、もう一作くらい書いてみようか、とは思っていました。それでアイデアをひねってみたのですが、まったく名案が思いつかず、書き出すこともできないまま、お蔵入りになりました。

その後、小説のことなどすっかり忘れさっていたのですが、今月のはじめ、まったく脈絡なく、古城を舞台にした瑠香と由梨菜の絵を描きました。

断崖の古城 An Old Castle  on the Cliff
夕暮れの古城が映る海

このときも、まさか小説を書こうとまでは思っていなかったのですが、絵を描いているうちに懐かしくなってしまったのです。わたしの大切な友だちの瑠香と由梨菜にまた会いたいな…と。懐かしさと恋しさに心が揺さぶられました。

二人の絵を描いて感じたのは、絵もいいけれど、二人の活躍の舞台はやっぱり小説の中だということ。漠然と小説を書きたい気持ちが湧いてきて、ダメ元で少し頭をひねってみたら、あれよあれよと小説のプロットを思いついてしまいました。昨年あれほど書こうとしていたときには何もアイデアがまとまらなかったのに、タイミングとは不思議なものです。

緻密に考えたつもりはなく、本当にどこからか降ってきたアイデアなので、どこをどう思いついたのか、まったく説明できません(笑) いつの間にか、プロットとなるあらすじが出来上がってしまったので、これはもう小説を書き上げるしかないな…と腹をくくりました。こういうのは旬のうちが大切なので、勢いのあるうちに書き上げないと永久に日の目を見ないでしょう。

小説を書くときに一番大変なのは、わたしの場合、トリックとストーリーを考えることです。これがさっきのプロットにあたります。逆に言えば、ここのところが完成しさえすれば、本文はあっさりとできあがってしまいます。

今作も、いったん書き始めると、すでにアイデアもあらすじも決まっていただけあって、昨日と今日のたった2日で完成にこぎつけました。去年の新作のときもそうでしたが、わたしの集中力は2日くらいしか持たないので、完成に一週間もかかるような長編小説はとても書けません(苦笑)

けれども!  なんと今回の小説は5万字を超えていて、去年の小説の2倍の長さになりました。過去最長に並ぶ長さです。登場人物の数も去年より多めで、ちょっとしたミスリードを盛り込んでみたりと、いつもより少し手が込んでいます。久々の翠河瑠香シリーズとあって、瑠香たちの会話を書くのが楽しかったことも筆が進んだ理由かもしれません。

余談ながら、今作のアラン刑事のあたりは、去年考えていてお蔵入りになったネタを流用しています。もともとはエレーヌの推理のような形で刑事が犯人になるアイデアを考えていたのですが、どうも矛盾してしまって辻褄合わせができませんでした。そのときにわたしが突き当たった矛盾を、本編では瑠香が指摘するという面白いかたちで、当時のアイデアを活用してみました。

最後はもう1ページくらい瑠香と由梨菜、そしてエレーヌの友情を描く後日談を書きたい気もあったのですが、ストーリー的に切りが良さそうなところであえて終わらせることにしました。もしも後日談があるとすれば、いつか書くかもしれない別のストーリーにて、ということで。

シリーズのお約束

中学生のころに書いた翠河瑠香シリーズの第一作目から ほぼ共通しているのは、たいてい古城が舞台だということです。第二作目だけ今のところ学校が舞台ですが、お城に変えてもそんなに違和感なかったかも。

なんとなく昔から中世のお城の雰囲気が好きなので、非日常感を盛り込むためにも、また自分の趣味を満足させるためにも、翠河瑠香シリーズは古城が舞台、と割り切るようになりました。前回、今回とフランスを舞台にしていますが、なんとなく説得力を持たせるためだけの情報なので、正確性はあてにしないでくださいね!

翠河瑠香シリーズに共通する2つ目の要素は、心理トリックがメインだということです。3作目の「古城に泣いた詩人」だけ雰囲気が違いますが、あれは世の中の本格推理小説に影響されてしまい、無理をして背伸びして破綻してしまったという事情が。

第一作目から手を変え品を変えて繰り返しているのは、「見間違い」や「錯覚」のトリックです。今回もみんなが目撃したと思っていたものが先入観による「見間違い」だった、というトリックが中心になっています。ちょっと無理があるかも…と感じる部分は、どうしても素人の作品なので、見逃してやってください(笑)

去年の作品と同様、今回も幾つか心理学用語を引っ張り出してきてもっともらしく味付けしてはいますが、作者のハッタリを多分に含んでいると思われるのであしからず。

そのほか、ストーリーを考えるとき、どんでん返しを用意するのも、去年と今年の二作は意識しました。書いていて多分このあたりまでは読者にもバレてそうだな―という実感があるので、もう一歩先を書くことで意外性を出したいなと。トリックを解き明かせば犯人がわかる、というパズルではなくて、解き明かしていくうちに思いもよらぬ真実にたどりつく、という物語の段階的なステップを用意しているつもりです。このあたりは、「逆転裁判」シリーズの演出にかなり影響を受けていますね。

第一作目から今回までを振り返ってみると…どうもお城の主人が黒幕な頻度が高すぎるような気がします(笑) 今回のアルベールさんは、今までの主人とは少し雰囲気の違う方ですが、この流れが続くと、次回からは主人役が真っ先に疑われてしまいそうです。

