あまりの美しさにハッと息を呑む。
そんな経験は、そうそうあるものではありません。それが今日、黄葉した並木道を歩いていたとき、まさにそんな一瞬がありました。街路樹の中にひときわ鮮やかな真紅のカエデがあって、見間違いかと見直すほどに、えも言われぬ美しさに息を呑みました。
そのとき感じたのは、単に色が鮮やかだ、という感動ではありませんでした。芸術的なのです。カメラに撮った写真や、PCのスクリーンに映る色では絶対に出せないような、たぐいまれな芸術作品を見て感じるような美しさでした。ふと、オアハカ日誌 のこんな話を思い出したほどです。
ジェームズ・ラブロックは自叙伝『ガイアへのオマージュ(Homage to Gaia)』のなかで、若いころに染色の見習いをして、コチニールカイガラムシからカルミンをつくったときの興奮ぶりを述べている。
…“あまりに強烈な真っ赤な色だったので、それまで頭のなかにあった色の感覚が、目から出ていってしまった気がした。
乾燥したカイガラムシを混じりけのないカルミンに変える作業に参加できたのは、なんと幸せなことか!
わたしは……魔法使いの弟子になった気分だった”(p154-155)
わたしもそのとき、あまりに鮮やかな紅に驚いて、今までこんな色を見たことなどない、と感じたくらいでした。それだけでなく、この並木道の黄葉のなんと美しいことか。おとぎ話のなかの魔法の国のように、あらゆる色の落葉が渦を巻いて降り注いでいました。