お姫さまは いつものように お城の窓から空を見上げていました。
はるかな高い空、どこまでも澄みきった空。
お姫さまは信じていました。
この願いはいつか、あの青い空の上にまで届くと。
そして、いつかきっと、私を広い世界へ連れていってくれると。
ソラとハナの物語
今回の絵は、最近のわたしの絵の中では珍しい、人物が一人だけの絵です。
たぶん、ソラと出会う前のハナを描いたものなのでしょう。あれっ、それにしてはハナの頭身が…。
という含みがあるかどうかはともかく。
この絵はタイトルがすべてで、空花物語を描き始めたときからのテーマが込められています。
懐かしの第一作から比べたら絵の雰囲気変わりすぎやろ!って感じですが(笑)、テーマは変わっていません。
ハナは、お城の中でひとりぼっちのお姫さま。外の世界を知らないまま、大事に育てられている「花」。
ソラはそんなハナがいつも窓から見上げていた青い「空」。狭い部屋の中しか知らずに生きてきたハナを広い世界へと連れていってくれるどこまでも広い「空」。
このタイトルを思いついたとき、絵の場面もパッと思いついたので、思い切って描いてみました。人物がひとりだけだし、シンプルな構図だから楽かな―と思っていたんですが、かなり大変でした…。
構図はかなり悩んで、最初は部屋から窓の外を眺めているハナをフカンで描いていました。でもそれだと高い空を見上げている感じが出ないんですね。
わたしはアオリの構図が苦手なんですが、やっぱり空の高さを演出するには それしかない、ということで、何度も下書きしなおして現在の構図にまとまりました。典型的なアオリというほどではないですが、上に向かってわずかに遠近法が収束しているのがわかると思います。
空の大きさを演出するには、ハナをもうちょっと小さくしたほうが、孤独でひとりぼっちの女の子の心細さが表現できるかなー、と大きさをかなりいじったんですが、これ以上ハナを小さくするとあまりに殺風景になるのでこの大きさが限界でした。
シンプルな絵ほど難しい
絵を描いているとわかるんですが、絵の構図ってシンプルなほど難しい。
登場人物を増やしたり、虹色のグラデーションで風景を描いたりしたら、賑やかな雰囲気でごまかしが効くんですが、この絵は殺風景なお城の部屋、窓の外に見える雲もない空、そして女の子が一人だけ、ということで、ごまかせる要素が全然ありませんでした…。
いつも虹色のグラデーションを使う「ゆめまな物語」のほうは、最初の30分くらい描いたら、いい絵になりそう、という感触があるんですが、虹色に頼らない「空花物語」は、数時間くらい描き込まないと、大丈夫なんだろうかこれ…と不安なことが多いです。
この絵はそんな「空花物語」の中でも、かなり不安な時間が長かった絵で、しっかり背景のディテールを描き込んでようやく、まあ完成させられるかな…?と思えるようになりました。
シンプルな絵でベタ塗りをすると薄っぺらくなってしまうので、この絵は今までの絵でもかなりタッチに気を使ったほうで、窓の向こうの空や、部屋の壁、ハナの服などはあえて筆のタッチが残るようにして、少しでも味わいを出すようにしています。
思い切っていつもと違うことに挑戦してはみましたが、やっぱり空花物語はソラがいてこそだなーと実感しました。この絵そのものが、ハナだけだとひとりぼっちで何かが欠けていて、ハナにはソラがいてくれないと! というテーマなので、そう感じるのは当然なんですけれど。
いつもソラとハナの冒険を描いていると、二人でいるのが当たり前のように思っちゃいますが、もともとハナはひとりぼっちのお姫さまだったんだよ、という背景を掘り下げるためにも、今回の絵は描いてよかったなーと思います。