ストーリーも犯人もトリックも、毎回まっさらから考えていて、それほどシリーズのお約束を意識してはいないはずなのですが…たぶん引き出しが少ないのでワンパターンになってしまうんでしょうね(苦笑)

エレーヌというキャラクター

今回は珍しく、瑠香の由梨菜の新しい友だちポジションのキャラクターとして、画家のタマゴのエレーヌを登場させました。これもまた、どこから思いついたのかまったく記憶にないんですが、プロットに書かれていました。もしかすると、あのプロット、わたしが書いたんじゃなくて、眠っている間にだれかが考えてくれたのかもしれません。

いつの間にか出てきた登場人物ではあるものの、わたし自身が絵が趣味、ということもあって、書き進めるうちに愛着が湧いてきました。瑠香と由梨菜は、楽器を弾いたりするほかは、特に芸術的な方面の才能があるといった背景はないのですが、今作はエレーヌがいてくれたおかげで、芸術の話を振ることができ、由梨菜とはまた違った意味で、瑠香のよいパートナーだと思いました。

由梨菜はやはり瑠香の不動のパートナーで、今回の話は、今までの作品よりも意識して由梨菜の視点から話を進めるよう工夫しました。天才肌の瑠香に比べると、由梨菜は感性豊かな普通の子なので、読者が感情移入しやすいかな、と思います。由梨菜の視点から、瑠香を描くことで、いったい瑠香は何を推理しているんだろう、というミステリアスさも演出できますし。

他方、エレーヌは、瑠香や由梨菜とはまた違ったタイプの、芸術的な感受性が強い人物なので、うまく役割を差異化できたかと思います。ちょっとコアな話になってしまって申し訳ないですが、わたしが学生のときに愛読していた推理小説の作家に、大学教授アーロン・エルキンズが書いているギデオン・オリヴァーシリーズというのがありました。ギデオン・オリヴァーは「骨」シリーズで有名な異色の探偵で自然人類学の教授という肩書きを持っています。考古学的なミステリーが多く、骨の特徴から真相を暴いていくという、とんでもなくわくわくする専門家っぷりが毎回楽しみでした。当時、それに影響されてわたしも「骨」の推理小説を書こうとしたのですが…やっぱり自分が詳しくないことは題材にできませんね(笑)

そのアーロン・エルキンズは、ギデオン・オリヴァー教授シリーズとは別に、美術学芸員のクリス・ノーグレンが主人公の美術ミステリーも書いています。ギデオンもクリスも、それぞれの専門分野に特化したタイプの探偵で、雰囲気はよく似ているのですが、専門分野が異なるおかげでしっかり差別化できていました。回りくどくなってしまいましたが、今回の瑠香とエレーヌは、そんなイメージです。いっそ、美術を舞台にした推理小説ならエレーヌだけで主役を張れそうな気がしましたが、わたしがそっち方面に詳しくないので、おとなしく瑠香に主人公を続けてもらいましょう。

ハッピーエンドの結末を工夫する

ストーリーを考えるうえで、特に去年と今年の近作では、ハッピーエンドになるよう強く意識しています。推理小説というと殺人や暴力が絡むので、普通はいくらか後味の悪さが残るものです。

何か事件が起こる、ということは、当然悪意ある存在が必要なわけで、推理小説作家は、どうしても血みどろの悲劇を描くことになるという宿命があります。わたしの場合、これが嫌になって推理小説を読まなくなってしまい、自分が推理小説を書くのもパッタリとやめてしまいました。

だけど…そこは工夫すればなんとかなるかもしれない、と頭をひねるようになりました。前作も今作も、殺人ではなく盗難事件をメインにしています。そして、その真相も、悪意ある犯人がいるわけではなく、だれもが悲しまず、ハッピーエンドの結末を迎えられるよう、かなり工夫して構成しています。

確かに人を殺せば、死体はものを言わないのでそれだけでミステリになりますし、悪意ある犯人を設定すれば、怒りなど単純な動機でよくなるので、作家としては手間が省けて楽なんですよね。その場合、詳しい背景は必要なくて、ただ機械的なトリックだけ考えたら、話が完成しますから。

でも、わたしはそういうのは書きたくないし、何より、それってつまらないと思います。ミステリのアニメやドラマとかでも、型にはまっていて、最後にたそがれの中で真犯人が悲しい動機を告白するっていう展開ばかりで飽き飽きしてしまいます。

しっかり工夫すれば、血みどろの事件を起こさなくても複雑で魅力的な謎を用意できますし、特に翠河瑠香シリーズの鉄板である心理トリックを駆使すれば、悪意のある動機を設定しなくても、推理小説としての体裁を保ったままハッピーエンドの結末を作ることもできる、そう思うようになりました。おかげで、プロットを考えるのはかなり大変ですが、うまく話がまとまったときの達成感はかなりのものですね。

今後、また作品を書けるかどうかは相変わらず不明ですが、古城が舞台、心理トリック、どんでん返し、そしてハッピーエンドの結末、というこだわりを満たせるアイデアを思いつくことがあれば、またいつか瑠香の由梨菜のストーリーの続きを書いてみたい、いえ、わたし自身が読んでみたいなーと希望しています。

それでは、今回も長文にお付き合いくださり、ありがとうございました! (2017/06/27)

 

投稿日2017.06.27